ドリーム小説

蒼紅華楽 二十一



桜の下には死体が埋まっていると言われている。
桜が美しい薄い紅色の花を咲かせるのは、埋まっている死体の血を吸うからだと。
ならばその桜の木の根元、死体が桜に寄りかかる形で血を流したならどうなるだろう。
薄い紅色だった桜の花は、更に血を吸って濃い緋色になり、それはまるで狂ったように咲き乱れる光景。
狂い咲いた緋色の花の一輪はやがて白い着物の上に舞い落ち、流れる血と共に死体をより美しく彩る。
それはまさしく悪夢の如く。










いつか聞いた金属同士がぶつかり合う音が双極の丘に響き、そしてあの時と同じように、あの時と同じ片方が壊れた音が次いで聞こえた。
隊長!・・・兄・・・様!」
呆然と驚くルキアの声に反応し、先程まで彼女を殺そうとした市丸の剣をなんらく払ったは、少し驚きながらも表情は変えずに後ろを振り向くと、ルキアを抱きかかえ市丸の攻撃から護ろうとしていたことが伺える白哉の姿があった。
「・・朽木か・・・どういう心境の変化だ?」
「・・・兄には、関係ない」
短くそれだけを告げた白哉に対し、はそれ以上何も聞かずに前に向き直った。
白哉のその一言だけで今は十分だと判断したからだった。
そして向き直ったは目の前にいる藍染の手にある崩玉を見た後、彼本人の顔を鋭く睨み付けた。
「少々・・遅かったようだな」
くんか・・・来ると思っていたよ」
がポツリと漏らしたその言葉が聞こえているのかいないのか、藍染は焦りもせずを挑発するような言葉を口にした。
「色々と裏で邪魔してくれたいたようだね」
「・・裏で動いていたのは、お互い様だろう。否、むしろ貴様の方が上だろう」
「・・・・・何時から僕が黒幕と?」
「怪しいと思い始めたのは市丸の処分を問うた隊首会の時からだ。黒幕だと断定したのは、貴様が死を装った時。・・・疑われぬため、動きやすくするためとはいえ、余計な知恵を使ったのが仇となったな」
のその言葉を静かに聞いていた藍染だったが、やがてくつくつと笑い始めた。
「そうか・・君に対してはあれは失敗だったようだね。・・しかし、僕はもう目的を果たしたから、少々動くのが遅かったようだね」
「・・・お前、誰に向かってそんな口を聞いている」
勝利を確信しているような藍染の言葉をは切って捨てた。
「私がお前から、それを・・・崩玉を取替えせないとでも思っているのか」
「ほう・・これの事を知っているのか?」
「・・湖帆を通じて夜姉からあらかたの事情は聞いたからな」
「夜姉・・?ああ、なるほど、もしかして四楓院夜一のことかい?・・・彼女に妹がいたとは初耳だけど」
「当然だ。私は流魂街で夜姉ときー兄に助けられ、2人が通って世話をしてくれた義理の妹だからな」
「・・・ああ、そういえば・・・あの子ら白道門で追い払った時、喋る黒猫が一匹おったなぁ」
これであの時のの言動に納得がいったとでもいうように、わざとらしく市丸が口にした言葉には一瞬眉を寄せたが、すぐに話題を元に戻した。
「その崩玉を使って、特殊な虚でもまた作ろうというつもりか?」
「・・・またとは?」
「とぼけるな。一護達が尸魂界に来た時に瀞霊廷の外に現れた霊力を奪い取る虚、数十年前に海燕さんを殺した虚・・・あれらも貴様が作ったのではないのか?」
「なっ・・?!」
のその指摘に真っ先に反応して声を上げたのはルキアだった。
もっともルキアはが来る前に藍染に聞かされていた言葉から、既に予想していたことが確信に変わったために漏らした声だった。
そしての言葉を肯定するように、藍染の口角が徐々に上がって行く。
「本当に・・君は勘が良いな・・・・・彼女の言っていた通りだ」
「・・・なに?」
藍染が口にした言葉に対し、初めてが怪訝な表情をして見せた。
「おや、気づいていなかったのかい?我々の協力者はもう1人いたのだよ。もっとも、彼女と我々の欲しいものは違うらしくてね。互いに欲しいものを手に入れるため、お互いにここまで協力していただけだよ・・」
