ドリーム小説
蒼紅華楽 十四



霊圧を急激に膨れ上がらせ、怒り極まったという視線を涅に送りながら、雨竜は静かに散霊手套を外そうと手をかけた。
しかし雨竜の意思に反してそれは出来なかった。
何故なら、それまえ雨竜の霊圧の上昇に呆然としていた琥珀が、雨竜が散霊手套を外そうとしているのを見た瞬間、記憶の中にあったある事を思い出し、瞬時にそれを止めようと雨竜に刀を向けたためだった。
その琥珀の行動に対し、雨竜は当然怪訝な表情で口を開いた。
「・・・どういうつもりですか?まさかここに来て、彼を助ける気では」
「安心してください。それは絶対にありえません」
雨竜のその一言に琥珀はきっぱりと即答した。
琥珀にしてみれば、涅を助ける気など絶対にない。
それどころかここで雨竜に確実に仕留めさせても良い、もしくは自分が仕留めても良いとさえ思っている。
その琥珀が雨竜の行動と止めたのは、当然別の意味があった。
「それ散霊手套ですね?僕の記憶が正しければ、霊子を拡散させる道具で、上手くすれば飛躍的に滅却師としての力が高まるものだと記憶していますが・・・」
「ああ・・・」
「では、それを一度つけた後外してしまえば・・・暫く後に滅却師としての力が失われる・・・というのも本当ですね?」
「・・・・・・・・・」
雨竜の無言は明らかに肯定の証だと琥珀は確定した。
一方の雨竜は、琥珀のあまりの情報能力の高さに目を見開き無言で驚いていた。
「だから止めました。何故なら、彼は貴方がそこまでして倒すような価値のある相手ではないからです」
「なっ?!」
さすがにこの琥珀の言葉は聞き捨てならなかったのか涅が反応した。
「・・・まるで私が滅却師風情に劣っているような言い方だネ?」
「そのつもりですが。・・・ああ、寧ろ貴方如きと比べるのも滅却師の方々に対して失礼ですか」
「・・・っ!」
琥珀の明らかに馬鹿にしたその一言に、涅は怒りに任せて攻撃をしようとした。
しかしその瞬間には既に琥珀の姿は彼の視界から消えており、次の瞬間彼が琥珀を捕らえたのはすぐ目の前であり、琥珀の斬魄刀が自分めがけて振り下ろされる瞬間だった。
「くっ!」
「気づくのが遅すぎです」
涅が避ける前に琥珀は冷たくそう呟くと同時に、斬魄刀を振り下ろし涅の肩を斬り裂いていた。
「ぐあぁ・・・ッ」
傷口を押さえその場に血を流しながら膝を着いた涅から琥珀は刀を引いた。
見ると先程まで青かった刀身は元通りの色へと何故か戻っていた。
「くっ・・・おの・・」
涅が自分の怒りの目で琥珀を睨みつけながら、勢いよく立ち上がろうとした。
彼が自分の身体の異変に気づいたのはその時だった。
どれだけ動かそうとしても彼の四肢はまったく動かないのだ。
まるで先程の雨竜と同じように。
そんな自分の状態に混乱している涅の心情をすぐに読み、琥珀は静かに自分の斬魄刀を向けながら語りだした。
「先程、僕は元鐘の能力を、斬りつけた対象物の異常を全て取り除くことといいましたが・・・それは正確ではありません」
「・・・な、に・・・?」
「正確には、対象物の異常を取り除き、その異常を元鐘に留め、次に斬りつけた相手にそっくりそのままその異常を受け渡す・・・です」
「・・・!!」
「ちなみに元鐘に留めている間はその異常は活動を停止していますが・・・・・受け渡した時点でその異常は再び活動を開始します。つまり・・・今、貴方の身に起こっている現象は貴方の斬魄刀の能力によるものです」
琥珀のこの能力を零番隊の誰かは、敵にとっては自業自得的な能力と言ったものもいる。
ちなみに刀身が青くなるのは、異常を斬魄刀に留めた状態のままというサインでもある。
