これは偽りなき真実、確実にしてこの上なく真正な事である。
唯一なるものの奇蹟を成し遂げるにあたっては、下なるものは上なるものの如く、上なるものは下なるものの如し。
What death is expected
1:Shinsei
爆発、続いて炎上・・・・・
それが現在目の前で起こっている光景である。
中央のある建物にテロリストが人質をとって立て篭もった。
当然すぐさま事件解決のためのチームが編成され、建物の周りを隙間なく包囲していた。
そして突入しようとした矢先に、犯人が爆弾を爆発させたのである。
こうなってしまっては突入よりも消火の方が最優先である。
「どうやら最初からこうなることを予想して仕掛けていたようですね」
「爆発に紛れて逃げようって魂胆ですか・・・」
「しかも相手が火となると・・・」
「「「大佐がまったくと言って良いほど役に立たない」」」
「・・・煩いぞ」
言いたい放題だが決して的を外していないエドと部下達に対し、役立たずのレッテルを貼られてしまったロイは低い声を発した。
「でも実際これじゃあ、大佐は火に油を注ぐようなもんだろ」
「まさか雨の日以外でも無能になるとは思っても見ませんでした」
それでも容赦のない言葉はただただ続いていた。
消火活動は未だ難航していた。
軍の人間の間には明らかな焦りが見え始めていた。
「まずいですね・・・このままでは犯人に逃げられてしまいます」
「なあ、エド・・・お前水利用した錬金術使えないのか?」
「使えなくもないけど・・・・・どこかに大量の水がないと」
さすがに消火栓を練成しようとしても、近くに消化のために必要な水がなければ意味がない。
するとホークアイが口許に手を当てて考え込んだ。
「そういえば・・・少しいった所に、噴水のある公園がなかったかしら?」
「本当ですか?中尉」
「それなら、そこから水を引けるように練成して・・・」
そんな話を一同がしていると、突然一滴の雫がエドの頬に触れた。
やがてその雫はどんどん増えていき、雨が降り出した。
それも相当な豪雨になっていた。
「これはまた・・・・・なんとも都合の良い」
「・・・エドワードくん。練成する手間が省けたみたいね」
「・・・・・そうみたい、だね」
その場にいた全員は少し呆然としながらも、降り注ぐ雨のために火の消えていく建物を眺めていた。
その後、極端に集中的な豪雨は火が完全に沈下するまで降り注いだ。
テロリスト事件から3時間後の中央司令部では、事件の事後処理が忙しなく行われていた。
廊下を行きかう軍服姿の人々は、書類の束を大量に抱えていた。
「大変そうだね・・・」
「ま、それが仕事だからしょうがないだろ」
他人事のように言うエドにアルは内心苦笑を零した。
今回タイミング悪く、偶然中央に来ていたエドは、司令部につくなりいきなりアル共々ロイとその部下一同に拘束され、テロの現場に連れて行かれてしまった。
それはようするに暗黙で手伝えということだった。
その代わり2人はロイから貴重な文献を得る約束を取り付けたのである。
したがって、テロの作戦行動に本来組み込まれていなかったエドが、事後処理まで手伝う必要性はないのである。
しかもあの一件はほぼ済し崩しのうちに終わったので、余計にその必要性はないのである。
「それにしても、あの雨なんだったんだろうね?」
「さあな・・・でも、あんな都合良い雨あると思うか?」
エドのその言葉にアルは沈黙してしまう。
どう考えても都合が良すぎる、意図的とさえ思えるような豪雨だった。
結局あの雨のおかげで火事は早々に沈下し、犯人もなんとか捕まえることができた。
しかしエド達にはあの雨がどうも腑に落ちなかった。
そんな事を考えているうちに、2人はロイの執務室の前に辿り着いた。
「大佐〜〜、いるか〜〜?」
「エドワードくん。・・・・・わざわざごめんなさいね」
「・・・まだ大佐戻ってきてないんですか?」
覗き込んだ執務室の中にいたのは、苦笑を零しながらこちらを見るホークアイだけで、部屋の主のはずのロイはいなかった。
それというのも、3時間前からロイは事件の重要参考人と思われる人物の取調べに、数名の部下と赴いていたのだった。
「はあ・・・いつになったら終わるんだよ」
「こればかりはね・・・」
取調べが終わらなければ文献が渡してもらえないと、エドはいい加減待ちくたびれてうんざりしてきていた。
そしてその時、ぴんっと何かが頭に閃いた。
「・・・・・ねえ、中尉。ものは相談なんだけどさ」
そう言ったエドの表情は、まるでいたずらを思いついた子供のようだった。
取調室ではもう何度目になるか解らない同じ質問がまた繰り返されていた。
「・・・それじゃあ、もう1度最初から。まずは名・・・」
「メルリスト=ヘギススメスト。性別は見ての通り女。出身地は秘密。年齢は貴方達のご自由に。放浪の旅人で各地を周り歩いてて、今回たまたまこの国のこの街にきてただけ」
すでに質問内容を全て覚え、質問される前に答えた目の前の人物に、取調室の一同は一瞬沈黙してしまった。
「って、もう何回同じ返答させるつもり?早くこれ外して解放してほしいんだけど」
じゃらじゃらと鬱陶しそうに自分の腕に無理やり取り付けられた、囚人用の名前とナンバー入りブレスレットを揺らす。
「我々の質問にまじめに答えてくれたら、な」
「だからまじめに答えてるじゃない」
その言葉に取調室にいた一同全員が、「どこがだ」と内心突っ込みを入れた。
何時間もこの調子でさすがに一同もうんざりしてきているのだ。
「あそこにはたまたまいただけだしさ〜〜。第一、そのテロリストとかいうのも、私には覚えがないと言ってるんでしょう?」
