、今頃なにしてるかな。僕とがはじめて出会った日のことは今でも鮮明に覚えている。変な女だと思った。だけどなぜか頭から離れて くれない女だった。あのときのことを思い出すと今でも自分に腹が立つ。に手を上げるだなんて、誰が相手だろうが許されないことだ。 あんなこと二度とするものか。そしては僕が守るんだから。ああ、早く帰ってこないかな、。君との思い出を共有したい。君が恋しく てたまらない。僕は、病気だろうかと思う。こんなにも人を恋しく思ったことがない。心の底から守りたいと願うのはあとにも先にもだけ だろう。以外の女になんてまったく興味ないし、さえいれば別にほかの人間なんていらない。だめだ、のことを考え出すと止まらな い。早く戻ってこないかな。


ぎしり、ベッドが軽く軋む音が聞こえて僕は振り返った。どうやら寝返りを打っただけらしい。小さな少女が可愛い寝息を立てて僕の ベッドでお昼寝中だ。あの子を見て、小さなため息がもれた。可愛い、可愛くてしょうがないんだけど正直、疲れるんだ。あの子を見てい るとよけいに早くが帰ってこないかなと願ってしまう。元気で明るくてときどきドジをする小さなは、そのものなんだけど僕の求め るあの子じゃない。どこか、あの子はとはちがうように感じてしまうんだ。


小さな嗚咽に気付いたのは直後だった。規則的な寝息が、不規則な嗚咽に邪魔されているような、そんな感じ。ひっくひっくという声に 思わず小さなをのぞきこむと、その小さな体をいっそう小さく丸めて震えながら泣いているんだ。ここへきてからずっとずっと、幸せそ うに楽しそうに笑っていたが、ここへきてどうして泣いているんだ。まったくもって子供というのはわからない。何か不満があったの か?どうしていいのかわからずに立ちすくんだままでいると、が声を押し殺すことも忘れてわんわん泣き出してしまった。思わず手を 伸ばしてこちらを向かせると、はその目を大きく見開いて驚いたような顔を隠さない。目からはぼろぼろと大きな粒の涙が止まらずに 流れ続けている。


「どうしたの?」
「ぱ、パパとママに、会いたいよぉ…っ」


一言もそんなこと、言わなかったじゃないか。いや、言わずともわかっていたはずだ。こんな幼い子が自分の親を恋しがらないはずがな い。最初からこうして泣かなかったことのほうが異常だったというのに。どうして、気付いてあげられなかったんだ。僕たちに迷惑をかけ まいと、両親が恋しい気持ちを押し隠して今まで笑っていたことに、どうして気付いてやれなかった。こんな小さな子供に気をつかわせ て。いや、ちがう。はもともとこういう子だ。馬鹿な子。もっともっと子供らしく、最初から泣いたっていいのに。誰も迷惑だなんて 思わないのに。ギリギリまで涙を押し隠していること、なかったのに。、僕は勘違いをしていたようだ。はどんな姿になっても君にか わりはないようで、こんなバカなところもにちがいない。僕の愛しい、だ。


勇気を出して小さなを抱き寄せると、ふるふる震えるの手が僕の胸をやんわりと押してくる。これも遠慮なのか何なのか、今の僕には わからないけれどここで離したらいけない気がするし、離したくない。多少無理にでも抱きしめて背中をさするとさっきよりも大きな声で 泣き出してしまった。僕の服をぎゅうと握る小さな手はまぎれもなくで、僕はどこか安堵と後悔を抱えた。この子はだ。今さら綱吉の 言葉を、理解してしまった。


それからのはずっと僕のあとを着いて歩くようになり、少し前までは疲れてしまうような毎日がちょっとした楽しみになった。何をする にも僕の後ろをついて歩くの姿は愛らしく、たとえそれがほかの同僚に笑われるような光景でもまったく苦にはならなくなった。まあ、 笑ったやつはあとから咬んでおいたけど。何よりの幼い笑顔が僕の心を癒して、寂しさなんて吹き飛ばしてくれた。というのは見栄で、 まだまだ大きなが恋しいことにかわりはないが、この小さなが未来のあの子になるのかと思うとその成長が楽しみだったりする。ただ ひとつ、いまだに困ることがあるとすれば。


「とりさんとりさん!とりさんと一緒にお風呂入りたい!」
「…できま、せん」


お風呂やトイレまでついてくるのは、勘弁してほしい。











20080103