「私って子供っぽい?」 ポッキーの箱に手を伸ばしながら、突然がそんなことを言った。彼女はソファに寝そべりながらファッション雑誌を読んでいて、アメリカはそのすぐ傍でテレビを見ている。そんな昼下がりの一時のことだった。小さな箱の中で高笑いをしているヒーローから視線を離し、彼は青く透き通った目を丸くして、彼女のほうを振り返った。 「いきなりどうしたんだい?」 アメリカは半身を重そうに起こす。そして、リモコンを手元にたぐり寄せて音量を下げた。二人だけの部屋には、が時折雑誌を捲る音が、先ほどより少しばかり大きく響くようになる。 「フランスさんに言われたんだよねえ、おまえはいつまでも子供だなぁって」 頬杖をつきながら、もう片方の手でポッキーを口に運ぶ彼女は、他人事を話しているかのように、気の抜けた声を発する。自分のほうから話しかけたくせに、その意識はほとんど雑誌へ向けられているようである。 およそ三年ほど前になるだろうか。とある会議で顔を合わせて以来、はフランスにとても懐いていた。フランスも、そんなを大層可愛がっていたので、ふたりはアメリカの知らないところで頻繁に食事の席を共にしているようだった。彼女はフランスに対し特別な想いを抱いてるわけではないようだけれど、それでもアメリカにとってひどく面白くないことに変わりはなかった。フランスと接しているときの彼女の華やいだ笑顔を、彼は、お気に入りのおもちゃが取り上げられてしまった時のような、ふてくされた顔でいつも眺めているのだった。妬いているの、と本人に笑いながら尋ねられたときには、頑なに否定をしたのだけれど。 「そりゃあフランシスさんからすれば私なんて、がきんちょ同然だろうけど。アメリカにもそう思われてるとしたら、さすがにまずいかもと思ったの」 「Oh!それは俺への遠回しな侮辱かい?」 さあどうでしょう?彼女はそう言って笑って、肩をすくめるアメリカの隣に座った。床についた互いの手と手が、あとほんのすこしで触れ合えるくらいに近く。ポッキーを齧る小気味良い音がすぐそばに聞こえる。 「…ついてる」 アメリカが少しだけ彼女のほうへ身体を向け、口元についたビスケットのくずを人差し指で拭ってやると、は気持ちよさそうに目を閉じた。猫のようにどこか気だるげで、自由気ままの寂しがり。周囲の他の国々の中では比較的若年であり、その若さの有り余った言動をたしなめられることの多いアメリカだったが、そんな彼ですら、彼女の自由奔放さには呆れ混じりのため息をつかずにはいられなかった。 (まったく!そんなことだから、君は――) そう言いかけたアメリカは、ふと、言葉に詰まる。 「アメリカ?」 不思議に思ったが首を傾げてアメリカの顔を覗き込み、その拍子に、指通りのよさそうな髪が一房、肩からはらりと流れ落ちた。 「…何でもないよ」 そうしてアメリカは苦笑して、手に取ったポッキーの最後の一本をくわえ、それきり黙りこむのだった。まさか、口やかましい兄の言葉を思い出して口を噤んだなどとは言えるまい。彼も、所詮は人のことを言えた身ではないのである。 打てば崩れよビスケット(110319) |