ソファに座るというよりもたれかかっている俺の前には、床に正座をしながらメモ用紙と鉛筆を握り締めている一人の女がいる。その顔は どこか照れたように赤くなっていて、なんだかこちらまで恥ずかしくなってしまうほどに真摯な目だ。瞬きするのも忘れてぽかんと口を 開けたままの姿を見ていると、も俺に付き合っているかのように瞬きをしない。俺が思い出したかのように目を一度伏せると同じく 目を閉じてまた真剣な目でこちらを見てくる。答えを待つに、なんと言っていいのかわからずにやっと口に出た言葉が「は?」だった。 はもう一度まじめな顔をして告げるのだ。

「銀ちゃんの好みの女の子ってどんな人ですか!」

赤かった顔をさらに赤くしてそんなことを言われて、俺はこいつのことを可愛い以外になんと思えばいいというんだ。こいつはたぶん何気 に聞いているつもりなのかも知れねぇが、これは間接的に好きだといわれているようで正直戸惑う。戸惑うというよりもうれしいという 気持ちが先走って逆にどうしたらいいのかわからなくなる。ここでを抱きしめたらおかしいだろうか。いやそれ以前に、まだ両思いと わかっているわけでもないのにそんな大胆なことをしてしまえるほど勇敢な男でもない。もしかしたら俺に好意を寄せる別の女に聞いてこ いと言われ素直なはその女のためにこうして俺のところへきてこんなことを聞いているのかもしれない。そう考えると、そうなんじゃないかと 思い込んでしまう。

「なんで、急に」
「なんでもいいから教えて!」

なんでもって言われたって、どういえばいいんだ。結野アナか?でも正直言って今は結野アナ以上に好きな女がいるわけだし、そうなった 今では結野アナが好みのタイプってのとはちょっとちがう気もしてくるし。ここで思い切って告白しちまうってのは、どうだ?でもこれで 俺の片思いだったりしたらかっこ悪いにもほどがあるだろ。これからもなんとなーく気まずくなっちまいそうな気ィするし。うーんと考え るふりをして天井を仰いだら朝食った卵焼きがぐるぐる胃で消化されているような感触を味わう。あ、そういや今朝の卵焼きは美味かった な。ちょっと甘めでふわっとしてて、の卵焼きが世界で一番すきかもしれねぇ。

「卵焼きをうまく作れる女」
「たまごやき…?」

いぶかしげに首をかしげながらもさらさらとメモ用紙に何かを書き付けている様が可愛い。本気で、誰のためなんだろうなぁ。

「もっとわかりやすい好み教えてよ!」
「いいけど、お前誰にも言わねぇって約束できるか?」
「できる!」

うれしそうに顔を上げてうなずく様子がなんだか人形みたいで、ここでぎゅうと抱きしめちまいたくなった。いや、だからまだだめだっ て。両思いって確定してからじゃねぇと、ただの変態になっちまう。けどよ、誰にも言わないってことはやっぱりが知りたくて俺の好み を聞いてくるわけだから、これ両思いじゃね?はそんなこと気がついてねぇのかるんるんと俺の言葉を待っている。ちょっと賭けに出て みますか。

「俺が好きなのは」
「うんうん!」
「いつもにこにこしてて泣き虫で、買い物に行きゃ必ず買う物何か忘れてくるようなドジなやつで卵焼きを作るのが上手な、って名前 の女かな」

そこまで言い切ると、なんだかおかしな達成感を噛み締めた。俺の予想じゃここでが真っ赤な顔して困ったようにうつむくはずだが、 実際のはそんな可愛い素振りを見せることなく小首を傾げ、少し考えたかと思えば突然立ち上がって満面の笑顔でこういうのだ。

「わたし卵焼き作ってくる!」

次に首をかしげるのは俺だ。そしてばたばたと台所まで走り抜けたとすれ違いに居間に入ってきて俺の隣に腰掛け、にやにやしながら 俺の言葉を待っている新八の顔を見るのがとても億劫だ。こいつ、全部見てやがったな。頭をぼりぼりかくと、新八があからさまにため息 をついてやれやれといったように首を振った。

「銀さんもまだまだ青いですねぇ」
「お前に言われたくないんですけど」
「あんな程度でちゃんに告白したつもりになっていたらだめですよ。ちゃんが鈍いってことは、誰より銀さんがよく知ってるじゃない ですか」
「さっきのはでもわかると思ってたんだがねィ」
「今頃ちゃんが何を考えてるか、当ててみましょうか」
「………」
「 " 私がって名前でよかった " 」

その予想は、あながち間違っちゃいねぇからいやなんだよ。






金平糖 とした




20071030