「さて、どうしましょうか・・・彼の事を思えば、このまま貴方を生かしておくのはどうかと思いますし・・・それに僕としても・・・」
「図に乗るなョ小僧!」
冷たい目線を向けて余裕で自分に対してそう言葉を投げかける琥珀に、涅の怒りが完全に頂点に達していた。
彼にとって見ればたかだが席官クラスの死神に散々馬鹿にされ、プライドが相当傷ついたといったところである。
もっとも、実際には琥珀は全員が隊長格以上の実力者揃いの零番隊の六席であるのだから、ここまで一方的にやられてもある意味情けないことではない。
しかしそれを知らない涅にとっては屈辱以外の何者でもなかった。
「良かろう・・・ならばこちらも相応の力で応えてやろうじゃないかネ・・・」
そう言って、自由に動かない四肢でありながら、未だしっかりと握られた斬魄刀をより握り締めようとする。
「卍解」
涅が唱えたその言葉が雨竜には解らず、逆に琥珀にとってはある意味想定内の事だったのか至って冷静だった。
それを肯定するかのように、琥珀はポツリと呟いた。
「金色疋殺地蔵・・・やはりそうきましたか」
「あれは・・・一体・・・・?」
涅の卍解に驚いて困惑している雨竜をちらりと視線をやって彼に説明を始めた。
「斬魄刀は二段階まで変形が可能です。第一段階を始解、第二段階を卍解・・・始解と違い卍解は会得するのが困難で、隊長クラスでないと会得していないと考えてくださって良いです」
琥珀のその言葉を聞き、そういえば今まで戦ってきた死神達や、もちろんクラスメイトの某死神もそれらしいものは一切していなかった事を思い出す。
「そして卍解は大抵がその強大な霊力に影響され、刀剣としては考えられない大きさや形状のものがほとんどです」
「・・・なるほど、あれも類に漏れず・・・といことですか?」
目の前の金色疋殺地蔵は確かに、刀剣としては考えられない形状となにより大きさだった。
そして雨竜のその言葉を琥珀は黙って頷いて応える。
「・・・僕も卍解は当然習得しています。ですが・・・ まあ、する必要はないでしょうね」
そう言って琥珀が斬魄刀を構え直すと同時に、涅が自慢げに自分の卍解について語りだした。
「この金色疋殺地蔵は私の血から作った致死毒を霧状にして半径100間以内に撒き散らす。勿論私は死なない」
「・・・知ってますよ」
しかしそんな涅の自慢げな声も、琥珀は冷たい一言で打ち消した。
「ですが、それがどうしました?それをさせる前に倒せば良いだけです」
「ヒッハ!是非!やって見給え!」
そう言って涅が金色疋殺地蔵を動かそうとした時だった。
「縛動の六十一 六杖光牢」
詠唱を破棄した鬼道を琥珀は金色疋殺地蔵へと向かって発動させた。
無論それで金色疋殺地蔵の動きは一瞬止まった程度だったが、その一瞬があれば琥珀には十分な時間だった。
そのまますかさず瞬歩で涅と金色疋殺地蔵に向かって間合いをつけ、1度に両方に対して致命傷になる傷を刀で負わせた。
そしてそのまま金色疋殺地蔵は、本体と持ち主両方への大きなダメージからすぐさま消滅した。
涅は苦しみながら琥珀を睨みつけたが、当の琥珀は冷たく一瞥すると、すぐさま踵を返して雨竜の方へと歩み寄る。
雨竜に傍まで来るとにっこり微笑み、金色疋殺地蔵が撒いた毒を浴びてしまった雨竜へと、再び元鐘を振り下ろした。
それを見た涅はようやくはっとし、琥珀は彼の思っている事を読んで口を開いた。
「怒りで我を忘れて失念していたようですが、僕の斬魄刀の能力は斬りつけた対象物の異常を全て取り除けます。当然、貴方の金色疋殺地蔵の毒だって例外ではない」
おの琥珀の言葉を肯定するかのように、雨竜の身体は毒など今は回っておらず、そして琥珀の持つ元鐘の刀身は再び青くなっていた。
