ML戦記

003-”ドロー”








一夜明けた翌日、クラブハウスに椿の姿はあった。
海外のレベルの高さを実感しただけでなく、今の自分でも戦えることを知った椿にもう恐れは無い。その日のフリーキック練習では隅を狙う正確なコントロールを披露し、アンドレア・ピルロやカカ、クラレンス・セードルフなどといった一流選手を驚かせた。
だが、椿自身驚くべき選手を発見した。バイエルン・ミュンヘンの「ダズゲニー」アレックス・ランツァートだ。同い年とは思えない完成されたプレー、波に乗ると止められないドリブル、最高のコースに出されるスルーパス。チェコが生んだ天才とはこの男だ。

「どうしたんだツバ? 思いつめた顔なんてしやがって」

そういってきたのはゴール前の稲妻、「スーパーピッポ」フィリッポ・インザーギだ。新加入のロナウドのため出番が削られていたが、腐らず練習し続けるその姿はプレイヤーの見本と言えるだろう。
そしてそのインザーギが椿に話しかけてきたのだ。仮にも先輩である、無礼なことがあってはならない。

「ピッポさん。実は……」
「そうかそうか。それは大変だな」

椿が事情を話すまでもなく、バカにするかのように去って行った。だけど、椿にはどういう意味か分かっていた。その理由は合流初日に椿が目撃したピッポ(インザーギ)の得意のいたずらだ。話しかけつつも勝手に去っていくというものなのだが、どうしても憎めず気分がよくなってしまう。それがピッポのいたずらだ。
思わず椿も気分がほぐれた気がした。



そしていよいよ第三戦、日本の清水エスパルスとの一戦を迎えた。








メンバーが発表された。
ACミラン 2トップ
  ジラルディーノ  
椿一馬 カカ
セードルフ アンプロジーニ
  ピルロ  
ヤンクロフスキ ボネーラ
カラーゼ コスタクルタ
  ヂーダ  
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また先発メンバーだ、と椿は意気込んだ。インザーギが先発じゃないのが気がかりだったが、何でもジラルディーノのコンディションは最高らしい。なんとなく先発の理由が分かった。
だが主力温存と言う結果がどう出るか……それは謎のままだ。
そして試合が始まった。
まずはミランが攻撃する。カカ→椿→カカのワンツーのコンビネーションで突破を図るも清水のディフェンスに遮られる。更にボネーラ→ピルロ→ジラルディーノで決定的なチャンスを作り出すがこれは枠を捉えられない。思わずコウータ監督はグラウンドに叫んでいた。

「ジラ、ドンマイ」
「ピルロ、ナイスボールだったぜ。次は絶対に決めるからな」

しかし今度は逆に清水の決定機をクリアミスで作り出されるもヂーダが決死のファインセーブ。
続いてカウンターでジラルディーノがキャノンシュートを放つもポスト直撃。今度はコウータ監督、空を見上げる。

「何であれが入らないんだ!?」
「監督、運ですよ。運」
「ええい、うるさい!黙れ!!」

しかし後半に入っても得点は入らない。結局スコアレスドローで勝ち点1を得る。







コウータ監督は何も言わず、「次のレアルとの一戦に備えろ。終わったことは仕方ない。次が本当の勝負と思え」と告げた。
そして……椿は、苦悩した。
どうすればいいのか。何をすればいいのか。


考えている間に、あっという間に次節を迎えてしまった。




(つづけ)