藍染の言葉に4人目がいることなど全く予想していなかったは、更に怪訝な教条を強めていく。
それに気を良くしたのか、彼は更に話を続けた。
「といっても、正体は解らなくてね。虚の面をつけているから、虚かとも尋ねたんだが・・・『そんなものと一緒にするな』と斬り捨てられる始末でね・・・でも、色々と助かったよ。特に・・・ギン・・・」
「そうですね・・・十番隊長さんと戦うと時、ちゃんがきて少し焦りましてんけど・・・あの人がなんやしてくれたおかげで、追われんですみましたし・・・」
「・・・な・・・に・・・?」
藍染と市丸の言葉を聞き、特に市丸の言葉からは愕然として目を見開いた。
あの時、が市丸を終えなくなったのは、何者かの呪詛によって身体がおかしくなったためである。
そしてはその呪詛をかけた犯人が誰なのかを解っていた。
もしもその犯人と藍染達の言う4人目の協力者が本当に同一人物であるなら、それはにとっては非常に忌々しい事態といえる。
否、もしもではなく、先程の藍染の言った『虚の面』というところから、にはそれが最早確信以外の何物でもない気がしてきた。
「・・・まさか、お前達・・・あんなモノと・・・・・手を組んで・・・」
みるみる顔色が悪くなり、明らかに動揺しを隠せない、そのあまり見られないというよりも、至って彼女らしくないの様子に、その場にいた一同が怪訝な表情をした。
それはに4人目のことを告げた藍染でも予想にしていなかった事態である。
そしてその事に少し気を取られていた彼を捕らえる影が突然2つ現れた。
それに反応した藍染はへの疑念を1度捨て、自分を拘束する2つの影のうち1つを見下ろしていた。
「・・これはまた、随分と懐かしい顔だな」
その存在が瀞霊廷に入っていたことなど既に解っていたにも関わらず、しかし藍染はまるで初めてその事実を知ったような言葉を、その言葉とはまったく不釣合いな口調で告げた。
「動くな。筋一本でも動かせば」
「即座に首を撥ねる」
「・・・成程」
自分を捕らえる2つの影の正体である、夜一と砕蜂の牽制の言葉にさえ彼は全く平然としている。
寧ろ彼を捕らえた片方の夜一の方が、ちらりと視線をやった時に見た明らかに様子のおかしい義妹を内心気にかけている様子だった。
そしてその時、遠くから巨大な音が3つ近づいてくる音が聞こえ、そちらに視線をやった夜一は瞬時に焦りの色を見せた。
「こいつらは・・・!!」
タイミングが良いとでもいうように現れた白道門を除く巨大な各門番の姿に、夜一はすぐさま事の次第を理解し彼等が今は藍染の味方であると理解した。
そしてそれは藍染の次の言葉で肯定された。
「・・・どうする?幾ら君達でも、僕を捕らえたまま彼等とは戦えまい」
「ちっ・・・!」
この事態に夜一がどうするべきかと考え悩んでいると、空から咆哮と共に4人目の巨大な人物が3人の門番の前に降り立ち立ち塞がった。
それは肩に空鶴を乗せたジ丹坊の姿だった。
「空鶴!!」
「おう夜一!あんまりヒマだったからよ。散歩がてら様子見に来たぜ!」
そう強気の発言をすると詠唱を始め、そして放った強力な破道で門番の1人を即座に倒して見せた。
続いて眉を寄せるジ丹坊が2人目を殴り倒し、3人目にも攻撃を加えようとした時、その3人目は何故かジ丹坊や空鶴が何もしていないにも関わらずその場に倒れこんでいた。
「・・・なんだ、このくらいのものか」
双極の丘の下、倒れた門番達の足下にいたため、その声を聞き取れたものはほんの僅かだった。
よく見てみると、そこには今までどこに行っていたのか、湖帆、琥珀、霧生の3人がいた。
そして先程の声は湖帆のもので、彼女が何かをして門番の1人をあっさりと倒して見せたということが空鶴にはすぐに解った。
「・・・相変わらずデタラメな連中」
そう言って苦笑を漏らした空鶴だったが、別段湖帆のやったそれに対して驚いている様子はなかった。
そして門番達が倒されていくその光景を、無表情なまま見つめていた藍染に対し、夜一が決定的な言葉を口にした。
「・・これまでじゃの」
「・・・なんだって?」