「それと、持ち主である僕は解放していれば、常に異常を取り除く・・・・・というのもお忘れでしたか?」
琥珀のその言葉に涅は歯軋りを鳴らした。
つまり琥珀は最初から自分には一切金色疋殺地蔵の毒は聞かないし、雨竜に対してもすぐに取り除くことが出来るのが解っていて、あえて「させる前に倒せばいい」と言ったのだ。
作戦というよりも、どこまでも涅を莫迦にした行為である。
「さて・・・それではどうし」
琥珀が言いかけたその瞬間、卍解を行っていた影響からなのか、四肢の動かなくなっていたはずの涅は、確かに斬魄刀を手にした方の腕を力を振り絞って振り上げていた。
そしてその次の瞬間、彼が取った自分自身の喉下を刺すという行為に琥珀も雨竜も驚いて目を見張り、さらに次の瞬間液体となって飛び散った彼の身体に琥珀ははっとする。
「斬ったものを液体にする能力・・・」
「逃げる気ですか?!」
驚いて慌てる2人に対し、涅の嘲った笑いがどこからともなく響く。
「惜しかったネ。見知らぬ死神の少年・・・そして滅却師」
「くそっ!」
慌てて弓を構えて逃がさまいとする雨竜だったが、その手を琥珀が思わず掴んで止める。
「無理です。液体になった以上、攻撃のしようがありません」
そう言って首を横に振る琥珀の言葉を肯定するように、嘲った涅の声がまた響いた。
「その通り無駄だョ。今の私はどんな攻撃も出来ない代わりにどんな攻撃も受け付けない。数日はこの姿から戻ることは出来ないが、その間に局に帰り傷を・・・」
そう涅が言葉を続けようとした時だった。
「災い流れ堕ち降れ 禍滴」
琥珀にとってはとても聞き覚えのあるその声に反応してそちらを向こうとした瞬間、声にした方向から赤黒い液体が降り注ぎ、液体と化した涅と混ざると激しい熱が上がりそれと同時に涅の悲鳴が聞こえた。
「ぐあぁああっ!」
「数日といわず、数ヶ月は大人しくしておいて貰いましょう」
悲鳴を上げる液体と化した涅に向かって不敵にその声はそう告げた。
「俺の斬魄刀の能力なら、液体化しようとも攻撃は有効なんですよ。何しろこちらの能力も液体系ですから」
「時雨副隊長!?」
そこには確かに、零番隊の隊舎にいるはずの時雨が斬魄刀を抜いて立っていた。
そして自分に気がついた琥珀と雨竜に向かって軽く手を振る。
「隊長がちょっと心配されて見に着たんだ」
「心配って・・・」
「勿論お前が負けるなんて、隊長も俺達もまっったく思ってない。心配したのは・・・お前が涅を殺すかも知れないということだ」
そこまで言うと時雨は少し深く溜息をついた。
「別に涅の命なんてどうでも良いが・・・もしそいつなんかを殺したことで、お前が罪人扱いされるのは、隊長は勿論俺達も不本意だからな」
あはははっと笑って何気なく腹黒さを出す時雨に、初対面のせいで雨竜は余計にある種の恐怖を感じ、本能的に逆らってはいけない部類の人物である事を察していた。
そして逆に琥珀はや時雨の自分の事を考えてくれた行動に感動していたが、ふと周りを見てみると何時の間にか液体化した涅は消え去っていた。
「・・・逃げましたね」
「まあ、禍滴で追い討ち与えたし・・・先程言ったとおり、数ヶ月は何も出来ないだろう」
無論自分達に関することも一切公言できないだろうという意味も込めてそう言った後、時雨はちらりとぼろぼろの状態で倒れこんだままのネムに目をやり、すぐに彼女の傍に歩いて行き、起き上がらせた後肩に担ぎ上げた。
「よっと・・」
「えっ・・・あの・・・?」
「酷い怪我だし、このまま十二番隊の隊舎に連れて行く」
そうあっさり告げた時雨の言葉に、雨竜と言われた当人のネムは目を大きく見開いた。
「・・・どういう、ことですか?」
