大きな祭りの前日は、なぜだかいつも眠れない。わくわく、そわそわ、そんな楽しい感情ではなく、ひたすら頭に重低音が響いているよう な気の狂いそうな感覚。こんな夜にはいつだってひとり。町のすべてが寝静まっているみたいに静かな夜に、決まって私は星の数をかぞえ ます。途方もないその数をたどっていると、いつしか星は私の目から隠れて消えてしまう。そんなころ、仲間はみんな祭りへ出発するの。 私を置いて。祭りはよほど楽しいのか、そのまま帰ってこない人もいる。私を置いて。約束なんてもう忘れた。ただ今日も、星が増えませ んようにと静かに願うだけ。私の仲間をあなたたちの仲間にしてしまわないでねと、星にお願いするだけ。

「おい、

聞こえているのに、返事はしなかった。


「どうしてここへ」
「理由なんかねぇよ」

晋助はその場に座り込むと手にしていた瓢箪のふたを開けて、中の酒のおいしそうに飲んでいる。祭りの前日、私はいつも一人だ。いつも 誰もたずねる人がいないという意味ではない。祭りの前日、私のところへ来る人の次に出会ったことがない。私のところへ来ると、翌日の 祭りで死んでしまうというジンクスが私の中で出来上がっていた。だから自然と私は祭りの前日はひとりになれるよう、場所を探すように なったというのに。この人は理由もなしにあっさりと私をみつけてしまう。これで、晋助は明日、死んでしまうんだろうか。

「明日、死ぬね」
「そうだなァ」

晋助にはジンクスのことを話したことがある。だからこそ、どうしてここへきたのか不思議で、不満でしょうがないのに何一つ言葉になん てなってはくれず、私はただだんまりと夜の静寂に飲み込まれてしまいそうだ。晋助は、きっと信じていないんだろう。私だって半信半疑 だ。だけど、信じる信じないにかかわらずに人が死んでいく。疑っているうちに消えてしまう仲間たち。絶対的な力で抑えつけられるよう な、絶望。晋助には、わからない。だってきっとあなたも明日には消えてしまう。星の仲間になってしまう。それを数える日が、はじま ってしまう。

「どうして、ここへ」

明日なんて来なければいいのに。あなたがいなくなる未来なんて、

「たとえ死んじまうかもしれねぇとしても、会いてぇと思っちまったんだから、しょうがねぇだろ」

涙を押し付けるように、その首に腕を回すと煩わしそうに頭を撫でられた。これだから男は、ばかなのよ。どうして衝動ばかりで動いてし まうんだろう。女はいつもそれに振り回されて、結局はいつも置いてけぼりになってしまうのに。それでも、目が離せない。もうあなたの ことしか見えなくなってしまう。神様、神様お願いです。明日なんか連れてこないで。明日なんて来ないでよ。

「いかないで、明日に連れて行かれないで」
「祭りに顔を出さねぇわけにはいくめぇよ」

明日が来るのが、怖かった。









明日の英雄 // 080119