「そういや、の文化祭はいつなんでィ」
「え、総悟きたいの?」

呼ぶ気もなかった相手に文化祭のことを聞かれて、私は驚くしかなかった。私と総悟は別の学校に通っている世にいうカップルで、この間 は総悟の学校の文化祭にお呼ばれしたりしたんだけど、まさか私の学校の文化祭に来たがっているとは、思ってもみなかった。これは、 一大事だ。

私に彼氏がいるということは、学校では一部にしか知られていなくて、聞かれたら言うけど一応は隠していたのにこんなことになるとは。 別に総悟が彼氏で困ることがあるというわけではない。いや、あるけど。ちがうちがう、人前に出して恥ずかしい彼氏かというとそんなこ ともなくむしろかっこよくて自慢なんだけど、なんというか気恥ずかしいのは私だけだろうか。釣り合っていないんじゃないかという不安 もあるけど、何より恥ずかしいんだ。照れくさくてむずがゆいような感覚は、いつまで経ってもぬぐいきれません。これでも付き合いだし て結構経つんだけどな。総悟がうちの学校に来るということは、もちろん私が案内とかするわけで、隣を歩いてれば嫌でもばれてしまうと いうか。

の彼氏は来ないの?文化祭」
「え、ちゃん彼氏いるの!?」
「は、ははははは…」

大変です、大変なことが起きました。文化祭の準備中に、私に彼氏がいることを知る数少ない友達が私に向かって大変な質問を投げかけ、 しかもそれがなかなか大きな声であったものですから、周りにいた女友達にはあっという間に広まり、翌日にはクラス中にそのことが 広まっているということが起きました。文化祭を目前にばれちゃったよ!いやどっちにしろ文化祭でばれてしまうんだから同じか。いや 同じじゃないですよ。彼氏は文化祭に来るの?という質問を今日までに何度耳にしたことでしょう。嘘をつくこともできず、来ると言うと みなさん楽しそうに笑ってその顔通りの言葉を返すのです。楽しみだと。

はい、今日です。ついに文化祭当日です。今日まで長かったようで短かったなーという感傷に浸る間もなく、私の携帯はぶるぶると震え だしました。ついにこのときがきた!携帯を開くとそろそろうちの学校に着きそうだから校門まで迎えにきやがれというまさしく彼の反応 に私は思わずため息をつくしかない。そんな私を姿を見てすぐに察する周りの女子たち。彼氏来たの?なんて言葉、そんな笑顔で言わない でください。ハードルが、上がる。ああ、失敗した!チケット二枚くらい渡しておけば総悟だって友達を連れてきて私が案内せずとも二人 で回ってくれたかもしれないのに、どうして私はチケットを一枚しか渡さなかったんだ!というかどうしてうちの学校の文化祭はチケット 制なんだよ!

はい、文句を言っていたら校門までついてしまいました。なんとなく女子の視線が集まる先に、キャラメル色をした頭が見えた。私を見つ けると軽く片手を上げ、周りの女の子が思わず黄色い悲鳴を上げてしまいそうなくらい優しく微笑む私の恋人である総悟が立っていた。と 言うふうであったらすごく似合うだろうに。しかしこんなこと、地球が何回転しようとも総悟がするわけがない。実際の総悟は私を見つけ るなり、その無表情を崩さずに私のほうへ歩み寄ってまず私の額にでこピンを食らわせた。

「った!な、なんですか!」
「遅い。俺を2分を待たせるとは、いい度胸でィ」
「たった2分じゃない、ですか」
「なんで敬語?気持ち悪ィ」

自分でも、なんで敬語なんだよとつっこみたくなった。いや本当、なんで敬語?なんだか妙に意識してしまって、隣を歩いているだけでな んだか気恥ずかしい。周りの視線がすべてこっちに注がれているような変な錯覚をしながら、さっさと歩き出してしまう総悟のあとを 追った。いや、実際すべてではないものの、一部の女の子からの視線は独占しているようだ。何せ、総悟の見た目は無駄にいいから。中身 があんなんでなければ自分の学校でもさぞおモテになることでしょう。ちらりと横目に隣を歩く恋人の顔を盗み見てみれば、太陽に反射し た髪の色が私の目に痛かった。うん、かっこいい。というかきれい?ああ、なんだか懐かしい感覚がするよ。私と総悟じゃ釣り合わない。

「最初、どこ行く?」
「適当に案内してくれや」
「あ、受付でパンフもらわなかった?それ見て動こうよ」
「あーが持ってると思って受け取らなかった」
「え、わたし教室に置いてきちゃった…!」

さっそく行動に行き詰りましたけど!なんとなく立ち止まってしまい、そのまま行き先が決まるまで動きそうにない雰囲気だぞ、これは。 どこかでパンフ配布してないだろうか。視線をあたり適当に散らせてみても、それらしき物も人も見当たらない。しょうがないから受付ま でもらいにいくか。でもそうなるとまた校門に戻らなきゃならないしな。適当に歩いてもいいけど、どうしようかな。と考えていると視界 に困ったものが映って、私はその場からマッハで逃げ出したくなった。クラスメイトが驚いたような好奇心の眼差しをこちらに注いでいる ではないか。あ、あ、気付かなかったふりをして、逃げよう、かな。

ー!」

やっぱりそうなるよね!

「あ、あー…。やっほー」
「そっち彼氏?かっこいい!」

心からの称賛をいただけて嬉しいんですが、正直恥ずかしい。総悟は適当にちょっと頭を下げて挨拶をしているけど、それもなんだか 恥ずかしい!なんで私こんなに恥ずかしがってるんだろう、自慢の彼氏だろう。いやでも、自慢の彼氏だからこそ恥ずかしいというか、わ かってくださいよ!一人で勝手にひいひい困っていると、ほかのクラスメイトも寄ってきて、ちがうクラスの友達まで寄ってきて。なんだ か軽く人だかりのようになってしまっている。あ、あ、わかったからそんなに騒がないで!私に彼氏がいるってそんなにめずらしいです か!ああ、もう恥ずかしくて軽く死にそう。総悟、ごめんねなんか大騒ぎになってしまっていて。もう何がなんだかわけがわからん、で す。

パンダにでもなった気分でただただ俯いていると、急に私の腕をつかむ手があって、その手がお世辞にも優しいなんて言えないような力 で、なぜか安心させる強さがあった。私のよく知る大好きな力強さ。

「悪ィけど、俺らの邪魔するのは野暮ですぜィ」

あ、ほ。開いた口が塞がらないような言葉に、勝気な笑顔がきらりと輝いた。言うが早く、私の腕をぐいぐい引いて人だかりをよけて道を 進んでいく。さっきまで私たちを囲っていた人たちは呆気に取られたような顔でその場に立ち尽くしてこっちを見ている。気持ちはよく わかります。私も同じように立ち尽くしていたいのに、痛いくらいに強く引かれる腕を離してくれる気配はない。ふと総悟の顔を見上げた ら、どこか遠くを見ているような目が強く感じてなんだかかっこよく感じた。

「何を気にしてるかは知らねェが」
「へ」
「周りなんて気にせず俺だけ見てりゃいいんだぜィ」

歯の浮くようなセリフを簡単に言いのけて、にやりと意地悪な笑みを浮かべている。簡単に言うけどさ、それがすごく難しいってこと、 知らないでしょう。でも結局わたしはその一言で、本当に彼しか見ていられなくなったんだけど。








20071001