「どうもこうも・・・その怪我は涅にやられたものだろう?なら、一応被害者とみなして連れて行くだけだ。このまま置き去りにしても良いが、それでは寝覚めが悪いしな」
「・・・・・・・」
「ただし、俺達の事は公言しないで貰おうか・・」
念を押すようなその厳しい一言を聞き、ネムは少しの間を置いて口元を緩めた。
「言いません」
「そうか・・」
「貴方方はやろうと思えばマユリ様を殺せた・・・でもそうしませんでした・・・・・そのせめてものお礼です・・・」
ネムのその言葉があまりに意外だったのか、時雨も琥珀も、そして雨竜もまともに驚いて目を見開いた。
「・・・わからないな。あんな親でも居たほうが良いですか?」
不思議そうに尋ねる雨竜の一言に、目線をそらしてネムは少し難しそうな表情をした。
「・・・わかりません。でも・・・生きているのがわかった時・・・少し安心したから・・・」
そう言って本当にほっとしている様子のネムに、時雨と琥珀は少し複雑そうな顔をし、やがて2人とも微笑んで見せた。
「はぁ・・親があれで、何で娘はこんなに出来てるんだろうな・・・」
「まったくです」
そう言い合う琥珀と時雨の言葉に、雨竜も無意識の内に頷いてしまった。
「さてと・・・じゃあ、俺はこいつを十二番隊に連れて行くから・・・お前はそうだな・・・そいつを十一番隊に連れて行ってくれ」
「はっ・・・」
時雨が突然琥珀に告げたその言葉に、さすがに雨竜が驚いて声を上げた。
「ど、どういう・・・」
「ああ、心配しなくても大丈夫。ちょっと諸事情でな。今、十一番隊は俺達に対して協力関係にあるんだ」
にっこり微笑んで自信満々に告げる時雨の言葉が本当なのか確認しようと雨竜が琥珀の方を見ると、琥珀もそれを肯定するように頷いて見せた。
「それにうちの隊長が霊圧を辿ってな・・・お前と一緒にいた井上・・・だっけ?が、連れて行かれたの十一番隊だから」
時雨のその言葉に、そういえば織姫を連れて行ったのは十一番隊の隊員だったなと思い出した。
「うちの隊舎に来るよりそっちに連れて行ったほうが良いだろう」
「そうですね。それでは行きましょうか」
「あ、はい・・・」
琥珀に促され、まだ少し混乱しながらも、雨竜は急いで琥珀の後を追った。
その2人を完全に見送った後、時雨も踵を返し、ネムを連れて十二番隊隊舎に向かったのだった。














ネムを十二番隊隊舎に送り届け、時雨がどの辺りで零番隊舎のある空間への穴を開こうかと考えながら廊下を歩いている時だった。
目の前から「廊下は走らない」、という現世の学校のお決まりを適用したくなる、そのくらいの物凄い勢いで走ってくる2人組を発見した。
その見知った顔に少し驚いた様子を出しながら時雨は思わず声をかけた。
「日番谷十番隊長に、松本じゃないですか。どうかしたんですか?」
「っ!羽鳴か!」
声をかけてきた人物を認識し、日番谷は急ぐ足を止め、松本もそれに習って同様に止めた。
そんな2人に時雨は不思議そうに声をかける。
「どうしたんですか?そんなに急がれて。何かあったんですか?」
「あったなんてもんじゃねえよ!さっき雛森の奴が牢から消えたって報告があったんだ!」
日番谷のその言葉に時雨はさすがに怪訝な表情をする。
「雛森って・・・あの五番隊副隊長の雛森が、ですか?」
「そうだ!」
「それだけじゃなく、吉良や恋次もですよ!」
日番谷の言葉を補足するように言った松本の言葉に時雨はまた反応した。
阿散井なら脱走したことに納得がいく。
おそらくルキアを助けるために脱走したのであろうということが。
雛森の方にしてもおそらく藍染の関係で脱走したのではないかということでまだ納得もいく。
しかし、吉良だけは脱走の明確な理由が考え付かず、明らかに不可解だった。
