ドリーム小説
蒼紅華楽 十三




夜一が一護を連れて四深牢前から完全に去り、2人が無事に逃げ切れるよう保険として牽制の為に白哉に突きつけていた斬魄刀をが引いた後、何か言いたげに白哉はを暫く見つめていたが、すぐさま浮竹の止める声も聞かずにその場から去っていった。
その時の言葉からも、雰囲気からも、本当に白哉が2人をこれ以上追う気がないのを感じ取ったは、2人の部下を呼んで的確にその場の事後処理を行う浮竹の手腕を眺めていた。
そして花太郎や岩鷲への友好的な処置や、自分に対する追求がないことも確認すると、そのまますぐに零番隊隊舎へと戻ることにした。
あの場で自分は明らかに旅禍達に対する味方宣言をしてしまったが、浮竹は勿論のこと、あの様子では白哉もぎりぎり総隊長に告げる気はないだろうという考えに及んでいた。
しかしそれを含め、四深牢前であった事実は全て隊員達に言っておく必要があると思いながら、は隊員達が集まっているであろう共同執務室の扉を開けた。
「あっ!隊長、おかえりなさ〜〜い」
「少し帰りが遅かったのでどうしたのかと思いましたよ」
「・・・・・・少しな」
相変わらずの声援で迎える隊員達に少し溜息をついただったが、その中で時雨の様子だけ何時もと違っているように感じられた。
表向きは何時もと変わらないようで、他の隊員達も気づいていないようだが、だけは明らかに何時もとは違うということに気づいていた。
しかしは一先ずこのことは後に回し、まずは隊員達に先程四深牢で起きたことを話すことにした。
「単刀直入に言う。私の失態で、朽木と浮竹に旅禍の援助をしていることを知られた」
「朽木・・・っていうと、六番隊長のことですよね?」
解っていることではあるがあえて霧生はに確認を取った。
そもそもはルキアのことをきちんと下の名前で呼んでいる。
それはがその相手を比較的気に入っているという意思表示であり、そうでない相手は必ず姓で呼ぶのは今や周知の事実となっていた。
そしてルキアと違い、その義兄である白哉が姓で呼ばれているのも周知の事実だった。
そもそもは白哉を嫌いだと公言していることからも、が白哉を下の名前で呼ぶ事は相当な事がない限りはまず難しい。
そんなことを踏まえながら、霧生の言葉には小さく頷いて見せた。
「そうだ」
「どうしてそうなったんっすか?何か訳があるんっすよね?」
自分を心底信頼してくれている隊員達。
その全員の思っていることを代表して言った氷室の言葉に、はどこか安堵を覚えながら事実を話し出した。
「朽木の奴が岩鷲相手に始解しようとしていたのでな。それを止めた時に目的を聞かれて思わず答えてしまった」
「えぇっ?!岩鷲さん相手に朽木六番隊長が始解ですか?!」
の言葉に岩鷲を比較的近くで見て、そしてその霊圧を直に感じたことのある牡丹は、の語った白哉の行動に対し、驚きそして呆れるような声を上げた。
「・・・それは、さすがに相手の力量考えた戦いじゃないと思います」
「ああ、だから止めた。幾ら戦時特令で斬魄刀の解放が許可されているとはいえ、朽木の行動は目に余る。それに岩鷲では千本桜を食らえばひとたまりもないだろうからな・・・」
「・・・確かに」
一応零番隊隊員達は護廷十三隊の主だった者の斬魄刀の能力は把握していた。
それも偏に、全死神の個別情報を把握している琥珀がいればこその芸当である。
藍染のように自分の能力を偽っているものに対しては、そのまま間違った情報で覚えているのだが、斬魄刀の能力が予想していたものと違った程度のことで、実際に零番隊員達に対した支障はないのだ。
だが白哉の斬魄刀である千本桜の能力の情報は事実無根であると既に確認が取れており、そこから連想されるもし岩鷲に対し白哉が本当に斬魄刀を解放していた場合を思い浮かべ、零番隊員達は完全に呆れたような笑いを零していた。
「まあ、その後に浮竹、一護、夜姉と続いて現れたので、白哉も岩鷲への追撃はしなかったがな」