「・・・判らぬか藍染。最早おぬしらに・・・逃げ場は無いということを」
夜一がそう告げた瞬間、双極の丘には彼を取り囲む形で何時の間にか隊長、副隊長が現れていた。
そのうえ市丸は松本に拘束され、東仙は檜佐木に拘束されて、夜一の言葉通り彼等に逃げ場はないと誰もが思っていた。
しかしそれでも藍染はその事実さえ面白そうに笑い、夜一に怪訝な表情をさせた。
「・・どうした。何が可笑しい、藍染」
「・・ああ、済まない。時間だ」
その藍染の言葉を聞いた瞬間、天を仰ぎ見た夜一が何かに気づき、慌てた口調で砕蜂に指示を送った。
「離れろ、砕蜂!!」
夜一のその言葉を合図に2人が同時に藍染から離れた瞬間、上空から光が一閃、藍染へと向かって降り注いだ。
そしてその光を辿って一同が上空を見上げると、そこには空を裂いて現れる複数の大虚が姿を見せていた。
「ギリアンか・・・!何体いやがんだ・・・!!」
一同の心情を代弁するように大前田が告げると、先程の藍染と同じ光が今度は市丸と東仙へと降り注ぎ、各々を捕らえていた松本と檜佐木は即座の判断で2人から離れていた。
そしてその暫く後に、ゆっくりと3人の身体は、3人の立っている地盤ごと、宙へと浮き始めた。
「逃げる気かいこの・・・」
「止めい」
慌てて追撃しようとする射場に対し、後ろにいた総隊長は冷静とも言える声で彼を止めた。
「あの光は『反膜』というての。大虚が同族を助ける時に使うものじゃ。あの光に包まれたが最後、光の内と外は完全に隔絶された世界となる」
「ああ、だが・・・」
「・・・俺の斬魄刀の能力なら、大丈夫っすよね。隊長」
暫く動揺してその場にいながら事態に参加していないような様子のだったが、ようやく我に返ってきたのか、総隊長の言葉に反応し、彼の言葉を否定するような事を口にしようとした時、に代わって聞いた事のある声がその先を告げた。
「・・氷室!」
「遅くなりました、隊長。すぐにこいつ壊しにかかります」
「ああ、たの・・・」
氷室の言葉に頷いて指示を出そうとした瞬間、は何かに気づいたように目を大きく見開き、そして少ししてある方向を向いた。
その先にあるのは、日番谷や時雨達が現在いるはずの清浄塔居林だった。
「冬獅郎くん・・・時雨・・・」
「・・隊長!」
明らかに様子のおかしいの様子に、時雨も斬魄刀を振るうのを止めた。
そして酷く顔を青褪めて動揺し、何かを迷っているように清浄塔居林のある方向と藍染達の方向を交互に見るその様子に、彼女が何を迷っているのか悟ったのは氷室と夜一だけだった。
やがて夜一は逃げ去ろうとする藍染を睨みつけた後、何かを決めたように首を軽く横に振り、の方に顔を向けた。
「・・!」
「・・・っ!」
夜一の自分を呼ぶ声にそちらを見てみれば、彼女は何かを訴えるように、許すように軽く笑って首を縦に振っていた。
その仕草で彼女の意図を全て悟ったは、申し訳なさそうな顔をして少し考えた後、しっかりとした口調で氷室に向かって先程出そうとしていたものとは違う指示を出していた。
「氷室!空間渡しを頼む!」
「場所は、清浄塔居林で良いですか?!」
「そうだ!急いでくれ!!」
結果として藍染を逃がすことになってしまうが、清浄塔居林にいる者達を救うためには、この時のにはこれ以外に手段はなかった。











一瞬のうちに嫌な血の匂いを全員の鼻が感じ取っていた。
起こった事態に少し頭の中で整理がつかず、大きく目を見開いて一同は呆然としながら右腕を深く斬り付けられ、大量の血を流しているその人物を見ていた。
「・・・・・時雨?」
「副隊長!?」
徐々に顔を青褪めながら日番谷は呆然と呟き、事の事態をようやく正確に理解した久遠は叫び、致命傷を受けるはずだった日番谷を庇って相手の攻撃を受けた時雨の名を呼んだ。
しかし時雨はそれには応えず、見た目よりも傷が深すぎるのか、それとも他に何かの理由があるか、息を荒げて辛そうにしながら目の前のの顔をした人物を睨みつけていた。
