Rehabilitation
2:髪型
どこかの無能上司の仕事が一段落ついたことで、自分もようやく休憩を取ることができたホークアイと、司令部に遊びにきていたエドは仮眠室にいた。
仮眠室の扉に鍵をかけ、あらかじめ誰かが勝手に入らないよう準備を整えて何をしているかというと、ホークアイがエドの髪型を色々と変えて試しているのである。
それは数日前に遡る。
いつものようにホークアイから服のお下がりを貰いにやってきたエドに、ふとホークアイはこんな一言を漏らした。
「そういえばエドワードくん。髪型はどうしましょうか?」
「えっ?髪型?」
ホークアイのその思ってもいなかった言葉にエドは目を丸くした。
「そう、髪型。今まで女物を着ても単純に下ろしてるだけだったけど・・・・エドワードくんの髪の長さなら色々とできると思うわよ」
そうにっこりと微笑まれながら言われてエドは少し考え込む。
彼女が今までしてきた髪型は主に三つ編み。
適当に髪は伸ばしていたものの、やはり色々な時に邪魔にはなる。
特に戦闘時などには折角の綺麗な髪もいつもよりも鬱陶しく感じる。
よって後ろで三つ編みにすることでそれを避けていたのだ。
鬱陶しいならば切れば良いとアルにも言われたのだが、そこはさすがに女の本能で無意識のうちに切ることを拒否した。
それでなくても幼い頃は修行などで強制的に切らなければならない事態が生じていたので、年を経てからはよりいっそう切るのが惜しまれた。
よって髪を切ってはこなかったのだが、先の理由で普段の髪型は主に三つ編み。
それ以外というと三つ編みが面倒だと後ろで1つにくくった状態。
そして最近の女物の服を着ての髪を下ろしたものだけだ。
今までそんな髪型のことを考えたことはなかったが、改めて言われると色々とやってみた気もする。
「そうだな・・・ちょっと、やってみたいかも」
「それじゃあ、これから色々試していってみましょうか?」
エドの色好い返事にホークアイは嬉しそうに微笑んで手を合わせた。
ホークアイが言い出してから数日間の間、様々な髪型を試してみた。
そして現在もエドはホークアイによって新たな髪型を試されていた。
「今日はどんなの?」
「今日はね、上の方で2つに結って、両方に少量だけで作った三つ編みを根元に巻こうと思うの」
「へ〜〜・・・」
エドはそれを聞いて仕上がりが楽しみになってきていた。
ホークアイは手先が器用なため安心して任せられるし、今まで試してきた髪型もできの良いものばかりだからエドは余計に楽しみだった。
もっともホークアイが「出来がいいのはエドワードくんの元が良いからよ」というのには、エドはきっぱりと否定をしている。
実際にはエドの言う通りホークアイの手先の器用さと、ホークアイの言う通りエドの見た目のよさがあってこそ、よりいっそう出来がよくなっているのである。
それを1番自覚していないエドは、ホークアイに髪を梳かれる気持ち良さにご満悦しながら、出来上がりを楽しみに待っていた。
「さあ、出来たわよ」
「わぁ・・・・・」
ホークアイに鏡を渡されてそれを覗き込んでみると、髪型を変えた後はいつものことだが、普段とは違う自分がそこにいた。
「どうかしら?」
「うん。三つ編み巻きつけてる分、普通に2つに結ってるのよりこっちの方が俺は好き」
「そう・・・・・気に入ってくれて良かったわ」
エドに喜んでもらえたことで、ホークアイも嬉しそうに満面の笑みを浮かべる。
「うわ〜〜・・・いつものことながら、自分じゃないみたい」
「髪型1つで結構変わるからね。・・・・・今度は軽くお化粧も一緒にしてみる」
「えっ・・・・・う〜〜〜ん・・・・・」
さすがに化粧までは今まで免疫がなかったせいか、照れくさいようで笑って誤魔化す。
その様子にホークアイは苦笑を浮かべる。
「服とかと同じで軽く慣らしていけばいいからね。・・・リップクリームとかから始めれば良いと思うわ」
「そ、そうだね・・・・・」
それでもやはり試してはみたいが照れくさいといった様子が受け取れる。
「今度はそれで街を歩いてみましょうか?」
そう言った後ふとホークアイが時計を見ると、すでに休憩時間が終わろうとしていた。
「あら、もう時間みたいだわ。それじゃあ、エドワードくん。私は行くけど・・・・・」
「ああ、俺ちょっとここで休んでいくよ」
「そう・・・それじゃあ、また後でね」
「うん。仕事頑張ってね」
エドから励ましの言葉を受けると、ホークアイは微笑んで返事を返すと仮眠室を後にした。
後に残ったエドはホークアイが扉を閉めるまでその姿を見送ると、そのまま仮眠室のベッドに横になって眠りについた。
何かが頬にあたる感触がしてエドが目を覚ましていると、目の前には自分を覗き込んでいるロイの姿があった。
そして思わず驚いて起き上がろうとしたエドの額と、それを覗き込んでいたロイの額は、まるでお約束といわんばかりに見事にぶつかった。
「いっった〜〜〜!・・・・・痛いじゃないかよ、少将!!」
