ドリーム小説
蒼紅華楽 終章
俗に言う藍染の反乱から早一週間。
を始めとする零番隊隊員達にとっては、が逆五行曲霊の一部を倒してから一週間。
怒涛の騒ぎが嘘のように、尸魂界は今とても平和である。
「平和だな〜〜・・
「そうだな。平和で暇すぎるよな・・・」
牡丹が淹れたお茶を飲んでまったりしながら、一同はそんなことを呑気に口にしていた。
「まあ、色々あったけど、皆無事で良かったな」
「・・・おいっ」
「特に隊長ですよね・・・まさか界繋天桜が通用しない相手が出てくるとは・・」
「・・・・・おいっ」
「・・まあ、相手はあの逆五行曲霊だったからな。しかし、本当にご無事で何より・・・」
「だから、おいっ!」
後ろで聞こえている声を無視しながら話を進めていたのだが、いい加減しつこい上に我慢も限界と声を荒げたその声に、一同はわざとらしく振り返る。
「・・・なんですか?夜鬼殿」
「なんですかじゃないだろ!いい加減にしろ、この状態!!」
怒りを完全に露にした様子で声を荒げてそういっているのは確かに夜鬼である。
ただしその姿は、天井からつるされた縄にぐるぐる巻きに縛られ、逆さ吊りにされているという、とても地獄の王の側近の姿とは思えない状況であった。
「いい加減にしろといわれましても・・・隊長からのご指示ですので」
「・・・その割には、随分と楽しそうだな。時雨」
「そーですかーー?」
満面の笑みで告げる時雨に対し、夜鬼は引き攣った表情をしながらそう言ったが、それに対して時雨はわざとらしく返してみせた。
他の隊員達からはその時、時雨から黒いオーラが出ていたように見えた。
「・・大体、夜鬼殿が悪いんですよ。隊長のご遺体の事が発覚されてから、真相究明に至るまで遅すぎる・・というか、ぎりぎりでしたし・・・・それに、最後の最後で結局間に合いもしなかったですし」
時雨のいう通り、その不甲斐なさには不満をもらし、夜鬼を尸魂界に引き留めて、時雨達に何か適当な罰を与えるように命じたのだった。
これには何か溜まっていたのか、時雨が嬉々として参加していた。
「だからって、一週間も逆さ吊りにするな!俺にだって仕事があるんだぞ!!」
「ああ、それなら・・・夜魔王様には隊長が許可頂いているから大丈夫ですよ」
「姫君―――!っていうか、夜魔様――――――!」
直属の上司まで容認だった事実を初めて知り、夜鬼は泣き出してしまいたい気分だった。
しかしその考えを消し去るように首を振ると、目隠しをしているはずのその目で時雨を睨みつけて口を開いた。
「百歩譲って俺の対処が遅すぎたとしても・・・天国の連中はどうなんだよ?!あいつらなんて今回気づいてすらなかったんだぞ!!」
「それに関しては、隊長は・・・『まあ、あっちは尸魂界と殆ど関わってないから仕方がない』って、仰ってました」
「・・・・・・贔屓だ」
時雨にさらりとしたその言葉に、夜鬼は感じられた事実をそのまま口にした。
しかし実際には別に贔屓などではなく、は本当に単純にそう思っただけなのだ。
「・・・こうなったら、姫君に直訴・・・・・・・って、姫君はどこだ?」
「「「「「「「・・・・・・・・・・あっ・・・」」」」」」」
夜鬼の言葉に一同は始めて気づいて辺りを見回したが、先程まで居たはずののその姿は何時の間にかそこにはなかった。
そして一同はいつかと同様、また呆然と立ち尽くしていたのだった。
その頃、十番隊の隊舎の中では、酷く騒がしい事態が起こっていた。
「ギンがなんぼのもんじゃーい!!」
ろれつの回っていない口調でそんな事を叫ぶ声と共に、何かが割れる音が響き渡った。
「へんな眼ェしやがってェ!!」
「そうだ、そうだァ!!」
「あんな奴しるかァ!!!」
そんな事を叫び合っている騒ぎの原因である松本と吉良は、2人ともほぼ完全に酔いが回っている状態だった。
その2人の様子を日番谷は、少し顔を引き攣らせながら静かに見ていたが、いい加減面倒だと思い2人に向かって口を開いた。
「・・お前ら、いい加減そのくらいにしろ」
「ええっ〜〜!良いじゃないですか、隊長〜〜」
「・・・そもそもこんな昼間から酒を飲むな。しかも、ここは執務室だぞ」
「・・・隊長〜〜・・・その状況でいっても、ちっとも説得力ないですよ〜〜」
