午前三時。時計を見るともうそんな時間で、ちょっと調子に乗りすぎただろうかと電気を消して布団へもぐりこんだ。目を閉じるとじんと乾いた目が潤む。はてさてゲームを始めたのはいつのことだったか。久しぶりに棚を開けてみれば懐かしいゲームがでてきて、ついそれにのめりこんで気付けば8時間も費やしていたなんて。ぶるりと体が震えて、そういえば8時間のうちに一度もトイレへ立たなかったなと思い重苦しい気持ちで布団から出た。一度眠ろうと決めたくせに布団を出るということほど億劫なことはない。自分の体を呪いつつトイレへ行き、戻ってくると真っ暗な部屋でチカチカと自己表現の激しい携帯の姿が目に入った。誰でィ、こんな夜中に。開くと新着メールが一件、その前に着信が一件あったようだ。両方とも相手はなんとなくわかっていた。相手が誰かなんて確認するまでもなくすっ飛ばしてメールを開くとそこにはたった一文、ひらがなが7文字だけの幼稚な文章が記されていた。


そうごたすけて
























う、え…?あれ、わたし寝ちゃってたのか。なんか手がびりびり痺れるなと思ったら、握り締めていた携帯がぶるぶるぶるぶると規則的に休みなく震えていた。チカチカ光るライトの色は赤、これは電話のしるし。で、出なきゃ。

「あうあ、もしもい」
てめぇ次会ったときは覚えてやがれ犯す」
「総悟いま何時だと思ってんですかあれ今何時?」
「4時38分。窓開けろ犯す」
「まど?総悟さっきから物騒なことばっかり言ってるよ発情期?」

総悟、どうしたんだろうなと思いながら携帯片手にベッドから起き上がると下腹部あたりと腰にじんわりじんわり痛みを感じてきてゆっくりと目が覚めてくる。窓を開けながらだらりと下着をつたういやな感触を覚えて私はすべてのことを思い出した。あ、総悟に電話してメールを送ったの私だ。気付いたころにはもう遅い。ベランダで憎憎しい相手でも見るような目でこっちをにらんでいる総悟と目が合った。な、なんでうちのベランダにいるの!ていうかここ何階だと思ってんの!外の冷たい空気に触れたせいか、眠る前まで格闘していた痛みが急に襲ってくるようだ。同時に額に変な汗が浮かぶのを感じる。お、怒ってる、総悟。

私が何か言おうとする前に総悟は耳にあてていた携帯をゆっくりとおろし、鋭い眼光を隠すことなくこちらに注ぎ続けている。動いたのは直後だ。総悟は靴を履いたままの状態で部屋にあがり、私が苦情を言う間もなく床に転がらされた。ん?転げられた?まあどっちでも意味は伝わるだろうと思う。くるぶしあたりをガツンと蹴られ、つまり足払いをされて私は床に転んでしまったわけなんだが、状況を理解する前に総悟に馬乗りになられて私は目を瞬かせることになる。目が、目が据わってる。あの、よければ誰か助けてくださいませんか。

「そ、総悟、きてくれたんだ」
「あんなメール送っておいて自分は熟睡だァ?犯す」
「ごごごめんなさいごめんなさいごめんなさい!…っぐ」

いた、痛い痛い痛い痛い痛い痛い!内臓がぎゅうっと押し潰されているような感触だ。私の中にある不純物を吐き出そうとある器官が頑張ってくれているのはわかるんだけど、そんな激しくしなくてもいいじゃない!7日間あるんだから均等にゆっくり吐き出してくれればいいのにどうしてそんなに頑張っちゃうの!あんたはどこぞのドSですか!人を苦しめて喜ぶあれですか!それならいっそ受け入れて愛したいとか思っちゃうじゃないか私のばか!わたし全体的にばか!も、もうなんでもいいから、誰か助けて。総悟はといえば、突然お腹を押さえて苦しみだした私のことを気にする風もなく私のパジャマのズボンをおろそうとしだす。む、むりむりむりむり!今日は無理だって!しかもあんなとこやあんなものを総悟に見せたくない!き、きれいなものでもないしさ。総悟わたしに失望しちゃうかもしれないじゃないか!でもしょうがないんだよそれは女の子なら誰しも通る道であって、あの、あの、その、お腹痛いしやめてよー!