「えっ?・・・一護殿と夜一様がいらっしゃったんですか?」
「・・・ああ。一護の奴、無謀にも白哉に勝つ気でいたのだ。卍解もまだのくせに・・・」
「それは、いくらなんでも・・・」
確かにの言うとおり、一護の無謀さに乾いた笑いを零すものが数名いた。
十三隊の隊長は更木を除いて全員が卍解ができる。
もっともそれが隊長になるための条件でもあるのだから当然である。
当然白哉も卍解はできるが、零番隊全員一致で一護はまだ絶対卍解には到達していないだろうという予想をし、それは実際に正しい事だった。
せめて卍解を会得してからでないと白哉に挑むのは確かに無謀過ぎである。
ちなみに、零番隊員達はをはじめとして当然全員が卍解に到達している。
「夜姉が止めに入ってそのまま一護を連れて逃げた。朽木より強くすると言っていたから、おそらくは卍解の修行をさせる気でいるのだろう」
「・・・でも、卍解なんか一朝一夕で会得できませんよ。隊長のような最初から斬魄刀が屈服どころか完全服従している方ならともかく」
「それに、修行するにしても、そんな都合のいい場所なんてあるんでしょうかね?」
隊員達のもっともな言葉に、はどこか過去の記憶を辿るように言葉を紡ぎだす。
「以前、夜姉ときー兄に聞いたことがあるのだが、夜姉ときー兄が幼い頃、双極の丘の地下に誰にも知られず、こっそりと巨大な空間を作ったらしい。おそらくそこで修行をするつもりなのだろう」
の言葉から出た「こっそりと巨大な空間を」には誰も突っ込まなかった。
むしろ全員一致で、「さすが夜一様と喜助様」くらいに感心していた。
「それにきー兄が昔、3日で卍解を会得できる方法を編み出したらしい。夜姉は去り際に三日で一護を朽木より強くすると言っていたから、まず間違いなくその方法で修行をつける気だろう」
さらにのその言葉を聞き、隊員達の間に喜助にたいする賞賛の声が飛んだ。
その兄を褒め称えられる言葉には嬉しくなりつつも、すぐに気を引き締めて続きを口にした。
それは出来るだけ早く話を終わらせて時雨の様子のわけを知りたいと思っていたためだった。
「朽木の様子からすると私達が旅禍達に協力しているということが漏れる心配はないと思うが・・・念のため用心しておいてくれ」
「・・・解りました」
「・・・浮竹は絶対に大丈夫だろうが。・・・本当に私の失態ですまないな」
「そんな!隊長の行動は当然だと思います」
謝罪する自分に対してまったく素で自分の行動を肯定してくれる隊員に、は本当に自分は部下に恵まれているなと改めて思った。
「ありがとう。それともう1つ・・・冬獅郎くんのことだが」
「日番谷十番隊長ですか?」
その名前を聞いた途端、隊員達一同はぴくりと何かを期待するかのように、表情に出そうになる笑みを堪えながらの言葉の続きを待った。
「藍染はそのまま死んで、犯人ではなかったということにしてあるから。お前達も口裏を合わせてくれ」
「・・・・・・はっ?」
の意外な言葉に一同はただ呆気に取られる。
寧ろ日番谷には事実を話していてもいいくらいなはずなのに、この事態はいったいどうしたことだろうかと思っているとは口を開いて話を続けた。
「もし藍染が生きていて犯人だと断定した場合・・・冬獅郎くんならどうすると思う?」
「・・・そりゃあ、日番谷十番隊長の性格からして、1人ででもすぐさま藍染五番隊長を探し出して言及しようと・・・・・あっ」
そこでの言わんとすることに数名のものが気がついた。
そしてその考えを肯定するようには頷いて見せた。
「そうなると、冬獅郎くんの動きに気づいた藍染は・・・真っ先に冬獅郎くんを始末しようとするだろう・・・」
「確かに、やりそうではありますね・・・」
四十六室を殺し偽の指令を出し、さらに自分は死んだ風に見せかけているくらいの人物である。
確かにそれくらいのことはしそうだと誰しもが思った。
「我々ならじっと時を待つ事はできるだろうが・・・おそらく冬獅郎くんにはできない。なら、わざわざ真実を話して危険にさらすことはないと思っただけだ」
