ドリーム小説

蒼紅華楽 二十二




半ばそういった予感はしていたが、出来れば当たってほしくはなかったその予感が、実際に目の前で現実となっている光景に、は暫く微動だにできず呆然としていた。
「・・・ようやくお出ましか。形代の姫巫女」
嘲るようなその声にぴくりと反応し、ようやくそちらを振り向いてみれば、そこには獲物を見るような笑みで自分を捉えている、かつての自分の身体を持った自分の最大の敵とも言えるそれがそこにいた。
「・・・逆五行曲霊」
「そう呼ばれるのも久しいな・・」
その声を聞いた瞬間完全に怒りを露にした様子のは曲霊を睨みつけた後、瞬歩で時雨の傍に落ちていた斬魄刀の天桜を拾い上げる。
「・・・天桜」
「はいっ」
の呼びかけに応えて女性の姿である天桜の本体は瞬時に返事をし、次の瞬間その姿はその場から消えていた。
それを確認してすぐには自分が手に持つ天桜を鞘から抜いて静かに口を開く。
「・・・卍解・・・界繋天桜・・・」
がそう口にした瞬間、本人と曲霊、そして瀕死状態の日番谷と時雨の姿はその場から掻き消えていた。
「き、消えた・・・」
突然の事態に取り残された勇音は驚き、呆然と目を見開いて呟いた。
勇音だけでなく、落ち着いたように見せてはいるが、彼女同様事態を把握できていない卯ノ花も怪訝な表情で、達がいた場所を見つめていた。
ただ1人、取り残された3人の中で4人が消えた理由を理解できている久遠が、2人に向かって言葉を口にした。
「・・・心配ない。隊長の卍解に俺達だけが取り残されただけだ」
「どういうことですか?」
それだけでは簡単すぎて解らないといった卯ノ花の言葉に、久遠は別に隠してどうなるわけでもないと、正直に事情を話しだす。
「隊長の卍解、界繋天桜は・・・言ってみれば空間能力だ」
「空間能力?」
「そっ。現実世界とは似て非なる異空間を作り出す。むろんその異空間で起きたことは現実の空間にはまったく影響ないし、その異空間にいけるのは隊長が望んだ相手のみ」
「・・ようするに、激しい戦闘で現実に影響を与えないための能力・・・ってことですか?」
零番隊隊長が行使する卍解にしては、あまり凄くないようなその内容に、勇音は拍子抜けしたように久遠に尋ねた。
しかし久遠は余裕の笑みを浮かべて首を横に振って否定して見せた。
「いや・・そんな簡単なもんじゃないさ」
「・・・どういうことですか?」
「あの異空間は隊長の意思そのものといっても良いもの。つまり、隊長が思ったこと全てが現実になる」
「なっ・・・」
「現実の世界に影響はないといってもそれは、あくまでそれはあの異空間に現実世界から、引き摺りこまれていないものに対してだけ。例えば、あっちでこっちと同じ建物を破壊しても、こっちの世界の同じ建物は破壊されない」
久遠は2人が零番隊の隊舎に来たことがないため、あえてこの時説明を省いたが、零番隊の隊舎がある空間が常春であることや、季節を無視した植物が入り乱れて咲いているのは、実はがこの天桜の能力を応用しているためだった。
もちろん、普段から卍解しているわけではなく、力の一部をあえて引き出しているだけである。
「だけど現実からあの空間で引き摺り込まれたものに関しては、あの空間で受けた影響は現実の世界に戻ってもそのままだ。隊長が今回時雨副隊長と日番谷十番隊長まで一緒に連れて行ったのもそのためだろ」
「それはどういう・・・」
「ようするに、隊長があの異空間で『2人の傷はすぐさま完治する』とか思えば、本当にすぐに完治するわけだ」
久遠のその言葉に驚いて勇音はただ呆然と彼を見ていたが、卯ノ花はそこで何かに気づいたような表情をして久遠に声をかけた。
「・・・隊長の思ったことが全て現実になると言われましたね。それはもしや・・・」
卯ノ花が何を尋ねようとしているのか久遠にはすぐに想像がつき、その考えを肯定するように卯ノ花に向かって笑って見せた。
そしてその久遠の笑みに卯ノ花はやはりと確信を持つ。
「・・・勝敗さえも、思うようになるということですか」
「なっ・・・!」