真面目な意見を口にしていた日番谷だったが、松本から出たからかうような反論にぴくりと反応した。
何故なら現在の日番谷の状況は、座っている自分にが正面から思いっきり引っ付いているという状態だったからだ。
「こんな昼間から執務室でいちゃついてていいんですか〜〜?」
「ひゅーひゅー」
「お前ら・・・」
松本に続いて吉良にまで普段は絶対に口にしないような言葉でからかわれ始め、日番谷は顔を真っ赤にしながら怒ってその場から立ち上がろうとした。
しかしが引っ付いていることに気づきその場は止めたが、気づくいつもと違って自分より体制が低い位置にいるが、じっと上目遣いで自分の方を見つめている。
「・・・?」
「・・・冬獅郎くん・・・私邪魔・・・?」
小首を傾げて可愛らしくそう尋ねられれば、誰だって邪魔だといえるはずはない。
そもそも日番谷は本当に邪魔だとは一欠けらも思っていないのだ。
「そんなわけ、ないだろ・・・」
「・・・良かった」
日番谷の言葉にほっとしたように微笑むと、は嬉しそうにまた日番谷の胸に擦り寄った。
「いや〜〜・・本当にここ熱いですね〜〜」
「・・松本・・・お前、殆ど素面に戻ってるだろ」
「そんなことないですよ」
満面の笑みでそう言う松本は明らかに胡散臭かった。
「いいか、お前・・・・・・って、吉良!何してやがる!!」
溜息をついて松本に文句を言おうとした瞬間、日番谷はぎょっとしてその言葉を飲み込んで慌てた。
何故なら、明らかに酔いの回りまくった吉良が、いきなり死覇装を脱ぎ始めたからだった。
そしてその日番谷の様子にも再び頭を上げる。
「・・・?なに・・・?」
「ばっ・・・見るな、!」
周りの様子が気になったが吉良の方を見ようとした瞬間、日番谷は慌てての眼を塞ぎ、そのまま吉良の方を見せないようにするため、自分の胸に強くの顔を押し付けた。
それが嬉しいのか特に抵抗する気配もないにほっとしながら、日番谷は既にどうしようもない状況になってきている吉良を見ながら松本に向かって叫んだ。
「松本!早く吉良を止めろ」
「ええ〜〜、こっからが面白いんじゃないですか?」
そう言って全く止める様子のない松本に頭が痛くなりながら、自分はを抑えているため身動きのないこの状況で吉良をどうしようかと日番谷が悩んでいた時だった。
ごんっという鈍い音と共に、吉良は泡を吹いてその場に倒れこんだ。
「何・・・うちの隊長の目の前で、見苦しい真似してるんだ?」
吉良の行動を蹴りという手段で止めたのは、満面の笑顔を浮かべながら、しかし出しているオーラは明らかにそれとは正反対で、絶対零度と思える口調の時雨だった。
「・・・時雨」
「・・時雨?」
「日番谷十番隊長、隊長に見せないように行動したのはお手柄です」
「・・・・当然だろ。っていうか・・・・その手のものはなんだ?」
日番谷に対して満面の笑みで褒め称える時雨だったが、逆に日番谷は引き攣った顔をしながらそう尋ねた。
時雨の手の中にあるのは、明らかにカメラと名のつく物体だった。
その日番谷の問いに暫しの間の後、何も答えない時雨に日番谷が先程とは違う質問を口にする。
「・・・いつから、デバガメしてた?」
「・・・・・急に隊長がいなくなられたので、こちらかと思って見にきましたけど、当たりでしたね」
一瞬の間の後、綺麗さっぱりと質問を無視してくれた時雨の言葉に、日番谷は顔を引き攣らせ眉間に皺を作った。
「丁度良いわ〜。羽鳴、あんたも飲んでく?」
「今は遠慮しておく。今度誘ってくれ」
松本の誘いをやんわりと笑顔断った時雨の手元は、すかさず何時でもシャッターを切れる体制に入っていた。
その様子を目にした日番谷の眉間の皺がまた増える。
「何よ、付き合い悪いわね〜〜・・・」
そう言って残念そうにしながら目線を窓の外にやると、松本はあるものを発見してすぐさま窓の近くに行く。
「おーい、修兵ぇ!!ちょっと寄ってきなさいよ!!」
「はい?」
突然松本に声をかけられた窓の外の檜佐木は、一瞬何を言われたのか意図が解からないといったように呆けた表情をした。
「あんたどうせヒマでしょ!!こっち来て呑んでけって言ってんの!!」
「いーっスね。いただきます!」
「狛村隊長もどうですかァ!?」
「・・いや、儂はいい」
しかし次の言葉ですぐに意図を理解した檜佐木はかなり乗り気になったが、一緒にいた狛村の方はあっさりと誘いを断った。