のその言葉に隊員達はただの日番谷に対する思い入れがここまで強くなっていのかと内心喜んでいたが、同時にの様子からまだ本人に気持ちの自覚がないであろう事から少し残念にも思っていた。
それに気がつかないは話を進めた。
「よって今後冬獅郎くんに対してでも、藍染は死んだことで通す。そのつもりで頼む」
「承知いたしました」
「・・・さあ、私の話は終わった。次は・・・時雨、お前の番だ」
「・・・・・・えっ?」
自分の話が終わってすぐ時雨にそう言うと、時雨は少し驚いたように声を漏らした。
「お前・・・私に何か話があるのだろう?」
のその言葉に時雨は何かはっとしたような表情になり、他の隊員達は少し驚いたような表情で時雨を見つめていた。
やがて時雨はどこか迷ったかのような口調で告げた。
「・・・できれば、人払いをお願いしたいのですが」
時雨のその言葉にそこまで深刻な事態なのかとさらに驚いた様子の隊員達だが、言われた本人はいたって冷静にこう告げた。
「ここにいるのは全員信頼のおける者達だろう。なら問題はないし、寧ろ聞かせておいた方が良いだろう」
のその言葉に時雨は目を大きく見開いた後苦笑し、他の隊員達はのその言葉にただ感動しきっていた。
そして時雨はのその言葉でまるで吹っ切れたように意を決して話し出した。
「隊長がそう仰るのでしたら。・・・・・・単刀直入に申し上げます。夜鬼殿がいらしてました」
「夜鬼が・・・?」
時雨から出たその意外な人物の名前には眉を潜めた。
他の隊員達もその名前には心当たりがあり、同時に全員が驚いたという表情を見せる。
「夜鬼殿って・・・あの夜鬼殿ですよね?!」
「・・地獄の王・夜魔様の1番の腹心であり側近であり、地獄の門の最高管理者」
「地獄鬼最強である夜鬼様がまたなんで?今の隊長の反応からして、隊長の許可はなかったんでしょう?」
「ああ・・・しかし、私が許可せずとも、あいつは夜魔王の許可で地獄から出てこれる」
そこまで言うとは疲れたように溜息をつき、さらに言葉を続けた。
「まあ正確には、私の呼び出し以外では、夜魔王の許可・・・というか、命令でしかあいつは出てこないのだが・・・まさか着ていたとな・・・」
「地獄の方々・・・特に夜鬼殿と夜魔様の気配は我々とは違うため、隊長でも感知が難しい・・・とお聞きしましたが」
「・・・ああ。私の霊力の網にもなかなか捕まらない。・・・なのに、良くお前は見つけたな」
「偶然・・・夜鬼殿のものらしき後姿を見つけまして、もしかしたらと思い追いかけたら・・・」
「・・・当たりだった、ということか」
のその言葉に時雨はどこか申し訳なさそうに返事をすると頭を縦に振った。
時雨のその解りきっていた返答を聞いたは、今はもう帰ってしまった夜鬼に対して呆れたように溜息を吐いた。
「・・・で、あいつがここに来た目的は?」
「・・・・・・」
「先程も言ったがあいつが出てくるのは夜魔王の命令あればこそだ。夜魔王がただ物見遊山をあいつに命じるはずもない」
のその言葉に、時雨は先程夜鬼がこちらに来ていたと告げた時異常の緊張感を持ち、さらに意を決した思いでに告げた。
「・・・現世で埋められていた・・・隊長のご遺体が消失したそうです」
「なっ?!・・・」
「・・・そうか」
時雨の言葉に驚いて思わず声を上げた隊員達に対し、当のは至って気のない返事だった。
しかしその実はまるで苦虫を噛み潰したような、そんな雰囲気がからは感じられた。
「・・・最も高い、そして最も悪い可能性はすぐに思いつく」
「・・・・・・」
「・・・とにかく報告ご苦労だったな、時雨。だが、これへの対処は今瀞霊廷内で起きている事を解決してからにする」
「・・・・・承知いたしました」
「・・・だが、出来るだけ早く終わらせなければならない事態になってしまったな」
の今度は完全に苦虫を噛み潰したような表情と言葉に、時雨はぎゅっと手を握るとどこか辛そうな表情を見せていた。
