「あ!さんジャストタイミングです!このプリントを教室へ運んでおいてほしいんですが」
「え、あの、私ここに用事があって」
「はひ!あと2分で始業のチャイム鳴っちゃいますよ!?急いでくださいね!」
「ああああああみ三浦先生えええ!」



お昼休みになって職員室へ行こうとしたら途中で山本先生に話しかけられてやっと抜け出せたと思ったら獄寺先生に課題提出がまだなこと を指摘されてしまって来週までに出さないと倍の課題お前にだけ出すぞとか言われてすみません来週必ず出しますって言っていたらさっき まで話していた山本先生まで加わってきて、おいおい課題なんかじゃなくて個人授業にしろよ放課後の課外授業だぜちょっとエロくねみた いなノリでいってきたら獄寺先生が怒っててめえ喧嘩うってんのかー!みたいなテンションで、とにかく時間を食いました!職員室へ 行ったらもうすでに昼休み終わる5分前で、だけどどうしても雲雀先生とお話がしたくて、でも恐くて、とにかく雲雀先生を探したら自分の デスクで何か書いていてそばによっていこうとしたら三浦先生に腕をつかまれてしまって、とっても可愛い笑顔でそんなことを言われて しまって、なんていうか、今はあなたの顔みたくなかったですそんなに可愛くてきれいなお顔を!



そして、なんだかんだいって雲雀先生に話しかけるよりもプリントを運ぶほうを優先させている私。まあ、授業サボったりしたらそれこそ 雲雀先生に怒られそうなんだけど、それでも、なんていうか、ちょっとの時間でもよかったから、一言がほしかった。否定してほしかっ た。否定でなくて、肯定でもいい。なんでもいい、言葉がほしかった。今はこの距離がもどかしい。先生、話をしましょう。私たちはあま りに話をしなさすぎています。恋人でもないただの生徒とそんな、話なんて必要ないのかもしれないけど、私が勘違いしていたことは確か で、言葉がほしいです。雲雀先生と話す私の第一声は決まっている。三浦先生とお付き合いされているんですか。肯定でも、否定でも、嘘 でも、なんでもいい。雲雀先生から逃げたいくせに、向き合いたい。裏腹なこの気持ちを、感情を、わけのわからないもの全部飲み込んで しまいたい。だから、一刻も早く少しでもすっきりさせようと思って職員室へ行ったのに、中途半端に出てきてしまってよけいもやもや してしまう。行くんじゃなかったかな。姿なんて見なければよかった。後姿しか見ていないくせに、好きって気持ちがあふれだす。



、どこいってたの?」
「しょくいんしつうう」
「なにしに」
「もう、わかんない」



友達がびっくりした顔してるなあって思ったら、私は泣きそうな顔をしているみたいで、目の前がぼんやりかすんだ。プリントがずっしり 重い。たいした量ないくせに、なんでこんなに重いんだよ。私そういえば今年の体力テストで握力さがってたから、そのせいかな。鍛え なくちゃかなあ。でも、握力ってどうやったらつくんだろうか。とりあえずプリントを教卓まで運ばなくちゃ。いつまでも教室の入り口の とこ突っ立っててもいけないし。そう思って踏み出したら、ころころころってシャープペンが転がってくるのが見えて、このまま足を おろしたら踏んでしまうって思って急いでよけたらそのままバランスを崩して前に倒れてしまった。い、痛い、あご打った。プリントがば さーって床に散らばる。あ、あーやってしまった!



「おーいい眺め、パンツ丸見えだぜ?
「うう、山本先生ぇ…」
「よし!今日は保健の実技の授業でもするか!」



床に座り込んでプリントをかき集めていたら後ろから声がして、振り返ったら山本先生が扉のとこに寄りかかってこっちを見下ろしていた。 ん、パンツ?後ろのほうのスカート見たら見事にめくれて水色と白のストライプのパンツが丸見えになっていた。な、なんてことだ! 急いでスカートを直していると山本先生が残りのプリントを全部拾い上げてくれた。山本先生はちなみに、体育と保健の先生です。体育は 普段は男子しか教えていないけど、保健は男女合同で山本先生に教えてもらってます。山本先生は授業中に笑いを織り交ぜてくれたりする ので生徒からたいへん人気があります。なんていうか、先生というより生徒みたいな先生、です。



