Rehabilitation
1:オレ




それは雨のよく降る某月某日のことだった。
この日は雨のため彼らの直属の上司を筆頭に、誰も外回りに行く気力もなく、そのうえどんよりと曇った空は気分さえも滅入らせる。
そんないまいちの気分を浮上させようと、一同はお互いに何か気分を浮上させるような良い話を順番に出し合っていた。
偶然軍部に立ち寄っていた2人の兄弟を巻き込んで。



「それじゃあ、次はハボック中尉ですね」
「そうだな〜〜。ああ、そういえば」
自分の所までまわってきたので何を話そうかと暫く考えていると、ハボックはぽんっと思い出したかのように軽くてを叩いた。
「そういえばこの間、街ですごい美少女見つけてな」
「へ〜、どんな人だったんですか?」
かなり乗り気になって次の言葉を急かす男衆に、ハボックは「まあ、待てと」言って冷静に思い出そうとしている。
「顔自体は見なかったんだよ。後ろ姿だけですぐ見失ったしな」
「なんだ・・・・・」
「けどかなり色白で、体とかも結構細かったし・・・顔見てなくてもあれは結構いいセンいってるって解ったぞ」
「確かにそれで顔が悪かったらひくしな」
はははっと笑って楽しそうにしている一同に、エドとアルはホークアイが煎れてくれたお茶を飲みながらただ少し呆れながら見ていた。
「で、他に服装とかの特徴は?」
「あといつどこで見たんですか?」
「見かけたのは3日前の大通りの小物屋の前だな。服装は上が白のワンピースに下が黒のスカート。髪は・・・セミロングの金髪だったかな」
「ぶっ!!?」
ハボックのその言葉を聞いたエドが突然飲んでいたお茶を噴出しそうになり、蒸せてげほげほと何度か苦しそうにせきをきった。
それに驚いて室内の全員は話をやめ一斉にエドの方を見る。
そのエドの隣ではアルが心配そうに声をかけながら、慌ててエドの背中をさすっている。
「兄さん、大丈夫?!」
「だ、大丈夫、だ・・・」
「大将、どうしたんだよ?」
「・・・なんでもない」
何が起こったのかと目を丸くしているハボック達に、冷汗を流しながら引き攣った笑みを浮かべながらそう告げるが、内心では「あんた達のせいだよ!」を思いっきり悪態をついていた。



「あなた達、何をしているの?」
突然がちゃりと開けられた扉からした恐るべき声に、ぎくりと軍部一同は肩を震わせた。
「ほ、ホークアイ少佐!」
予想通りの人物の姿に、エルリック兄弟を除く全員の顔が引き攣った。
「こんなところで油売っている暇はないでしょう?外回りをしないからといって、仕事がまったくないわけじゃないのよ」
「「「「し、失礼しました〜〜!」」」」
本気で怒られる前に自発的に脱兎のごとくその場から一同は立ち去っていった。
その後姿を見送った3人は軽く溜息をつきながら呆れていた。
「・・・助かったよ少佐」
「どうしたいしまして。それにしても・・・ああいうところは少将に似たのかしらね」
「それって、嫌なところが似ましたね・・・」
「まったくね」
そう言ってまた溜息をつきながら、先程ようやく発見して机に縛り付けて仕事をさせ始めた時のことを思い出す。
エド達もその姿をリアルに想像して溜息をついた。
「それじゃあ、2人共ゆっくりしていってね」
「「は〜〜い」」
弟に対する姉、子供に対する母のように優しくそう言われ、エドとアルの2人は素直に嬉しそうに笑って返事をした。
そして部屋を後にしようと後ろを向いて扉のノブに手をかけようとしたところで、ホークイアイはあることを思い出してくるりと顔だけで振り返った。
「そういえば、言うのを忘れるところだったわ。今日の夜私の家に来てちょうだいね」
「んっ?解った〜」
一瞬なぜだかは解らなかったが、すぐさま家に呼ばれた理由を察してエドは返事をした。
その返事を満足そうな笑顔で受け止めたホークアイは、今度こそ2人のいる部屋を後にした。