「ああ、確かに。しかし、彼らが君を庇ってるという場合もある」
「なのために?」
「理由はさまざまに考えられる。例えば、君が彼らのリーダーだとかね」
「私がぁ〜〜?」
ロイのその言葉に殊のほかおかしそうにけらけらと笑う。
「んなわけないじゃな〜い。どうしてそうなるのかな?」
「・・・・・それにもし本当に君が彼らと無関係だとしても、入国証がない以上不法入国者ということになる」
「だ〜〜か〜〜ら〜〜〜〜、あったけどなくしちゃったんだってばぁ」
さすがに痛いところをつかれ、悲痛な声をあげる。
「言い訳は通用しないぞ」
「言い訳じゃないって、本当に・・・」
突如扉が開かれ一同はそちらに注目する。
すぐ目に映った扉が開いたそこに立っていたのは、エドとアルとホークアイの3人だった。
しかし当の3人は無言のままその場から微動だにしない。
むしろ目線をそらしてしまっている。
「・・・・・いったい君達はどうしたんだ?」
「いや・・・大佐が帰ってくるのが遅くて、なかなか文献にありつけなかったから・・・・・俺がその参考人取り調べてやろうと思ったんだけど・・・・・」
エドの単純な考えに一同は溜息をつく。
しかしそれだけでは彼らが現在平常でいない理由にはなっていなかった。
「それで、エドワードくんに頼まれて、彼らを案内していたら、途中で・・・」
「はははっ。いやぁ、諸君ご苦労」
その愉快な笑い声を聞いた瞬間、全てを察した取調室の一同は固まった。
そしてエド達のせいで死角になっていたその場から、その人物が姿を現した。
「だ、大総統閣下!?」
すぐさま硬直の解けた一同は立ち上がって敬礼するが、なぜここにわざわざ大総統が足を運んだのかは当然解らない。
「・・・なぜ、閣下がこちらへ?」
「まあそう硬くならなくても良い。私がここに来たのは、そちらの人物に用があったのでな」
そう言って大総統は視線をくだんの重要参考人に向けた。
「どうもお久しぶりですな」
「そっちも元気そうね〜〜。ま、随分と偉くなったみたいだけど」
方や敬語で会釈までする大総統。
方や軽口でひらひらと手を振る重要参考人。
異質すぎる2人のやり取りに一同はただ呆然とした。
「あ、あの・・・・・大総統、まさかお知り合い・・・で?」
「うむ、その通り。彼女は以前大変世話になったことのある恩人なのだよ。だから彼女の身の潔白は私が保証しよう。すぐに釈放するように」
「は、はい!」
「やった〜〜〜!これで自由の身〜〜〜♪」
大総統の意外な言葉に驚きつつも、一同は最敬礼とともにすぐに了解の意を表した。
その中で話の中心人物だけが、場違いなほどに明るい空気で喜んでいた。
取調室のものとは打って変わっての高価な椅子に腰掛け、高価そうなワインを飲みながら、彼女はにっこりと微笑んでいた。
ただしの瞳は完全には笑っていなかった。
「随分と部下への教育が行き届いてないのね。なんでもかんでも人を疑うのはよくないことよぉ〜〜」
「すいませんね。しかし貴女が戻られているとは思っても見ませんでしたよ」
苦笑しながら答える相手に仕方ないと言ったように溜息をもらす。
「まあ、入国証をなくしちゃったのは私の落ち度だし」
「すでに手配してあります」
「ありがと。それにまあ、坊ちゃんに過度に期待するってのもどうかと思うしね」
自分で言って自分の言葉に頷いている。
このやり取りをもし軍部のみならず、当事者以外の人間が見ればまず間違いなく卒倒するだろう。
軍事最高責任者である大総統が、どう考えても20代前半の女性に敬語と気を使い、反対にどこの誰とも解らない今まで取調室にいた人物は、大総統に対して臆するどころかえらそうな態度を取り、しかも「坊ちゃん」などと呼んでいるのである。
この状況を見て平常でいろという方が無理な注文である。
「・・・それにしても、どうして今回はこちらへ?」
「ああ・・・一通り周っちゃったしね。それで何かないかなと思って帰ってきてみたんだけど・・・・・・何か妙なことあるんじゃない?」
相変わらずの勘良さに大総統は苦笑する。
「確かにありますが」
「じゃあ、その情報を。嫌とは言わせないわよ。テロリスト扱いされた件もあることだし」
どうやらまだ少し根に持っていたようで、意味ありげな笑みを浮かべる姿が怖かった。
「それはもちろんお渡しします」
「そっ・・・・・ああ、それとさぁ。あの私を取り調べてくれちゃった黒髪の兄さんと、金髪の男の子と、鎧の一応おっきい子・・・・・・」
3人の印象を簡単に言った後、にやりと人の悪い笑みで微笑んだ。
「ちょっと興味があるから、貸してくれないかな?」
それはまるで新しい遊びを考えた子供のような表情だった。
あとがき
オリキャラが出張りまくりな「What death is expected」第1話でした。
大総統さえも顎で使う人物でございます;
書いてる本人が1番大総統の敬語口調にとっても違和感を感じました;;
やっぱり大総統には敬語口調は似合いませんね。
それでもどうしてもこれでいかないと、このお話は進まないので。
彼女の正体については気が付いた方は気がついたと思われます。
某日、某所でお会いした方にはあらかじめ正体ばらしてますが・・・
その際にちょっと残念がられもしましたが・・・・・・;
実はこの時点ではエドは女性化するかどうか決めかねてたりします。
どうしようかと思いつつ、某所で皆さんの意見を聞いてからにしようかな〜〜とか、相も変わらず他力本願です;
最後になりましたが、これはどちらかというと、シリアスなお話です。
第1話目だけだと全然説得力がなくてすいません;
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