何の因果でしょうか。私のクラスはボスと獄寺さんと山本さんと、同じクラスになりました。転校の手続きとかはどうなっているんだろう と不安に思っていると、たぶんリボーンさんがやっていてくれたんだろう。すんなり先生やクラスを紹介された。君があのボリーン教授の 親戚の親戚の親戚の、あれ?なんだっけ。とにかく架空の人物、リボーンさんの知り合いのボリーンさんのおかげですんなり並盛の生徒に なることができた。


「席もボスのお隣で、とっても心強いです!」
「あのさ、そのボスっての、やめてくれない?」
「どうしてですか?」
「きっと人違いだよ。俺はボンゴレファミリーの十代目になんかなるつもりないし」
「で、でもボスはボスで…」


そこまで言いかけて、私は急いで口を押さえた。これはきっと言っちゃいけないんだ。ここはボスの言うとおり、ボスと呼ぶのはやめにし よう。私がもごもごと考えていると、ボスは不安そうにというか不思議そうに首を傾げていて、私はまた慌てて笑顔をつくった。


「わ、わかりました!じゃあツナさんってお呼びさせてください」
「う、うんわかった」


ボス、じゃなくてツナさんが照れたように笑って、私もにこにこ笑ってしまう。ああ、本当にツナさんと同じクラスでよかったな。これが まったく知る人がいないクラスだったらきっと寂しかっただろうに。学校なんて久しぶりでなんだか勝手がよくわからないし。あ、でも クラスに雲雀さんがいなかったのはちょっと残念。期待していたんだけどな。ちがう学校なのかな。やっぱりまだツナさんたちと出会って いないのかな。あれ、そもそも雲雀さんっていくつなんだ?そんなことを考えていると、突然ばーん!と私の机を叩く人がいて、驚きすぎ てひっくり返りそうになった。な、な、なんですか!


「おい新入り、ちょっと顔貸せ」


誰かと思えば獄寺さんで、私は何を考えるでもなく無意識にはいとだけ答えて固まってしまった。な、な、なんでしょう。なぜだか獄寺さ んから殺気?殺気というか敵視されているような感じを受ける。10年後にはなかった視線に私は戸惑ってしまう。わ、わたし獄寺さんに何 かしましたでしょうか。10年後の獄寺さんとは仲良しでいたつもりだったんだけど、10年前はそうはいかないんだろうか。それともこれか ら友情を育むんだろうか。とりあえず今目の前にいる獄寺さんからは友好な表情も感情も読み取れません、けど。


どこへ行くのかと思えば屋上で、向かい合わせに立っている私たちに横風がびゅうびゅう吹き抜ける。な、なんだか決闘みたいだこれ…!


「な、な、なんでしょう」
「お前、俺を最初に見たとき獄寺さんっつったよな?」
「お、ぼえてません…」
「言ったんだよ!そんで十代目のことをボスってお呼びしていたよな?」
「おおおぼえてません!」
「しらばっくれんな!」
「ひいいいい!」


ご、獄寺さん鋭い…!そういえば10年後の獄寺さんも頭良さそうだったよね。なんか重要な書類整理とか任されてたみたい、だし。一回 見た眼鏡に髪をくくった姿はかっこよかったな…。じゃなくて!どうしよう、10年前の獄寺さんまで頭良くなくていいのに!リボーンさん 助けて…!


「てめーまさか、ボンゴレを知る敵組織のスパイじゃねぇだろうな…?」
「すぱ、スパイ…?」


その言葉を知らないわけじゃないし、獄寺くんの口から飛び出したとたんに理解した。でも、理解できなかった。あなたにそれを疑われた るなんて、ひどい、ひどいよ。


「待ってくださいその勘違いだけは心外です!いくらなんでも怒りますよ!」


ひどい、そんな勘違いはひどい。私はどれだけボスに感謝してボスを尊敬しているか、知らないくせに勝手にそんなこというなんて。ひど い、ひどいじゃないか!怒りで涙が出てくる。ちくしょう!泣くな!獄寺さんを納得させて今の言葉を撤回させたいのに、なんといって いいのかわからない。どの言葉が未来を左右するかわからなくて、私はどうしたらいいのかわからない。悔しくて、大好きな獄寺さんが急 に憎らしく思えてくる。ひどいや獄寺さん!ひどいや!雲雀さん、わたしどうしたらいいですか。ああ、そういえば獄寺さんと雲雀さん って仲が悪そうだったな。雲雀さんがいたら、獄寺さんを怒ってくれただろうか。なんて、なんで私はいつも人に頼ることばかり考えてし まうんだよ。一人で何とかしてみろよ!


「な、なんといったらいいのかわかりませんが、それだけは違います!わた、わたしはボスや獄寺さんのことを本当にお慕いしていて、それで…!」


どう考えてもバカみたいなことしか言えない自分が腹立たしくて、涙が浮かんでくる自分が憎らしくて、ぐっと涙をぬぐうと獄寺さんは急 にぎょっとしてあわててだす。ちくしょう!今さら謝ったって許してあげないんですからね!これは立派な侮辱罪ですよ!もう怒った!


「ご、獄寺さんのばかー!」


そこまで叫んで振り返り、そのまま屋上の出入り口まで駆け出して逃げようとすると、ちょうどドアノブを握ったあたりで勢いよくその扉 が開いて、屋上の扉特有の鉄で重たくてかたい表面が私のおでこにガーンとぶつかってしまった。痛い!痛い半端なく痛い。どのくらい 痛いかと言えば足の小指を机の角にぶつけたときくらい痛い!あれ、それよりもこっちのほうが痛くない?もうどっちでもいいよ!そのく らい痛い!脳みそはみ出てない?出てない?そんなことが不安になってしまいそうなくらい痛い!頭がぐるぐるして、そのまま後ろに倒れ てしまう。わ、わ、頭の上をお星様がくるくるしてもおかしくないくらい世界がぐるぐるする。私がなんだか、おお、とか、うう、とか 呻いていると、勢いよく扉を開けた本人であるツナさんと山本さんがびっくりしたように私にかけよった。


「わ、わー!ごめんちゃん!大丈夫!?」
「ふ、ふわわわ世界がまままわるー…!」


ぶつけたあたりをなでるとぷっくり膨らんでいて、こりゃたんこぶできたなー。獄寺さんまでわたわたして私のほうをのぞきこんできてい る。ばか、獄寺さんの、ばか。うっ、気持ち悪い。なんだかジェットコースターに10回くらい乗ったときみたいだ。いや、そんなに乗った ことないけどさ。ぐるぐるは収まったけど、まだちょっと気持ち悪い。


「ほ、本当に大丈夫?保健室行く!?」


「休憩するなら、いい場所があるぞ」


リボーンさんがなんだか楽しそうに笑って、そう告げた。どこから現れたんだ、この人は。











20071210