「相変わらずカタい人ねェ・・てか狛村隊長、もう鉄笠かぶんないのね」
「みたいっスね。俺はもうあっちのカオも見慣れましたけど」
「そーね。いいんじゃない。あたし隠し事されてるみたいであの笠苦手だったし」
そう言って2人で狛村の去った方を見ながら何気なく会話をした後、ふと檜佐木が室内に目をやるとその中の光景を凝視して驚きの声を上げた。
「って、なんで隊長と羽鳴がここに?!っていうか、うお!?どうしたんだ吉良!?ベロンベロンじゃねーか!!」
零番のや時雨が何故かの場にいることや、あまつさえが日番谷に引っ付いていることにも驚いたが、それさえも吹き飛ぶくらい現在の吉良の状態は檜佐木には衝撃的だったようで、その状態の方により驚いてしまっていた。
そんな檜佐木の狼狽ぶりを松本は気にせず、また窓の外にある人物達を発見してそちらに声をかける。
そこにはなにやら急いで走っている一護と織姫の姿があった。
「一護ぉ!織姫ぇ!!あんたらもどう!?いい酒あるわよう!!」
「あ!あとでもらいま・・・」
「未成年です!」
そう言って颯爽と走り去っていく2人の後姿を見ながら松本は、お茶を片手に少し寂しげに口を開く。
「おいしいお茶もあるわよう・・・つれないのね・・・」
「お茶!?それこっちにください、乱菊さん!!吉良が泡ふいてるから!!吉良!!しっかりしろ吉良ァ!!つーかなんでフンドシ一丁なんだオマエ!?」
「大変だな〜〜」
「羽鳴も見てないでなんとかしろよ!」
「やだ」
にっこりと笑顔で拒否されたその言葉に、檜佐木の顔は一瞬引き攣った。
「おんやァ。楽しそうじゃないの。ボクも混ぜてくれないかなァ」
「やですよ。隊長混ぜて七緒におこられるのあたしなんですからね。てかさっき七緒がさがしてましたよ?」
この騒ぎを聞きつけてきたのか上機嫌の京楽にすっぱりと松本は断りを入れる。
そしてその後ろで必死に吉良の身を案じて声をあげている檜佐木のことは無視する。
「つれないね〜〜。あ、捜してるといえば、さっき一護くん達が誰か捜してるみたいだったけど、ここには着てないの?」
「・・・一護殿達ならさっきここ通られましたけど。何も仰っていませんでしたよ」
京楽の言葉に時雨が反応してひょっこり顔を出すと京楽が少し驚いたように目を向けた。
「あれ?羽鳴くんがいるなんて珍しい。おや、しかもそっちにはちゃんまでいるね」
時雨以上にに、しかも日番谷に引っ付いている状態ということで、余計に珍しいものを見る目で京楽は視線をやる。
「隊長はそんなに珍しくないですよ。事件が起こって以降、毎日ここに来てますから。うちの隊長に会いに」
「へ〜〜・・それはそれは・・・」
「・・・お前ら、その表情はなんだ?」
松本と京楽の意味深な言葉とにやにやとした擬音の相応しい笑みに、日番谷は顔を少し赤くして顔を引き攣らせる。
「いや〜べつに。・・・それにしても一護くん達、人捜ししてるならちゃんに聞けば良かったのにね」
「ああ、確かに。隊長の探査能力って凄いですからね〜〜」
「・・・そいつは無理だな」
日番谷の先程の質問を適当にはぐらかし、先程の一護達の事に話を逸らす京楽と松本に対し、日番谷は深い溜息をついて否定の言葉を口にした。
「・・なんでですか?」
「そもそもあいつら急いでてがいることに気づいてなかった。それに、気づいていたとしても、こいつさっきから寝てるからどっちにしろ無理だ」
そう言って日番谷が視線を落とした先のは、穏やかな表情でスースーと静かな寝息をたてて寝ていた。
「あら、本当だわ」
「・・言っておくが、近づくなよ。こいつ、自分が寝ている時に他人が、刀が届く射程範囲内に近づくと問答無用で攻撃してくるから」
「・・まじですか?」
珍しいものを見たというように近づこうとした松本を静止した日番谷の言葉に、檜佐木は思いっきり顔を引き攣らせてしまった。
そして檜佐木の単純な問いに日番谷はこくりと頷いて肯定した。
「成程・・・・・でも、なんで隊長は大丈夫なんですか?」
松本にそれを言われて日番谷ははっとした。
確かに人が近づいただけで起きるなら今のこの状況や、以前のあの状況はどう説明するのか。
ふとそう考えた瞬間、あの時の事を思い出して少し顔を赤くした日番谷を楽しげにみつつ、時雨はあっさりとその理由を説明する。
