「メランコリアの尊厳死」

…さぁ…Te lucis ante…
…語ろう…
…メランコリアの尊厳死を…

かつてのカタストロフは真夜中
月が観る中で「貴方」を二人失った
溢れ出すパトスとラクリマ
求める腕が描くアルクス
虚無と喪失を掴む指先は冬の日に凍えて
忘却から蘇り 呼びかけるトラウマは響いて
哀しみの涙は辛く苦しいが 何よりも温かかった
そう「二人目の貴方」よりも ずっと温かかったんだ

嗚呼 月よ
哀しい喜劇はそんなにも楽しい?
その天空の特等席で眺めた物語は如何だったか 月よ
物見遊山はお気に召されたか 月よ
カタストロフはこの夜限りの上演だ
もう俺は失わない 月よ
それでも笑うなら 月よ
その時はお前を殺してやる
月よ 汝は今俺の天空だが
いつかは俺が汝の天空になろう

「貴方は どうでも良いような
 一言 二言に
 己の正義でも感じていましたか?」
問いかけの声を覚えてますか?愛する人よ
事実 俺は綺麗事が好きだが 痛みは確かにある
その痛みは伝わりましたか「二人目の貴方」よ
否 伝わらなかったのだろう?
それゆえの カタストロフ
嗚呼 涙流すのは いつだって俺だけ

空は枯れて 雲も無く 虚空
「君の化石」を抱きしめて仰ぎ見れば
俺が殺した月と いつの間にか死んだ太陽が見詰めてくる
「貴方」を二人失ったこの世界で 生きていくから
だから叫ぶ「誉めてよ」と
そして空を塞ぎ 最後の雲が死滅するのを眺める
いつの間にか止んだ風に 澱んだ空気を更に濁して
白濁の大気と 灰色の空に 喪失が匂う
でもまだマシさ 
あの時 部屋に立ち込めていた
「二人目の貴方」の「タメイキ」よりは
…俺を殺せる毒ガスよりは…

そして訪れたカタストロフ
悲劇のオペラが幾度目かの夜明けと供に終った時
貴方を失った代わりに何が得られるの と
神様に問えば
「それはメランコリアの青だ」と
透き通る痛みと 妙な輝き
その滑った ねっとりとした青は
この世のモノじゃないくらい美しく
「貴方の方が良かった!!」と嘆く声に
神様は耳を塞いだ
ゆえに 陽が昇ってくる空を睨み
俺は天空を貫くように吼えよう
「ザケてんじゃねぇ、逃げんな!」と

メランコリアの否定論は
疑念と 悲観視の思想
その「メランコリアの否定論」で
今まで全部潰してきた 「二人目の貴方」さえも
だからこそ 今 この夜明けに「メランコリア」を否定しろ
「メランコリアの否定論」でもってして
完膚無きまでに砕け いや 
俺は砕かねばならないんだ

否定論で己を潰して 残りの理想で生き長らえる
摘み取れば 潰して 滲み出た汁を飲み干す
「無駄にはすまい」と

…そうして…

吐き出したのは「黒い胆汁」
痛みと苦しみを誓いにして
カタストロフをただのデータにして
「哀しみなんて要らない!」と叫び
「君が欲しい!」と吼えるよ
もう一度 殺した月夜に向かって
空が乾ききる前に君を見付けよう
カタルシスが目的の手紙を書き続け
歌を詰めたリュックを背負って
涙は枯れたんじゃない!腹を決めただけさ

嗚呼
空は枯れて 俺の行く道の上
「メランコリアの尊厳死」
虚無と喪失を抱き 息苦しさに君を感じて
リュックには「歌」を詰めて歩こう
迷いは無い 誓ったはずだ
「無駄にはすまい」と

「メランコリア」は誇りを持って
今 自害を決める
嗚呼「メランコリアの尊厳死」
メランコリアの自覚は死んで
今 もう一度 俺は吼えよう
「メランコリアの尊厳死」を宣言し
希望も欲望も吐き散らして
奇跡を見真似て 光消えざる前に
上り詰めるはグラドゥス 砕けるは青いクルキス
欠片は 苦汁と供に呑み込み 思い出の美を飾る

「メランコリアの否定論」は全てを否定する
苦痛も悲哀も刈り取って メランコリアさえ否定する
メランコリアは死ぬために 自らを疑念の篩にかけるのだ
メランコリアの青さは白み 薄明の空に色が戻る
「枯れた空」さえ否定すれば
雲はまた いつの日にか生まれるだろう

嗚呼 誇りをもって 今 死なん
「メランコリアの尊厳死」
今はそれが許される時
何度だって行ける 進める
やり直せる 時間がある

…さぁ…Te lucis ante…
…歌おう…
…メランコリアの尊厳死を…
END