「沈黙で歌う魚」 魚は今 陸から湖へ飛び込み 湖から大海へ かつて湖に沈ませた鍵を飲みこんで 淡水魚から海水魚へと変化して 荒れる波に乗ろうと意気込んだ 鳴き声さえない魚は聞こえない歌を歌う 泡ぶくで沈黙の歌を歌えば 水面はいくつもの波紋の旋律で踊る 進め せせらぎを はてまた濁流を分けて 泡ぶくの歌を歌おう しかし 波はそれを掻き消してしまうかもしれない そんな海に行こうというなら 魚よ お前は「魚」であってはいけないのかもしれない では 何故また水に飛び込んだ? かつて湖に沈ませた鍵は 赤く錆びて胃袋で腐食する かすかな痛みが海へと本能を導く 胃潰瘍?冗談じゃない! 健康体だよ たぶんね 気分は上々 波は心地良く 照る太陽の光は真上 波のリズムで動く水面で美しくきらめいて 水の青さに清々しさが増す それは 青い闇から青い光への前進 ヒレもエラもウロコも全部 今生きている僕自身が宝物 身一つの財産 勇気と希望が宝石 愛おしさは海水に溶け 塩水も甘くなるかも 水温は上昇 温暖化に拍車かけ 氷山も解け 陸は水中に没す? いや…さすがにそれは無いか… いつか もう一度 歌が響く時がくる? 空気中で確かな波長となり 風に乗って大気に分散する? そんな華やかな日々がもう一度くるなら 今はどんなに冷たい水の中でも泳ぐよ とにかく今は浅い海で光を追おう 花のような珊瑚と磯巾着を眺めよう 仲間の魚達が泳ぐ中で僕も群れよう いつか僕も水面上へ旅立つ とにかく今は泡ぶくの歌で歌おう 「水面下の想いは届きますか」と 大丈夫 少しずつ 僕の体を波が洗うよ 月の光が満ちたら陸に上がるから その時まで さぁ 泡ぶくの歌を沈黙で歌おう 浮かび上がる気泡が水面で弾けて 波紋の旋律が軽やかに奏でる歌を 陸の生き物に 波紋でもって伝えよう ああ 高らかに 声の無い魚は 泡ぶくの歌を沈黙で歌おう END