「そう・・・隊長が自分の敗北を望まない限り、自身の勝利を望み続ける限り・・・・あの空間の中で隊長の敗北はない」
卯ノ花の言葉にまともに驚く勇音に対し、久遠はやはりあっさりと肯定の言葉を口にした。
しかしそれは彼が言うよりもあっさりとした内容ではないような気がした。
今までの話からとても簡単に導き出される事実。
元々とんでもない強さの上に、その卍解の能力まで加われば、はまさしく無敵であり、彼女に絶対に敗北はありえない。
味方となればとても心強いのかもしれないが、敵にだけは絶対に廻すわけにはいかない存在なのではないかということが瞬時に予測できた。
この時改めての持つ力の恐ろしさを認識した卯ノ花と勇音に対し、元からそれを知っていた久遠は至って普通に言葉を続けていた。
「隊長が卍解を使う程の相手・・・って言うのはちょっと驚いたけど・・・まあ、でもこれで隊長に絶対負けは・・」
「・・そう簡単にいけば良いけどな」
久遠の言葉を途中で切るように、溜息をついた声が不意に3人の後ろから聞こえてきた。
3人が驚いて一斉に振り返った先にいたのは、卯ノ花と勇音の2人は全く知らないが、久遠だけは良く知っている深緋色の髪に長い目隠しをしている人物だった。
「や、夜鬼殿?!」
何故ここにいるんだという意味を込めて名前を呼ぶと、久遠が自分の名前を呼んだ意図そ瞬時に理解した夜鬼は、目隠しをしているはずの目でじっと久遠を見た。
「そりゃあ、出てくるだろ。逆五行曲霊が復活して姫君と再度やりあうとなれば・・・まあ、ちょっと遅かったみたいだが・・・・・」
「・・・あの・・・海城九席・・・この人は・・・」
「・・・地獄の王である夜魔王様の1番の側近の夜鬼殿だ」
隠すこともなく久遠が正直に告げた夜鬼の正体に、2人は驚いて反射的に半歩ほど後ろに退いた。
そんな2人の様子はまったく気にすることもなく、夜鬼は久遠に向かって話を続けた。
「・・・卍解が発動しているとはいえ、今回は姫君でも少しきついかもな・・・」
「どういう事ですか?」
夜鬼の言葉に少し聞き捨てならないといった様子で久遠は彼に詰め寄った。
しかしそんな久遠の様子もやはり夜鬼は気にすることのなく、淡々と言葉を続ける。
「奴は姫君の遺体を使っている。姫君の魂と結びつきの深い身体をな。身体を使って魂の方にどうにか影響を与えて、姫君の使う力を緩和程度はできるだろう」
つまり少なくともの卍解の力をもってしても、勝敗までは思う通りにはいかない、ということを夜鬼は言っているのだろう。
夜鬼のその言葉を聞いて瞬時にそれが予想できた久遠は、ありえないといったような表情をしたが、夜鬼は気にせずに更に話を続けた。
「それに、相手はのあ曲霊だ・・・どっちにしろ簡単にはいかないだろ」
「曲霊・・・・?」
も1度口にしたその名前に反応し、久遠は怪訝そうな表情で夜鬼に尋ねた。
「夜鬼殿は・・・あいつの正体を知っているんですか?」
「・・・知っているも何も・・・あれのせいで俺たち地獄も、天国も・・・大損害受けそうになったことがあるからな」
昔の事を思い出して怒りが込み上げてきたのか、夜鬼は鋭い目つきになってぎりっと奥歯を噛み締める。
その様子に久遠だけでなく、ただ話を聞いていただけの卯ノ花と勇音も恐怖を感じる。
「・・・あれは、所謂最初の虚だ」
「・・最初の虚?!」
「・・いや、虚というのは正確じゃないな。だが、虚の始祖とも言って差し支えない存在だ」
「・・・始祖?」
「ああ・・・昔はな、虚なんていなかったんだ。悪霊といえば、ただの悪霊。それこそ現世の普通の人間達が今でも想像するような類のものだったんだ。それまではお前達死神の仕事も危険なんてまったくない楽なもんだったけどな・・・」



しかしある時、倭国中に悪霊が1度に全て消え去るという事態が起きた。
当然死神達が同時に全ての悪霊を倒したというわけもない。
そして次に起きたのは現世に来ていたほぼ全ての死神達の失踪と、同時に整の霊も急激にその数を減らしていったとうい事実だった。
