ドリーム小説
蒼紅華楽 十五



呼びかけても、呼びかけても・・・
どれだけ強く呼びかけても、ただ意識を混濁させて血を吐き続けるに対し、それを目前にする3人はどうすることもできず、やはり手段はただ必死に呼びかけるしかなかった。
!!」
隊長、しっかりしてください!」
「隊長・・・隊長!」
どれだけ呼びかけても結果は同じ、血を吐き続けるだけ。
次第に3人は最悪の結果を考えて血の気が引いていく。
特に日番谷と時雨の2人は絶望というまでに酷く顔が青くなっていたが、時雨はどこか今あるこの現状よりも何かを思い出すようなそんな様子だった。
っ・・・」
「隊ちょ・・・姫様!!」
心底辛そうにの名を呟いた日番谷のすぐ後に続いた時雨の何か糸が切れたかのような声に、日番谷と松本は思わず彼の方を見た。
「姫様、駄目です!姫様!!」
時雨の言動は、現実であって現実ではないものを見ているような姿だった。
聞きなれない呼び名でを呼び、尋常ではないほど取り乱す時雨に、日番谷と松本は少し怪訝な表情を向けた。
その時、の上半身を支えいていた日番谷の腕の裾が強く握られるのを感じ取り、日番谷は慌てての方に目線を戻した。
っ?!」
「・・・し・・る・・・」
意識が戻ったのか何やら聞き取れないほど弱々しく呟くを、一同が心配そうに見ていると、はさらに裾を強く握りしめて目を開けた。
「・・・調子に、乗るな!!」
が忌々しそうにただそう強く叫んだ瞬間、一瞬辺りに強い風のようなものが吹きぬけたように一同は感じた。
そして意識を取り戻した途端そんな風に叫んだに3人が呆然としている中、はなんとか呼吸を整えようとしながら自分の力で立ち上がろうとした。
その行動にはっとして日番谷は慌てた。
「おいっ!無茶するな」
「・・・大丈夫。これくらい・・・どうという事はない」
そう良いながらもまだ苦しそうなを心配して日番谷は手をかす。
やはり先程の状態の影響があるのか、まだ少し意識の混濁したは無意識のうちにそれを受け入れた。
そしてそのに、心底心配そうに時雨は意を決して声をかけた。
「・・・本当に、大丈夫ですか?」
「ああ・・・呪詛返しは成功、したからな。相手が相手だけに・・・少々、てこずった、が」
「相手・・・って」
の言葉に思い当たる節があったのか、それを聞いた瞬間に時雨の顔がまたみるみる青くなっていく。
一方、何も事情を知らない日番谷と松本は、の言ったことに対して怪訝な表情をした。
そして2人が何かを尋ねるよりも早く、が少し不機嫌な表情をしながら時雨に口を開いた。
「・・・しかし、時雨・・・あの呼び方は・・・2度とするなと言ったはずだ・・・」
「・・・・・申し訳ありません」
に指摘され、途中自分がをなんと呼んでいたか、しかもそれが日番谷と松本の目の前で何度もということを思い出し、時雨は罰の悪そうな表情をしながらに謝罪した。
「・・・今回はある意味仕方なかったから、許すが・・・・・・金輪際はもう絶対に、呼ぶな・・・」
「・・・・・はい」
時雨が申し訳なさから弱々しく返事をしたのを聞き届けてすぐ、の身体から力が抜け、そのまま倒れそうになったところを日番谷の腕に支えられた。
「お、おいっ・・・!」
また同じような事になったのではないかと、嫌な考えがすぐに巡り、慌てて日番谷が腕の中のに呼びかける中、冷静にの状態を見た松本がほっとしたように微笑んで告げた。
「大丈夫です。今度はただ眠られただけのようです。おそらく疲労が原因でしょう」
「そ、そうか・・・」
松本のその言葉に日番谷はほっと胸を撫で下ろし、腕の中で眠ると、何か深刻な表情で訳ありな雰囲気を出している時雨を交互に見ながら、これからどうすべきかを思い悩んでいた。















目覚めてまだ意識のはっきりしない、目を完全に開ききっていない状態でぼんやりと見たのはまず天井。
それからそのままの状態で暫くただぼーっとしていると、右手にある感覚に気がついて首を傾げるような動作を横になったまましていると不意に声をかけられた。
