こんにちは、こちらです!ただいま電車に揺られて目的地まで向かっております。隣でだるそうにため息をついているマイダーリンこ と獄寺隼人くんの護送に成功しておりますことを報告いたします!同窓会に行こう行こうと誘っても、一度だって首を縦に振ってくれなか った彼ですが、当日になってもその姿勢が変わることはありませんでした。もう半ば諦めかけて、沢田と山本も来るかもよーと言ってみた ところ、これが意外にも成功いたしました!十代目がいらっしゃるなら右腕の俺も行かなきゃとかわけのわからないことを言いながら準備 をしだしてくれました。なんかこれってある意味沢田に負けたような気もするけど、まあ細かいことは気にしない!隼人が同窓会に顔を 出したらみんなびっくりだろうな。いや、そうでもないかな?


電車をおりて携帯をみたら友達からまだ来ないの?というメールが入っていて、私は急いでもうつくよ!という返事をかえした。隼人説得 のために時間を費やしすぎて、始まる時間をとっくに過ぎてしまっている。隼人に急ぐということを伝えても、一向に歩くスピードを 変えようとはしない。なんでそんなに面倒そうなんだよ!会場こと、焼肉将軍というお店についたのはそれから間もなくして、だ。きょろ きょろとあたりを見回していると、奥の座敷で見覚えのあるメンバーが騒いでいるのが見えて、隼人の手を引いて進んだ。


「すいまっせん!遅れました!」
「おーい遅いぞー」
「わあ久しぶりー!」


次々に声をかけられていたものの、私の後ろに立つ人を見て、誰もが目を丸くした。なぜここに。そういう顔だ。いや、わからなくもない よ。隼人ってこういうのくるイメージないもんね。私が頑張ったおかげなんだぞみんな!


「獄寺!お前もきたのな!」


山本の声でみんなが堰を切ったみたいに話し出す。まだ乗り気じゃなさそうな隼人だったけど、沢田をみつけたとたん目を輝かせてそっち へ行ってしまった。なんということだ!彼女ほっぽりだして沢田のとこって、そんな。隼人ってもしかして沢田のこと好きなんじゃないの か。私はどこへ座ろうかときょろきょろしていると、友達が手招きして隣を空けてくれた。懐かしいメンバーがテーブルを囲っているのが なんだか感動的で、昔に戻ったみたいだと自然に笑顔になった。


お前変わってねーなあ!」
「ねえねえ!佐藤くん坊主なんだよ笑えない?」
「おい坊主っていうなー!」
「あ、なに飲む?酒もあるぜー」


とにかくテンションが高くて、おんなじようにテンションが上がりまくる。なんて懐かしい!みんなちょっと大人っぽくなったかな?男の 子は体がしっかりしてきたみたいだし、女の子はみんなお化粧していて、おもしろい。でもどれだけ見た目が変わっても、中身が変わった 感じしないのがまた嬉しくて。隼人のほうを見たら、ちょうど目があって、ブイサインをしてみたらふいと目をそらされてしまった。あれ なんだか照れてますか獄寺くん。隣で名前を呼ぶ声がして振り返ると、斉藤くんがこっちにグラスを差し出していて、私はあわててそれを 受け取った。斉藤くん、変わらないな!いや、変わった?あいかわらずかっこいい。実は中学のとき好きだったんだよね、斉藤くん。なん だかこんなところも懐かしくて、嬉しくなる。


「斉藤くん久しぶりー!」
お前全然変わってねえよな!」
「それみんなに言われるんですけど!」
「高校どう?彼氏とかできた?」
「かれしーは、うんまあ、できた、かな」
「まじで!?」


なんだか照れくさくて、俯いて答えたら周りにいた何人かが声を合わせてまじで、なんて言い出した。う、なんだよそんな意外かよ!私だ って彼氏の一人や二人できますよ!いや、一人だけどさ。かっこいい彼氏ができましたとも。周りからはどんな人?とか年上?とか質問が すごいことになってます。うーん、獄寺隼人くんですなんて言えない、かな。だって隼人そういうことで騒がれるの嫌いそうだし。いやで もみんな私と隼人が一緒にきた時点でそこ疑わないものですか。まあ、偶然会ったというのが妥当な考えでしょうかね。私と隼人って確か に釣り合わないけどさ。なんだかやっぱりちょっと悔しいかも。適当に返事をしつつ、懐かしい昔の話に花を咲かせたりしつつ、同窓会は 滞りなく進んだ。そして恒例の王様ゲームやらが始まる気配になって、私はそそくさと隼人の隣に移動した。ここであえて言っておくけど 隼人の隣に移動したのは隼人の近くにいたかったからとかいう乙女チックなものでなく、ただ単に獄寺の周りが王様ゲームに参加しなさそ うな人たちが集まっていたからだ。


「隼人って感じ変わったよねー」


隼人、隼人のことを名前で呼ぶ私以外の女の子がいることに驚いていると、頬杖ついて笑っている高橋さんが目に入った。高橋さんは 委員長で、しっかりしてて美人で、私が中学のときひそかにあこがれていた人だった。知らなかった、高橋さんって隼人と仲が良かったの か。中学のときの二人を思い出そうにも、二人が一緒にいるところをみた記憶なんてない。果たして元クラスメイトのうち何人が高橋さん のように隼人の名前を覚えているのか、不思議なものだ。疑問に思っていると、一人の男子が高橋さんに私の思っていることを聞いてくれ た。