それまで現世に任務に赴いた死神が失踪するという事態など起きなかった尸魂界は混乱した。
しかもそんな事態が起きたのだから当然整の霊が魂葬されていないにもかかわらず、現世で整の霊が次々に減少していっているのもまた事実。
調査のために現世に派遣した死神も戻らないどころか、連絡が一切付かず失踪したというただ事ではないその異常な事実を知り、地獄や天国も尸魂界とは別に調査をすることを決定した。
しかしそれをまるで待っていたというようにそれは現れた。
それは霊的な力を持つ者の能力を、その相手を倒して食らうことで自分のものに出来る異質な霊だった。
普段は異様な仮面を付け、相手を倒して食らう時にはその面を自在にはぐそれは、より濃度が高く多い量の霊的な存在を求め、地獄と天国に手出しできる時を伺っていた。
そして地獄と天国は侵入されることはなかったが甚大な被害をこうむった。
それと同時のその時、ようやくその霊が倭国からいきなり消えた悪霊の集合体が一個の意思を持った存在であり、それまで数多の整の霊や死神達を食らってきたことが発覚した。
だがそれが発覚したからどうなるわけでもなく、その霊の力は夜魔王や天帝に匹敵するほど、あるいは上回るほどに膨れ上がってしまっていた。
半ばその霊の暴挙をどうすることも出来ずにいたある時、1人の人間の少女がその霊の前に立ち塞がった。
その少女に最初誰もが当然期待などしていなかった。
しかし少女の霊力は人間とは思えないほどに強力で、数日の不眠不休の戦いの後に、最初は誰もが不可能だと思っていたその霊を半ば倒すことに成功し、2度と蘇らないように封じ込めた。
その時の功績により、夜魔王と天帝は少女のみならず、その代々の子孫を自分達を同格、同等の立場だと認め、少女は地獄と天国と契約を結び、その契約は彼女の血筋に永久的に続くことになった。
そして少女に封印されたその霊は、後に恐怖と嫌悪の念を込めてこう呼ばれるようになった。
『逆五行曲霊』と・・・・・
その後、曲霊の出現をきっかけとしたように、つぎつぎと曲霊が身につけていた仮面と似た仮面を己の本能を守るために見に付けた虚が出現しだし、これによって現在の構図が誕生したことになる。



夜鬼から一通りの説明を聞き終えた3人は、その予想以上のスケールの大きさに呆然としていた。
そんな3人の様子などやはり気にかけないとでもいったように、夜鬼は更に言葉を続けた。
「曲霊を倒して封印した巫女・・・それが姫君の直系にご先祖だ。俺も一応、面識はある・・・」
「・・・そんなこと、私達は1度も聞いたこと・・・」
「当然だ。尸魂界にしてみれば、あれは史上最初にして最大の汚点。無理にでも隠そうとするだろう。・・・知ってるのは、四十六室みたいな一部の上層部の連中くらいだろ」
それを聞いて卯ノ花や勇音だけでなく、久遠も四十六室がに強く出れない本当の理由が解った気がした。
夜魔王や天帝との関係だけでなく、の祖先が尸魂界の所謂恩人ともいえる存在だったうえ、その詳しい事実が露見すれば過去の汚点が知れ渡ることになる。
ならば彼女に迂闊にその正体をばらさせないためにも、あえて咎めないでいたのだろう。
もっとも、自身は自分の正体を明かす気などまったくなかったのが事実だが。
「地獄や天国でも姫君が夜魔様や天帝と同等って事は知ってても、そうなった詳しい経緯を知っている奴は、今となっては少ないしな・・・」
もっとも地獄や天国は尸魂界側とは違い、過去の汚点を隠そうとしているのではなく、たんに長い年月の後にその話が忘れ去られてきているというだけの話だった。
そしてそこまで詳しい話を聞いた久遠は、急にとてつもない不安にかられ始めていた。
「・・・夜鬼殿、隊長はそんな相手と戦って大丈夫で・・・」
「・・・さあな」
久遠の言葉にあっけらかんと告げたその夜鬼のその一言に、久遠が癇に障ったといったように口を開こうとした時、すかさず夜鬼は言葉を続けていた。
「でも・・・姫君が負けるはずはないな」
「・・・えっ?」
今までが勝つのを否定するような言葉を散々言ってきたくせに、ここにきてのこの発言に対して眉をしかめる久遠に対し、夜鬼はその様子を気にせずに更に言葉を続けた。
