太陽がその父であり月がその母である。
風はそれを己の体内に宿し大地が育む。
これが全世界の完成した原理であり、その力が大地に向けられる時、完全無欠なものとなる。
What death is expected
3:Principle
「ええっ?ばれた?!」
共同浴場での事の経緯を話し終えた後のアルの第一声がこれである。
もっとも全てと言ってもいくつか言いたくないことは適当に脚色してだった。
エドは後ろめたそうに冷汗を流しながら少し目線をそらしている。
「って、本当にどれくらい・・・?」
「だから全部だよ。お前のその鎧の中身がからっぽなのも、俺達が人体練成したことも、俺が女だってことも・・・・・・」
1つ1つ告げる度にどんどんエドの声は小さくなっていく。
「でも姉さんが女だってことは一緒にお風呂入ってたから解るとしても、他の事はどうして解ったんだろ?」
「姉さん言うな。・・・俺も良く解らないんだよな。適当に誤魔化されたし。それにあいつは風呂に入る前に俺が女だって気がついてたみたいだし」
「・・・・・本当に謎の人だよね」
アルのその言葉にエドはこくりと頷いた。
2人はここまでくると本当に彼女が大総統のただの恩人などではないような気がしてきていた。
もっと何か重要人物なのではという思いが駆け巡っていたが、彼女の普段の様子からアルには想像もつかなかった。
だがエドは違った。
共同浴場で一瞬見せた彼女の神妙な表情と言葉。
あれこそば本来の彼女ではないのかと思うようになっていた。
そこには昨晩一瞬見せた顔は幻なのではと思わせる、相変わらず無駄に元気なルースの姿があった。
「それじゃあ、皆さん張り切って行きましょーか!」
「行くってどこにですか?」
ホークアイの言葉はまったく何も説明もされていない者としては当然のことだった。
するとルースは徐に地図を広げ、ある1点を指差した。
「ここに行きたいのよね」
「・・・ここは」
指し示されたその場所に一瞬驚いた後ロイは顔を顰めた。
続いて確認したエドも同様の反応だった。
「2人ともどうしたんっスか?」
不思議そうに尋ねるハボックに、数秒後答えが返ってきた。
「この場所はかなり昔から立ち入り禁止区域になっている場所だ」
「立ち入り禁止区域?そんな所に行ってもいいんっスか?」
「ああ、それなら大丈夫!」
そう言って例の全面委任状を突き出すルースにそれ以上誰も何も言わなかった。
しかしその場所の話はそれだけでは終わらなかった。
「ここにはある伝説が根強くあるんだよ」
「伝説・・・?」
「ああ・・・・・・」
エドの言葉でようやく思い出したようにアルが声をあげる。
「それってあの・・・・・?」
「そう・・・・・ヘルメス伝説だ」
ごくりと錬金術師達の喉が自然になった。
しかしその事を知らない錬金術師でない面々はただ首を傾げるのみだった。
「その・・・ヘルなんとかってなんですか?」
「ヘルメス=トリスメギストス・・・・・錬金術の創始者、魔術、錬金術、医学、占星術等を極めた伝説の神人・・・・・・」
「伝説の通りなら、歴史上唯一賢者の石を手に入れた人物だな・・・」
その石の名にヘルメスの名を知らない者も一斉に反応する。
何しろその石は今目の前にいるエドとアルが、自分達の目的のためにずっと探し求めているものであることは、この場にいる誰にも周知の事実だったからだ。
「へぇ・・・それじゃあ、そこに行けば何か手がかりが掴めるかもな」
「いえ、それが・・・・・」
「ここは結構真っ先にあたったんだけど、何も出てこなかったんだよな」
意気揚々としたハボックの言葉に対し、がっくりと肩を落としながら答える2人に一同言葉もなかった。
「で、そんなところに何をしにいくんだね?」
「いや〜〜、今のところちょっと内緒〜〜」
ルースのその言葉に一同が不信の眼差しを向けたのは言うまでもない。
しかし現時点において不本意ながら上官ということになってしまっている以上、彼女の言うことに従うしか道はなかった。
壊れた瓦礫となった石畳。
廃墟となったいくつかの住居。
そしてすっかり寂れてしまった教会と無数の墓場。
そこは本当に虚しいという言葉が当てはまる場所だった。
「・・・・・すっごいとこっスね」
呆然としながらハボックがそう感想をもらしても仕方がない。
オカルト好きでも近づこうとはしないのではないのかという程の光景がそこには広がっていた。
まるで今この場にいるだけでも呪われそうな程に。
「こんな所に何があるんですか?」
ルースにかけたホークアイの言葉は虚空に消えた。
なぜなら聞き手であるルースが何故かぼうっとしていて聞いていなかったのだ。
何が起こったのかと眉を顰めながら、ホークアイはルースの肩を叩いた。
「ルースさん?」
「うわぁぁぁっ!な、なに?!」
肩を叩かれたようやく正気に戻ったのか、殊のほか驚いた声と表情でホークアイの方を見る。
その様子にホークアイは溜息を1つ零す。
「やっぱり聞いてなかったんですね」
「あはは・・・ごめん」
「では言い直します。こんな所に何があるんですか?」
「正確にはここ全体というよりも・・・あそこね」
いつもの調子に戻ったルースが指差したのは、この一帯の中で特に目立つ寂れた教会だった。
「・・・あそこに何かあるんですか?」
「まあ、ちょっとね・・・・・」
それだけ言いまるではぐらかすかのように、ルースはさっさとその教会へと向かって歩き出した。
そのルースに一同は少し不信な目を向ける。
「なあ、おかしくないか?」
「確かに。やけにこの場所に詳しそうだ」
「でも・・・確かここってずっと昔から立ち入り禁止になってるんですよね?」
それこそルースの年齢どころか、その年齢の何倍以上も前から。
だから彼女が生まれる以前から立ち入り禁止区域になっているこの場所に何があるかなど知るわけもない。
不法な手を使わない限りは。
「本当に謎だよな。あいつ・・・」
「大総統の恩人ということ意外は何も解っていないしね」
「・・・・・そういえば、彼女って一体何歳なんだ?」
ハボックの言葉に一同静まり返る。
実際あの取調べの時も彼女は「任せる」と言ってまともに答えようとはしなかったため、彼女の実年齢を知っている人間は1人もいない。
それ以降も追及してどうなるものかと特に気にはしていなかった。
見た目から普通に考えれば、彼女の年齢は23歳前後に見える。
しかし昨晩の彼女を見ているエドだけはどうも腑に落ちなかった。
「なんか・・・見た目よりもずっと年食ってるように思えるんだよな・・・」
「ていうと、どれくらい・・・」
「そうだな・・・・・・・だ・・」
「ほ〜〜ら!なにしてるのよ!!早くき〜な〜さ〜〜い!」
エドの言葉は遠くから呼ぶルースの声によって中断され、一同は仕方なくすぐに呼ばれるまま歩きだした。
物陰に隠れる人物達に気が付くこともなく。
あとがき
なんだか今回でさらにバレバレな正体です。
次回は寂れた教会の中探検です。
実はチーム分けしようかしまいか考え中ですが、多分しないかもです;
ところで物陰の人物達ですが・・・
私はルース以外にオリキャラを登場させる気はございません。
ということは、ばればれだと思います。
あの人達です、はい。
なんだか今回とても短い気がしますが、ご勘弁ください;