「はや・・・?」
「・・・・・・」
呼ばれた声に反応して見上げてみると、そこには自分を心配そうに見ている日番谷の顔があり、握っていたのはどうやら日番谷の手だったようだ。
そして表情は変わりはしなかったが、の内心はかなり驚いていた。
「やっと起きたな・・・大丈夫か?」
日番谷がそう尋ねてもは以前ぼーっとしたままの状態で日番谷の顔をじっと見続けている。
そのの様子を少しおかしいと思いながら日番谷は怪訝な表情をしていた。
「どうした?やっぱりまだ・・・」
「なんで・・・冬獅郎くんがここに?」
突然の口から出た言葉が最初少し理解できず、日番谷は言葉を出すのが遅れてしまった。
そして日番谷が口を開くよりも先に、さらにが不思議そうな声色で告げた。
「雛森のところにいなくて良いのか?」
その言葉を聞いてもまだ少しの真意がつかめなかったが、日番谷は率直に説明をした。
「雛森のことは松本に任せてあるから大丈夫だ。あいつよりお前の方がむしろ重症だろう」
これは本当の事ではあるが、日番谷としては自分がに着いておきたいという気持ちが強かったのだ。
しかしその説明を聞いても、はなにやら首を横に振っていた。
「・・・そういうことでなく。冬獅郎くん自身がついておきたいのではないのか?」
「・・・・・どういう」
「だって、冬獅郎くんは、雛森が好きだろう?」
のその言葉に日番谷は言葉を失い固まってしまった。
彼の心情としては何故そういう発想にいたるのかという疑問が湧いている。
だいいち、には以前にきっぱりと「違う」と言っているはずである。
それを忘れたというよりも、信じてもらえていなかったのかと、内心様々な思いで脱力したい気分だった。
そしておそらくここでまた「違う」と否定して見せても、のことだからまた信じはしないのが予想できる。
しかしこのままにしておいて余計な誤解を生むのも避けておきたい。
ちらりとを見てみれば、日番谷の思い悩んだ様子に不思議そうに小首を傾げていた。
「・・・・・」
そして暫く悩んだ末、小さく息を吐いて日番谷はようやく結論を出した。
この相手に変に誤魔化したりするよりも、もうはっきりと言ってしまったほうが良いのではないのかと。
誤解を受けてややこしくするよりは、玉砕覚悟ではっきりといってしまったほうが良いと。
そう結論を出した日番谷は、暫く時間を持って気持ちを落ち着かせ、そして深呼吸をして後押しした後、の方に改めて向き直った。
「・・・よく聞けよ」
「・・・?」
日番谷のとても真剣な表情に、は何を言う気なのかと思い目を細めた。
「俺が好きなのはお前だ」
「・・・・・・・・・・えっ?」
日番谷の告白の後、の呟きに間がかなりあったのは、何を言われたのかまったく理解が出来ていなかったためだった。
そしてその後もそのまま黙って半ば呆然としているに、日番谷はやはり玉砕だったかと諦めかけていた。
しかしその瞬間、の顔が徐々にだが確実に赤く染まっていっていた。
「えっ・・・あっ・・・・・」
何かかなり動揺した様子で、は自分の顔を掛け布団で隠そうとして隠せていないという動作をしていた。
それはとても普段からなら考えられないような動作で、日番谷は思わず驚いて呆然としていた。
だがその行動よりもさらに日番谷が驚かされる言動をは何の脈絡もなく口にしていた。
「私も・・・冬獅朗くんのこと、好き・・・」
今度は日番谷がの言葉の意味を理解するのに時間がかかる番だった。
そしてその日番谷の様子を心配そうにが覗き込んでいると、ようやく言葉の意味を理解できた日番谷が、それでも当然のように動揺した状態で口を開いた。
「お前・・・どういう・・・・」
「・・・とういうって、そういう意味・・・迷惑?」
「それはない。迷惑ということは絶対にない!」
「・・・良かったぁ」
日番谷が慌てて否定した言葉に、心底嬉しそうには微笑んでいた。
