「トシ、ちなみに誕生日は?」
「5月5日」
「血液型は?」
「A型」
「…もう、いや」
「あァ?」
「なんっで誕生日も血液型も、苗字さえ一緒なのよォオオ!?」
「はあ!?」

なんで、なんでなんでなんで!なんで総悟がこの世で一番嫌っている人と同じなんだ。これってどんな確立?別に血の繋がっている兄妹というわけでも親戚というわけでもないのに同じ苗字だし、同じ誕生日だし同じ血液型だし。これってつまりどんな占いを見たってトシと一緒になっちゃうじゃんか。それってどうなの?トシと同じ運命をたどっているってこと?それって、トシのことを気に入っていない総悟としては、どうなわけですか。総悟が好きな私は、どうなんですか。もう最初からお前のことはなんか受けつけないと言われているようなもんじゃないか。そうなの?いや、わかんないけど!

「小さいときはさ、歴史上の有名な人と同じ苗字だーって喜んでたけど、こんなんじゃ、喜べないよー!」
「ねえ、お前俺が傷つかないと思ってる?ねえ、ちゃん?」

同じ苗字であるために、出席番号が前後な私たちは机も同じく前後に連ねて授業も終わった教室で二人きり。この男のファンが知ったらわたし殺されそうだな。でも私がどれだけトシにくっつこうがそんなことはありえないのです。なぜなら、なんでか双子だと思われているから。見た目なんて全然似てないのに、同じ苗字で同じ誕生日というだけでなんて単純な。まあ確かに、ありがちな苗字じゃないのに同じってなったら親戚かなとか思うよね。しかも誕生日が同じとかなると、そう疑うしかないのもわかる。いや、まあ同じクラスの人はさすがにもうわかっているとは思うけど。総悟は私とトシが双子だろうがそうでなかろうが、私のことをよくは思ってくれないだろう。だって、こんなに一緒なとこが溢れてる。んで、私たちなんでか仲も悪くないし。

「別に気にするこたねぇだろうが。俺とお前は血が繋がってるってわけでもねぇんだしよォ」
「いやでもさ、生理的に受け付けない人っているよ?そんでその人と同じだと同じく受け付けない、みたいな」
「お前さっきから何気にひどいこといってるって気付けな」

カリカリと、トシがシャープペンを走らせる音が聞こえる。あ、そういえば今日なにもしてないな、日直の仕事。いやあ、相棒が優秀だと楽ができていいよ。こういうとこ、トシと出席番号が前後でよかったかなって思う。だからって同じ苗字でなくてもいいじゃないか。だって、総悟が「死ね土方コノヤロー」とか言うと、それってつまり私のこととも取れるわけで、アレって結構痛いよ?好きな人に死ねだのコノヤローだの言われてさ。いや、実際わたしに言っているわけじゃないっていうのはよくわかってるんだけどね。まあ、総悟が私に意地悪するっていうのはよくあるけど、死ねだなんて言われたことないし。それに総悟は私のことを、名前で呼んでくれるし。そこだけは嬉しかったりするのです。

「おい、俺は部活行くぜ?」
「へいほーい、また明日ねー」
「お前今日なんもしてねーんだから、日誌くらい職員室とどけとけよ」
「げぇ!?ひっどい!部活行くついでにいってくれたっていいじゃん!」
「じゃーなー」

ちくしょう、はめられた。まあ、帰るときにぽいっと銀ちゃんの机の上おいてけばいっか。それやるだけで今日のサボり全部見逃してくれるってんなら、まあ優しいほうかもね。トシはなんだかんだいって優しいんだよね。総悟はなんでトシのこと嫌いなのかな。今度聞いてみようかな、うざいかな。総悟は本当に私のことどう思ってくれてんだろう。あの意地悪の数々は私のことが嫌いだからなのかな。私はあれが結構、うれしいんだけれども。いやこれ私がMとかじゃなくて、普通に好きな人にかまってもらえるのがうれしいんだよ。え、これって普通、だよね?まだ帰る気にもなれなくて机に伏せていたらぱらぱら雑誌のページが風でめくれて、それを手でとめたらちょうど星座占いのページだった。今週のおうし座は、と。

