ちゃん、外で待ってて!俺ちょっと部屋に忘れ物!」
「わかりましたー!」


ボスのお言葉通り外で待とうと玄関戸を開けると満面の笑顔の少年が立っていた。


「おはよーございます!十代目!」
「へ」


十代目?十代目と呼ばれる人と呼ぶ人には心当たりがある。呼ばれる人はもちろんボスで、呼ぶ人は一人しか知らない。いつでも親切で、 無愛想なくせに優しくて、たまに見せる笑顔が胸をぎゅうと鷲掴みにされてしまうような、クールでかっこいいあの人。


「獄寺さん…?」


そう考えると獄寺さんだ!目元とか口元とか鼻筋とか髪の色とか、ご、獄寺さんだ!背も小さくて体もなんだか中学生って感じで、なんて いうか一言でいうと、若い!ヤング!ヤングだよ!ヤング獄寺さんはきょとんとして私を上から下まで見たかと思えばすぐに眉間にしわを 寄せて明らかににらみつけられてしまう。さっきの笑顔とは対照的すぎるその顔に、思わず後ずさりしてしまいそうな迫力がある。な、な んかやんちゃ坊主って感じだ!まさに獄寺さんの若いバージョン!わ、わ、なんだか新鮮だな。髪型、10年後の姿も似合っていたけどこ っちもかっこいい。というより可愛い?私が一人ひそかにテンションをあげていると、獄寺さんはなぜだか舌打ちをしてさっきと引き続き こっちをにらみつけてくる。


「なんだテメェ、十代目のお宅で何してやがる」
「は、はじめましてヤング獄寺!」
「はぁ?」


おっとしまった、つい変なことを口走った!よく考えたらなんだよヤング獄寺って。失礼以外の何者でもないよ!それに獄寺さんの言った 言葉総無視だよ!失礼極まりないよ!どうしてはじめましてで止めなかったんだろう。あれ?その前に獄寺さんなんて言ったっけ、ちゃん と聞いてなかった。うわあもう私は失礼の塊でできてるんじゃなかろうか!


「おっ、獄寺じゃねーか!」


元気な声が聞こえて、塀の向こうからこっちをのぞく背の高い少年をみつけ、爽やかなその笑顔に一人の人物が頭にひらめいた。10年後よ りも曇りない笑顔が素敵な好青年。顔つきはまだちょっと若さが残るものの面影はボスよりも獄寺さんよりもしっかり残っていて一度みた だけでわかってしまう。山本さんだ!今度は獄寺さんのときみたく、フライングのようなことはせずにぐっとこらえてじっと山本さんの顔 を見つめるだけにとどめていると、山本さんは不思議そうにこっちをみつめている。はたから見れば変な二人だろう。みつめあったままな にも言わずに片方は不思議そうな顔をして、片方は穴が開くほどただただみつめているんだから。あ、はじめましてとか言ったほうがいい のかな。獄寺さんも山本さんも私のことは知らないわけだから、私も知らないふりをしたほうがいいのかな。それとも10年後からきました とかいったほうが?あーもうわからないよ!助けてボス!


私の声が天に届いたのか、私の背後の扉が開いてボスが慌てたように顔を出した。天の助け…!


「あれ、獄寺くんに山本!?」
「あ、おはよーございます十代目!なんです?こいつ」
「よっツナ!この子だれだ?」


二人とも同じようなことをボスに向かって聞いている。そのタイミングがちょうどぴったりで、私は思わず笑ってしまった。この二人、10 年後も仲良さそうに見えたけど、10年前も仲が良かったんだなあ。なんだか10年後の獄寺さんよりこっちの獄寺さんのほうがテンションが 高め?獄寺さんもよく怒ってたけど10年前の獄寺さんのほうがそれよりもっといっぱい怒っているように見える。今さらだけど10年後の 獄寺さんが大人だったんだなあと気付く。いや、年齢的にもぜんぜん大人なはずなんだけどね。


「あ、はじめまして!って言います!」
「昨日ランボが十年バズーカで間違って10年前のちゃんに誤射しちゃって」
「つまり、10年後からきた…!」
「なんでか5分経っても戻らなくて、戻るまでうちに居てもらうことになったんだよ」


獄寺さんはびっくりしたような顔で私を見て、山本さんはわかったのかわかってないのかよくわからない顔で笑ってこっちを見ている。み なさん10年前から仲が良かったんだなあ。なんだかそれが微笑ましい。三人が真剣にどうしようというような顔をしている中で、私一人が にこにこ微笑んでいるのはなんで不思議な風景だろう。あ、三人が10年前から付き合いがあるということは、雲雀さんも?三人が雲雀さん と出会っていれば会える可能性が増える。雲雀さんを知っているかと聞きたい気持ちを抑えて、そっとうつむいた。未来は固定じゃない。 私の発言で未来が変わってしまうかもしれない。それはいけないことだ。


そこで、ふと気がついた。未来が変わってしまうことは、いけないことだろうか。そんなの私にはわからないけど、それでも未来に帰りた い。戻った未来が変わっていたら、悲しいもの。これが私の勝手なわがままでも、変えたくない。リボーンさんがうかつに未来のことを 話すなといったのが、未来を変えるなといった意味でありますように。


「そろそろ行かねーと、遅刻するぜ?」


山本さんの一言で、私たちは学校までダッシュすることになってしまった。











20071210