「それはこっちの台詞だ。ぶつかってきたのはそっちのほうだろう」
「いきなり目の前にいるあんたが悪い!」
きっぱりと指まで見事に差してエドはそう主張する。
一方のロイはただ溜息をつくばかり。
「ところで・・・君はここで何をしているんだ?」
「何って・・・・・見れば解るだろう?寝てたんだよ」
「いや・・・そうじゃなくてね・・・・・・」
無言でロイはエドの頭を指差した。
一瞬エドは何を言いたいのかきょとんとしていたが、自分の睡眠前の状態を思い出し、さっといっきに顔を真っ赤に染めた。
そう、エドはホークアイに結ってもらった髪型の状態そのままで寝てしまったのである。
よって今エドはロイに可愛らしい女の子の髪型をさらしていた。
「まさか君にそんな趣味があったなんてね・・・」
「なっ・・・・・!」
笑いを堪えきれていないロイに思わず反論しそうになったエドだが、このまま反論すれば自分が女である事を流れで暴露しかねない。
まだ準備が完全に整っていないこの状況で、それを言うのは断じて避けねばならないことだった。
そして必死に話を逸らそうと、必死に思いついた別の話題を苦し紛れに口にした。
「そ、そういう少将は仕事はどうしたんだよ?確か、ホークアイ少佐と同じ時に休憩取ったんだから、今はもう仕事中のはずだろう?」
「その通りですよ・・・・・少将」
エドの言葉に同意するように突然扉の方からホークアイの声が聞こえてきた。
それに反応して扉の方を見る2人の表情は、方や天の助けと輝くような瞳でホークアイを見るエドと、冷汗を流しながら顔を引きつらせるロイという、まさしく心情がとても解りやすい対称的な2人にきっぱりと分かれた。
「しょ、少佐?!」
「休憩が終わってもお帰りにならないので探し回っていれば・・・・・こんな所でエドワードくんをからかって遊んでいらっしゃたのですか?」
「い、いや・・・・・」
「すぐに戻っていただけますね?」
それは確認をとっているというよりはすでに有無を言わせない強制だった。
しかもその強制をさらに明らかにするように、ホークアイの手には彼女の愛銃がしっかりと握られ、その銃口はロイの方を向いていた。
これに逆らえるものなどいるはずもなく、ロイはただ大人しく首を縦に振るだけだった。
「それじゃあ、エドワードくん。ごめんなさいね」
「い、いや・・・・・あまり気にしてないから」
そういいながらもエドはホークアイにアイコンタクトで「ありがとう。助かった」と送り、ホークアイは「どういたしまして」と返した。
そしてホークアイとまさに連行されるという表現の正しいロイが去り、再び仮眠室はエド1人になった。
「あ〜〜・・・びっくりした・・・」
実は起きた時からずっと動きの早い心臓の上に手を置きながら、エドは自分の気持ちを落ち着けようとしていた。
「って、いうか・・・普通あんな至近距離で覗き込むかぁ?」
そして起きた時の至近距離にあったロイの顔を思い出してしまい、エドは落ち着くどころか更に動揺してしまった。
「だぁ〜〜〜!もう、こうなったら・・・もう1回寝る!!」
そう言って半ばやけくそのように言い捨て、エドは再び硬いベッドに自分の全体重を押し付けた。
しかし彼女がその動悸のせいでこの後帰るまでの間、この仮眠室でまともに寝ることはなかったという。
『リゼンブールのウィンリィちゃんへ
こんにちはリザです。
エドワードくんのリハビリですが、今回は髪型の種類を増やしていくことに成功しました。
さりげなくお化粧もするように勧めてみました。
やはり慣れていないせいかお化粧は照れてすぐに了承してくれませんでしたが、興味はあるようなので時間の問題だと思います。
リップクリーム程度はなんとか了承してくれました。
今度は服装、髪型と最低リップクリーム程度のお化粧はそろえて街を歩いてもらおうと思っています。
その時はぜひウィンリィちゃんにも見てもらいたいと思っています。
それでは短いですが今回はこの辺りで筆を置きます。
また近況報告と一緒にお手紙を書きます。
それでは身体にはくれぐれも気をつけてください。
それではまた。
リザ=ホークアイより』
あとがき
このシリーズを書くのも本当にお久しぶりで、すいません;
エドワード髪型チャンジの巻きでした。
髪型の説明がとても不十分ですいません・・・;
今度またイラスト描いて載せるかもしれません。
それにしてもよく寝てるエドをロイが襲わなかったなと思いました・・・
可愛らしい髪型して寝ていたら襲ってくれといっているようなものなのに・・・・・(えっ;)
もしくはエドが襲われる前に起きたか・・・・・・
後者の線のほうが強いと思っている、書いた張本人です。
そしてホークアイ姉さんの手紙は健在です。
そのうちウィンリィバージョンもやるかもです。
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