さすがに2人がそういう表情になった理由は他の隊員達にも解らなかった。



隊員達がと時雨の様子のおかしさを不思議そうに、心配そうに見ていると、突然がその表情を厳しいものに変えて舌打ちをした。
「・・・涅か」
外で起きている事態をすぐさま察したがその事態の中心にいる内の1人の名前を告げると、隊員の中から一際強くその名前に反応した人物が1人いた。
「・・・・・どうやら、相手は今まで私が会っていない・・・石田と井上とかいう2人だな」
「あ、それなら俺が行きます」
が告げた名前を聞いて手を上げたのは、旅禍達が瀞霊廷に侵入してきた最初の時、雨竜と織姫の2人の援護に言ったうちの1人である氷室だった。
ぱたぱたとあげた手を振る氷室に、もそのままそれを了承しようとする。
「・・・そうだな。それでは」
「待ってください」
の言葉を遮って待ったをかけたのは、何時も基本的には大人しい琥珀だった。
琥珀がこんな風にの言葉を遮ることはめったにないので、内心全員が驚いていた。
「・・・琥珀?」
「隊長。僕に行かせてください。僕は・・・・・以前から、隊長と似た理由で・・・涅が大嫌いです」
琥珀のその言葉は嫌悪と、そしてどこか憎悪の交じったようなものだった。
他の隊の隊長に対しては、「何番隊隊長」とつけて呼んでいる零番隊員達だが、涅だけは例外だった。
なぜなら、が涅が十二番隊の隊長であり、技術開発局局長であることを真っ向から否定しているからである。
彼女の中には今でも十二番隊隊長、そして技術開発局局長は喜助であるという認識があり、そのせいもあり涅のことを全面的に認めていない。
そのために隊員達も涅にだけは呼称をつけず、しかも思いっきり呼び捨てにしているのだ。
零番の隊員達は全員、涅の性癖は受け入れがたいため、個人的な意見でも嫌っていたりするが、琥珀の場合は他の隊員に比べ、明らかに嫌悪の度合いが違いすぎる。
それこそと同じといって良いほどに。
「お願いします・・・隊長」
頭を下げて頼み込む琥珀に対し、は少し考えた後、琥珀の顔を決断を口にした。
「解った。お前に任せるとしよう。実際、お前の斬魄刀の能力はある意味、奴の斬魄刀にとっては天敵かもしれないしな」
「ありがとうございます!」
のその言葉を聞いた琥珀は勢い良くお辞儀をして礼を言い、そしてすぐさま執務室から立ち去り現場へと向かったのだった。











現場の状況を目にした途端、琥珀の頭には瞬時に血が上った。
肩から胸の辺りに渡って斜めに斬られ、ぼろぼろになって座り込んでしまっている雨竜の姿は元より、何よりも雨竜同様、否涅の仕打ちのせいでそれ以上にぼろぼろになっているネムの痛々しい姿を見たからである。
しかも涅はそんなことはお構いなしに未だネムに対して暴行を働いている。
聞こえてくる内容からしてそれはとても理不尽な理由であり、納得など出来るはずもない事だった。
そして涅が最後にネムの頭を壁に強く押し付けようとした瞬間、静かに怒りを含んだ琥珀の斬魄刀が、その場にいる誰もが気づかないほどの一瞬のうちに、ネムの頭を壁に押し付けようとした片手を斬り落としていた。
その場にいた全員がその事実に気づいたのは、少しの間の後だった。
「ぐっう・・・何が・・」
「マユリ・・様?!」
「自業自得ですよ」
思わず斬り落とされた箇所を押さえようとする涅に、琥珀は後ろから冷たい声を送った。
その声にようやく琥珀の存在に気づいた涅は振り返り、ネムも少し虚ろな表情で彼の顔を見た。
「随分と酷い真似をしてましたね。親が子供をどう扱おうと他人が口出すことじゃない?そんなはずはないでしょう。非道なことをすれば、他人やましてされている子供がそれを非難しても当然良いはずです。もっとも・・・」
そこまで言って1度きると、琥珀はすっとさらに冷たく鋭い視線で涅を睨み付けた。
「貴方の取っている行動は、とても親が子供に取る行動とは思えませんが・・・」