私の願いもむなしくずるりとズボンを脱がされて特有のにおいが私の鼻につくころ、総悟はちょっと驚いたみたいな顔をして固まってしまった。う、う、うわーん!ばかばか総悟のばかー!お腹痛いし総悟はズボン脱がすし、ぬるってした血が足をつたうのがわかるし、最悪だ!気付けばやだやだ言いながらぐすぐす泣いて、ずるずるとズボンを引き上げて身を丸くしていた。うええ、気持ち悪いしお腹痛いし腰痛いし。なんで今回こんなにひどいのさ。毎月どうして生理がくる日は気持ちが不安定になっちゃうんだ。どうして寂しくなっちゃって、痛くて苦しくて切なくなって総悟に助けを求めちゃうんだよ。そばに誰かいたって痛いの飛んでったりしないのに、どうして誰かに、誰より総悟にそばにいてほしくなっちゃうんだよ。総悟の怒りが私をおか、犯すことで解消されるなら喜んでされたいと思うのにどうして、どうしてできないんだよ。

「うええん失望しないでぇ…っ」

なんで、おかしいこと口走っちゃうんだよ。

総悟は私の上半身だけをゆっくり起こすとめずらしく優しく抱きしめてくれて、私の涙が落ち着くまで背中というか腰のあたりをやわやわと撫でてくれた。涙も止まってきたころにベッドまで運んでくれて布団をかけてくれて、ベッドの傍らに膝をついて私の手を握る姿なんてまるで王子様で驚いた。総悟が優しいのは、実はめずらしいことではなくて、わかりにくいけれどちょこちょこ見え隠れする愛という名の優しさを私はたくさん知っていたりします。それでもSなのはかわらないんだけどね。そのSな行為にどれほどの愛が詰まっているかを、私は知っているんです。

「総悟、手ぇつめたいね」
「お前が一時間もベランダで待たせるからだろィ」
「ごめんね、ごめんね総悟。寒かったよね」
「…痛ぇのかィ」
「うん、うん、ごめんね、ごめんね総悟」
「バカヤロー、もう黙んな」

手を握ってくれている手とは反対の手がもぞもぞと布団の中に入ってきて、私のお腹を遠慮がちにやわやわ撫でるものだからもう私は泣きたくなった。しくしくと可愛い可憐な女の子みたいな泣き方じゃなくて、わーんって泣きたくなった。眠る前、本当に痛くて苦しくて切なくてあなたを求めた。きっと痛みなんて引かなくても会いたくてたまらなかった。でも実際ね、痛みが和らいだ気がするんだ。なんだこれ、わたし満たされまくりだな。贅沢だよこんなの。ごめんね総悟、わがままばかりでごめんね。でもね、会いにきてくれて本当に本当にうれしくて、もう一生手放したくないなって思いました。あれ、作文?

「終わったら、いくらでもお、おかしていいです」
「言われなくともそのつもりでさァ」
「ねえ、総悟。失望してない?」
「してねぇよ。する意味がわからねーじゃねぇかィ」
「そっか」

小さな小さな声が聞こえた気がした。「悪かったよ」って。聞き間違いかもしれないし、空耳だったのかもしれないし、もしかしたら本当に総悟がそういったのかもしれない。でも私にはなんの確証も持てなくて、聞こえなかったふりをして強く手を握り返してみる。すると総悟が私の前髪を払って、むきだしになった額に口付けをしだすから驚いた。今日の総悟は優しすぎて、こわいくらい。あとからどんな命令でも聞いてしまいたくなるよ。ずっとずっと、そばにいてくれますか。

「俺のガキ産むために頑張ってくだせぇよ」

プロポーズにも取れるその言葉はとても甘い響きをしていて、口が悪いくせになぜか王子様みたいで、私は目が離せなくなってしまったのですが。










20080314