そしてそのの微笑みに見惚れながら、日番谷は疑問に思っていることを口にした。
「好きだといってくれるのは嬉しい。ただ、いきなりそう言われても・・・本当かどうか信じられない」
「・・・本当のことだけど?」
「だって、お前・・・今までそんな様子全く見せてなかったじゃないか。一体何時から・・・」
日番谷がもっともな疑問を尋ねると、は黙って少し考え込んだ。
それは答えられないという様子ではなく、どうやって説明しようかという類のものだった。
やがて考えがまとまったのか、は顔を上げて日番谷に説明しだした。
「・・・冬獅郎くんが、私を護りたいといってくれた時からだと思う」
「えっ・・・」
「私は何時も『護る側』だから、『護られた』ことは1度もない。夜姉やきー兄にしても、あれは『助けられた』であって、『護られた』じゃない。私を『護る』とはっきりとした意思を見せ、実際にそう宣言してくれたのは冬獅郎くんだけだから・・・」
微笑みながらそう告げるの言葉の内容をどこか疑問に思いながらも、日番谷はふと思った事を複雑そうに口にした。
「じゃあ・・もし俺じゃなくても、そう言った奴だったら、お前は・・」
「そうじゃない」
日番谷が何を言いたいのかすぐに察したは、全て聞き終える前にすかさず否定した。
「・・・冬獅郎くん以外にそう言われても、私は多分そういうことにはならない」
そこまで言って一旦言葉を止めると、は目を閉じてまるで記憶を辿るように続きを口にする。
「いま、思い返してみれば・・・私は冬獅郎くんを随分気に入ってたし、好きになる兆候もあったように思う。・・・あの言葉が、その決定打になったの」
「・・・決定打?」
そこでふと日番谷はあの言葉を言った前後の事を思い出していた。
考えてみれば、あの言葉を言ったのを境に、の自分への呼び方はいきなり何の前触れもなく下の名前に変わっていた。
「・・・まあ、私も今まで気づいていなかったけど」
「・・・・・はっ?」
が何を言いたいのか解らず、日番谷は思わず声を漏らした。
「・・・冬獅郎くんを好きだということに、私はまったく気づいていなかった」
から出たその言葉に、日番谷は一瞬固まってしまった。
「それ、どういう・・・」
「・・・好きになった自覚が全くなかったの。冬獅郎くんに告白されて初めて自分の感情に気がついた」
その言葉に日番谷は呆然としながら、内心「どこまで鈍いんだ」と思うのと同時に、自分の選択は正しかったのだとどこかでほっとしていた。
そんな日番谷の内心になど全く気づかず、は頬を赤くしながら日番谷の手をぎゅっと握り締める。
「・・・恋愛の好きって、こういうことなんだ。今まで私は、恋愛感情とはほんとに無関係だったからどんなものか解らなかったけど・・・ようやく解った」
「・・・知らなかった事を知って嫌か?」
の言葉を聞いてどこか不安になった日番谷はの手を握り返しながらそう尋ねた。
するとは首を横に振り、心底嬉しそうに微笑みながら口を開いた。
「ううん・・・幸せ。・・・冬獅郎くんのおかげで」
微笑み付きで言われた最後の一言に、日番谷もみるみるうちに顔が赤くなっていった。
そんな日番谷の顔を見ながら、やはり微笑んだままは一言告げた。
「好きになってくれてありがとう。冬獅郎くん」
「・・・俺の方こそ。ありがとう」
2人はそう同じ言葉を言い合うと、同じように互いに微笑みあっていた。



暫くの間、互いの想いが通じ合った幸せの余韻に浸っていると、ふとが思い出したように口を開いた。
「・・・冬獅郎くん」
「なんだ?」
「雛森のところに行って良いよ」
の言ったことが一瞬理解できなかったが、その後すぐに把握した日番谷は脱力して口を開いた。
・・・あのな・・・」
「・・・それ」
日番谷が何か言おうとした瞬間、が少し不機嫌そうな表情をして口を開いた。
何事かと日番谷が思った瞬間、はやはり少し不機嫌そうに告げた。
じゃなくて・・・名前で呼んで」
「名前って・・・」
「・・・何回か呼んでくれた事あるよね?その時みたいに、って呼んで」
