万物が一者から一者の瞑想によって生まれるが如く、万物はこの唯一なるものから適応によって生ずる。



What death is expected
2: Only




執務室で談笑をしていると、突然開いた扉から見知った人物が現れた。
彼女は上機嫌になにやら1枚の紙をひらひらさせながら、唖然とする一同を楽しそうに眺めていた。
「いやぁ〜〜皆さんご機嫌麗しゅう」
「お、お前・・・・・昨日の?!」
「メルリスト=ヘギススメスト。ルースって呼んでね〜〜」
けらけら笑いながらルースは呑気にそう告げた。
「・・・・・なぜ君がここにいる?」
眉間に皺を寄せて嫌そうな表情をしながら、その場にいた全員の心境を代表して言ったのはロイだった。
「気にしな〜い、気にしな〜〜い」
しかし当のルースはやはりけらけら笑いながらまともな答えを返さなかった。
「いくら大総統の恩人とはいえ、なぜ一般人である君がここにいるのかを聞いているのだがね・・・・・」
いい加減ルースの人をからかった態度にイライラが頂点に達しようといた時、ルースから衝撃的な一言が告げられた。
「それは、私が貴方達の上司だからでっす」
その言葉に一同言葉が出ないどころか、一瞬思考が停止した。
そして最初に覚醒したホークアイが眉を潜め、疑わしげにルースに尋ねる。
「・・・どういうことですか?」
「つまりね、そこの焔のお兄さんと鋼のちっちゃい子は、今から暫くの間私の指揮のもとに動いてもらいまっす」
「誰がちっちゃくて目に見えないほどドチビか〜〜〜!」
ルースの「ちっちゃい子」に反応し、エドが怒り声と共に覚醒した。
そしてエドのその声で全員がはっと我に返った。
「だいたい、あんたに指図されるいわれはないはずだぞ!」
「ふふふっ・・・はい、どうぞ」
もっともな意見で突っかかってくるエドに余裕に笑みを浮かべるルースは、手に持っていた例の謎の1枚の紙をエドの前に差し出した。
眉を潜めてその紙を受け取ってその内容を眼にしたエドは、みるみる内にその表情を変えていく。
「・・・・・・・・・」
「ど、どうしたの?兄さん」
「・・・・・大佐」
心配そうなアルの言葉には答えず、ただ頭を抑えながらロイにその紙を手渡した。
何があったのかと首を傾げながらその紙を受け取ったロイだが、すぐに先程のエドと同じような反応を見せる。
「大佐までどうしたんですか?」
「やってくれる・・・・・」
はぁっと深い溜息をつくロイの持つ例の謎の紙の内容はこうだった。



『上記の者に一時我が代理人としての権限を与え、全ての軍関係者ならびに、軍施設の無条件自由利用を承認する。なお、その期間、焔の錬金術師ならびに鋼の錬金術師両名を上記の者の直属とする。  大総統 キング=ブラッドレイ』



呆然程度の問題ではなかった。
つまり目の前にいるつい先日取調室で取調べを受けていたこの人物が、国の軍事最高責任者である大総統と一時ではあるが同等の権限を与えられているのだ。
しかもその直属として動くようにエドとロイは指名されている。
現実逃避したくなっても仕方がないことだが、これは全て現実である。
「な、なんのつもりだよ・・・・・あのおっさん」
「・・・・・さすがに同感だ」
「あはははははっ、まあ諦めてこれからよろしくして頂戴よ」
人の気も知らないで呑気に笑うルースをエドは睨み付けた。
しかしルースはまったくそれをものともしない。
「それじゃあ、まず最初の指令よ。私と一緒にある場所に行ってもらうわ」