「俺は簡単にはいかないって言ってただけで、姫君が負けるとは一言も言ってない。完全なら解らないが・・・まあ、あれだけなら姫君が負けることはないだろ。だけど・・・姫君も頭に血が上ってる様子だし・・・・・」
そこで一旦言葉をきると、夜鬼は次に意味深な言葉を口にした。
「鍵は・・・姫君が最大の切り札である『目』を使う気になるかだな・・・・・」










久遠達が現実の空間に取り残されて話を進めている時、界繋天桜による異空間でと曲霊は対峙していた。
そして曲霊は先程と風景は変らないが、明らかに違和感を感じるこの空間を暫く眺めた後、成程といったように口を開いた。
「・・・空間能力、ということか」
「・・・・・そうだ。この空間では私の思ったことは全て現実になる。つまり、私の敗北は絶対にありえないということだ」
久遠が現実の空間で卯ノ花達にいった事と同じ事を、強い口調では曲霊に告げた。
しかし曲霊はその言葉にまるで動じず、寧ろ嘲るように笑って口を開いた。
「・・果たして本当にそうかな?」
曲霊の言葉に最初は怪訝な表情をしていただが、曲霊が一瞬ちらりとやった方向、現実から治療のために連れてきた日番谷と時雨の倒れている方向に気づいてはっとし、すぐさまそちらを振り返って見せた。
はこの空間に来てすぐに2人の完全回復を望んだ。
その通り2人の傷は先程までの状態が嘘のように完全に塞がっている。
しかしそれはあくまで外見的な傷だけの話だった。
完全回復をが望んだにも関わらず、2人の内面的な、見えないダメージは完全には回復していない様子だった。
「頭中将はまだ大丈夫そうだが・・・・・そちらの小僧はかなり危なさそうだな・・・」
「・・・貴様・・・」
完全に面白そうに笑う曲霊には完全な憎悪の念を向ける。
しかし曲霊の言うとおり、時雨はそれでもかなり回復して放っておいても大丈夫そうだが、日番谷の方は全く回復しておらず、このまま放っておけばかなり危ない状態だった。
「私が貴様の身体を使っていることを忘れるな。形代の最後の姫巫女。・・・形代
「・・・その名で呼ぶな」
曲霊が口にした自分の本当の名前をは強い口調で否定したようだった。
「・・形代は現世でとうの昔に使命を果たして死んだ。今の私は、だ」
「・・・・・なるほど、それでその『目』ということか」
曲霊のその『目』言葉にがぴくりと反応した。
「形代の姫巫女に代々受け継がれる、地獄と天国との契約の証でもある『目』。左の『紅い目』で常世を見定め、右の『蒼い目』で来世を見抜き、『両の目』を合わせて現世の全ての事象を見渡す・・・・・」
「・・・・・・・」
「片目づつの能力は夜魔王の側近と、天帝の側近の目にあった頃からの能力だが、『両の目』の力は奴等から『目』を譲り受けた際に発生した、貴様ら代々の特有の能力だったな・・・」
くすくすと笑いながらそう告げる曲霊に対し、は瞬時に今は黒い自分の『目』を片手で反射的に押さえた。
一方の曲霊は片手をの方に差し出し、何かを渡せといっているような動作をする。
「・・・私が今もっともほしいのは貴様のその『目』だ。復活した際にこの身体を乗っ取り、『目』も手に入れたと思ったが・・・『目』は既にそこにはなかった」
そこまで話をすると曲霊はわざとらしく落胆した様子を見せた。
「私は少し考えすぐに理由が解ったよ。能力を全て継承させる子供を産むことなく死んだ・・・つまり形代の最後の姫巫女となった貴様は、能力を全て譲渡させる相手のいなかった貴様が、全てあの世に持っていってしまったとな」
曲霊の告げた言葉はあながち間違っていないどころか、ほぼ完全に当たりといって良い。
形代の姫巫女は子供を産むと産んでから数日の間をかけてその子供に全ての能力を譲渡する。
しかもその際により強力な霊力を持つ巫女になるよう、継承されるごとにその霊力は代を重ねて強まっていく。
それは何時か封印がとけるかもしれない曲霊に対する備えでもあった。