「何者だね・・・?君は」
琥珀の言動に不快感を覚えながら、涅は琥珀を睨みつけて尋ねた。
しかし琥珀はそれをあっさりと一蹴する。
「貴方に名を名乗る気などありません。貴方に名を知られることさえ、僕には不愉快ですから」
「何だと?!」
さらに涅の怒りを煽るような言葉を告げた後、琥珀はすぐに振り返って自分の後ろで未だ座りこんでいる雨竜に近づいた。
「大丈夫・・・ではなさそうですね。・・・すいません、来るのが遅れました」
「・・・君は?」
「零番隊第六席・明塚琥珀です。貴方に以前お会いしている、時雨副隊長、氷室三席、久遠の同胞です」
雨竜に自分の正体を尋ねられ、琥珀は涅には聞こえない程度の小さな声で優しく微笑みながら名乗った。
そして雨竜は琥珀のその言葉に、琥珀が完全に自分の味方であることにほっとしていると琥珀が手を差し伸べた。
「立てますか?」
「・・・無理みたいだ。・・いや、さっきから立とうとはしているんだが・・・体が動かない」
「・・・・・彼の斬魄刀を受けましたか?」
雨竜の言葉にちらりと涅の方を見た琥珀は、涅の斬魄刀が始解されていることを確認した。
そして琥珀は当然、涅の斬魄刀の能力を把握している。
「ああ・・・」
「彼の斬魄刀の能力は、簡単に言えば脳から出る四肢への命令を遮断することです。ですから、貴方の身体の四肢は脳からの命令を受け取れない状態にある」
「・・・なるほど、通りで」
琥珀の言葉に雨竜はようやく自分の置かれている状況を理解して歯を噛み締めた。
「大丈夫です。僕ならそれを無効化できますから」
「えっ・・・?」
にっこりと微笑んでそう断言して見せた琥珀に対し、雨竜は驚いた声を上げる。
そしてさらに後ろの方からは、琥珀のその言葉を嘲笑うような声が上がった。
「随分と面白い事を言うネ。だが、私の疋殺地蔵の能力がそう簡単に破られることなど・・」
「・・・五月蝿いですよ」
あくまでも無理だという涅に対し、琥珀は振り返らないまま冷たく言い捨てた。
「見てもいないうちから自身満々に言い切らないでください。・・・本当に不快です」
そう言いながら、琥珀は自分の斬魄刀を鞘から抜いた。
「無と帰し有と還せ 元鐘」
それは確かに斬魄刀解放の合言葉だった。
次の瞬間何が起こるかと身構えていた涅と雨竜だったが、しかし2人の予想に反して特に琥珀の斬魄刀には変化はなく、2人が呆気にとられていると、少し申し訳なさそうに琥珀が雨竜に微笑んだ。
「すいません。少し、驚かせると思います」
「・・えっ?」
雨竜が何がと尋ねようとした瞬間、琥珀は斬魄刀を振り上げ何故か雨竜を斬りつけていた。
その行動に雨竜だけでなく、その場にいた誰もが目を見開いて驚いた。
しかし驚いていたのも束の間、雨竜は琥珀に非難の声を上げよる前に、先程斬りつけられた痛みがまるでないことに気がついた。
よくよく見ると確かに琥珀が斬りつけたはずなのに、その後となる傷はどこにもなく、それどころか動かないはずの四肢が動いていることに気づく。
「・・・これは」
「僕の斬魄刀・元鐘の能力は、斬りつけた対象物の異常を全て取り除くこと。もちろん、斬りつけるといっても実際に傷をつけることはありませんが」
にっこりとそう自分の斬魄刀の能力を告げた琥珀は、涅に向かって刀を向けた。
その斬魄刀の刀身の色は、先程と違い何故か青くなっていた。
「ゆえに、僕の斬魄刀は貴方の斬魄刀にとっては天敵です。能力が無効化されますからね。ああ、ちなみに持ち主である僕は斬りつけなくても、解放さえしてれば常に異常を取り除けますので」
その言葉には、例え自分を疋殺自走で斬りつけようと、四肢の動きを奪うことはできない、斬魄刀を震えなくなるわけではない、という意味を滲ませ勝ち誇ったような様子を見せる。
その琥珀の様子は、他の零番隊員達がこの場にいれば、普段ならありえないと口をそろえていう姿であった。
それだけ彼が涅に対ししていい感情を持っていないことが解る。