室内に無数の衣擦れの音がしている。
それは部屋の中に散乱している服の山がさせているものだった。
そしてその服の山をカーペットマットの上に広げて物色している人物が2人いた。
「これなんてどうかしら?」
「えっ、どれどれ?」
ホークアイが差し出したのは黒色のカーデガンだった。
それを受け取ってじっと見つめた後、エドはぱっと表情を明るくさせた。
それがエドがこの服を気に入った合図だということを、こういうことを何度も繰り返していて覚えたホークアイは、にっこりと微笑んで適切な言葉を告げた。
「それじゃあ、それもあげるわね」
「うん!ありがとう、少佐。でも、なんか悪いな・・・いつもこんなに服貰ってばっかで」
「ふふふっ、良いのよ。どうせもう小さくて着られなくなったものばかりだし。私のほうこそお古ばかりでごめんなさいね」
「ううん!俺嬉しいよ」
逆にホークアイに謝られ、慌ててそう告げるエドの言葉に、ふとホークアイは以前から思っていたことを口にした。
「・・・ねえ、エドワードくん。私やアルフォンスくんといる時や、女の子の格好の時くらい、『私』でいいんじゃないかしら?」
ホークアイが言っているのはまず間違いなく一人称のことである。
その事にエドは目をぱちくりさせた後、腕を組んで少し考え込むような姿勢をとる。
「う〜〜ん・・・でもなぁ。長年男のふりして『俺』で通してきてたし・・・もう、なんていうか、こっちの方がなれちゃってて、言葉使いとかにしろ逆に元に戻せなくなってるんだよなぁ・・・」
本当は女物の服を着ることも多少抵抗があったのだ。
それでもアルと一緒に元の身体を取り戻し、1つの呪縛から解かれたことにより、本来女性としての本能が疼きだしたのか、街などですれ違う自分と同じ年頃の少女達を時々羨ましくみるようになっていた。
そこで以前からエドが本当は女であることをしっていたホークアイに相談し、まずは時々女の子の服を着て慣らしていこうということになったのである。
ようするにリハビリといっても良い。
エドに相談を持ちかけられたホークアイは、以前からエドに女物の服を着てほしいと思っていた、相談を持ちかけられた時はとても喜んだものである。
以来妹を持った姉のような心境で、ホークアイはほとんど着せ替えに近い状態でエドに様々な服を提供していっているのだ。
そして、ハボックがこの間見かけた少女というのは間違いなくエドであり、ちょうどホークアイに貰った服を着てリハビリをしている最中だったのだ。
「まさかハボック中尉に見られてたなんて・・・一瞬焦ったよ」
「そうね・・・今度から気をつけないとね」
「うん・・・・・まだ俺が女だって事は知られたくないし。それに・・・」
言葉の途中で真っ赤にさせた顔を俯かせて黙り込んだエドの心境を察し、ホークアイは優しく微笑んでエドの言葉を代わりに続けた。
「それに、ちゃんと女性としての姿を最初に見てほしいのは、少将だしね」
ホークアイのその言葉にエドは無言のままこくりと小さく頷いた。
これはこのリハビリをはじめた時にエドが今と同じように、顔を俯かせ真っ赤にして恥ずかしそうに言った言葉である。
弟のアルやホークアイ、リゼンブールの人達、それと錬金術の師をその周りの人達といった、自分が女であることをあらかじめ知っている人物達以外で、自分の知り合いの中ではまずロイに女の格好に戻った自分を最初に見てほしいのだ。
その年相応の少女としての発言を聞いた時、ホークアイは微笑ましく思い、これならリハビリも成功するだろうと安心もしたのだった。



「そのためにも、人前・・・特に知り合いの前に出ても、普通に女の子の格好でいられるようにしなくちゃね」
「うん・・・迷惑かけるけど、これからもよろしくね。少佐」
「こちらこそ。むしろお手伝いできて嬉しいわ」
そう言って微笑み会う2人の間には穏やかな空気が流れ、まるで本当の姉妹のようであった。
こうしてエドのリハビリは順調に進んでいく。











『リゼンブールのウィンリィちゃんへ

ウィンリィちゃんお久しぶり、リザです。
エドワードくんのリハビリもなかなか順調に進んでいます。
相変わらず1人称は『俺』で、言葉遣いも男言葉だけど、女物の服はそれなりに着て街を歩けるようになってきました。
女物の服を着てだと10数分くらいしか街にでられず、しかも1週間に1回程度が限度だった最初の頃に比べ、今では3日に1回、1時間くらいは出られるようになってきました。
まだ他の人達にはお披露目できそうにありませんが、エドワードくんも頑張っているので、お披露目が叶うのもそう遠い先の事ではなさそうです。
こんなことを言っている私も本当なら『くん』から『ちゃん』に直さなければいけないんでしょうが、私も慣れていないのは事実ですが、エドワードくん自身が『やめてほしい』と言ったので、私の方は直せそうにありません。
でもエドワードくんの方に関しては、ウィンリィちゃんからも援助をして貰って助かっているし、精一杯私もお手伝いをしてがんばっていこうと思います。
それでは今回はこの辺りにして筆を置きます。
また近況報告と一緒にお手紙書かせて頂きます。
ウィンリィちゃんも身体に気をつけて、ピナコさんと仲良く元気な毎日を過ごしてください。
たまには中央にも遊びにきてください。
その時は歓迎します。
それではまた。

リザ=ホークアイより』










あとがき

エド子50のお題でやるシリーズ第一段です。
ロイエドなんですけど、ロイエドなんですけど・・・
ロイさんが出てきてない・・・(この作品との混乱をさけるため階級で呼べないのがつらい・・・)
代わりにホークアイ姉さんが出張っておいでです。(私の欲が・・・;)
とりあえず、原作から2年後設定です。
キャラの年齢は必然的に2歳上がってます。
で、軍部の方々は階級も上がっているわけですが。
ロイさん、ホークアイ姉さん、ヒューズさんは原作から2階級昇進。
他の方々は1階級ずつ昇進です。
はい、ここでお解り頂けたでしょうが、このシリーズではヒューズさんは生きておいでです(ええ、しっかりと。私があの人死なせるのはおしいと思っているので)
なので殉職での2階級特進はなしで、中佐から2階級昇進してると思ってください。(ぶっちゃけ言うと、殉職しての階級と変わらない;)
そして最後の手紙ことについてですが、ホークアイ姉さんとウィンリィは知り合った時から文通なんぞをしています。
この2人はマイ設定でとても仲が良いです。(百合;ではありません、同類なんです)
これはこのシリーズの重要ポイントですので。
では・・・・・逃げます!


ハボックさんの言っていた格好のエドが見たい方は、
こちら






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