その時雨の視線をまったく気にした様子もなく、の顔をしたその人物は少しばかりの感嘆の声を上げた。
「ほう・・・よくもあの距離と間で庇えたものだな・・」
感嘆の声ながらも若干小馬鹿にしたような含みのあるその言葉に、時雨はより深く彼女を睨みつけていた。
「・・・時雨。何で俺を庇った・・?」
時雨に庇われなければ間違いなくやられていたと思いながら、自分を庇ったせいであの時雨がみすみす傷を負ったと表いる日番谷は、苦々しげな表情でそう時雨に尋ねた。
すると時雨は少し感覚を置いてから、一言だけ小さく呟いた。
「・・・隊長を・・・哀しませたくありませから・・・」
その一言だけある意味十分すぎる言葉だった。
「副隊・・」
「来るな!久遠」
はっとして慌てて時雨に近づこうとした久遠を、時雨は後ろを振り返らないまま静止した。
その声に言葉をかけられた久遠だけでなく、他の面々も驚いてまた目を見開いた。
一同が時雨が何故そこで止めたのか考える間もなく、時雨は久遠に先程よりも驚く言葉を口にしていた。
「お前は、すぐに日番谷十番隊長や、他の全員を連れてここから離れろ!」
「な、なんでですか?!そいつが何者か知りませんけど、このまま・・・」
「例え何人がかりであろうと、こいつにかなうはずがないからだ!・・・こいつを、どうにかできるのは・・隊長だけだが・・・・・俺は、二度とこいつを隊長と対峙させたくない・・!」
その言葉に一同はまた驚くと同時に少しの違和感を覚えていた。
時雨の言葉はまるで目の前にいるの顔をした人物と過去に会っているようなものだったからだ。
しかもこのうろたえようは尋常なものとは思えなかった。
するとの顔をした人物からまた感嘆のような声が上がった。
「お前、随分と私のことに詳しいようだな・・・あの副隊長ということは小娘の1番近しい部下だから色々聞いて・・・・・?」
その人物は不意に言葉の途中で何かに気づいたように怪訝そうな表情をして口を閉じた。
そして暫くの間、時雨の顔をじろじろと観察するかのように見てまた不思議そうに口を開いた。
「・・・お前、どこかで見たことがあるか?」
その人物のその言葉に、一同は驚いて怪訝な表情を見せた。
尋ねられた時雨自身は表情も変えないまま一切微動だにせず、やがてその人物はようやく思い出したというように薄く笑うと口を開いた。
「ああ・・そうか・・・・・お前、あの時の頭中将か」
思い出したというように告げたその人物の言葉に、誰かが小さく声を漏らした気がした。
言われた時雨自身は何も言わず、ただ黙ったまま静かに言葉を聞いていた。
「まさか死神になって、しかも小娘の部下になっていたとはな。・・・よくもおめおめとそんなことが出来たものだ」
「・・・どういうことだ?・・・それに、何でお前がの姿をしている?」
含みを持ちながら告げたの顔をした人物のその言葉と、ずっと気になっているその姿に、日番谷は怪訝な表情をしながら尋ねた。
するとその人物はまた馬鹿にするように笑って見せた。
「まだ気づいていなかったのか・・・?この身体は、元々は貴様等の良く知る小娘の身体だぞ」
「・・・・まさか」
その人物のその言葉に、久遠はある事を思い出してさっと顔を青褪めさせた。
「・・隊長の・・現世で行方不明になった遺体か?!」
久遠の言葉に前もって気づいていた様子の時雨以外の全員が顔色を変え、そして肯定とばかりにその人物は低く笑った。「ちょ、ちょっと待ってください!隊長の遺体って・・・現世で亡くなられた時のものだとしても・・・・・そんな綺麗なままの状態なんて、明らかにおかしいじゃないですか?!」
「・・・勇音の言う通りです。噂では、隊長は少なくとも百年ほどは零番隊の隊長の任についていると伺いました。つまりは少なくとも百年以上前には現世で死亡していたことになります。腐敗しないはずがないと思いますが?」
勇音と卯の花の言葉はもっともだった。
百年以上も経てば自然に肉体は腐敗し、原型を留めていられるわけがない。
しかしその2人の言葉を嘲るように、その人物はまた笑って見せた。