「確かに隊長は寝ていらっしゃる時に近くに他人が来れば自己防衛本能が働いてすぐお目覚めになるけど・・・・・特に心を許した相手に対しては安心して起きることはないからな」
「・・・そうなのか?」
「はい。日番谷十番隊長以外だと、俺達零番の隊員と夜一様と喜助様・・・・・後は、夜鬼殿と天陽殿くらいですね・・・俺が知る限りでは・・・」
天陽というのが誰だかは解からなかったし、この時はあえて聞く気にはならなかったが、つまりそれくらいしかが特に心を許した相手はそれだけしかいないということだ。
しかも時雨は自分が知る限りではといっているが、ことのことに関しては時雨は本当に詳しいので、本当にそれくらいしかないのだろう。
その中に自分も入っているとなると、日番谷はむしょうに嬉しくなってくる。
「まあ、そういうわけです。さてと・・・隊長がお眠りになっているし、丁度良いです。これ、その辺に捨ててきます」
そう言ってなんでもないようににっこりと笑い、出て行こうとした時雨の手に持たれたそれは、酔いが回って倒れ伏した間違いなく吉良だった。
その時雨の行動に檜佐木は慌てて声を上げる。
「って!捨てるってなんだ?!お前、そんな状態の吉良どうするつもりだよ?!」
「だからその辺に捨てるんだよ」
「捨てるな!!」
「・・・少し静かにしてくれないか?檜佐木。・・・・・・お前の声で隊長が起きられたら、責任は取ってくれるんだろうな?」
最後の言動がはっきりいって止めだった。
檜佐木の言っていることはどう考えても正論なのだが、黒い笑顔と声とオーラを発揮している時雨を前に誰も勝てるはずもなかった。
「じゃあ、そういうことで」
そして時雨はそのまま元の笑顔に戻り、何事もなかったかのようにきらを引きずってその場を後にした。
その際、の愛らしい寝顔をカメラにおさめる事を忘れていないのだから、ある意味さすがといえる。
「・・・すまん。吉良ァ」
「檜佐木くん、自分を責めるものじゃないよ」
「そうね。あの状態の羽鳴に逆らったら、確実に殺されてたわね」
後輩を助けられなかった自分の無力を嘆く檜佐木に対し、京楽と松本はぽんっと肩を叩いて慰めたのであった。
色々とあるうちにあまりに五月蝿くなってきたあの場を離れ、日番谷は未だに眠るを抱えて自分の部屋へと戻ってきていた。
「はぁ・・・」
「おお、ここにおったか」
安眠しているの顔を見て安心して溜息をついた瞬間、後ろから突如聞こえた声にびくっと思わず肩を震わせてゆっくりと後ろを振り向く。
「お前・・」
「霊圧を探ってどこにいるか捜しておったが・・・・・相変わらずよう寝るのう」
半ば驚く日番谷の言葉は無視し、突然現れた夜一はまっすぐの傍に来ると、微笑ましそうにの頭を撫でた。
そしてそれでも起きないに、時雨が先程言っていた事が事実であると日番谷は確信を持った。
そう思っていると、夜一はの身体を揺らして起こし始めた。
「・・・ちょっと起きてくれぬか?」
「・・・んっ・・・・・・・・・・夜姉ぇ」
身体を揺らされて起きたは、目をこすりながらまだ覚醒の浅い思考ながらも、起こした相手が夜一である事を確認すると、そのまま甘えるように夜一に抱きついた。
その状態に夜一は嬉しそうに笑うが、日番谷はどこか複雑といった様子だった。
しかし次に夜一が口にした言葉は、それさえもどうでもよくなるほど、日番谷にとっては衝撃的な発言だった。
「・・・、儂らは明日現世に戻る予定だが・・・・・お前も一緒にくるか?」
「なっ?!」
あまりの言葉に日番谷が思わず口を挟もうとしたが、それを夜一は手の動きでやんわりと静止させた。
一方のはまだ完全に目が覚めていないというのもあり、正確に何を言われているのか理解できないようだった。
「・・・以前にお前を置いていったのに今更と思うかもしれんが、それはお前まで儂らの問題に巻き込んではならんと喜助と話をして決めた事だ。しかし今回の件で多少尸魂界の儂らに対する風当たりも多少変ったと思う・・・じゃから、お前さえ良ければ、儂と一緒に現世にこんか?喜助も喜ぶぞ」
そう言って夜一が全て言い終わると、はぼうっとしながらも少し考えるような素振りを見せていた。
日番谷がひょっとしたらが首を縦に振るのではと、不安になりながらの答えを待っていると、日番谷の考えとは正反対に、答えを出したの首を横に振られた。
