助手席のシートに体を沈めて、シートベルトを締めて、横目で雲雀先生を見たら私の気付いたのか一度目があって、でもすぐにそらされ た。さっきから、一言も話してないな。私の頭はぼんやりしてしまって、話題をさがすもみつからない。外は真っ暗で、時計を見たら7時 なんてとっくに過ぎて、8時に近かった。学校帰りにこんなに遅くなるの、はじめてじゃないかな。携帯がまたチカチカしているのに 気付いて開いたら、お母さんからまたメールが着ていた。さっき返さなかったせいか、心配しているんだろうか。今帰り道、とだけ送って 携帯を閉じた。あんなことがあっても、まだ、足りないような気がしてしまうのは何でだろう。恥ずかしいやつめ!職員室に入れないとい うのはなかなか大きいもので、会う時間がかなり削られてしまっている。前からそんなにたくさん会えていたわけじゃないけど、最近は私 がなんだかおかしくて、雲雀先生が恋しくて仕方がなくなることが、多すぎて。どうにかならないかな。そんなのわがままかな。繋がりが ほしいと思うのは。手に力をこめたら、握っていた携帯に気付いた。こ、これか!



「雲雀先生!」
「なに?」
「あの、よ、よければなんですけど」
「うん」
「メールアドレスか、電話番号、教えていただけません、か!」
「どっちかと言わず、両方聞きなよ」



信号が赤で、車がゆっくり停車すると雲雀先生はポケットから自分の携帯を取り出した。雲雀先生の携帯、はじめてみたかも。真っ黒で 薄いその携帯はあまりに雲雀先生らしくて、少しだけ笑えた。きっとうれしかったんだ。拒否されなかったことが。単純だなあ、私。雲雀 先生の携帯を手渡されて、車は発進した。どうしていいのかわからずに、持たされた黒くて軽い携帯と雲雀先生を見比べていると、雲雀 先生は一瞬こっちを横目で見て、クスって笑った。



「運転中だから、勝手にアドレスと番号入力しておいて。の」
「え、あ、はい!」



そうだよね!運転中に携帯片手にって、危ないもんね。携帯を開いても、さっそくどうしていいのかわからなくなった。機種がちがうと こうもボタンの配置とか、ちがうものなんだ。どこをどう押せば何が開くのかがぜんぜんわからなくて、下手に変なところ押して見ちゃい けないものがでてきたらどうしようと思うと、開いたまま固まることしかできなかった。う、ど、どうしよう。車がまた停止して、前を 見たらまた赤信号だった。今のうちに操作方法を聞こうと雲雀先生のほうを向こうとしたら、私の手の上に手が乗って、驚いていたら私の 指の上に指が乗って、ボタンを押される。う、わ、なんだ!?



「ここ、これがアドレス帳。こうやって新規作成。あとはわかるでしょう?」



携帯の画面なんて見ずに雲雀先生の顔ばっかり見ていたら、また少し笑われてキスをされた。ちゅって音がしたかと思ったら、雲雀先生の 手が離れていってまたハンドルを握った。な、んですか。もう、驚くことばっかりで、もう、何なんだ。て、固まってばっかりいたら家に ついちゃう!あわてて携帯を見直して、自分のアドレスとかを入力した。な、なんか、雲雀先生と付き合うのは、命がけだ。だって私の 心臓はいつもばくばくで、こんなに早くなっていいのか!というくらいばくばくで、いつか止まってしまうんじゃないかと不安になる。



私の家を教えたことなんてないはずなのに、雲雀先生は一度だって私に道を聞くことなく、車を進めた。うちの前に車を停めると、私の手 から自分の携帯をひったくって確認して、うなずきながら閉じた。



「僕から連絡するよ」
「あ、はい。ありがとうございました、送っていただいて」
「いいえ。勉強ちゃんとするんだよ」
「あ、は、はい」
、テスト終わったら、またうちおいで」
「い、行く!」



私が大きな声でそういったせいか、雲雀先生は驚いた顔を見せたあとに微笑んだ。人に見られちゃいけないってことから、外で遊べるのは 卒業してからかな、と思ってあきらめていたから、学校以外で会えるというのはなかなか、うれしい。頭を優しく撫でられて、また明日と 言われた。あ、ちょっと期待していたんだけど、な。そんな無礼な頭を振って考えを飛ばしてから、ドアを開けた。キスしてほしかったと か、うちの前で何を考えているんだ私め!雲雀先生と付き合い始めてから、なんだか考えが、破廉恥になってきた気がする。恥ずかしい。





やっぱり、うれしい




「我慢しようと思ったけど、やっぱりキスしていい?」
「き、聞かないでくださいよ!」


20070704(雲雀先生が破廉恥だからいけないんだ!)