「そういうわけで、俺達は急ぐか・・」
「待ってください!」
1秒でも惜しいというようにその場をすぐにでも離れようとする日番谷に、時雨が慌てて待ったをかけた。
「俺も・・・一緒に行きます」
真剣な表情でそう言う時雨の内心は、この時既に何か嫌な予感を感じ取っていた。












「隊長!」
勢いよく共同執務室の扉を開けた途端、すぐに時雨は自分の席に座っているを呼んだ。
時雨のめったにない慌てぶりに、もその場にいた隊員達も驚いて目を見開いていた。
「時雨?どうかしたのか?」
「大変です!阿散井、雛森、吉良の三名が各牢から脱走しました!!」
それを聞いた瞬間、室内にいた全員が驚きのあまりざわつき、は怪訝な表情をして見せた。
「・・・阿散井だけなら解るが・・・・・雛森と吉良・・・特に吉良はどういうことだ?」
「それが・・・吉良の牢だけ、外側から鍵が外されていました」
「はあ?!それって、誰かが吉良を逃がしたって事ですか?」
時雨の言葉にすぐに状況を理解して氷室が声を上げた。
そしては少し考え込むような様子を見せてはいたが、時雨が状況を話した時点ですぐ察しがついたは、厳しい口調で犯人を言い当てた。
「・・・市丸だな」
「状況的に考えて、まず間違いはないと思われます」
断定したの言葉にさらに時雨が肯定の言葉を返す。
そしてその肯定の言葉を聞いた後、は軽く溜息をついた。
「奴は・・・いや、奴らは何を考えているんだ?吉良を助けたところで、そこまで奴らに得になるとは思えんが・・・」
「それは俺にも・・・ですが、隊長。実は3人の脱走を確認に言った際、日番谷十番隊長とご一緒しまして・・・」
「冬獅郎くんと?」
時雨から出たその名前にがぴくりと反応する。
時雨からしても今までのはどちらかというと前置きで、ここからが本題といっていいのだ。
「日番谷十番隊長は、雛森を助けるといって・・・市丸三番隊長の後を追いました」
時雨からその言葉を聞いた瞬間、はどこかで線が繋がったかのような感覚を感じ、続いてさっと血の気が知らないうちに引いていた。
「それを早く言え!」
「隊長・・・?」
「奴ら、冬獅郎くんを始末するつもりだ!」
のその言葉に隊員達が驚いて目を見張っている間、既には走り出して部屋の扉に手をかけていた。
「隊長?!」
「後の事は任せる!」
それだけ告げたの耳には、驚いて慌てる隊員達の声も最早届いていなかった。












零番隊隊舎のある空間から抜け、日番谷の霊圧を辿りながら現場へと急ぐは、ある事を思い返していた。
それはあの緊急隊首会の時の藍染と市丸の会話。
は当初、あれを藍染が己が疑われないための保険として、誰かに聞かせれば良いという程度で言っていたと考えていた。
実際、は日番谷にもそういう風に自分の予想を告げていた。
しかしそれは間違いであったのではないだろうかと。
あれは実は本当に日番谷に聞かせるために言っていたのではないのかと。
わざと日番谷に聞かせ、市丸を疑わせる事で、日番谷に単独でこの一件を探らせ、そして後々厄介になりそうな日番谷を早々に潰そうとしたのではないのかと。
その考えが正しいかどうかは解らないが、とにかく今日番谷が始末されようとしていることに間違いはないと、は何故か確信を感じていた。
そしてまるでそれを肯定するかのように、現場を目の前にしたの目に映ったのは、何故か倒れこんでいる雛森と、氷輪丸の余波を受けて腕の凍りついた吉良と、そして鬼気迫る様子で対峙している日番谷と市丸の姿だった。
「終わりだ!市丸!」
日番谷がそう叫んで市丸に止めを誘うとしたのがの目には映った。
しかし次の瞬間、市丸が呟いた言葉もには聞こえていた。
「射殺せ 神鎗」