そしてふと、琥珀はある事を思い出して雨竜に話しかける。
「・・・そういえば、貴方は滅却師だそうですね」
「ああ、そうだけど・・・」
「・・・そうですか。なら・・・目の前にいる人物は、貴方にとっても仇というわけです」
「・・・えっ?」
琥珀の言わんとすることの意味が解らず、雨竜は目を見開いて少し驚いてみせる。
その反応に本当に言うべきかどうかと迷った琥珀だったが、すぐに迷いを捨てて話を続ける。
「この人は滅却師を実験材料・・・にしたんです」
「・・・っ!」
琥珀のその言葉に雨竜は驚いてさらに目を大きく見開いた。
「どういう・・」
「文字通り。僕も実際に見たわけでなく、情報程度に知っているだけですが・・・研究と称し、生きたまま頭蓋をに穴を開けたり、自分の子供を殺させたり、切り刻み、すり潰し、ドロドロになるまで研究した!」
最初は怒りを抑えるように静かだった言葉も、段々と耐えられないというように完全に怒りを露にした強い口調に変えた。
「彼らは必死に抵抗したらしいです!ですが、あの疋殺地蔵で自由を奪われて・・・誇りまでズタズタにされて・・・」
「・・・そんな」
「だから、僕は彼を許さない!喜助様が作られた技術開発局を地に落とすような行為を繰り返している!そんな人物が、のうのうと喜助様に取って代わって、局長の座についていることを、僕は絶対に許さない!!」
そう叫んだ琥珀からは明らかに憎悪の色が滲み出ていて、雨竜は自分に微笑みかけて穏やかな様子を見せていた時のギャップもあり、余計に驚いて冷汗を流していた。
その琥珀の様子に多少涅も息を呑んでいるようだが、それでもあくまで余裕を見せようと琥珀を嘲笑して見せた。
「何かと思えば、先代局長の支持者かネ。よくもあんな罪人にそこまで肩入れできるものだ」
「罪人・・・?喜助様が罪人わけがないでしょう。・・いや、罪人というなら寧ろ貴方の方です」
「私が・・・?」
「そうです。滅却師のことにしろ、貴方のやってきた数々の非道は十分罪でしょう。・・・それに」
琥珀はちらりと辺りを見渡し、そして苦虫を噛み潰すように口を開いた。
「僕はここに向かう直前まで今この場にいる人数より多くの死神の霊圧を感じていました。しかし、それが・・・突然消えた。文字通りに・・・・・実際この場に来てもその人物達はいない」
「それで・・・?」
「彼らを捨て駒にしましたね」
琥珀のその一言に涅が表面的に少し驚いているようだが、口調は実に楽しそうに肯定の言葉を告げた。
「君は頭が良いようだネ。その通りだョ。彼らには旅禍を始末する爆弾になってもらったのさ。まあ、さして役に藻立たなかったがネ」
涅のその全く悪びれない発言は、琥珀の怒りをより煽った。
そして琥珀は同じように涅に対して怒りを覚えている雨竜に向かって静かに告げた。
「・・・聞きましたか?彼は自分の部下を捨て駒にしたことをなんとも思っていない」
「ああ・・・」
「何故・・・掟を破ったとはいえ、人の命を助ける行為をした人物が処刑判決を下されたのに・・・彼のような自分の部下を捨て駒にしたり、非道な行動を行った人物は罰せられないのでしょうね」
琥珀のその言葉に前者はまず間違いなくルキアであるという事を雨竜はすぐに察した。
確かに自分達の常識の範囲から言えば、琥珀の言うようにどちらかといえばルキアの取った行動は当然であり、ここでのうのうとしている涅の方が処刑されるに値するのではないのかと思った。
そう思うと、先程の琥珀の話した滅却師達に関する話が余計に腹立たしく感じられた。
そんな怒りにかられた雰囲気を琥珀と雨竜が発している中、涅は溜息をついてなにやら話し出した。
「やれ、やれ。随分のいいようだネ。それに先程の滅却師の話にしても、私だって随分苦労させられたんだョ」
「・・・苦労?」
琥珀と雨竜がその言葉に反応したのを確かめると、涅はまるで半分自慢するような口調で話を続けた。
「数の少ない滅却師には監視がついていたんだョ」
「・・・それは知っています」
