今ちょうど8時を過ぎました。みなさんこんばんは、です。なんでこんな時間にチャリを漕いでいるのかというと、さっき銀八先生から とにかく来いとの呼び出しを受けたからでございます。特にやることもなかったし、なんだろうと思って待ち合わせ場所に着いてみれば うちのクラスの大半がそこにいて、何かひそかな集会でもやるのかと一瞬びびった。

「よーしみんな大体そろったな。じゃあ順番にこのくじを引けー」

相変わらずダルそうな銀ちゃんの声が響いて生徒たちはだらだらと動き始める。なんだ?くじとか。王様ゲームでもやるつもりですか? 不思議に思いながらもくじを引いてお妙たちのところへ行くと、めずらしくお妙が青い顔をしておりょうちゃんにくっついていた。何事 だ。

「お妙どうしたの?」
「この子こういうの苦手だからね」
「こういうの?」
「聞いてないの?肝試し」

おりょうちゃんの声が頭の中でエンドレス。肝試し、肝試し、肝試し、肝試し。とたんに頭のてっぺんから血がサーっと引いていくような 感覚がして、私はとたんに自転車を停めた場所までダッシュしかけた。というのに、腕をぐっとつかまれる手に阻まれた。なんだ、なんだ 誰だよお願いだから私を逃がしてくれ。じゃないと、じゃないと殺されてしまう!お化けに!振り返って講義を言おうとすると握り締めて いたくじを意図も簡単に奪われてしまう。なんだ、誰だよ。

だったんですかィ。俺とペアなのは」

にやりと微笑んだその顔を見て、今日で私の人生が終わることを悟った。なんということでしょう。ただでさえ嫌いで嫌いでしょうがない 肝試しを、このサドと一緒に回ることになるなんて。神様、なんですかこの仕打ちは。私がいったい何をしたというのですか。いやたしか に宿題なんてやってませんよ。夏休みももう終わりがけだというのにやっていませんけども!だからって、こんな嫌がらせはないと、思い ます…。

「なんでィ、そんなに嬉しいんですかィ」
「誰が嬉しいといった、誰が」

銀ちゃんをすがるような目でみつめても、だるそうに見えないふりをされるだけでもうなんだか世界中の大人が信じられなくなりそうで す。となにやらセンチメンタルチックなことを言っている場合でなく、もうあっという間に私たちの番まできてしまいました。逃げたい。 激しく逃げ出したい。せめて総悟でなく土方と一緒だったらまだよかったのかもしれない。そう思って振り返るとその土方はいつもの涼し そうな顔でだらだらと冷や汗をかいていた。あ、あいつもびびりなんですかコノヤロー!隣にいる総悟を横目でみると、別にいつもと同じ やる気のなさそうな顔であくびをしていた。最悪だ。

「行きますぜィ」

ほら、またにやって笑った。私が青ざめて固まっているのも無視して腕をぐいぐい引いてくる。あ、あ、あ、このサド野郎!怖い怖い怖い もう何が怖いんだかわからないくらい怖い。暗いし、なんかカラスとかぎゃあぎゃあ鳴いてるし。うっわ雰囲気たっぷりですね、誰か助け て。

、大丈夫ですかィ?」
「そ、総悟…!」

総悟が私に労いの言葉をかけてくれた…!

「あ、なんかの後ろに白い影が」
「わぎゃああああ!」

感激した、私が馬鹿だった。私が真っ青な顔をして叫ぶのを楽しそうに笑ってるし。というか私も明らかな嘘にだまされるなよ。そんな、 そんな白い影だなんて、そんな!いいいるわけないよお化けとか幽霊とかいるわけないよなに言ってるんですか。いや、わかってるよ。 わかってるんだけど怖いと感じてしまうじゃないか。なんで怖いのかとか何が怖いのかとかもうわけがわからんです。とにかく怖いです。 あ、どうしようさっきので軽く腰が、抜けた。座り込んで涙をぬぐっていると、総悟も一緒にしゃがみこんできて私の顔をのぞきこんでく る。ばか、ばか総悟。

「そんなに怖いんですかィ?」
「怖いよ!」
「あんなンで腰抜かすほど?」
「ぐっ…!」

腰抜けたこともすんなりばれてやがる!あーかっこ悪い。恥ずかしい。総悟が悪いんじゃないか。怖いって言ってるのにおどかすから。 恥ずかしくて顔が熱くなっていくのがわかる。あーもう、早くここから抜けたい。また涙が浮かんでくるのをこらえていると、総悟が急に 背中を向けだした。なに、今度はどんな意地悪ですか。もう勘弁してくださいよ、総悟くん。

「ほれ」
「なに?」
「おぶってやるって言ってんでさァ」

なに?なんて言った?あの総悟、が。これはきっと罠だ。私をおぶってくれるふりをして、きっとまた意地悪されるにちがいない。そう だ、そうにちがいない。わかっているのに、わかっているのに私は総悟の背中に寄りかかってしまう。きっと途中で落とされたりするん だ。いや、もっとちがう意地悪をされるにちがいない。そう疑いながらも大人しく背負われていると、総悟は何も言わずに歩き出す。総悟 が普通に優しい。戸惑ってしまうじゃないか。いつもはこんな、優しいことしてくれないくせに。

「あー重い」
「うるさい」

ゴールまでたどり着くとみんなから変な目で見られた。そりゃそうだ。あの総悟がクラスメイトの女子をおぶっているなんて、天変地異が 起きたのかと疑ってしまうくらいにありえないようなことだ。そうだよ、総悟って腰を抜かす人がいたらその人を踏みつけておいてくるよ うなドSなのではなかったか?なんで大人しく私をおぶってここまで連れてきてくれてんの?おぶってくれている間も意地悪なんてひとつも されなかったし。あれ?みんなが帰ってきたところで花火が生徒たちに手渡されて、そのまま花火大会になった。私はまだ腰が抜けたまま だったから、ベンチに座ってみんなが花火をやる様子をながめているだけ。なぜか隣には、総悟の姿が。

「総悟さ、なんで急に優しくなったの」
「何の話でィ」
「さっき。総悟がおぶってくれるなんて、めずらしい。もっと意地悪されるかと思った」
「いじめてやろうと思ってたけど」

けどの続きが気になって、花火から総悟に視線を移すと、妙に真面目そうな顔をしていた。

の泣き顔にそそられて、あのままどうにかしちまいそうになったんでさァ」

問題発言は、誰かの飛ばしたロケット花火にかき消された。






貴方と正しい涼み方

20070818