「あんた、狂ってるわ」 「知ってるよ」 「たった一人の女に言われて、あんなにも簡単に、壊してしまうなんて」 「君が望んだんじゃないか。収容所を壊すことを」 「そんなに簡単に崩してしまえるものなら、どうしてつくったのよ」 「気分さ」 「私の大嫌いな言葉ね」 「その、気分で君の家族は救われたっていうのにかい?」 ひどいことを言う。 「どうしたいの?あなた」 「君の話はいつも脈絡がなくて困るよ」 「この国を、どうしたいの」 「こわしたい」 「おかしな人ね。自分の故郷を、壊したいと思うなんて」 「気分さ」 「あなたなんか大嫌いよ」 「知っている」 そう言いながら、あなたは私を抱くんだ。 「こわすの、やめようか」 「どうして」 「君との贅沢を、もう少し味わってみたくなった」 「気分で?」 「そう」 「小さな子供みたいね」 「この国は、そんな子供みたいな大人に操られているのさ。ひどく滑稽だとは思わないかい?」 「ひどく馬鹿げていると思うわ」 「純粋すぎる、破壊願望が世界を動かしているんだ」 「こんな残酷な世界、やっぱり地獄なのかもしれないわね」 「地獄に住む鬼も、楽しいものだ」 「楽しいのはあなただけじゃない。町を見てみなさいよ。飢餓で苦しむ人たちがどれだけいるっていうの?無実の罪で収容される人たちが どれだけいるっていうの?そんな人たちは、幸せかしら?こんな世界を生きて、楽しいかしら?」 「僕の知ったことか」 「あなたは支配者にぴったりね。残忍で冷酷で、純粋すぎるきれいな心を持ってる。きれいすぎるほどの破壊願望。世界中を支配してみせ たら?」 「それもおもしろいかもしれないな」 「そのときは、私が殺してあげる」 「それも、おもしろそうだ」 「おかしな人」 「まったくだ」 20070620 |