火から土を、粗雑なるものから精妙なるものをゆっくりと巧みに分離せよ。
地上から天上へと昇り、再び地上へと下降し、上なるものの力と下なるものの力を取り集めよ。
さすれば汝は全世界の栄光を手に入れ、全ての暗闇は汝から離れ去るだろう。
これはあらゆる力の中でも最強の力である。
なぜなら、それは全ての精妙なものに打ち勝ち、全ての個体に浸透するからである。




What death is expected
4:Darkness




教会の中は外以上に酷いものだった。
割れて床に破片が散らばるステンドグラス。
大量の誇りに覆われた机や椅子、そして床。
壁は崩れて祭壇の奥にある巨大な十字架はすっかり錆てしまっていた。
そこはまるで神の家というよりも、悪魔の住処といっていいほど淀んだ空気に満ちていた。
一同が警戒しながら進む中ただ1人、ルースだけが足早に一直線に歩んでいる。
そして彼女は祭壇の前で足を止めた。
「どうかしたんすか?」
突然止まったルースを不思議そうに見る全員を代表するようにハボックがそう尋ね、ルースの目の前にある祭壇に思わず触れようとした。
しかし触れようとした瞬間に静電気のようなものを感じ、反射的に慌てて手を引っ込める。
「っ・・・・・・?!」
「どうかしたの?ハボック少尉」
「い、いや・・・今、なんかビリってきたんで・・・・・」
「さっすが軍人。とっさの判断大正解よ」
動揺する一同に比べて1人だけ事の次第を理解している人物は、うんうんと頷いている。
「この祭壇には錬金術でちょっとした仕掛けがあってね〜。正しい手順で解かないと・・・・・」
そこまで言ってルースは全員を後ろに下がらせる。
そして近くにあったステンドガラスの破片を祭壇の方に向かって投げる。
その破片が祭壇に触れた瞬間、目に見える高圧の電気が突如祭壇の周りに流れ、あっという間に破片は消滅してしまっていた。
そのありさまを見て呆然とする一同。
「ね?危険でしょ?」
「んなこと、最初に言ってくださいよ!!」
平然としながらそう言ったルースに真っ先に文句を言ったのは、一歩間違えれば自分がガラスの破片のように、あるいは黒焦げになっていたハボックであった。
「いや〜〜ごめんごめん」
特に悪びれもなくそういうルースをハボックはもちろん、一同は顔を引き攣らせながら睨み付ける。
その視線から逃れるかのように、ルースはなにやら作業をし始める。
祭壇の目の前床の石畳の1枚を外し、そこから表れた妙な窪みになにやら書き込んでいた。
それはかなり高度な練成陣だと、エドとアル、そしてロイの錬金術師である3人には解った。
ルースの作業が終わって一呼吸したあと、微かな地鳴りとともに祭壇が勝手に動きだした。
驚く一同の目の前に現れたのは、暗い地下に続く階段だった。
「さっ、いきましょ」
1人当たり前のように事を進めていくルースは、そう言うとすぐさま階段を軽快な足取りで下りていく。
高度な練成陣と簡単に扱い、何よりもここの事を知りすぎているルースに不信を覚えながらも、一同はただ緊張しながらその後に続いた。








階段を下りてから更に暗い廊下を進み、途中にあった扉の祭壇と同じ仕掛けを解除して、さらにルースの目的の場所らしい部屋の前の扉に施されている同様の仕掛けも解除し、一同はついに本当の目的地についた。
そしてエド達はその部屋に入って眼を見張った。
まず上の教会と違い、その部屋は荒廃していなかった。
部屋の中央には大きな机と椅子が三脚。
さらに目を奪われたのは、その部屋の中にあった大量の書物や器材等だった。
「すっげー・・・・・」
思わずエドの口からそんな言葉が漏れた。
そしてすぐさま本棚に駆け寄り、本を1冊てに取って目を見張る。
「これ・・・・・研究資料じゃないか!」
「えっ?本当?」
「ああ・・・それもかなりハイレベルな・・・・・・」
パラパラと資料に目を通していたエドは突然ぴたりと手を止めて硬直した。
まるでこの世のものではないものを見るかのような目だった。
「どうした?鋼の」
ロイが尋ねるとタイミングよくエドの口からその言葉が漏れた。
「・・・著ヘルメス=トリスメギストス・・・・・・」
「っ!!」
エドが呆然と呟いたその言葉に一同は驚愕の眼差しを向ける。
その名前はこの立ち入り禁止区域に来る前にエド達が話していた名前である。
ゆえに全員その名を持つ人物がどれだけ凄いかは承知していた。
そしてその名前の人物が書き残したと思われる研究資料がこうして無事にあることに一同は驚きを隠せない。
「もしそれが本物なら兄さん・・・」
「ああ・・・ここにある資料のどれかに、賢者の石について書かれているものがあるかもしれない」
そうと解ると2人の行動は早かった。
すぐさま本棚から幾つもの資料を取り出し、目当ての記述がないかどうかを調べ始めた。
「さすがに行動がはやいっすね」
「ええ。ところで大佐どうします?」
「・・・もしここにあるものが全て真実なら、錬金術師にとっては宝の山だ。そして、大総統に知らせる義務は十分にある」
「ですね・・・」
「あの〜・・・ところでルースさんは?」
フュリーのその言葉に一同はようやく彼女がすぐ近くにいないことに気が付く。
部屋全体を見渡して探してみると、奥の方にこちらに背を向けてただ立っていた。
すぐに彼女を呼ぶがまったく気が付いていないようで反応がなく、仕方がないとホークアイが近づいていったが、彼女も信じられないものを見たかのようにその場で立ち尽くしてしまった。
「どうした?中尉」
「大佐・・・見てください」
ホークアイに言われて目をやったものにロイもまた驚かされた。
彼らの目にとまったものは、2つの墓だった。
両方の墓標にはそれぞれの名前と死亡年月日が刻まれているため間違いがない。
その墓標の前で、ルースはただ虚ろな目で立ち尽くしていた。
「ルース・・・さん?」
声をかけても一向に反応することがない彼女に、一同はどうすることもできずただ静かに見守っていた。



