A truth born of a lie






 とある工藤家の別荘。
何の前触れもなく訪れた訪問者に有希子は目を丸くした。

「あら、新ちゃん。どうしたの?」

「え……?」

 自分から出向いた割には、ひどく驚いたようにコナンは有希子を見上げる。

「え?……あれ?……母さん……だよな?」

「あら、なあに?こんな美人な母親が二人もいるってわけ?」

「あ、いや、そうじゃなくて……」

 未だに戸惑いの取れないらしいコナンに有希子は肩をすくめた。

「まあ良いわ。せっかく来たんだから少しくらい寄って行きなさいよ」



「それで?」

 有希子はコナンをリビングに通してから、コナンへ詳細を尋ねる。

「何でわざわざ別荘まで出向いて来たのよ?
 阿笠博士と一緒ならまだ話も分かるのに、一人でなんて……」

「だからそれは博士が――」

 そこまで言ってコナンは急に言葉を切った。
直後に有希子を一瞥すると、両手を後頭部に当てて額をテーブルへつけた。

「……ふざけんじゃねーぞ、おい」

 有希子に言うでもなく、ため息交じりにその場で呟くと、有希子の方へと顔を上げる。

「はめたな、母さん」

「あら。新ちゃんだったらすぐに気付くと思ってたから、私だって驚いたわよ」

「バーロ。さすがに真面目な顔した博士から『事件に巻き込まれて重体で病院に救急搬送された』
 なんて聞かされたら本当だと思うじゃねーか。
 父さんならともかく、母さんが事件に巻き込まれてそういう部分、瞬時に対応出来ると思えねーし」

 不満げに言うコナンに、有希子はムッとした様子で腕を組む。

「何よ。事件に対しての対応力が皆無みたいな言い方してくれちゃって」

「事実だろ?犯人に襲われて逃げ出せるようなタイプかよ?」

「大丈夫よ。そこの部分は問題なく優作がカバーしてくれるから」

 恥ずかしげもなくニッコリ笑う有希子に、コナンは呆れたように鼻で笑う。
飽きもせず続くのろけ話を適当に聞き流しながら、コナンはソファから立ち上がった。

「じゃあ帰るわ、俺」

「え?せっかく来たんだから、もうちょっとゆっくりして行きなさいよ」

 驚いた様子の有希子に、コナンは不満げに睨みながらリビングを後にする。

「騙されたんじゃなきゃな」

「――ちょ、ちょっと新一!」

 足早に玄関先まで進むコナンを有希子は急いで追いかけた。
靴を履きドアの取っ手に手をかけた、今にも帰りそうなコナンの腕を慌てて掴む。

「お願い!ちょっと待ってって!」

 必死に引き止める有希子に対し、コナンは返事代わりに面倒くさそうに見た。

「騙したことは謝るわよ!でも、こうでもしないと新ちゃん会いに来てくれないじゃない!」

「それとこれとは話が別だろうが。
 重体で救急搬送された、とか呼んでいい口実に使うような嘘じゃねーよ」

「……それはそうだけど。でもお願い!一つだけ!一つだけお願いされてくれない?」

 目の前で両手を合わせて懇願する有希子を見て、コナンは諦めたように大きく息をついた。



 部屋で横になっていた優作は、自室をノックする音で目を覚ました。
コンコンと2回程ノック音が聞こえると、優作は扉に向かって「どうぞ」と答える。
その声に反応して、ゆっくりと扉が開いた。それと同時に呆れたような口調が聞こえ出す。

「――風邪らしいな。珍しく」

 声の主に驚いて、思わず勢いよくベッドから起き上がる。
その直後に襲ってきた眩暈に、そのまま前のめりに倒れ込んだ。

「事件の全貌予想するのは得意なくせに、風邪引いた時の対応は不慣れらしいな」

「病人の親に対してまで、皮肉か?」

「悪いな。滅多に起こらない現象なもんで」

 小さく笑いながらそう言うと、コナンは傍にあった椅子へと腰掛ける。

「熱、結構高いんだろ?大人しく寝とけよな」

「ああ、悪いがそうさせてもらうよ」

 ゆっくりと上体を起こして、そのまま後ろへと倒れる。
ずれた布団を戻そうかと手を伸ばすが、それより先にコナンに布団をかけ直された。

「どうせまた、締切ギリギリまで仕事ほっぽってたんだろ?
 締切前に慌てて仕事終わらせようとするから、こういうことになるんだよ」

「お前には分からんさ。小説というのは、調子の悪い時に書いても
 決して良い作品には仕上がらない。特に俺みたいに何個も小説を抱えていてはね」

「最初から複数の小説があること分かってんなら、『早目に手つけよう』とか思わねーのかよ?」

 しかめ面で言うコナンを、優作は愉快そうに笑った。

「思わんね。これがいつもの事なんでな」

「悪い習慣だぜ?」

「大丈夫さ。それで問題がないことは実証済みなんだよ。新一君?」



 コナンが出向いたのが偶然連休の最中ということもあり、
息抜きもかねて結局3日間ほど滞在することとなった。

「――あら、優作。もう起きて大丈夫なの?」

 台所で昼食を作っている途中、音が聞こえた階段の方に目を向ける。
しばらく自室で休んでいた優作を見つけると意外そうに声をかけた。

「ああ。今まで以上に、動くことを禁止されたからな」

「今まで以上?……そっか、新ちゃんね」

 その言葉に優作は小さく頷くと、リビングへと歩いた。有希子も後を追う。

「『珍しく風邪にかかったんだから、完治するまでは大人しくしてろ』って言ってな。
 こっちが無駄に動かないよう、見張られていたよ」

「なーんだ。ずっと新ちゃんの姿見ないと思ってたら、優作の部屋にいたのね」

「まったく。とんでもない日に来てくれたもんだ」

 ため息混じりにソファに腰を下ろす優作に、有希子は可笑しげに笑う。

「なによ。ホントは久々に会えて嬉しいくせに」

「知らんな。そんな事は」

 無関心そうに有希子から顔を逸らす優作に、有希子は苦笑いして肩をすくめる。

「素直じゃないんだから!――あ、そう言えば新ちゃんは?」

「ああ、新一なら俺の部屋で寝ているよ。
 ずっと寝てなかったのかは知らんが、俺が今日起きた時は、もう机で寝ていてね」

「へぇ……。嫌味言ってても心配なものは心配なんだ」

 優しげにそう言うと、有希子はリビングから顔を出して、優作の部屋に目をやった。

「まぁ、人をほっとけないのが新一の性格だからな」

「久しぶりに三人で食べようと思ってたんだけど……。新ちゃん起こすのも可哀想ね」

「少しの間寝かしといてやってもいいだろう。向こうでも事件ばかりやっているんだろうから」

「ええ、そうね。親子揃って、推理好きだから」

 楽しげに笑いながら言った有希子に、優作もつられて笑いだした。



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