仕事の帰り道、ふと公園の前を通るとぼんやり灯る街灯と薄暗い草陰が見えて有無を言わさずを連れ込むと、予想以上に抵抗されるもん
だからそれに興奮して俺としたことが背後にせまる警察に気付かず、危うく情事をみられそうになっちまったぜ。てへ☆ 「てへ☆ じゃなああああい!」 「うるせーな、あんま騒ぐんじゃねーやィ。近所迷惑だろうが」 「あ、ごめんなさい…。じゃなくて!」 「(単純…)」 「総悟くん、外ではいやって何っ度言えばわかるんですか!これで何回目だよ!」 「五回目」 「そんなこと聞いてるんじゃない!いいかげんにしろコラー!?」 「だって外のほうがスリルがあって燃えるんだもーん」 「もーんじゃない、もーんじゃない。とにかく!いいかげん堪忍袋の緒が切れました」 「どうするってんでィ」 「ここに!おさわり禁止令を発令します!」 おさわり、だなんて言うもんだから俺がすぐに想像したのはいかがわしい店での礼儀のなってねぇお茶目な親父のセクハラだ。つまり、俺 がにさわるのを禁止ってことか?それともエッチだけを禁止すんのか、それとももっと別の意味なのか。聞いてみようかと思えばはそ っぽを向いてすぐに部屋を出て行ってしまった。まあ、なんにしても俺がそんなに簡単にいうことを聞くとでも思ってるのか?勝手にさわ っちまえばいいことだろう。そのときの俺は、おさわり禁止令を甘く見すぎていたんだろうか。 翌日から、まったくと言っていいほどと遭遇しなくなった。同じ仕事場にいるのに、どうしてばったり出くわさないんだ。こんなことは 今までになかった。おかしいなと思っての自室や隊士たちに聞きまわってみても、「さっきまでそこにいたのに」と言われるばかりで、 俺は完璧にに避けられているようだ。徹底した逃げに、こちとら燃えるってもんだィ。ドS舐めんじゃねぇぜィ。とひそかに闘志を燃やし ていたときだった。ふと、縁側に二人の人物をみつけた。ひとりは偉そうに煙草をふかしてポケットに手をつっこみながら歩く土方さん と、その隣に土方さんよりもだいぶ小さく見える身長の女。にこやかなその顔は、俺の怒りを煽るのに十分だった。ちくしょうあの女。 自分でも驚くほどに鋭いまなざしで二人を見ていたのか、はるか前方にいるはびくりと肩を震わせて振り返り、俺の顔を確認するや否や 青い顔をして走り去ってしまった。あ、また逃がした。舌打ちしたら、その場にいた全員の隊士がまるで鬼でも見るかのようなおびえた目 でこっちを見るもんだから、よけい腹が立った。 いくらなんでも、夜は自室に戻るしかないだろうと踏んでの部屋で待ち伏せても、一向に帰ってくる気配も見られずにそのまま朝にな った。ちくしょう、徹底してやがる。俺の行動を見越しての行動。ここへきて初めて、おさわり禁止令というふざけた名前の法令を甘くみ ていたと感じる。は本気で俺を避けていやがる。でも、これはいつまで続くんだろうか。半永久的に、という意味だったらどうしよう。 周りは俺がに何かして避けられてるって思ってるみてェだ。…あながち間違っちゃいねぇ。そのうちひょっこり顔を出すだろうとも考え ていたが、なんだかそれも不安になってきた。不安、だってよ。俺が不安がるなんざめずらしい。そんだけのことを思っちまってるって ことだろうかね。への愛を再確認しつつ、制服に腕を通した。 「あ」 俺との声がそろったのは、またもや縁側だ。すぐにに駆け寄ろうとする一言。 「動かないで!」 そんな一言で俺は本当に動かなくなっちまったんだから、よっぽどだ。よっぽどのことが好きなのかも知れねぇ。そんな自分を恥ずかし く思う間もなく、はどうしたらいいのかわからないような顔でうつむいてしまっている。逃げるもんかと思えば、ちがうのか。俺のほう こそどうしたらいいのかわからずに、ただその場で立ちすくんでいるとは戸惑いながらも俺に背を向けようとする。また、逃げんのか。 「いつまでだ」 「な、にが」 「これ、いつまで続くんでィ」 「知らないよ!」 