宿の共同風呂のお湯は少し熱めだった。
個室にお風呂どころかシャワーさえない宿などこの国では珍しい。
そのためエドは人目を忍んで真夜中の入浴となった。
その理由は至極簡単で、自分が女であることを隠すためだった。
「はぁ〜〜・・・良いお湯」
「本当にねぇ〜〜」
「・・・・・・・・・」
横から聞こえてくるはずのない声に、エドはびくっと反応し慌ててそちらを見た。
そこにはいつからいたのか満足そうな表情のルースがいた。
「お、おま・・・お前いつから?!」
「ああ、ついさっきね。それから今更隠しても無駄だと思うけど?第一ここ女風呂だから、男だって方が大問題だと思うけど」
ルースのその発言に言葉もないエドは、観念したかのようにタオルから手を放して大人しくなる。
そのエドをルースはまじまじと見つめている。
「・・・なんだよ?」
「いやぁ・・・意外に胸あったのね、っと!」
「ぎゃっ?!」
ルースの突然の行動に驚いてエドは踏まれた蛙のような声を上げる。
「色気がないわね〜〜。でも胸は結構あるわよね〜〜〜」
「ちょっ、どこ触ってるんだよ!!?」
「え、貴女の胸に決まってるでしょう?」
幾ら女同士とはいえ完全にセクハラ状態のルースの行動にエドは力の限り抵抗する。
暫くしてその抵抗に敬意を表したようにルースはエドから離れた。
当然エドの顔は真っ赤なままである。
「ま、これくらいで許してあげるわ。私がべたべた触ってたんじゃ、あの焔のお兄さんに悪いしね・・・」
「五月蝿い・・・・・・って?!」
ルースの後半の発言に驚いて口を魚のようにパクパクさせている。
その様子を至極楽しそうに眺めながらルースは口を開く。
「知ってるわよ〜。あなたマスタング大佐の事が好きなんでしょ?」
「な、な、何で?!」
「それは女の勘ね。付け加えていえば、貴女と貴女の弟は人体練成をしたことがある」
尋ねるのではなく完全に肯定されたその言葉に、エドは反応して真剣な表情で冷汗を流しながらルースを見る。
「・・・・・なんでその事」
「解るわよ。ちなみにこれは女の勘・・・ってわけじゃなくて、貴女達からそういう匂いがするの」
「・・・・・・匂い?」
「そっ、禁忌を犯した匂いがね。身体丸ごと持ってかれるなんて、人体練成以外に考えられないし、彼1人で人体練成を行ったとは思えないし」
その言葉にエドは息を飲む。
アルの鎧の中身が空っぽであることまで見抜かれている。
そう思った瞬間、エドの頭の中にある疑問が浮かんだ。
「あんた・・・誰だ?」
ずっと思ってはいた疑問だが、今までは頭の片隅にある程度だった。
しかし今ではこの全てを見透かしているような目の前の女性の正体を、すぐにでもはっきりと知っておきたい、知らなければいけないと思っている。
エドのその質問にルースはふっと笑った。
「その答えはいずれ終わりがくれば解るわよ。・・・・・終わりがくれば、ね」
それは今回の事が終わればという意味なのか、それともまた別のことなのかはエドには判別がつかなかった。
ただその『終わり』という言葉がなぜかエドの中で強く残っていた。
「全ては1から生じる、しかし生じるものが必ずしも1とは限らない」
唐突にルースが口にした言葉と表情にエドは目を丸くする。
付き合いが長いわけではないが、彼女の雰囲気は周りをからかうような明るいものだった。
それが今はまるで別の人間とでも言うように、彼女は冷めた瞳と近づきがたい雰囲気を出していた。
「無茶なことは言わないわ。これ以上賢者の石を求めるのは止めなさい」
「なっ・・・・・・!?」
「あの石は不幸しかばら撒かない。自分自身にも、周りにもね・・・・・」
反論しようとしたが、ルースの今の雰囲気に圧されて何も言葉が出てこなかった。
やがてルースは立ち上がりお湯から出ようとする。
「それじゃあね。ああ、貴女が女の子ってことは、知っている人間以外誰にも話さないから、安心していいわよ」
そこには普段の明るいルースの姿があった。
金縛りにあったような状況にいたエドは、その瞬間に解かれたようにルースに声をかけようとしたが、その時すでに彼女は脱衣所に足を踏み入れた所だった。
その場に残されたエドの脳裏には、ルースの謎の言葉と彼女が首から下げていた、エメラルドグリーンのペンダントが印象深く残った。









あとがき

ルースがロイとエドの上司(期間限定)になってしまいました;
いや確かに初めから予定にはありましたが、かなり本人楽しそうです;;
さて現時点で彼女の正体に気づかれた方は何人いらっしゃるでしょうか?
おそらく錬金術に詳しい方なら、気づかれた方は多いと思われます。
まあその場合あれが反対じゃないのかと怒られそうですが、あくまでこの状態であるから話が成立してくれるんです。
っていうか、お風呂場であんなことできたのもそのおかげですし・・・(実はもしエドが男設定だったら、違うパターンで2人っきりの話の予定でした)
あれは思いっきり揉んでます;
はい、どう考えてもセクハラです;;
ちなみにこの話のエドとロイは恋人どうしではありません。(両思いですが)





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