そのため形代の姫巫女は子供を産むことは、絶対にしなければならないことだとされていた。
しかしは当時10歳で曲霊と戦い死亡したため、当然子供など産んではいない。
もっともその時点で復活した曲霊を倒して再び封印したため、使命は半ば果たされたといえる。
そのため行き場を失った形代の力は、最後の姫巫女であるの魂に完全に定着したままの状態になり、それゆえに永久的に彼女から離れることはなくなってしまったのだ。
それが幸か不幸かは本人にしか解らないが、ただ1つ言えるのは彼女はどちらにしても長くは生きられなかったのは事実である。
なぜなら、形代の姫巫女は子供を産み、その子供に完全に能力を譲渡すると死んでしまうからだ。
それゆえに形代の名を持つものは常に現世で1人、多い時でも2人、それも能力を譲渡するための数日間だけあり、形代の一族が代々短命なのもそのためである。
「体の良い人身御供だな・・・代々皇族の血筋の者との間に産まれる身でありながら・・・・・ああ、そういえば、貴様などは帝の末娘であったな・・・公的に認められていれば、内親王・・・」
曲霊がそこまで口にすると、は瞬歩で曲霊に近づき瞬時に攻撃しようとした。
しかしある程度予想でもしたいのか、曲霊はあっさりとそれを交わしてとの間をまた作る。
交わされたことに少し苛立ちながらも、は曲霊を睨みつけて怒りを含んだ口調で告げた。
「何時までも貴様の話を大人しく聞いている気はない・・・さっさと倒させてもらうぞ」
「・・・そうだな。貴様にしてみれば、早くそいつらをどうにかしてやりたいものな」
嘲るように笑いながらそう言う曲霊に対し、は苛立ちを募らせながら更に攻撃を続ける。
しかし攻撃はことごとく避けられ、そのたびに曲霊から挑発めいた言葉が告げられる。
「だが、血の上ったその頭で私を倒せると思うか?卍解の制御もかなり鈍っているようだが?」
「・・・うるさいっ!」
がそう言ってらしくもなくやけになったように仕掛けた次の攻撃を、曲霊は今度は交わすことはなく掴んで防いで見せた。
その瞬間ははっとしたが既に遅く、何の対処も出来ずに曲霊の攻撃をまともに食らっていた。
そして彼女の身体は宙を舞い、轟音と共に地に倒れこんでいた。





「・・なっ!」
深い傷を負ってずっと意識を失っていた時雨が目を覚ましたのは、嫌でも耳に入ってきた激しい轟音のせいだった。
そして必死に音のする方向に目をやってみて、その光景に愕然として声を自然に声を漏らしていた。
何時の間にかと曲霊の戦いが始まっているだけでなく、明らかに状況はの方が劣勢になってしまっている。
目を見開いてその光景を凝視する時雨の脳裏に、彼のトラウマが自然に蘇ってきて、すぐにの元に駆けつけようとしたがそれが出来るほどにはまだ回復しておらず、せいぜい状態を起こす程度しかできなかった。
何も出来ない不甲斐無さに時雨が悲痛な表情をしていると、突然すぐ近くで彼を呼ぶ弱々しい声が聞こえてきた。
「・・おい・・・・・時雨・・・」
はっとしてそちらに顔を向けてみると、そこには喋るのもやっとといったように、殆ど虫の息に誓い日番谷の姿があった。
「・・日番谷十番隊長・・・大丈夫で・・」
「・・に、見えるのか・・・?・・・これが・・・」
少し皮肉を込めたような言い方であるが、実際日番谷はどう見ても大丈夫には見えない。
時雨は明らかに自分とは違いかなり危ない状態だとすぐに察したが、日番谷はそれでもなんとか意識を保って話を続けた。
「・・・まあ、今は、そんなこと・・・どうでも、良い・・・・・それより・・これ・・・の近くに、投げれるか・・・?」
「それは・・・」
日番谷が取り出したそれにもだが、それ以上に喋るのもやっとの彼が必死でそれを取り出せたことに、時雨は目を見張っていた。
「・・・あいつ・・・今、頭に血が上ってる、だろ・・・・・あんならしくない状態で・・・勝てるわけねえ・・」
「・・・・・・」
「・・・目・・覚まさせるには・・・効果的だろ・・・?」
