Mission Start!




「あれ、太りやした?」

デリカシーも何もあったもんじゃないこのバカ男には容赦なく一発くれてやりました。







「痛ってーな、何しやがんでィ」
「うるさいうるさいうるさいうるさい!乙女になんてことを…!」
「思ったとおりのことを言って何が悪い」
「悪いわー!ひ、人が気にしていることを…!」
「気にしてるって言う割には、菓子を取る手が止まらねぇのはなんでだィ」

びくっと手が震えて、手にしていたポッキーを床に落としてしまった。あ、ああ!期間限定があ!ショックに打ちひしがれながら床のポッキーを拾っていると、ぽりぽりぼりぼり音がして顔を上げてみると残りの私のポッキーをすべて食べてしまっている憎き男がいた。ありえない。しかも俺はやっぱり普通のチョコポッキーのが好きだみたいなことを言っている。いや、聞いてませんよ。というか返せよわたしのポッキー。とりあえず何か言おうと口を開けばだらだら嫌味しか出てこない気がしたので、かわりに総悟の頭をもう一度叩くことにした。総悟がたいして痛そうもなく、あてっとかいうのがなんだかまた憎い。ちくしょう。

「ここに、ダイエットを宣言します!」
「3日坊主に300円」
「3日と言わず、1日で断念するほうに300円」

気付けば総悟はいつの間にか近くまできていた銀ちゃんとふたりでそんなことを話していて、本気で殺意が芽生えました。ちくしょう、見てろよ。完璧なボディラインつくってびっくりさせてやる。ボン・キュ・ボンのナイスボディになって総悟や銀ちゃんをあっと言わせて、男なんてイチコロよ☆になってやる。

「でも、胸ねーじゃん」

デリカシーはあえて踏みにじるドS男に本日二発めを叩き込んでみました。







ふあ、ため息をついたら誰にも気付かれることなく空気に混じってとこかへいってしまった。太った、かな。体重計に乗ったわけではないからはっきりした数字なんてわからないけど、確かに太ったんだろうなとは思う。だって、お肉が…。ためしにお腹の皮をつまんでみると先月よりも厚みを増しているように感じるのだ。今月、結構お菓子食べちゃってたしな。夜更かしして、夜食といってカップ麺食べたりしてたからな。今もなんとなく小腹が空いたような気がしてついついお菓子に手が伸びそうになるし。だ、だめだよ!決心したじゃんか!ダイエット宣言したからには、何が何でも痩せてやるんだから!

人は決心するとなんだかできてしまうようで、なんとか私は二日目までクリアして三日目に突入です。まともにご飯さえ食べていないせいでかなりお腹が減っています。学校ではどうにかまだお腹の鳴る音は誰にも聞かれていないものの、夜になるとなかなかひどいんだ。お腹空いたよーお腹空いたよーってお腹が切なそうにきゅうきゅう鳴くもんだから、私はかわいそうになってついつい食べ物に手が伸びそうになる。それと戦うのが結構必死です。このまま胃が小さくなってくれないかな、なんて思っていると、いやだというように小さくきゅうきゅうお腹が鳴り出すので慌ててお腹を抱えるはめになってしまった。よ、よかった今が休み時間で。授業中とかだったら絶対席近い人にばれ、て…。前の席の総悟がゆっくり振り返るもんだから、私は恥ずかしくなって顔を机に伏せることにした。

「ダイエット、続いてんのかィ」
「わ、悪い?」
「無理なダイエットほどリバウンドが怖いもんでさァ」
「う、うっさいなー!なんで総悟は、そんな」

そんなことばっかり、言うんだよ。聞くのがバカみたいに思えて、続きは口の中で引きとめた。だって、総悟はドSだから人の嫌がることを言って楽しんでいるのかもしれない。それに私が本気で傷つこうとも。バカ総悟め、私が傷つかない気にしない女だとでも思ってるんだろうか。悪いけど好きな人に太った?なんて言われて喜べるほどMでもないし、図太くもないんですよ。だって、私にはわからない。総悟が私をいじめたくてそういうことを言っているのか、それとも拒絶の意味を含めてそう言っているのか。もし後者かもしれないということを考えると怖くて、頑張らねばと思ってしまうじゃないですか。もうこれ絶対に、お前痩せたなって言わせてやる。

とはいうものの、結構本気でお腹空いています。とくに運動した体育のあととか、ね。お腹が空いていると力が入らないしうまく動けない気がする。うう、なんかお腹空いたというよりも気持ち悪いかも。わたし普段から結構食べるほうだし、よけいダイエットとか向いてないんだろうな。どうしよう、お腹空きすぎて気持ち悪いんだけど、だからって何も食べる気が起きない。

