バイトの帰り道だった。今日はお客さんも少ないし、早めに上がっていいよと言ってくれた店長に感謝しつつ、上機嫌だった私は携帯を
取り出して隼人に終わったよメールを送ろうとしていたときだった。ぶるぶると震えだした携帯の画面を見ると、中学のときの友達の名前
が表示されていて、なんだろうと首をかしげた。その内容はというと。 「隼人!同窓会だって!行くよね!」 「うお!?おま、なんでここに!今日はバイトって」 「店長が30分も早めに上がらせてくれたの!」 メールの内容は、同窓会のお知らせだった。それを見たとたんわくわくしだしてしまって、隼人へのメールも忘れてダッシュで隼人の家ま で押しかけた。隼人は私が入ってくると見て取れるほどに動揺していておもしろかった。目をまん丸にしてしまっている隼人にかけよって もう一度行くよね!と聞くと、何の話だというような不思議そうな顔をしている。同窓会だよと言おうとしたら、テレビのほうから声がし て、しかもその声というのがバラエティでもドラマでも聞けないようなあられもない声だったものだから、私は思わず固まってしまって、 ゆっくりとテレビを振り返ると、そこには声と同じようにあられもない姿をしているお姉さんが、みえ、て。 「ふ、ふぎゃああ!は、は、隼人あんたなになに見てんだー!」 「おま、いいインターホン押しやがれってんだあほー!」 「わわわたしというものがありながらエロビデオなんて…!」 「ちがっ、こ、これはだな山本の野郎がだな!」 「私じゃ満足できないっていうんですかひどいよ隼人のばかあ!」 「だれがそんなこと言ったよ!?」 (話が変な方向に行ってしまったのでとりあえず落ち着きましょう) 「…で、どこへ行くって?」 「あ、う、えとですね、どど同窓会のお知らせが」 「同窓会?」 「うん、中学のときの3-Aメンバーには全員に一斉送信されてるみたい、なんだけど」 隼人はきょろきょろとあたりを見回して、それからテーブルの上に置かれた携帯を取りに行った。携帯を開くと、着てねえぞと短く言って こっちに携帯の画面を向けてくる。新着メールは入ってないみたいだ。こうやって何を隠す様子もなく携帯を見せてくれるところは、 うれしいかも。浮気なんてしてないぞーと言われたみたいで、ひそかにほっとしながら隼人の携帯を受け取ってセンターに問い合わせてみ たりしても、メールは一件も入ってこない。本当に着てない。なんでだろう。はっ、もしかして隼人だけ送られてないとかじゃないよね! これってつまりいじめ…!隼人、かわいそうに。同窓会のことなんていわなきゃよかったかもしれない。今頃隼人は「なんで俺だけ着てな いんだよ…ちぇっ」とか思っているにちがいない。かわいそうに。よし隼人がいかないなら私も行かないぞ!その日は二人で遊ぼうね、 隼人! 「あーきっとあれだ」 「なに?」 「俺中学のとき、クラスのやつにアド教えたことねえかも」 「え!なにそれ友達いなかったの!?」 「てめえ喧嘩売ってんのか!」 な、なんだ、いじめとかじゃないのか。ちょっと安心した。でも中学のとき誰にもメールアドレス教えてないって、そんな寂しい。もしか して隼人は中学のときまだ携帯持ってなかったとか?いやいや、そんなはずないよね。中学のとき教室で携帯いじってる隼人見たことある し。私が隼人にアド教えてもらったのいつだったっけな。高校入ってからだっけ。付き合いだしてからだから、うんそうだよね。あーじゃ あ同窓会のお知らせもこないはずだよ。でもいじめじゃないってことは、隼人は行っちゃいけないってことはないんだよね! 「じゃあやっぱり一緒に行こうよ!」 「めんどー」 「えーなんでー久しぶりにみんなに会いたくない?」 「別に、そんなにクラスに思い入れなかったし」 「隼人!それじゃあなんだかいじめられてた子みたいだよ!」 「だーもう!うるせえな一人で行ってこいよ」 隼人はまったく行く気がないようです。同窓会、楽しみじゃないのかな。私は楽しみなのにな。中学のときの隼人ってどんな感じだった っけかな。同じクラスになったのは中3のときがはじめてで、そのときはあんまりしゃべったことなかったんだよね。隼人っていつもぴりぴ りして怒っているようなイメージあったからなあ。高校に入って同じクラスになって、同じ委員になったことでやっと話すようになったく らいだしなあ。あ、そういえば隼人って私が中3のとき同じクラスだったって知ったのも高校生になって私が言ってからだよね。ひどいよ 元クラスメイトも覚えていてくれてないなんて!そう考えると、隼人ってあんまりクラスに関心もってなかったんだよね。やっぱりそれは ちょっと寂しい気がするな。やっぱり、行くべきだと思う! 「隼人、行こうよー」 「しつけーな勝手に行けよ俺はめんどい」 「いいのかな?同窓会で久しぶりの再会でドキッとかなっちゃって、浮気しちゃうかもよー」 「すんの?」 「え」 寝転がってテレビを見ていた隼人が急に振り返って、真剣な顔をするもんだから、私はドキッとしてしまった。伸びてきた隼人の手は私の 後頭部をがっしりつかんで、顔を近づけてくる。優しいキスを何度かされて、何度目かで舌が入り込んできた。いつの間にか起き上がった 隼人に腰を引かれて、思わずされるがままになってしまう。頭がぼんやりしてきて、何にも考えられなくなる。だめだ、飛ばないで。 同窓会のことは飛ばさないように、必死で意識を保っている。ゆっくりと顔が離されて、目を開けると隼人が首をかしげた。 「浮気、すんのかよ」 「し、ないです」 無意識にしない発言をしてしまった!こわい、なんておそろしい獄寺マジック!あんなことされて、浮気しちゃうぞなんてもう言えない よ。いや最初から冗談だったんだけど、隼人が少しでも動揺したらおもしろいなと思ってしたことが、こんな結果になるとは。なんだか 負けた気分になって、悔しい。私がどうしようもなく隼人に惚れているって、隼人は知っているんだ。悔しくて、恥ずかしい。隼人もおん なじくらい私のこと好きになればいいのに。おんなじくらい、は難しいかな。私の隼人を好きすぎる度ってすごいから。もう、すごいか ら。隼人のためなら100万円くらいささげたっていいくらいに好きだから。隼人の言うことならなんでもしちゃえるくらい好きだから。 「、お前今日泊まってけよ」 「ちょちょちょ!は、隼人くん待って、あの、どど同窓会のことを、ですね」 「もう黙れ」 隼人の言うことならなんでもしちゃえるくらい好き、というわけで、隼人に黙れと言われたらもう何も言えないわけで。同窓会のことは とりあえず、またあとでということ、で。 守りたい君の笑顔 20070805 |