そう言って無理にでも薄っすら笑って見せる日番谷に、時雨は大きく目を見開き、そしてすぐにそれを受け取りながら苦笑を漏らしてぽつりと呟いた。
「・・・本当・・隊長の目に狂いはないですね・・・」
そう言ってすぐに時雨はなんとか必死にそれを引き抜いて、かなり無茶をしつつそれを投げつけていた。





曲霊が使っている自分の身体の影響のせいで卍解の能力がまともに働かないとはいえ、ここまで劣勢になるとはは思っていはいなかった。
何しろ相手は1度は勝ったことがある相手なのだから、がそう思うのも無理はない。
今のは完全に頭に血が上っているため、自分の精神状態の制御さえ出来ない状態にある。
否、そもそも頭に血が上っているとさえ自覚できていないくらいの状態なのだ。
本来きれても冷静さをはそれなりに保つことが出来るのだが、今回は相手も状況も悪すぎたため、今までにない不安定な常態で戦うしか出来なくなっている。
しかしそんな事は曲霊には関係なく、むしろそれを狙ってこの状況を作り出したといって良い。
そして今のにはそんな曲霊の思惑さえ読み取れず、完全に追い詰められる形になっていた。
「・・さてと、そろそろ頂くとするか」
「・・うっ」
妖しい笑みを浮かべてそう告げた曲霊は、片手での喉を押さえつけ、もう片方の手を目に近づけ、まず左目を抉り出そうとする。
それをさせまいとは必死に抵抗するが、徐々に手が目に近づいてくる。
後数ミリもしない程度で目にかかろうとしたその時、の耳に何かが右横突き刺さる音がした。
曲霊に抵抗しながらも器用に目だけを僅かに動かし、は目にしたそれに大きく目を見開いた。
そして次の瞬間それを掴み、目を抉ろうと夢中になりの行動に一切気づいていない曲霊に向かってそれを突きたてた。
その瞬間、曲霊は短い悲鳴を口から零すと同時に僅かに力が揺るみ、はその瞬間を見逃さず即座に抵抗の力を強めると、曲霊の手を払いのけ瞬時に間を取っていた。
拘束から逃れて呼吸を整えながら曲霊を睨みつけるに対し、曲霊はそれ以上の鋭い眼光をもってここに来て始めて怒りを見せながらを睨みつけていた。
「・・・貴様・・・そんなものどこに・・・」
忌々しそうにそう言う曲霊の言葉に反応したわけではないが、は不意に自分が持っているそれに目をやる。
それは確かに自分が日番谷に預けた、夜一から貰った脇差だった。
今時分の手元にあるわけも、ましてやあんなところに転がっているわけもない。
少し考えた末にはある事に思い至り、はっとして瞬時に日番谷と時雨の方を見た。
するとの考えを肯定するように、2人が僅かに笑っているように見え、はより強く脇差を握り締めた。
そしてすぐさま曲霊に向き直ったその目は、最早先程までのものとは明らかに違っていた。
「・・・色々と、吹っ切れたよ」
「・・なに?!」
がぽつりと呟いたその言葉の意味がよく理解できず、曲霊が怪訝な表情で声を上げたその瞬間、の姿はその場から掻き消え、そして次の瞬間には曲霊の横に現れていた。
しかしこれを曲霊がまともに受けるはずもなく、余裕の笑みを浮かべてかわした。
そう曲霊が思い反撃に移ろうとした次の瞬間、それよりも早く瞬時に体制を変えたが脇差を曲霊の背中に突きたて、一気に縦に斬り裂いていた。
そして曲霊に悲鳴さえ上げさせる間もなく、更に体制を入れ替えて今度は胸に突き立てていた。
そのまま今度こそ悲鳴を上げた曲霊が、信じられないというような顔をに向けた。
「馬鹿な・・・貴様・・いきなり・・・どうして・・・・・・それに、その程度の脇差で・・・何故・・・」
「・・・生憎と、この脇差は私が長年肌身離さず持ってきたもの。そのため私の霊力を莫大に宿している。それに・・・」
そこまで言っては1度言葉を切ると目を閉じた。
そして続きの言葉を言うため口を開くと同時に開いた彼女の『目』は、綺麗な蒼色と紅色に変っていた。
その『目』を見た瞬間、曲霊の顔色が変った。
何しろその『目』こそが彼女がもっとも欲していたものだからである。
「この脇差のおかげで色々と吹っ切れて頭の整理がついたからな。・・・だから、もう形代の名でなくなったとはいえ、この『目』を使う事を遠慮はしない。・・・・・あの2人を助ける事の方が今は他の何よりも大事だからな」