それを聞いて日番谷はが不機嫌そうになった理由が理解できた。
それと同時に、今まで自分が無意識とはいえ、何回か下の名前で呼んでいたことに気づき、ある意味とんでもないことをしていたと顔を赤くしながら額に手を当てた。
そしてちらりとに目線を向けてみると、そこにはまだ少し不機嫌そうにしているが、どこか期待の篭った目で自分を見ている姿があった。
そしてその様子に観念したのか、日番谷は意を決して口を開いた。
「じゃあ、・・・」
「うん」
日番谷に下の名前を呼ばれた瞬間、は心底嬉しそうに微笑んだ。
その笑顔に見惚れながらも、日番谷は先程の続きを話し始めた。
「俺はお前が好きだってちゃんと言って、お前も理解したはずだろう?なのに、なんでまた雛森が出てくる?」
「・・・そうじゃない」
日番谷のもっともな言葉に、しかしは首を横に振った。
「冬獅郎くんが私を好きでいてくれてるっていうのは十分理解できた・・・だから、これは前の時とは別の意味でそう言ってるの」
「別って・・・?」
「好きとかは関係なくても・・・やっぱり、幼馴染だし心配でしょう?私はそういう意味で言ってるの」
「・・・でも、お前まだ・・」
「私は大丈夫。それに、部屋の外に時雨がいるのでしょう?後は、あいつに頼むから、大丈夫」
確かに雛森の事も気がかりだし、の気遣いもとても有難いものではある。
しかし日番谷はその反面、の言葉に少し複雑な心境になる。
それはが倒れた時、尋常ではない狼狽振りの時雨を見たからである。
明らかに副隊長が隊長に対するものとは思えないほどのうろたえた姿。
そして何よりも、の事について、時雨は自分の知らない事も知っているということが見て取れた。
そんな事を頭に浮かべながら、日番谷はぽつり思わず言葉を漏らしていた。
「・・・あいつ、お前の事好きなんじゃないのか?」
「・・・・・?」
少し気に入らなさそうに言った日番谷に対し、は一瞬何を言われているのか理解できなかった。
しかし暫くしてからようやく日番谷の言葉を理解すると、は苦笑して首を横に振った。
「それはまずない。時雨が私を恋愛感情で好きということはない」
「・・・でも、あの時のあいつの様子だと」
「・・・あいつは、私に負い目があるから」
日番谷の反論にすかさず言ったの言葉に、思わず日番谷は怪訝な表情をする。
「・・・負い目?」
「そう・・・私にとっては、そう思う必要もないこと。実際にそう思うことではない。なのに、あいつは・・・何時までもあれを負い目に感じている・・・」
そこまで話すとは小さく溜息をついた。
「だからあいつは、私の副官として、私に絶対の忠誠を立ててくれている。勿論、それだけが理由でないことは解ってるけど・・・ああいう反応をするのは、あいつにはあの事が、あいつにとっての負い目というトラウマだから・・・」
「・・・トラウマ」
あの時雨がそうまでなる何があったのか、日番谷は疑問に思ってしかたがなかった。
「それに・・・私にとってのあいつは・・・幼馴染、という表現がもっとも近いのかもしれない。実際、幼馴染というわけでもないし、あいつと最初に顔を合わせたのは、私が死ぬほんの少し前のことだし・・・」
「死・・・ぬ?」
のその言葉に日番谷は思わず凝視してしまう。
その日番谷の反応にはすぐに、こくりと頷くようにして説明をする。
「私とあいつは尸魂界で知り合ったんじゃないの。こっちに来る前、現世からの顔見知り・・」
「現世から・・・」
「この事は零番の隊員なら誰でも知ってる。別に隠すようなことじゃないし・・・」
その話を聞いて日番谷はふと、時雨が知っているに関することは、全て現世であった事ではないのかと考えていた。
「あいつも半分は、私の事を幼馴染というか、妹みたいな感覚で見てるところがある。だから断言できる。私もあいつも互いに対して、恋愛感情なんてない。・・・私が恋愛感情で好きなのは、冬獅郎くんだけだし・・・」
