「未来は固定じゃねぇんだ」



朝一番にリボーンさんに告げられた一言は、小さなその口から出るにはあまりに重すぎる意味が込められていて、私はリボーンさんの眉の 間に刻まれたしわに胸がどきりとした。たったそれだけを告げて、立ち去るリボーンさんの小さな背中は小さいはずなのにとても大きく 見えて、どうしたらいいのかわからなくなった。未来は固定じゃない。つまり、未来は変わるかもしれないということ。もしかしたら私が 雲雀さんに会わずに未来に帰ってしまう可能性があるかもしれないということ。私と雲雀さんが出会わなければ、たぶん未来の私は生きて いない。雲雀さんは見知った私の存在を確認したからこそ、助けてくださったんだ。いまさらそんなことに気付いて、いまさらリボーンさ んの言葉の重みを知った。さっきもわかったつもりでいたのに、それ以上に大きくて冷たいものだったみたいだ。たった一言で、私はこれ からすべきことを見つけた。未来を変えないために、私はまず皆さんにお会いしよう。未来で私を知っていた人すべてに会わないといけな い気がする。握った拳は隠した。


リビングで朝食をいただいていると、ばたばたと階段を駆け下りてくる音が聞こえる。勢いよくリビングへ駆け込んできたのはもちろん われらがボス。あせったように一枚のトーストをくわえてあっという間に食べてしまう。と思ったら今度はその横にあった牛乳を一息に 飲んでしまって、私はなんだなんだと見守るしかなかった。


「あらあらツナ、どうしたの?そんなに慌てて」
「時間がないんだよ!あと10分で遅刻だ!」
「でもまだ7時半よ?獄寺くんもまだきてないし」


奈々さんの一言に、ボスの顔色が一変した。動きを止めて、そのままリボーンさんのほうをゆっくり向くと、びっくりするくらいの大きな 声でリボーン!と言い出して、私と奈々さんはびくりと肩を震わせて目を見合わせた。何事だ。


「お前だろう!一時間も時計早めたの!」
「そのおかげで寝坊せずにすんだな」
「そういう問題かー!」


なんでも、リボーンさんはボスが寝坊しないように目覚まし時計を一時間早めておいたらしく、それを正しいと思い込んだボスが寝坊した と勘違いして慌てていた、らしい。朝からにぎやかな食卓がなんだか新鮮で、ああこれって家族みたいだななんて思ったり。ボスがまった く、というように椅子に座って、今度はゆっくり牛乳を飲んでいる。奈々さんはまだ笑い止まなくて、なんだかとても楽しい。


、そろそろ制服に着替えろ」


リボーンさんから渡された制服はぴっかぴかで、なんだかなつかしかった。袖を通すとなぜだかぴったりで、リボーンさんは人を見ただけ で寸法なんか測らずともサイズがわかってしまう天才なのでは?とおかしなことを思ったり。なんでだろう、ここにいると私の考え方まで ゆったりしてくるような、落ち着く。でも同時になんだか、寂しい。そんなことを思う私は贅沢でしょうか。雲雀さん、元気でやっていま すか。まだ離れて一日も経っていないし、しかも雲雀さんは大人なんだから元気に決まっているのに、そんなことを思うだなんて私はどれ だけ恥知らずなんでしょうか。ああ、会いたいな、なんて。


いやでも考え方を変えてみようよ!こっちではこっちの雲雀さんにお会いできるかもしれないんだよ!若い雲雀さん、なんだか想像できな いな。どんなだろう?背とかちょっと小さかったりするのかな。性格は変わってないのかな。10年前の雲雀さんもきっと優しいんだろう な。そう考えるとわくわくしてしまう。あ、もしかしたら、彼女とかいるの、かな。中学生だしそういうことに興味のある時期、なんじゃ なかったっけ。そう考えるとなんだか切なくなってきた。でもいたとしても別れるってことだよね!未来の雲雀さんには彼女とか、いない んだよね。あれ?えっと、好きな人がいるとか。あ、もしかしてその好きな人って今もかわらなかったり。確か獄寺さんが、怪我ばっかり している変な女だったって言ってた。ああ、もっと詳しく聞いておくんだったかな。考えすぎていると扉を叩く音がして、私はすぐに返事 をした。


ちゃん、そろそろ行かなきゃ遅刻するわよー」
「はーい!」


ひらりと揺れるスカートが、なんだかくすぐったかった。











20071209