「はァ?」 知らないって、なんだよ。いつまでかを聞けば、ちょっとは自分を制御してやろうかと思ってたのに。いつまで続くかわからねぇんなら、 俺だって抑える必要性を感じなくなっちまう。それこそ必死になってでも捕まえたくなっちまうじゃねぇか。目を細めて、自然とにらむよ うな目つきになっちまって、はなぜだか自嘲気味に笑んだ。自嘲気味というか、自虐気味というか。とにかく俺よりも自分を卑下するよ うな目に俺は一瞬戸惑っちまった。 「必死だね。そんなんじゃ、わたしの体目当てみたいじゃない」 くるりと俺に背を向けて、進みだそうとするに本気でイラッときた。こいつふざけてんのかと思ったけど、あの顔でふざけられる人間が いたら見てみたいもんだとも思って、俺は思わずおれ自身も驚くくらいに大きな声をあげちまっていた。 「動くな!」 人間、こんな単純な言葉で人を動かなくさせちまえるようで、さっきの俺同様はびくっと一度震えたきり動かなくなってしまった。俺に 背を向けたまま振り返らないで、指一本動かさない。もしかしたら振り返ることも動かすこともできなかったのかもしれねぇが。俺は足早 にのすぐ後ろまでせまって、に触れることなく口を開いた。 「体目当てだ?テメーみたいな貧相な体をいつまでも追い掛け回すほど、俺も暇じゃねぇよ」 のにおいが鼻をくすぐって俺を誘惑する。ちくしょう、かっこがつかねぇな。今くらい、誘惑されんじゃねぇよ。そう思ってぎゅっと拳 を握るとぴりっと手のひらに痛みを感じた。切れちまったかな。 「そんなふうに思ってんなら思っとけばいい。心配しなくても、もうお前には触れねぇぜィ」 俺が本当にお前のことを好きだから、触れたいってわかるまでいつまでも避けてりゃいい。もう覚悟も決まった。こっちこそ、俺が恋しく なって泣きつかせてやるくらいの意気込みだ。そう思って踵を返して歩き出そうとすると、小さな小さなつぶやくような声が聞こえた。 「わ、別れようって、意味…?」 「このバカ女!どんだけ理解力がねぇんだィ、テメーは!」 思わず肩につかみかかっちまった。あ、さっき触れないって言ったのに。あーもう、かっこがつかねぇどころじゃねぇよカッコワリーよ。 もう、どうやってもこいつの前じゃかっこがつかねぇんだ。そうとわかればもう取り繕うこともねぇか。 「お前のことを、心から愛してるって意味だバカヤロー」 捨て台詞のようにそういって、今度こそ踵を返して走り去ろうとすると今度は腕をがしりとつかまれてしまった。おい、おさわり禁止令は どうしたよ。なんとなく、振り返るのが恥ずかしくてそのまま固まっちまっていると、の小さな声がまた聞こえた。 「総悟、そ、そんなに私のこと、好きなの…?」 「…おうよ」 変な意地の張り合いはもうやめだ。そんなことで大事なもん失ってたら、意味がねぇ。恥なんざもうしらねぇよ。が不安がってんならそ れを取り除いてやらなきゃと思うし、しょうがねぇだろ。惚れたほうが負けっていうじゃねぇかィ。俺はこいつに、一生かなわねぇんだ。 「じゃあ、いいや」 へろって、ふにゃって、とにかく気の抜けた効果音の似合うような笑い方をするもんだから、今度は衝動的にを抱きしめちまった。さ っき俺を散々誘惑しやがったのシャンプーなんだか何なのかわからねぇにおいが鼻をくすぐって、やっと落ち着いた気がした。もう認め るよ、俺はこいつが好きだ。ずっと前から認めてるけど、なんていうかもうここまできたら好きしかいえねぇくらい好きだ。かっこ悪い? そんなこと気にしてられるか。かっこ悪くても、こいつだけが俺をかっこいいって思ってりゃいいんだよ。こいつの前でばかりかっこ悪ィ とこみせてっから、それこそ難しいのかもしんねぇけどよ。そっと背中に回る腕が、可愛い。 「禁止令はどうしたんでィ」 「規則は破るためにあるんでしょう」 「つくったやつが言ってりゃ世話ねぇや」 二人で笑いあうこのときが、何よりも幸せだなんて。 |