彼女のその態度に日番谷がその人物を睨みつけて尋ねる。
「何がおかしい・・・」
「・・・これが笑わずにいられるか。あの藍染とやらもそうだったが・・・お前達、本当にこの小娘の正体に気づいていないようだな?」
自分の身体を指しながらのその言葉にまた一同が怪訝な表情をすると、その人物はまたよりいっそう深く笑って口を開いた。
「今はなどと名乗っているようだが・・・この小娘の本当の名は形代
「・・形代?」
「そう。代々倭国にふりかかる全ての禍を請負、浄化し、天国の王である天帝と、地獄の王である夜魔王に認められ、彼等から同等格、現世における彼等の代弁者と認められし唯一の存在。倭国史上最高の霊能者一族最期の姫巫女だ」
「なっ・・・」
「藍染の奴は・・何故、四十六室とやらが逆らう傾向の強い小娘を罰してこなかったか不思議に思っていたようだが・・・出来るわけがない。下手に小娘を罰すれば、天帝と夜魔王の機嫌を悪戯に損ねることになる・・・奴等とて、天国や地獄と下手に事を構えたくはなかっただろうからな・・・」
彼女の言葉にその事実を知らなかった全員が驚愕の表情をする。
それはつまり、ある意味での方が元から四十六室よりも上の立場と言える内容だったからだ。
「その小娘の死体が腐敗する事を、天帝と夜魔王が許すはずもない。・・・まあ、私がこの身体の中に封印されていたのも理由の一つだろうがな・・」
「封印って・・・」
「・・・隊長がそいつを現世で倒し、御自分の身体に封印されたんだ」
それまで黙って静かに聞いていた時雨が、ぽつりと呟いた。
「副隊長・・・」
「こいつは、現世のある場所に隊長の一族が代々封印していたがそれが隊長の代によって解け、隊長がご自身の命と引き換えに倒して身体の中に2度と封印が解けないよう封じ込めたんだ」
時雨のその話を一同はただ黙って聞き入っていたが、ただ1人、その人物だけが薄く嘲笑った。
「その言い方だと、まるで人事のようだな・・・」
「なに・・・?」
「・・・そういえば、狂ったように桜が咲いたあの日、私の封印が解けるきっかけを作った、馬鹿な小僧がいたな・・・」
日番谷の怪訝な表情にも一瞥もくれず、その人物は昔を思い出すかのように話し始めた。
「そのせいで最期の最期まで罪の意識に苛まれていたようだがな・・今はどうだ・・・?」
「何を・・言って・・・」
「結果的に、この小娘が死ぬことになる原因を作った・・・否、殺したといっても過言でないことをしでかした今の感想はどうだ・・・・頭中将」
その言葉に誰も動くことも言葉を口にすることも出来なかった。
ただ耳にしたあまりの衝撃的な内容の大きさに呆然としていた。
その中で日番谷はようやくあの時、が自分に言った時雨の負い目というのを知った気がした。
つまりは時雨のせいでを死なせてしまったこと。
そしてそれは、時雨の無言のまま苦渋の表情が肯定しているように思えた。
「ふふっ・・さすがに今でも少なからず、罪悪感はあるか・・・」
「ああ・・・少しどころか酷くな・・・だからこそ、俺はお前を隊長に近づけたくないんだよ」
睨みつけたまま時雨は深く傷ついているはずの右腕と、もう1本の左腕で強く刀を握って口を開いた。
「災い流れ堕ち降れ 禍滴」
時雨の突然の始解に一同はただ驚いていた。
それは明らかに目の前にいる人物を戦うという意思の現われだった。
「む、無茶ですよ!副隊長・・・そのお怪我では・・・」
「良いから!ここは俺に任せて、お前はさっき言われた通りのことをしろ!」
久遠のその言葉にも、やはり時雨は振り返りもせずにただそう告げるだけだった。
しかもその口調は先程よりもかなり切羽詰っている様子だった。
そしてそれを体現するかのように、少しも間を空けず時雨は始解した禍滴を怪我のために辛そうな表情をしながらも大きく振り、以前液体となった涅を攻撃した時と同じ赤黒い液体を飛ばした。
それを避けようともせず、その人物は静かにその場に立ったままの状態で自動的に結界のようなものに護られた。