「・・嬉しいけど。私はあくまで夜姉ときー兄に尸魂界に帰ってきて欲しいの」
「・・・・・そうか」
「うん。それに、私今は零番の隊長だから・・・時雨達隊員を置いて勝手に居なくなるわけにはいかないし・・・・・それに・・・・・」
ゆっくりとした口調で答えを返しながら、1度言葉を切るとは日番谷の方を見て微笑んで告げた。
「・・・こっちには冬獅郎くんが、いるから・・・・・・」
「・・・・・そうか。起こしてすまんかったな」
「ん・・・おやすみ・・・」
夜一の言葉から話が終わったと認識したは、ただ一言そういうとまた眠りの世界へと旅立っていった。
そしてが再び完全に眠ったことを確認すると、夜一はまたその頭を優しく撫でた後、笑みを浮かべながら日番谷の方に向き直った。
「と、いうことじゃ。今後もくれぐれもをよろしく頼むぞ」
「あ、ああ・・・」
「まあ、の性格上分かっていたことではあったがな・・・・・駄目元できいてみただけじゃ」
それはつまり、が頷けば本気で連れて行くつもりだったということだ。
日番谷は今更ながら、が首を横に振ってくれた事実に安堵するばかりだった。
その日番谷の様子を楽しそうに見ながら、夜一はの身体を日番谷に預け、日番谷が声を出すよりも早く立ち上がり出口の方に歩いていく。
「が選んだお主になら任せても大丈夫じゃろ。時雨達もおることじゃし・・・・・じゃが・・・」
くるりと振り返った夜一のその表情は、先程まで浮かべていた笑みとは違い、とても厳しい眼光だった。
「儂の義妹を泣かせたり、傷つけようものならただではおかん。努々忘れるな」
「ああ・・・当然だ」
眠るの身体をぎゅっと抱きしめながら簡単だったが、真剣な表情でのその答えに夜一は満足したようにまた笑うと、ひらひらと手を振ってその場を後にした。
その後姿を少しの間眺めた後、日番谷は安堵で脱力し再度溜息をついた。
が夜一の誘いを断った事実は本当に日番谷にとっては言い方は悪いが幸いなことだった。
しかしふとあの時のは少し寝ぼけ気味であったし、明日の別れまでは時間がまだあるのだから、何時答えがくつがえるのか解らないという考えに突如至ってしまった。
考えてみればは夜一と浦原のために嫌いな死神になったといっていた。
それだけの思い入れのある相手の誘いを本当に断りきれるのだろうか。
考えれば考えるだけ日番谷はまた不安になってきたが、突然ぽつりとまだ眠っているが声を漏らした。
「・・冬獅郎くん・・・だいすき・・・」
どんな夢を見ているのか解からないが、夢心地に告げられたその言葉に、日番谷は少し顔を赤くさせる。
そしてその言葉を聞いた瞬間、先程までが信じられないくらい、下手に不安を覚えるのがどうでもよくなってきた。
明日の事は不安が現実にならないように祈るだけだと結論を出すと、日番谷は眠るを抱きしめて自分もそのまま眠りに落ちることにした。
日番谷の祈りが通じたのか、が本当に現世に行くことはなかったのはまた別の話である。
あとがき
第一部の最終回であるにもかかわらず、また中途半端な終わり方で申し訳ありません。
おまけに最後なのに主人公の出番がなんかすくない・・・(日番谷くんが主人公みたい;)
でもようやく第一部も終わりを迎えることが出来ました。
前回の更新からかなり立っていると思いますが、見捨てず足を運んでくださった皆様ありがとうございます。
色々すっ飛ばしているのは後日上げる予定のおまけをお待ちください;
日番谷くんがどうやってあの状況から助かったのかとか・・(時雨はまあ、時雨ですから;)
原作と違って日番谷くんが乱菊姉さんと吉良の酒乱状態(?)のシーンで途中抜けしなかったのは、ここでは雛森は無事助かっているので、見舞いに行く必要がないからです。
代わりに主人公がずっとべったりですが・・・;
こんな話にも関わらず、皆様お付き合いくださってありがとうございますv
次はおまけや小話、短編・・・そして噂の(?)第二部を書いていきますので、どうか更なるお付き合いをよろしければお願いいたします。
追伸、夜鬼がその後どうなったかは解かりません(笑)
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