ガタン、前の席の椅子が引かれて、驚いて顔をあげた。

「かに座も見てくだせェよ」

びっくり、した。その人物にもだけど、その人がたった今していることにも、だ。その人、総悟はなぜだか私の前の席、つまりはトシの椅子を引いてその上に立ちだしたのだ。

「あ、あの、総悟くん?人の椅子使うときはせめて上靴脱いであげな?汚いよね」
「大丈夫でさァ、さっきトイレ掃除してたんでぴっかぴか」
「きったな!?」

総悟は膝を抱えるように座ったかと思うと、私が見ていた雑誌を同じようにのぞきこみだす。かに座、かに座、といっているのが可愛い。ていうか顔近いな。こんなふうに近くで顔見たことなかったな。総悟はやっぱりトシのことが嫌いで、だからこそこんな嫌がらせをしているのかと思うと、ぎゅうと胸が痛んだ。私のことも嫌いだったりしたら、どうしよう。トシのことが嫌いというわけじゃないけど、今は本当にあのばか!と言いたくなる。何をして総悟に嫌われたんですか。そのせいで私までも嫌われているという可能性が浮上。不安を募らせていると、さらりときれいな色をした髪が動いて総悟が顔を上げた。

「土方さんとは双子って噂は本当だったんですかィ?」
「いやいや、でたらめだよ。ぜんっぜん似てないし」
「にしちゃ、随分と仲良さそうに話してたじゃねぇか」
「そ、そうかな」
「ふうん」

興味なさそうにそういって、私の雑誌を勝手に自分のほうへ向けてぱらぱらとめくりだしてしまった。どっちでもかまわないって、それはどっちの意味ですか。思わずため息が漏れて、総悟が不審そうに首をかしげた。あ、おっと、しまった。

「え、あっと、総悟はさ、トシのこと嫌い、なの?」
「そりゃもう」

うんうん頷きながら言わなくても、いいんじゃないの?ここまでくるといっそトシがかわいそうになってくる。

「じゃあきっと、私も嫌われてんのかな。おんなじ苗字だし、誕生日も血液型まで一緒だし」

本人にこんなこと言ってどうする、わたし。総悟は素直だから、きっとうんといえばそうなんだし、ちがうといえばそうなんだろう。答えが怖くて総悟の目を見れずにきょどきょどと視線をさまよわせてしまうと、総悟は大げさなくらい大きなため息をついて頬杖ついたりしている。なにそのあきれた顔!憎たらしい!

「同じ苗字で同じ誕生日で同じ血液型だろうが、同一人物ってわけじゃねぇだろィ」
「そ、そうだけど、トシのこと嫌いな総悟はあんまりよく思ってないのかなって」
「まあ、よく思ってないってのは確かでィ」

うわ、うわこいつ、本人を目の前にして拒絶発言かよ。うわ、うわあ、今のはずしりときた。痛いよ、これなかなか痛い。好きな人に拒絶されるの、痛い。

「おんなじ苗字で、なんだか夫婦みたいじゃねぇかィ」
「…は?」
「好きな女と嫌いな男がそんなんで、しかも仲が良くて、よく思えねぇのは当たり前でさァ」
「お?お、え?」
「そんなに気になるってんなら、一個あいつと違うとこを教えてやりましょうかィ?」
「え、あの、総悟、わたし意味がよく」

「あいつは男で、は女ってとこ」

総悟、待って、わたしついていけてない。私が口をぱくぱくさせながら総悟のほうを指さすと、にやっと笑って私を魅了する。こんなときまで夢中なんだから、恋ってこわい。

「重要なのはあいつと同じところより、あいつと違うところでさァ」







ドッペルゲンガーの微笑み // 20080331