そして防がれた時雨の攻撃である赤黒い液体は、そのまま床に落ちてしまい、液体が消えるとその場所には溶けた後のような形跡が残されていた。
「・・なるほど、強力な酸性の液体による攻撃・・・否、その刀の刀身全てが、酸性の液体によって形作られているようだな・・」
時雨の斬魄刀の能力を知らなかった面々は、その人物の適切な判断に時雨の斬魄刀の刀身を見てそれぞれがある仮定を考え出していた。
時雨の斬魄刀は解放状態と解放前の状態でも見た目に違いは全くない。
しかしそのため、もしも禍滴が始解しているとは知らずに普通に禍滴を普通の刀を受けるように防御すれば、刀身が本来実態のない液体である禍滴は相手の防御など水の如くすり抜け、直接相手に攻撃を与えることが出来る、
否、禍滴の刀身が強い酸性の液体であるならもっと酷いことになる。
つまり、防御している防具、あるいは切り結んでいる刀を溶かして使いものに出来なくした上で、相手に攻撃を加えることも可能なのだ。
とても単純そうに見える能力ではあるが、使い道を色々と考えると思わず一同はぞっとした。
しかし今その禍滴の標的にされた人物は、余裕ともいえる笑みを浮かべていた。
最早その表情は、の身体を使いの顔をしてはいるが、とてもに見えるはずもなかった。
「その程度で私が倒されるわけがないだろう・・・お前如きに・・・」
「貴様・・・」
「幾ら睨んだところで、私にとっては貴様等如きは小虫も同然だ・・・小虫は小虫らしく・・・」
明らかに時雨を挑発するような言葉を告げると、その人物はすっと手を少し掲げて見せた。
「・・・獅子に踏み潰され死ぬがいい」
そう言って掲げた手を時雨に向かって横一線に動かした瞬間、時雨の腹部から突然横一線に大量の血が噴出し、時雨はその場に倒れこんでいた。
「副隊長・・!」
「時雨・・・!」
「・・・お前もだ」
慌てて時雨に1番近い日番谷が駆け寄ろうとしたその瞬間、ポツリと呟いたその人物は、今度は日番谷に向かって縦一線に手を動かした。
その瞬間、先程の時雨と似たような形で、今度は日番谷の背から縦一線に激しく血が噴出していた。
「日番谷十番隊長!」
「冬獅郎様!?」
時雨に続いて日番谷まであっさりと深手を負って倒された事態に、一同は半ば混乱しながら悲鳴に近い叫び声を上げていた。
その中で不気味にその人物が笑っていると、突如何かの気配が彼女の背後からした気がした。
少し怪訝そうな表情をしながらその人物が振り返ってみると、徐々にその場所に亀裂が入り、そして完全に穴が出来たそこから、彼女とほぼ同じ姿をした人物が清浄塔居林に現れ、目の前の光景をただ信じられないといった様子で見つめていた。
「・・・冬獅郎くん・・・時雨・・・」
目の前に起こっている事態に、ただ深い絶望させ感じながら見入っているを、その人物はただただ深い笑みを浮かべながら見つめていた。











あとがき

・ ・・思ったよりも双極での対藍染隊長が長かったです;
そうして某所(?)で、市丸隊長を原作と違って尸魂界に残留させるか、それとも原作通り良くか悩んでいるといっておりましたが、原作通りに決定いたしました。
はい、というのも、実は現在『蒼紅華楽』の第二部を鋭意構想中であります;
思った以上に原作での現世に戻った後の話しが面白かったので・・;
とりあえず第一部完は後二話くらいではないかと思われます・・・(それに+おまけ話)
そして今回発覚となりました、主人公と時雨の正体です。
といっても、主人公の方はまだ完全に明かしてないんですが・・・
でもまあ、大体はあんなところだったりします。
次で完全に全部暴露しようかとおもいます。(すいません;)
時雨と日番谷くんがどうなるのかも、主人公の卍解が初お目見えするのも次回で。
ちなみに今回「じだんぼう」が双極等に続き、WEB上で変換できないため、「ジ丹坊」で表記していることはどうかご了承ください。






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