「高橋って獄寺のこと名前で呼んでたっけ」
「あー一応付き合ってたときあったしね」


高橋さんの周りが一瞬騒然となった。私も、びっくりした。隼人って私以前に付き合ってる人いたこと、あったんだ。知らなかった。横目 で隼人のほうをみると、なんだかちょっと嫌そうな顔してた。ああ、そうだよね。こうやって騒がれるのあんまり好きじゃないもんね。 隼人に元カノがいたことに少し傷つきつつ、顔に出さないようにしていると、高橋さんが自嘲気味に笑っていた。


「といっても、なーんにもしないですぐに別れたけどね」


その言葉に安心なんだかよくわからないものを感じて、私は周りに混じってへえとつぶやいてみた。高橋さんほどの美人で優しい人をふる なんて、隼人はもったいないことするなあ。その点、私は色んなことして、る。あれ、言い方が変だぞちょっと恥ずかしい。隼人は高橋さ んより私を選んでくれたということ、だろうか。あれ、これって自意識過剰?うわよけい恥ずかしい。たぶん赤いであろう顔を隠すために うつむいていると、高橋さんはもう一度さっきと同じ言葉を繰り返した。やっぱり隼人変わったよって。そうかな?中学のときの隼人がど んなだったか、いまいち思い出せないけど、私がはじめて隼人としゃべったときから今まで何にも変わってないように感じるんだけどな。 もう一度横目で隼人をみたら、隼人も横目に高橋さんのほうを見ていた。


「変わったって、どこがだよ」
「うまく言えないけどさ。私はあのときの隼人のほうが好きだなあ」


何気ない、一言だったのに。ぎゅんと胸をつかまれたみたいに苦しくなった。変えたのは、もしかして私だろうか。隼人をいけないふうに 変えてしまったのは私だろうか。私が隼人をそそのかして、しまったんだろうか。そう言われているようで、苦しかった。高橋さんは私と 隼人が付き合ってることなんて知らないだろうし、そんなつもりで言ったわけじゃないことはわかってる。でも、なんだか悲しかった。 私の好きだった隼人はどこへーと言われているみたいで。急に謝りたくなって、うつむいたまま顔を上げられなくなってしまった。隼人は どう思ってるんだろうか。私と付き合って、後悔してない?


「おい、どうした?気分でも悪いのか」


私の顔をのぞきこむ隼人の顔が、心配そうで、それを素直に喜べないのはなんでだろう。私が何も答えずにいると、隼人は私の腕をつかん で無理やり立ち上がらされた。びびっくりした、力強いですね獄寺くん。


「こいつ調子悪いみたいだから、先抜ける」


いきなり立ち上がった私たちに驚く元クラスメイトたち。そりゃそうだ。中学のときの私と隼人といったら、接点なんてまるでない二人 だったんだから。あの獄寺が親切心だけで一人の女子を介抱する姿なんて思い浮かばないだろう。私だって想像できないんだから。だれか が独り言みたいにつぶやいた。獄寺、なんで。独り言だったのか、誰かに告げた言葉だったのか、隼人自身に向けた言葉だったのか、それ は本人にしかわからない。私が靴を履いていると、隼人が振り返ってこう言った。


「俺の女だから」


らしくない、らしくないよ隼人。そんなこと言う人じゃないでしょう。私が驚いて口をぽかんと開けたまま固まっていると、さっさと靴を 履いた隼人が私の腕をぐんと引いてどんどん前を歩き出す。わかった、これは照れ隠しだ。さっき言った言葉が思った以上に恥ずかしくて 照れているんだこのシャイボーイ!外へ出て、隼人は一度こちらを振り返って腕をはなした。何か言われるものだと思って待ち受けている と、隼人は予想に反して何も言わずにまた前を向いて歩いていってしまう。なんだ、どうした。大丈夫か、とか声をかけられるものかと 思っていたのに。一応私は調子が悪いということでここにいるのではなかっただろうか。黙って後ろをついていると、だんだんさっきのこ とを思い出してきた。高橋さんの、言葉。


ー」
「なに」
「高橋のことか?」
「なにが?」
「元気なくした理由」
「え、と」
「隠してたわけじゃねえんだけど、よ」


あーなるほど、隼人は勘違いしているらしい。私が、隼人と高橋さんが付き合っていることを知らなかったのを傷ついているんだと思って いるらしい。確かにそれも少し傷ついたんですけど、うーんと。でも何にもしてないってことに、安心したというか。でも隼人が一時でも 別の女の子のことを好きだと思っていたのなら、私は、ショックだ。


「隼人は、変わってよかったと思う?」
「変わったとか自分じゃよくわかんねえよ。けど」


土手だった。夜のこのへんは、とても静かで誰も通らない。静かなこの場所で、じゃりじゃり言わせながら隼人が振り返った。けど、の 続きを待って黙って見上げていると、隼人は少し不安そうな顔をした。中学のときと比べて、少し大人っぽくなった顔が色っぽくて、こう いうところは少し変わっただろうか。でも感じが変わったとかは、よくわかんないや。


「お前がどう思うか、だろ」


どくり、心臓が跳ねた。


「今の隼人が好き、です」
「んじゃ、いいじゃねえか」


乱暴に手をとられて指を絡められた。人前で手を繋ぐの、嫌いなくせに。まあここは人前じゃないけどさ。照れたみたいに顔をそらす隼人 が、可愛かった。どこが変わったとかわからないけど、今の隼人が私は好きなんだから、それでいいか。






終わらない僕の想い


20070805