「おや?どうしたんですか、浮かない顔をして」
「あ、骸さん!最近雲雀さんお疲れ気味で、何かしてあげたいんですが私にできることって少なくて…」
「クフフ、それなら簡単ですよ!」
「えっ、骸さん何かいい考えでもあるんですか?教えてください!」
「君がメイド服を着て雲雀恭弥くんの帰宅を迎えてあげればいいんですよ!」
「ええ!メイド服ですか!?えっと、それはかなり恥ずかしいですよ…!」
「クフフ、は雲雀恭弥くんの疲れを癒してあげたいのでしょう?なら恥など捨てなさい!」
「そ、そうですよね!雲雀さんの、ためですものね!」
「クフフは可愛いですね。雲雀恭弥のためというのがムカつきますが…」
「え?骸さんなにか言いました?よく聞こえなかっ」
「いいえなんでもありませんよ!メイド服を着るときは雲雀恭弥の前に、まず僕に見せてくださいね」
「うーん、でも、本当にメイド服ですか?恥ずかしいなあ…」
「おや、メイド服はお気に召しませんか?それではナース服はいかがですか?」
「え、えー!どっちも同じじゃないですか!?」
ばッ ちっがいますよ!ぜんっぜんちがいますよ!いいですか?メイド服というのはですね」
「む、骸さんなんだか顔がまじめで怖いですよー!?」
「あっ、裸エプロンもいいですよn」


「(また雲雀さんの苦情は俺のところに来るのかなあ)」




「あ、ボス!」
ちゃん、骸のセクハラは置いといて、最近雲雀さんに忙しい思いをさせてごめんね」
「いいえそんな!ボスに謝っていただくことは、何一つありません」
「今が大切な時期だといっても、雲雀さんを酷使してしまっていることについては本当に申し訳なく思ってはいるんだよ。ちゃんにも 寂しい思いをさせているだろうに、ごめんね。その仕事もやっと一段落ついてきたから、もう少ししたら雲雀さんを楽にさせてあげられる と思うんだ」
「ボス、あの、ありがとうございます。すみません、あの、ごめんなさい」

何よりもまず、申し訳なかった。ボスだってつらい立場であり、雲雀さんよりも大変な立場だというのに。最近とても大きな仕事をしてい るのは知っていた。仕事の大きさに伴って雲雀さんの疲労が増しているのも感じていた。だから心配で、何かしてすることがあればと思う のに私はあまりにも無力で、そんな自分を恥ずかしく思った。その結果が、これだ。ボスはお優しい、本当に。私なんかにまで気をかけて くださって。ボスだってお疲れだろうに。自分の無力さを感じつつ、でもやっぱり雲雀さんがもう少し楽になるだろうという言葉に浮かれ てしまうばかりだった。頭にやんわり乗せられた手のぬくもりを感じながら、ボスのお優しい顔を見上げた。

ちゃんにしかできないことは、君が思った以上にたくさんあるものだよ」

ボスはいつだって、お優しいのだ。















ある日、雲雀さんが朝いつもと同じように部屋を出て行ったのに、30分もしないうちに戻ってきて私はとても驚いた。雲雀さんもなぜか 驚いたような顔をしていて、不思議な顔をしながらぼんやりソファに腰掛けていた。えっと、どうすればいいのかな。私の今日の予定は 書庫の鍵でも借りて勉強でもしようかと思っていたんだけど、なんだかすっかり道を見失ってしまった。えっと、私はどうすれば?今日の 雲雀さんのお仕事は部屋でのデスクワークとでも言われたんだろうか。だけど雲雀さんの手には書類も何もなく、雲雀さんの様子もなんだ か不安定だ。何をしたらいいのかわからない、リストラされたお父さんのように。いや、リストラされたお父さんなんてたとえ方は雲雀さ んに失礼すぎる。雲雀さんはリストラなんてされるはずもないエリート幹部だし、お父さんなんて呼ぶには若くてかっこよすぎる!いや、 お父さんがかっこよくて何が悪いといわれたら返す言葉もないんですが。

雲雀さんがやっと思い出したように顔をあげて私のほうをじっと見る。まだ不思議そうな顔をしているのは、なんでだろう。というか、こ んな不思議そうな雲雀さんを見るのは久しぶりな気がするな。

「綱吉が」
「はい?」
「今日の仕事は、のそばでの言うことを聞くことだって」

こちらまできょとんとしてしまうような仕事内容に、思わずもう一度聞きなおしてしまいたくなった。今、なんと?ボスが、ボスがそんな ことを雲雀さんに言ったんですか。ふと、この間の会話がよみがえって、とたんにボスの優しい手のぬくもりを思い出した。ボス、ボス!

「こんなにうれしい仕事、ないけどね」

ふわっと笑った顔がきれいで、私は思わず見とれてしまった。そんなことを言われたら、私のほうがうれしくなっちゃうってこと知らない んですか。ただでさえ雲雀さんが今日一日わたしのそばにいてくれるということがうれしくてきゃあきゃあ言ってしまいたくなるっていう のに。雲雀さんがソファにもたれかかっていた体をちょっと起こして、私にやわらかく笑いかけてきてくれる。

「どこか、行きたいところある?最近はあまり構ってあげられなかったし、今日はどこか出かけようか」
「いいえ!今日はふたりでのんびり、お部屋で過ごしましょう!」

雲雀さんは部屋に戻ってきたとき以上に驚いた顔をして目を見開いた。

「君は欲がない」

困ったように微笑むその顔が、とてもきれいだった。






剥き出しの想い



20071022