のその言葉を聞いた瞬間日番谷は少し顔を赤らめ、なんだか余計な勘違いをして嫉妬していた自分が莫迦らしくなってしまった。
これではが自分に対して雛森の事をずっと勘違いしていたことをどうこう言えないのではないのかと。
「・・・あの事がなければ、どうなってたか知らないけど・・・」
「・・・・・あの事?」
ふと日番谷はその時になってようやく先程からが口にしている『あの事』というのが気になり、日番谷は尋ねてみたが、はただ苦笑を浮かべて答える気はないという意思表示をした。
「・・・話せない。今はまだ」
「どうして?!」
「・・・冬獅郎くんを、危険な目に合わせたくない」
「・・・・・じゃあ、裏を返せば、お前は危険な目にあうって事か?」
「・・・・・・・」
日番谷のその質問には無言のまま何も答えなかった。
そして、沈黙は肯定と取れた。
「だったらなおさら教えろ。お前が危険な目にあうっていうのに、このまま何も知らないでいられるわけがないだろう」
「・・・でも、私が嫌なの」
「お前が嫌でも・・・俺がお前を護りたいんだ!」
日番谷のその強い言葉に、さすがにも言葉に詰まる。
そう言ってくれる事は確かに嬉しくはあったが、しかしそれでもは複雑な心境を抱えながら、暫しの沈黙の後に首を横に振って口を開いた。
「・・・やっぱり駄目」
「どうして・・・?」
「・・・おそらく、冬獅郎くんの考えているような次元の話じゃないから。あれは」
のその言葉に何か言いたそうに無言で見つめる日番谷に、はやはり複雑そうな苦笑を浮かべていた。
「・・・大丈夫。今は特に仕掛けてこないだろうし・・・ここにいれば、まず安心だから」
「・・・・・それは、本当だな?」
「・・・うん」
それでも暫くの間、心配そうにの方を見つめていた日番谷だったが、やがて溜息をついて口を開いた。
「・・・解った。お前がそうまで言うなら、今は諦めてやる」
「ありがとう・・」
「ただし、あくまで今諦めるのであって、本当に危険な目に合いそうになったりしたら必ず俺に言え。そうでなくても、今回の件が一通り落ち着いたら言ってもらうからな」
「・・・・・・」
日番谷の言葉には誤魔化すように無言だったが、それを日番谷が見逃すはずもなく、すぐさまに念を押した。
「・・・返事は?」
「・・・・・・うん」
日番谷の真剣な様子にもさすがに観念したように肯定の返事を出す。
それに少しだけ満足したのか、日番谷は笑っての髪に触った。
「じゃあ、言葉に甘えて、少し雛森の様子見てくるけど・・・ちゃんと大人しくしておけよ」
「・・・うん」
の素直な返事を聞くと日番谷は少し名残惜しそうにに背を向けて部屋を出た。
そして部屋を出て廊下でずっと待機していた未だ意気消沈の時雨を見つけた。
その時雨の様子に溜息をつくと、時雨は彼に話しかけた。
「・・・時雨」
「あ、はい・・・日番谷十番隊長」
何時もとは明らかに違う調子にとてつもない違和感を覚えながらも、日番谷はとりあえず用件を伝える。
「俺はちょっと雛森の様子見てくるから・・・の事、よろしく頼む」
「・・・解りました」
時雨の苦笑の交じった表情にやはり調子が狂う気もしたが、日番谷は時雨の了承の言葉を聞くと、任せたというように彼の肩をたたいてその場を後にした。



「・・・時雨、入れ」
日番谷が去って暫くして、部屋の中から聞こえてきたの声に一瞬びくっとなり固まったが、暫くしてから意を決したように時雨は申し訳なさそうな表情で部屋の中に入った。
部屋の中に入ると、そこにはどこか名残惜しそうにしながらも、厳しい表情を向けているがいた。
「・・・隊長」
「・・時雨、いい加減にしろ」
のその言葉に、時雨はびくっと肩を震わせた。
そんな時雨に対し、は容赦なく言葉を続ける。
「なんだ、あの取り乱しようは?あの程度で私が死ぬわけないだろう。私はそれほどに弱いか?」
「いえ、そんな・・・決して・・・」
「だったら、もうあの事を負い目に思って、取り乱すのは止めろ」
「・・・・・」