「はい。どうもご苦労様〜〜」
「さま〜〜〜」
突然扉の方から聞こえた聞きなれない声に、資料に集中しすぎているエドと、虚ろになっているルース以外の全員が反応する。
「に、兄さん!」
慌ててアルがエドの肩を叩きながら声をかけると、エドはようやく気が付いて扉の方を見た。
「んっ?・・・・・・って、お前らいつかの!!?」
「また会ったわね。鋼の坊や」
「厄介なモノを解除してくれたうえ、ここまで案内してくれてありがとう」
勝ち誇ったように笑う3人に、エドとアルが苦々しい視線を向ける。
「鋼の・・・しっているのか?!」
「・・・こいつらは」
「ああ・・・ホムンクルス一行じゃない」
エドが答えるまでもなく、そう言って3人組みの正体を告げたのは、今までぴくりとも反応を示さなかったルースだった。
そして一同様様な理由でルースのその言葉に驚くが、ルース本人はいたって平然と言葉を続ける。
「後つけてたのは知ってたけど、まあ別にどうってことないから放っておいたんだけどね〜〜」
「き、気付いてた・・・・・?」
ルースのその言葉に一同呆然とした後、すぐさまそれぞれの思惑を口に出し始める。
「だったらどうして、その時話して下さらなかったんですか?!」
「っていうか。どうしてあいつらがホムンクルスだって解ったんだ」
「前者に対しては別にこいつらがどう絡んできても痛くも痒くもないから。後者に対してはそういう感じがするから」
ルースの冷静な答えになっていない答えに、一同はただ静まり返る。
そしてルースは視線をまっすぐホムンクルス達に向ける。
「ま、でも貴方達をここに招待した覚えはないわよ」
「・・・貴女に招待される必要はないわ。元々ここにある資料は以前から私達が狙っていたもの」
「ここにある資料が本物なら、賢者の石をより早く確実に作り出せるからね」
「そう・・・特に伝説のエメラルド・タブレットとかね・・・・・・」
不敵に笑いながらそう告げるホムンクルスに、ルースはまったく動じない変わらぬ口調で返す。
「なんで貴方達にここの資料あげないといけないのよ。エド達は私が興味もって許したから良いけど、貴方達なんてお呼びじゃないの」
「別に君の許可なんていらないよ・・・」
「あら?許可もなく勝手に持ち逃げするのはただの泥棒よ」
「それは貴女達も同じことでしょう?ここの持ち主はすでに死んでいる。だったら・・・」
「・・・・・・・・死んでないないわよ」
ラストのその言葉にルースが自虐的に微笑んでそう告げた。
そしてルースのその言葉に驚いて一同の視線がルースに注がれる。
「ルース・・・お前何言って・・・」
「この部屋の持ち主の1人・・・ヘルメス=トリスメギストスは死んでないのよ」
手に冷たい汗を握りしめ、震える声で尋ねるエドにルースははっきりと告げた。
「だって・・・私がそのヘルメス本人なんだから」
その言葉を言った本人以外の者が理解するには、しばしの静寂とともにかなりの時間を要した。









あとがき

はい、ついにルースの正体発覚です。
といっても、バレバレだったでしょうけどね(苦笑)
なんでずっと昔の人間が未だ生きてるんだとか、そう言った謎は全部次で明かします。
というよりも、次が最終回になります。
1つ言っておきますが、管理人お得意の転生ではありません。
実は人間外だった(事実上のヘルメスは確かに神様ですが;)とかでもありません。
ちゃんと生粋の人間ですし、ずっと生き続けてますからこの人。
まあ、それこそがルースの悩みの種ということです。
エドやアルとはある意味真逆の人種なんですよ。
そこら辺もまた次回にということで。





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