そう言って曲霊を見据えるの左の『紅い目』が僅かに瞬いた気がした。
「・・・おかげで、貴様が完全ではなく、一部であることもわかったしな・・・」
「なっ・・・」
「よくよく考えてみれば解ることだ。2度も封印され、しかも私が貴様を倒した時の手応えを考えればな・・・・・貴様は本体のほんの一部に過ぎないのだろ?『紅い目』の方でもそういうふうに見えるぞ・・・」
「・・・小娘・・・」
の言葉に曲霊は明らかに動揺の色を含んだ怒りの眼差しと声を彼女に向ける。
しかし今のにはそれさえもまったく気にしないといった様子で、脇差を持つ手に更に力を込める。
その瞬間、曲霊ははっと何かに気づいたように顔色を変え、もその曲霊の様子に気づいて言葉を口にする。
「気づいたようだな・・・・・今、私は脇差を介して貴様に『目』とは別のもう1つの形代の力を送っている・・」
「・・・やめ・・・」
「これは『目』とは違い、貴様を最初に封印した私の先祖が元々持っていた・・・・・死神や、天帝、夜魔王さえ遥かに凌ぐ浄化能力・・・・・・貴様が私や私の先祖に敗北した最大の理由・・・」
「・・・貴様の身体だぞ!これは?!」
まるで最後の悪あがきとでも言ったようにそう叫んだ曲霊だったが、は力を緩めることはなく、寧ろよりいっそう増大させ、そして冷たく口を開いた。
「・・生憎、ただの器・・・しかも既に現世で1度死んだ身体に、未練など微塵もない・・・・・」
そう言い終ると同時には脇差を曲霊から引き抜いた。
それは既に曲霊を倒すだけの力を十分に注ぎこんだという意味であり、その証拠に曲霊の身体・・・元はの身体であったそれは崩れ始めていた。
「・・最後に教えておこうか。貴様が欲しがっていたこの『目』・・・例え抉り出して付け替えたからといって貴様のものにはならない・・・何故なら、これは目そのものではなく、形代を継ぐ巫女の魂に受け継がれる能力だからだ。・・・それゆえに、とって付け替えたところで、既にこれを持って死んだ私から奪うことなど、絶対に出来ない」
がそう言い終ると同時に、曲霊は微かな苦悶と屈辱の声を上げ、その身体は完全に崩れ落ちていた。
そして砂と化したそれさえも完全に消滅するのを見届けたは不意に口を開いた。
「・・・とんだ無駄足だったな」
ただ冷たく先程まで自分のかつての身体を持った曲霊がいた場所を見つめながらそう言うと、すぐに身を翻して日番谷と時雨の倒れいてる場所に向かったのだった。











あとがき

うわ〜〜うわ〜〜〜〜・・すいません・・・・・
話は思ったよりは長くなるし、その割には文章は無茶苦茶だし・・・・・
本当に毎度の事ながら申し訳ありません・・・・・・
とりあえず今回で主人公の謎はほぼ(?)明かしきったという感じです。
前回のあとがきでも言っていた主人公のまだ明かしきっていない正体は、帝の末娘ということでした;
あ、ちなみに主人公が死ぬより前に帝だったお父さんなくなって、主人公のお兄さん(異母兄)が跡継いでますので、帝の妹ということにもなります。
まあ・・・主人公は死ぬ直前しか会ったことがないのですが・・・・・・;
そして今回出た主人公の卍解は、曲霊のせいで全くその能力を生かしきれてませんでしたが、本来ならはっきり言ってまさしく反則な能力です;
藍染隊長の完全催眠よりも遥かに・・・・・・・;;
ちなみに、今回で勘付かれた方もいるかもしれませんが、零番隊隊舎のある空間へ行くための合言葉は、主人公の『目』から決められたものです。
そして現在このサイトのトップ絵になっている人物の正体は、ここの主人公の巫女姿バージョンでした。
次回でようやく第一部は最終回です。
とりあえず今回再登場したわりに働きもせず説明だけで終わった、夜魔王様のご側近は酷い目にあうかもしれません・・・(えっ?;)





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