の厳しい一言に時雨はただ黙るしかなかった。
「・・・まあ、お前にしてみれば負い目に感じないというのは無理かもしれないが。だが、私はまったくあれがお前のせいだとは思っていない・・・」
「・・・しかし」
「あれは私に与えられた使命だった。だから私は当然の事をしたまでであって、誰かのせいにするつもりなどない」
のその言葉に、それでもやはり時雨は納得がいかないと言う様子でこちらも見ている。
それもある程度予想通りだったは、予想が外れなかったことに溜息をついた。
「・・・それに、今となっては寧ろ感謝したいくらいだぞ」
「・・・えっ?」
の耳を疑う一言に、時雨は目を丸くして何を言われたのか少し理解に困った。
「ああなったおかげで私は、冬獅郎くんに迷うことなく、気持ちを伝えられたからな・・・」
「あっ・・・」
その言葉を聞いた時、時雨はある事が頭に浮かんだ。
それは、確かにが『あの事』がなければ、避けられなかった運命と言っていい事である。
「それに・・・お前に感謝している事がもう1つ・・・」
まだ感謝されることがあるのかと時雨が驚いていると、は普段はあまり見せない微笑を浮かべて口を開いた。
「・・・お前だけだろう。悲しんでくれたのは・・・」
「・・・っ」
のその言葉に時雨は見る見る辛そうな表情になり、思わず顔を背けてしまった。
そしてそれはには肯定と取れた。
「別に構わない。解っていたことだから、あえて今まで確認を取らなかった。・・・あまり顔を合わせたことなどないが、あの人達は私がああなることなど・・・当然と思っているだろうと、解っていたからな」
「ですが・・・」
「良いんだ。私は生まれた時からその事を割り切っている。私だけでなく、私の母も、祖母も・・・先祖代々な」
「・・・・・・・」
「だから良いんだ。寧ろ私は幸せだと思うぞ。夜姉や、きー兄や、冬獅郎くんや、お前や、氷室達のように、私を大切に思ってくれる存在がいるのだから・・・代々一族の中で、私が多分1番幸せだ」
それを聞いた時、時雨は常日頃から思っていたことを改めて再認識した。
こう思えるからこそ、この人はとても強いのではないのかと。
そんなことを時雨がぼんやりと考えているのを知ってかしらずか、は微笑んだままの表情で時雨に向かって告げた。
「時雨・・・ありがとう」
のその時雨にとっては慈悲と衝撃としか言いようのない言葉を聞いて、時雨は心情としてはその場に泣き崩れてしまいたいような気持ちだったが、なんとかそれを留まって自分も今日初めての笑顔をで答えて見せた。
「それは寧ろこちらの台詞です。本当にありがとうございます・・・そして、おめでとうございます」
自分の言葉に返してきた時雨の感謝の言葉はともかく、最後に言った祝福の言葉の意味が解らず、は最初きょとんとしていたが、やがてその意味を理解したは、普段の彼女らしくもなく、照れたように時雨から顔をそらして天井を見つめた。
そしてそのの様子を見て笑う時雨は、もう既に何時もの彼に戻っていた。












あとがき

え〜〜・・・少し展開がいきなりとか、早いのではないのかという気もしますが・・・
主人公と日番谷くんが目出度く(?)くっつきました!;
はい・・・日記の拍手のお返事で書いてた事件とはこのことです;
急展開なのは、主人公にまったくの自覚が今までなかったためです;;
そして主人公の性格が違うんじゃないのか?というのは、これも日番谷くんとくっついたためです;
実は主人公が好きだというのを自覚した途端、主人公の喋り方わざと変えました・・・
でも主人公本当はこっちの性格が元なんで・・・
後、今回主人公以上に別人だった時雨・・・
正直殊勝な時雨は書いている私でもかなり違和感を覚えました;
次回はちゃんと何時もの調子の時雨に戻って、何時もの調子の零番隊をお見せできると思います。







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