そんな事は今更言われずとも解っていると、琥珀にとっては何を言い出すのかという感じだった。
「その監視役の死神を手懐けてわざと救援を遅らせる。そうして連れ帰った魂魄を研究体にするわけだョ。全くえらい手間だと思わないかネ」
その言葉を聞いた瞬間、琥珀は何を言っているのだと余計に怒りが出てきた。
それは全て涅の勝手な都合であり、そんな勝手な都合のために、おそらく何人もの死なずにすんだ滅却師が死んだのだろうと、琥珀は滅却師達を哀れに思うと同時に涅に激しい憤りを覚えた。
そしてそれを聞かされた雨竜はどんな思いでいるだろうと、琥珀が雨竜の方を見てみると、彼は何故か呆然とした様子で涅の話を聞いている。
それは何か思い当たることがあるような、そんな様子だった。
「一番汚い奴は薄汚い爺さんでネ。弟子だか孫だかの名前をずーーーっと呼んでいるんだョ。気味が悪くてネ」
そう言いながら涅はなにやら懐から1枚の紙切れを取り出した。
それはどうやら写真のようだった。
そしてそれを肯定するかのように涅は次の言葉を口にした。
「写真見るかネ?どうせ研究後の写真だから・・・原型を留めちゃいないがネ」
放り投げられた写真に写ったその人物の悲惨な姿を見た瞬間、琥珀は目を大きく見開き頭の中が真っ白になったが、すぐに涅のした非道に怒りのまま彼を睨みつけていた。
「・・・貴方は!」
そんな琥珀の怒りなどお構いなしに、涅は記憶を辿るように言葉を続ける。
「・・弟子の名はなんと言ったかナ・・・いかんネ。どうも私は研究を終えた物に対する・・・興味が」
そんな言葉を続ける涅に怒りが増幅しながらも、あんなものを見せ付けられた、ある意味当事者とも言える雨竜が先程から何の反応も示していないことに、それほどまでにショックだったのかと琥珀が彼の方を見ると、雨竜は静かに霊圧を膨れ上がらせていた。
その霊圧の上昇に琥珀も涅も驚く。
「・・・弟子の名を・・・教えてやろうか・・・」
激しい怒りを静かに含んだ声をそう言いながら、雨竜は立ち上がった。
「雨竜・・・石田雨竜だ・・・」
琥珀はそれを聞いてすぐにはっと気がついた。
つまり先程見た写真に写っていた人物は、雨竜の師であり実の祖父である人物。
雨竜があれほど最初何の反応も示すことが出来ないほどショックを受けていたのはそのためだったと琥珀はようやく気づいた。
そして激しい怒りにかられた瞳で涅を睨みつける雨竜を見つめた。
「滅却師の誇に懸けて、僕は、お前を殺す」
「・・・ホウ」
雨竜のその完全な憎悪を含んだ強い決意を聞き、まるで同調するかのように琥珀は斬魄刀を構えなおしていた。












あとがき

思ったよりもちょっと長くなったので今回はここできります。
毎回毎回、中途半端で申し訳ありません。
本当はこんなに長くなる予定じゃなかったんですけどね・・・涅隊長戦・・・
思った以上に琥珀と雨竜(の怒り)の息が合って長引きました。
本当なら琥珀出てきて、怒りぶちまけて後は一方て(自主規制)
涅隊長が琥珀の事を知らないのは、琥珀が顔見せの時わざと嫌がって会いに行かなかったからです;
琥珀の斬魄刀の名前を能力をようやく出せましたが、彼の斬魄刀の真価は実はこれからです。
ちなみに今回琥珀が言っていた涅隊長に対する不満というかご意見は私が常日頃から思ってるものです;
掟破りとはいえ、人の命を助けたルキアが処刑で、平気で部下を爆弾にしたり非道な研究している涅隊長がお咎めなしって・・・どうなんでしょうか?
考えてみれば、戦闘大好き、殺し合い好きと公言している更木隊長でさえ、味方(死神)1人も殺してないんですよね・・・(実は)
まあ、そんな更木隊長が私は大好きですが(多分私的トップ10入りはしてると思われます)
尸魂界の掟って・・・一体どうなってるんでしょうか?;






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