山本さんが優しくて面倒見のいい方だということは未来も今も変わらないらしく、本当に尊敬すべき点だと思うし見習おうとも思うんだけど、今回ばかりは本当に焦りました。山本さんは家まで送ってくださるといって、断っても遠慮だと受け取られてしまうし。もしここで家がありませんなんて言ったら優しい山本さんは自分の家に泊まれといってくださるかもしれない。いや、あくまで憶測なのだけれども。もしそうなってしまったら獄寺さんの家を出てきた意味がない。誰にも迷惑のないようにと野宿を決め込んだというのに。あ、そういえば獄寺さんに何も言っていない。もし、もし獄寺さんが家で私の帰りを待っていたらどうしよう。でも連絡手段がないし、家まで行こうにも正直道がわからない。ああ、適当に歩くんじゃなかったな。ごめんなさい、獄寺さん。明日謝りますから許してくださいね。獄寺さん、あの悲しそうな顔を思い出すと今でも胸がぎゅうと苦しくなる。男の人の切ない顔は胸が苦しくもなり、思わずはっとしてしまいそうなくらいきれいに見えるものだ。獄寺さん今も未来もとってもかっこいいから。


「本当に、いた」


びくりと体が震えた。温かくも冷たくもない空気が漂う中で、低くて響きのある若い声が聞こえて私は心まで震わせた。心がぽっと温かくなるのを感じて、同時にそれを恥ずかしく思った。だって、そうでしょう。声を聞いただけで誰かすぐにわかってしまって、うれしくなってしまうなんて。振り返ると道路のわきでバイクにまたがりながらこっちを見ているきれいな男の人と目が合った。あきれたような切れ長の目が、私の鼓動を速くする。なんだか悔しくなってまた前を向いてさっきよりも大きくブランコを漕ぐとバイクのエンジンを切る音に混じってため息が聞こえてきた。


「本当にこんなところで野宿なんかする気?」
「だ、だめですか」
「馬鹿だね」


またため息。そしてこちらに歩み寄ってくる足音。公園に敷き詰められた砂を踏む音がなぜか嫌味なくらい頭に響いて、私は無駄にどきどきしてしまっている。この人なにしてるんだろう。もしかして、私のことを探してくれていたのかな。いやいや、それはない。だってあの雲雀さんだ。これだと言い方が悪いかもしれないけど、この時代の雲雀さんは決して人のために動く人ではないということが私にもいやでもわかった。それでも十年後の雲雀さんとかわらない優しさが見え隠れして、どうしようもなく好きだと実感する。近くにいるのに、雲雀さんが恋しくなった。雲雀さんはといえば、さっきまで山本さんが座っていた私の隣のブランコに片足をかけてぶらぶらしている。正直、何をしているのかぜんぜん理解できない。


「もしかして、気になって迎えにきてくださったんですか」
「は?」


鼻で笑われました。


「最近このあたり変質者が多いから、公園に野宿しようだなんて考えている馬鹿がいないか見回っていただけだ」


いや、つまり心配で見にきてくださったってことじゃないんですか。私が呆気にとられていると雲雀さんがうつむいたままこちらを見上げてきて、驚くほどきれいで息を呑んだ。また、どきどきしてしまう。雲雀さん、そこは嘘でもちがうっていってほしかったです。そんな優しいところを見せられたらまたどうしようもなく好きだということを自覚してしまって、結局あなたに甘えてしまいそうになる。これっていけないことじゃないですか。どうしてくれるんですか。だって、私あなたに甘えだすとだめだめなんです。何もできない赤ちゃんみたいになっちゃうんです。好きで、好きで。でもそれって雲雀さんにとっては迷惑なことじゃないんですか。だったら期待させるようなこと、しないでくださいよ。嬉しいくせに、それを素直に喜べない自分がいやだ。


「君、家事はできるかい?」
「ご期待に副えるかはどうかはわかりませんが、まあ普通くらいには」
「曖昧な言い方は好きじゃない。自信があるかないかで答えろ」
「一般女子中学生の中ではなかなかじゃないかと思っています」
「まあまあ、かな」


雲雀さんがあやしげに楽しそうに微笑んで、私のほうに手を差し伸べた。


「君に家を与えてあげる。そのかわり、僕の身の回りのことをすべてするんだ」
「え、え?おえ、何を言って」
「そろそろ家政婦を雇うのにも飽きていたところだし、ちょうどいいよ」
「いや、家政婦を雇うのに飽きるってどういう意味ですか」
「家政婦を雇っていじめるにも飽きがきていたところだ」


おかしいこといっているよ、この人。だって家政婦さんっていじめるために雇うものではないでしょうに。そのかわりが、わたし?あれ、これって結構危ない発言じゃないかな。いじめられることがわかっていて雲雀さんの家に転がり込む馬鹿もいないでしょうに!それに、私はもう誰にも迷惑をかけないようにと野宿を決意したというのに。雲雀さんまで手を差し伸べてくれる。私の周りの人は本当に優しすぎて、いっそ不安になってしまうよ。みなさん悪い人にころっとだまされてお金とかふんだくられても、知りませんよ。私は首を横に振ろうと、思わず肩をすくめるとさっきまで差し出されていた手が私の髪に触れて、やんわり痛い程度にくんと引かれた。さっきよりも距離の近くなった顔が意地悪そうに笑って、私は思わず目を見開いた。


「来るよね?


こ、この人ずるい!











20080406