市丸のその言葉が聞こえた瞬間、はさっと血の気が引いたが、日番谷がとっさに避けたのを見て安心して胸を撫で下ろした。
しかしそれも束の間、市丸が告げた次の言葉に、日番谷同様も反応する。
「・・・ええの?避けて。死ぬであの子」
「・・・雛――」
慌てて日番谷が振り返ると、間違いなく神鎗は後ろにいた雛森に向かっていた。
そして後少しで雛森に突き刺さりそうとした時、金属同士がぶつかりあう音が響き、そしてすぐさま片方が壊れる音がした。
「・・・?!」
「・・・・・」
驚く日番谷に対し、無言のままは先程神鎗の刀身を切り落とした自分の斬魄刀を構えたまま、静かに市丸の方を睨みつけていた。
そしてそのの後ろに少し驚いた様子の松本が到着した。
「松本・・・!!」
に続いて自分の副官まで現れ、またも日番谷は驚いた声を上げた。
「・・申し訳ありません。命令どおり隊舎に戻ろうとしたのですが・・・氷輪丸の霊圧を感じて戻ってきてしまいました・・・」
そうは言って説明するものの、松本もさすがにがいることまでは予想外で、少しだけ状況が飲み込めない状態だった。
そして一方、市丸はその松本が現れてすぐにに折られた斬魄刀を元に戻し、そのまま踵を返してその場から去ろうとした。
「!待て市丸!!」
「僕を追うより」
慌てて市丸を追おうとした日番谷に対し、市丸は至って冷静な言葉を告げた。
「五番副隊長さんをお大事に」
市丸のその言葉にはっとした日番谷に、は無意識のうちに複雑そうな表情を向け、それからすぐに口を開いた。
「冬獅郎くんは雛森を・・市丸は私が・・・」
既にその場から消えた市丸をそう言ってが瞬歩で追おうとした時だった。
が突然、何の前触れもなく血を吐いたのは。
「かはっ・・・」
最初は何が起きたのか解らなかった日番谷も松本も理解できなかったが、そのままその場にが倒れこんだ瞬間、はっとして日番谷が真っ先にに駆け寄った。
?!」
慌てての上半身を起こしたが、意識が朦朧としたのかまるで反応せず、その後も先程よりは少ないが間隔を開けて血を吐いている。
・・・!?」
隊長!しっかりしてください!」
必死にに呼びかけるが、やはり全く反応がなく、それでも2人が呼び続けていると、悲鳴に近い声と共に知った気配が現れた。
隊長!!」
それは何時もとは違う状況のため、を心配して後を追ってきた時雨だった。
そして後を追って現場に着てみれば、彼の予想とは明らかに違う状況で聞きに陥っている様子のに、彼は顔を蒼褪めさせ、血の気が一瞬のうちに引いていた。
そして慌てての傍に駆け寄る。
「隊長!しっかりしてください!一体何が・・・」
「突然血を吐いたんだ。羽鳴・・・お前、何か知らないか?!」
「っ・・・知りません・・・今までこんな事、1度だって・・・」
時雨のその絶望的な一言に、日番谷は望みがたたれたような表情になり、再びに呼びかけ続けた。
!」
「隊長!隊長、どうしてこんな・・・」
!しっかりしろ・・・ぁ!」
呼びかける声はただ空しく、吐き出される紅は止まることはなかった。











あとがき

涅隊長ファンの皆様・・・
前回に引き続きすいません・・・・・・;
なんだか物凄い扱いになってしまいました;;(本当に懺悔です)
今回なんとか時雨の斬魄刀の名前と能力がちょこっと出ましたが、ちゃんとした能力の紹介はまた今度。
雨竜は原作とは別で十一番隊預かりとなりました;
ここから本当に原作とは違う展開が良く交じってきますので、どうか予めご容赦ください。
そして今回主人公最後に血を吐いて倒れる・・・・
なんで突然こんなことになったのかとか、果たしてどうなるのかとかは次回を待ってください;




BACK       NEXT