「おーい、よォ」


てっきり台所か奥の部屋にいるもんかと思ってそう呼ぶと、いつもならひょっこり出す顔がいつまで経っても出てこない。聞こえなかった のかと思ってもう一度、今度は少し大きめな声で呼んでみるもは姿をみせない。あれ、どこいったんだ。今週号のジャンプどこにあるか 聞こうと思ったのによ。まったく、俺が買ってきた俺のジャンプを読みたいと言うから、俺が読んだあとに貸してやりゃそのまま返さない とはどういうことだ。俺が机にあご乗せてだらーんと扇風機にあたっていたら、ソファに座っていた新八が顔をあげた。

さんなら、さっき出かけていったじゃないですか」
「あーそうだったかァ?」
「そうですよ。うちがあまりに火の車だから、バイトはじめるって。今日はその面接だそうです」
「そういやそんなこと言ってたっけな。どこでバイトするんだ?」
「さあ、そこまでは。あれ、銀さん心配なんですか?」

新八はにやにや嫌な笑顔をこっちに向けて変なことを聞いてきやがった。ハッ、いやだねこれだから思春期の男の子ってのは。あいつも いい大人なんだから、仕事くらいちゃんと選べンだろ。いや待てよ、いい大人だからこそできる大人な仕事ってのもあるな。いやいやそん な!がそんなことできるようなたまですか?あ、でもあいつほしいものがあるとか言ってたよな。はっきり言って、うちの家計というの は冗談抜きでなかなか危ない橋を渡っている。こりゃもしかすると、もしかするかもしれねェぞ。お妙みたくキャバクラなんかできるよう な女か?いやもっと上の、思春期の男子の前ではうかつに発言できないようなところで体を売るとか。いやいやいやいや。いや、ないな い。ないよね?ないと言ってくれ!

「あ、さん帰ってきたみたいですね」

嫌な汗を流しながら自分の妄想を必死で否定していたら、新八がそういって玄関のほうを振り返る。俺が顔を上げると、ちょうど居間に 入ってくるところで、額にはうっすら汗をかいていた。え、それどういう意味?変なほうにばっか頭が転がっていくんだけど!

「おかえりなさいさん」
「ただいまー、今日すっごい暑いねー」
「バイトの面接どうでした?」
「あ、うん!明日から来てほしいって。忙しいお店だから、人手不足で困ってたみたい」
「よかったじゃないですか!」
「顔が可愛いから採用って言われちゃった」

忙しいお店?どどどんなお店だよお前。顔が可愛いって言われたことに照れてんじゃねぇぞ!どんな店だ顔が基準ってどんな店だ!やっぱ り危ない店なのかそうなのか、銀さん通いつめて仕事中指名しなきゃなんなくなるよこれ!そうなるとバイトなんてプラスどころか マイナスだよ!そそそんなことするくらいなら銀さん働くから。毎週のジャンプだって我慢するよ?化粧だってあんまりしないの可愛い 笑顔がとてつもなく悲しいものに見えてきた。く、苦労させてごめんね…!

「わ!銀ちゃんすごい汗だよ!どうしたの?」
「そんなことより、どんなバイトなんですか?」

ちくしょう新八のやろう、せっかくが俺に目を向けて心配してきたっていうのに、そんなことあつかいか?覚えとけよ。とりあえず今は 新八のした質問の答えを待って、ごくり、生唾を飲み込んだ。

「ただの甘味処だよ!餡泥牝堕っていうお店でね」
「甘味処ォ!?」
「え、うん。どうしたの銀ちゃんさっきから変だよ」

なななんだよ、ただの甘味処かよ。いや、わかってたけどね銀さんわかってたけどね!がそんな、体売って働くようなやつかよ。そんな ふしだらな娘に育てた覚えはありません!なんだ甘味処か、なら別に心配ねェかな。いや俺は最初から心配なんかしてないけどね?いやい や本当だって。いや別に心配なんかじゃないけどさ、パフェでも食べに行くかな。ついでにをのぞいて。ついでだから、パフェ食べに 行く。アンドロメダ、アンドロメダってどこだ?えーと、どっかで聞いたことあるような。椅子にもたれかかって天井を見上げて、頭の中 を探る。アンドロメダ、パフェ食いに行ったっけかァ?いやもっと別のことで、聞いたことあるような。

「制服がすごく可愛いんだって!」

せいふ、制服!?

「だめだ!絶対だめだァァアアア!」

机を叩いて思わず叫ぶとと新八は目に見てわかるほど驚いて俺のほうを不審げにみつめた。思い出した。餡泥牝堕、あの店のパフェはま あまあ美味かったが何より印象的だったのが、あの制服だ。着物の丈の短さは振り返るときにひらり、裾が浮き上がってその中の、ぱ、ぱ んつが見えてしまうのだ…!

「お前をそんなふしだらな娘に育てた覚えはありませんよォ!」
「ぎ、銀ちゃんどうしたの!私は銀ちゃんの子じゃないよ!」
「ツッコムとこそこォ!?それにしてもどうしたんです?銀さん」

あんな短い着物きて微笑むは確かに可愛いだろうよ!しかし、しかしだ、それを俺以外が見るのは可愛いどころか怒り奮闘だよコレ!俺 の前でその格好してくれるのは構わん。むしろカモンくらいの勢いだ。土下座して頼み込んだっておつりがくるくらいの威力だろうよ。そ れをほかの野郎に見せるっていうのが気に食わねェ!どうする、ここで俺が今考えてることを説明したら確実に新八にはからかわれる。そ れは大人として、男としてなかなか恥ずかしい。に俺が餡泥牝堕でメイドのパンツを見ていたことがばれるのもなんだか恥ずかしい。こ こをうまく乗り切る方法はないのか…!

「もう、銀ちゃんが働いてくれないから私が頑張るって言ってるのに!」
「そうですよ。銀さんもさんを見習って少しは真面目に働いてくださ」

「俺だけのメイドさんでいてくれェェエエエ!」

色々間違えた俺に、二人の視線は冷たかった。



Honey Taste

20070807