「よーし席つけー今日は先生ビデオもってきたから、ビデオ鑑賞なー」



それからは、とにかく騒がしかったことだけは覚えてる。山本先生がビデオを再生したらなぜかエッチなビデオで、男女の雰囲気がちょっと おかしくなったことと、山本先生が明らかにあせった顔で「わりい間違えた!」っていったこと、なんとなく覚えてる。先生はどうやった ら教育ビデオとエッチなビデオを間違えてもってきたりするんだろうと不思議になった。不思議になった覚えはあるけど、なんかあんまり 思い出せないのはそれからの授業だってあんまり聞いていなかったからだろうか。授業を聞いていなかったイコール何か考えていたという わけではなく、何にも考えられなくて、だからといって眠れもしなくて、ただぼんやりと時間が過ぎていくのを待っていた。待って、何が 起こるのかもわからないんだけど。とりあえず、どうしようかな。授業が終わって、放課後になったら雲雀先生に今度こそ会いに行こうと 思っていたのに、一度出鼻をくじかれてしまったせいか、なんとなくいきなくないような。だって、マイナスな方向にしか考えられない。 先生に、言ってほしくない。こわい。肯定しないで。私を否定、しないで。



気付いたら、目の前には顔があった。顔、人の顔。というか、山本先生の顔。私はこんなにも近くで人の顔を見るのは、きっと数度目だ。 雲雀先生しか、こんなに近くで人の顔を見たことがない。じゃなくて、え、うおお!?ち、近い、近いよ先生!山本先生のお顔が私の貧相 な顔ととても近くて、私はどうしてこんなに近くに顔があるっていうのに今まで気付かなかったんだろうとなんだかもう頭が爆発しそうに なった。近い!とにかく近い!



「ひっ…、あ、あの、なんでしょう」
ー、ちゃんとビデオ見てたか?」
「見てましたよーエッチなビデオが再生されたときの先生のびっくりした顔も、教育ビデオの排卵の様子も、ちゃんと」
「おっ、えらい。だけど元気、ねえよな。どうした?女子の日か?」
「先生、それ普通女の子に聞いたら怒られますよ」
は女の子じゃねーの?」
「私はあれです、寛大なのです」
「寛大、ねえ」



やっと山本先生の顔が離れていった。寂しそうに笑った顔もかっこいいなあ。先生は本気で心配してくれてるみたいだった。いつの間にか 授業は終わっていたみたいで、先生は私の頭をわしゃわしゃ撫でて教室を出て行った。くしゃくしゃになった頭を直していたら、おでこに 手がふれてびりびり痛んだ。四時間目に机でぶつけたところがちょっとぽっこりしていた。たんこぶ、かな。久しぶりにできた。たんこぶ ができちゃうくらいに強く頭を打ったんだろうか。確かに痛かったけど、それ以上に心が痛かった。今は、どうだろう。痛い?よくわから ない。痛すぎて麻痺しちゃったのかな。それとも、もう、痛くないのかな。



六時間目が終わって、ホームルームが終わって、今日は掃除当番がないことにがっかりした。掃除当番がなくてがっかりするなんてはじめ てだ。いつもなら喜ぶはずなのに、変なの。まだまよっているからかな、職員室へ行くかどうか。行ったら、傷つくよね、確実に。だって もう、悟ってしまった。先生と生徒の恋なんて、やっぱり漫画の世界だけの話だったんだよ。現実にはうまくいかない。私の勝手な空回り が先生に迷惑をかけてしまう。それは、だめだろう。よし決めた、職員室へは行かない。あえて傷つきにいくこともないだろう。ひっそり と、私がこの想いを隠せばそれで終わる。簡単なことだ。



職員室へ行かない。掃除当番でもない。もう学校に用はない。だったら、さっさと帰ればいいのに、なぜか私は教室にいる。掃除当番の人 たちが掃除をしているあいだ、邪魔しないようにすみっこで床をながめていた。掃除が終わってから、自分の席に座って机をながめてみる。 つまらない。何をやってるんだろうなあ。早く帰ればいいのに、こんなところで。ああ、でも、私って恥ずかしいやつだよなあ。お昼休み に雲雀先生に会わなくてよかった。きっと泣いてぼろぼろになってしまう。授業だって受けられなくなっていたかも。そんなの先生を困ら せるだけで、ただの迷惑な生徒になるだけで。ああ、よかった。山本先生や獄寺先生や、そして、三浦先生にとめられてよかった。私は 雲雀先生を困らせて、生徒としての印象を悪くすることなく、想いを隠すことができるんだから。つらい、なあ。先生が私に先生を好きだ と確信させてくれたのに、なんだか、逃げられてしまったみたいだ。裏切られてしまったみたいに胸が苦しい。でもこんなの裏切りでも なんでもない。私のただの被害妄想。だから、隠さなきゃ、早く。明日からはいつもの私に戻らなきゃ。誰にも心配されないように元気で、 明るくて、普通の。普通ってなんだろう。普通とか、いつものとか、もう、わかんないよ。



、まだ残っていたのか」
「せ、んせ」
「おいで、



傷つきたくないというくせに、呼ばれればすぐに、体が動く。





だって、こわい




「ひ、雲雀先生、あの、どうしてここに」
「ある教師に、が元気ないって言われてね」


20070511(終わらせるつもりが妙に長くなってしまいました!)