「おいおい、顔色が悪いですぜィ?これだから、無理なダイエットなんてするもんじゃねぇや」
「うるっさい…!」

総悟に何がわかるか。好きな人の理想に近づきたいって思う女の子の気持ち、わかるか。悔しくて、憎たらしいのにそれでも好きで、こんなやつを好きな自分にもむかついて、とりあえずいつもよりも力を込めて殴ろうとしたらするりと避けられてしまった。なんで避けるの!おとなしくストレスぶつけられろ!私はといえば、そのまま体勢を持ち直すこともできずに床にだらりと座り込んでしまった。うわ、かっこ悪い。そう思うのに急激に吐き気がぐるぐると私の胸の上のほうをくすぐるもんだから、私は何を言い返すこともできずにうつむいているしかなかった。吐きそう、というわけではないけど、なんか気持ち悪い。

「言わんこっちゃねぇや」

あきれたような声に、怒りよりも悲しみを覚えた。だって、だって、好きになってほしいじゃない。きれいになって、可愛くなって、あんたを振り向かせたいって思っちゃだめかな。なんか頑張ってるのが、バカみたいだ。それでも好きなのはどうしたら、いいの?

目に涙が浮かんできて、ぼんやりした視界のなかでぐいと私の腕を引く手が見えた。誰のってもちろん総悟ので、驚いて顔をあげると総悟は私に背を向けて私の腕を自分の肩においていた。なに?総悟はなんにもいってくれなくて、ただちょっと振り返ってこっちを見ているだけ。総悟の広い背中が目に入る。男にしては細くて華奢なやつだと思っていたのに、こうしてみるとちゃんと大きくてたくましい。総悟も男の子なんだなと思うと吐き気も少しおさまって、きゅうと胸が苦しくなる。苦しくなるけど、これはいやな苦しみじゃなくて。総悟が大好きだと再認識させる、しるし。

「ほら、早く」

ぐいぐい腕を引っ張られて私が腰を浮かすと、そのまま私の体を背中に押し付けられた。なに?新手のいやがらせ?これってはたから見たら負ぶされって、言っているみたいだよ。しびれを切らすみたいに舌打ちをした総悟に驚いているとすぐにもう片方の腕も取られて肩に乗せられて、あっというまにおんぶされてしまった。お、おんぶって。

「わ、わあ!ちょ、わわわ、やだやだおろして!いやだああ!」
「あんまり騒ぐと落とすぜィ?」

私はおろしてといったのに、返ってきた言葉は落とすって。思わず黙り込んでしまうと、総悟は歩きながら私が楽なように背負いなおしてくれる。うわ、うわわ、おんぶなんてお父さんお母さん以外にされたの、はじめて。というかこんな年になっておんぶなんて、恥ずかしい!恥ずかしいよりも先に気になるのが重くないかなという不安で、私はどうしたら総悟にかかる負担が減るのかを必死で考えてみるものの、わからない。それよりも総悟の温かくて広い背中とか、私の足を抱える腕にどきどきしっぱなしで、その異常な心音が聞かれたらとそれも不安でたまらない。ど、どうしよう。

「お転婆なのも、考えものでさァ」
「だ、だって、総悟が…」

総悟がちょっと振り返るとすごく顔が近くなって、あっという間に私は赤くなってしまった。と思う。自分の顔は見えないからわからないけど、顔がありえないくらい熱くなったのだけは確かだ。

「顔色は良くなったか。どうする?保健室、行くかィ」
「う、ん」

なんだか優しい総悟に戸惑うものの、さっきから心臓の速さがおさまらない。どんどん、どんどん好きになる。あ、しまった。おろしてっていうタイミングを逃してしまった。また落とすぞっていわれるかもだけど、おろしてもらわなきゃ。総悟、手痛くないかな。重たくないかな。私の体をいたわってか、あまり振動のないようにゆったり歩いてくれている総悟はぜんぜん余裕そうだけど、総悟はいつもこんな顔だからなに考えてるのかわからない。どうしよう、おろしてほしいのに、おろしてほしくない。嬉しいとか思っちゃ、だめですか。だってあんたのことこれ以上ないってくらい好きなんだから。

「軽い」
「うそ、そんなに早く痩せられるわけない」
「もとから軽いってことでさァ。だから」
「だから?」
「無理にダイエットなんてすんじゃねぇや」

また、総悟が振り返る。至近距離にあるきれいな顔に私はまた顔を赤らめて、そして小さく頷かされた。確信犯なのか、それとも天然なのかはわからないけれど、私の心を動かすには十分すぎる威力だった。








080331