なんとかちゃんと立って歩けるようになって、リボーンさんの言う休憩する場所に連れて行ってもらうことになりました。いやはや、申し 訳ないなあ。ボスや山本さんにご迷惑かけてしまうことになって。獄寺さんにはそんなこと思ってあげませんからね!さっきのこと、まだ 怒ってるんですから。だって、ひどいじゃないですか。むっかむっかしちゃいますよ。ツナさんがどうして屋上に駆け込んできたかといえ ば、すごい剣幕で獄寺さんに連れ去られた私を心配して山本さんと屋上の出入り口のところに隠れていたんだけど、私が急に叫ぶから驚い て慌てて扉を開けたらちょうどそこに私がぶつかって、というなんとも間抜けな話。いやはや、ご心配をおかけしました。


「ここだぞ」


そんなことを話している間にリボーンさんが立ち止まって、それが一室の前だった。プレートには「応接室」と書かれている。応接室とい うのは確か、えらい人をお招きするすごい場所のはず。うーん、そんな場所を勝手に使っていいんだろうか。もしやリボーンさんって影の 権力者?そんなことを考えていると、ツナさんが変な声をあげた。げっ、とかそんな声だ。


「な、なに考えてるんだよお前!こんなとこで休憩なんて、できるはずないだろ…!」


どうして小声なんですか、ツナさん。不思議そうにしていると、獄寺さんもげっというような顔をしていて、山本さんは苦笑いをしてい る。なんだろう、ここがどうかしたんだろうか。私が応接室の扉を上から下までながめていると、リボーンさんが口の端を上げて笑いなが らこっちを見ている。


「気になんのか?」
「何があるんですか?」
「開けてみるといいぞ」
「ばッ、リボーン…!」


リボーンさんがツナさんの口を押さえてしまうから、ツナさんが何を言わんとしているのか完全にわからなくなってしまった。とりあえず わかるのは、リボーンさんがツナさんよりも権力者だということで。私はボスに絶対服従であるからボスに従いたいんですが、ボスの上に いる方には逆らえないわけで。そんなの全部言い訳で、私は単純に興味本位でこの中が知りたかったんだ。三人ともが変な顔をするこの中 に何が待っているのか、私は単純に不思議だったんだ。思い切って扉を開けると、中は明らかに豪華でお客様用、というようなソファと机 があって、なんだかすごかった。お金がかかっているんでしょうに。でも中の豪華さに驚きはするものの、三人が変な顔をするような異変 に気付くことはできなかった。


「ここが、なんです?何かあるんですか?」
「とりあえず入れ。怪我の手当てもしなきゃなんねーからな」
「あ、はい」


応接室に踏み入ると、ぴっかぴかの床が出迎えてくれた。すごい、きれいにしてるなあ。歩くたびにコツコツいうのが不思議だ。ただの 上靴を履いているのに、なんでだろう。それくらいきれいでぴかぴかなんだ。ソファに腰掛けるとふっかふかで、体が全部飲み込まれてし まいそうなほどだった。三人はいぶかしげな顔をして、恐る恐るというように応接室に入ってくる。なんだろう、本当に何があるっていう んだ。怪獣でも出てきそうな雰囲気に、思わずどきっとしてしまった。


「なんですか?怪獣でも出てきそうな顔してますよ」
「か、怪獣よりも恐ろしい人がいるんだよ…!」


怪獣よりも?怪獣なんて架空の生き物だけど、イメージ的には最強で街をひとつ簡単に燃やしつくすぜ!みたいな感じなんだけど、それよ りももっと怖い人って、どんな人だろう。背なんかすっごく高くて体もがっしりしていて、ものすごく強い人だろうか。あれ、でもこの 三人もだいぶ強いはずだよね?未来の三人はとても強かったです。というか、強いらしいです。実際に見たことはないけど、幹部というだ けあって強いらしい。そんな三人が恐れる人って?あ、それとも10年前の三人は弱かったりするのかな。うーん、想像できないなあ。


色々考えていると、タンと扉の閉まる音がした。私でもリボーンさんでも、ツナさんでも獄寺さんでも山本さんでもない人が閉めた扉。こ この扉はもちろん自動扉なんかではないから、誰かが閉めたんだろうけど、誰が?とっさに獄寺さんと山本さんがばっと背後を振り返っ た。私も同じようにゆっくり振り返ると、そこには肌が白くて髪が黒くて頭が丸くて端正な顔をしたきれいな男の子が、立っていた。あ、 れ、え、あの、一発でわかった。それこそ獄寺さんに、山本さんに気付くよりも早くわかってしまった。この人、この人は雲雀さんだ。背 も少し小さくて体も小さくて、わ、若いけどでもわかる、雲雀さんだ。私の大好きな、雲雀さんだ。恋しくてつい涙が出そうになる。や っぱり三人とも知り合いだったんだ。この学校にいたんだ。過去にきて二日目で、会えた。よかった。私が感動で震えていると、別の意味 でツナさんが震えていた。顔色は真っ青で、やっちまったーって顔をしている。あれ、なんで?山本さんと獄寺さんは険しい顔をして、な んだか構えているようだ。なんで?


「何度言えばわかるのかな。群れるな、と」


冷たい響きをした声に、私はぞくりと背筋を振るわせた。あれ、これって本当に雲雀さん、かな。面影は雲雀さんだ。でも、人違いなん じゃないかと思うほど冷たい表情とその声に私は固まってしまった。そんな声も、そんな顔も知らない。あなたは、誰。ふらりと歩み寄 ってくる雲雀さんに誰もが目を奪われ、誰もが動けなかった。どう動いたらいいのかわからなかったんだ。そしてツナさんの目の前にき て、その腕をやけにゆっくり振り上げた。


「咬み殺すよ」


考えるよりも、体が動いた。ツナさんが危ない!そう思ったときにはもう私は殴られていて、自分でも何があったのかよくわからくなって いた。私はいつの間にかツナさんの前に飛び出して、ツナさんのかわりに雲雀さんに殴られていたようだ。頭の横のあたりを強く殴られ て、さっき頭をぶつけたときよりもひどい眩暈と吐き気に襲われる。なに、これ。死にそうなくらいぐらぐらする。うわ、もう、苦しい。 耳元でツナさんが私を呼ぶ声がする。何が起こったの?雲雀さんが、ツナさんを殴ろうとした?そんな、そんな。


「ワオ、飛び込んでくるなんてね」


ちがう、こんなの、ちがう。ちがうでしょう!がくがくな足腰を無理やり動かして倒れそうになるのを踏みとどまって顔をあげると、驚い たように目を見開いた雲雀さんと目が合った。思い切り、できるだけ覇気をこめて、思い切りにらみつける。


「じ、自分の上司になんてことをするんですか!ボスに、ボスに危害を加えることは絶対に許しません!」


雲雀さんはあきれたように首をかしげている。ちがう、この人は雲雀さんなんかじゃない。雲雀さんじゃない。だって雲雀さんはもっと 優しくて、温かくて、こんなに冷たい顔しない。知らないこんな人、知らないよ!


「あなたは、雲雀さんじゃない!」


そこまで言って、意識がびゅんと飛んでしまった。











20071210