HAPPY FATHER DAYS
きつい傾斜を登っていく影が4つ。
その中の2つは妙に元気に。
そしてもう2つは疲れきった表情をしながら。
今だ辿り着かない頂上目指してひたすら登っていた。
今から3時間ほど前の事である。
「みんな〜、ちょっと付き合って☆」
いつもより早めの昼食を終えたところでシエナが幼馴染達に嬉しそうに言った。
その言葉の意味を理解できたのはその場に居た6人の内5人。
「今年もですか・・・」
「今年もって何?」
「毎年恒例シエナの『父の日』のプレゼント調達だよ」
1人解らないでいたアクラに兄であるアイスが嬉々としているシエナに対して多少呆れたように応えた。
「去年は名工に特別に作らせた彫刻刀、一昨年は限定モノの絵画道具セット、その前は・・・・・」
げっそりとしたように次々と年を遡ってブリックがシエナが今まで『父の日』に
ジルにプレゼントしたものを上げていく。
それもその筈、そのプレゼント調達に毎年全員で協力しているからである。
「皆はもう用意してるから良いでしょ?」
「そ、それは・・・そうです・・・けど」
ブリックは毎年ルビイの好きなワイン。
シャルトも毎年自分の育てた花を。
テールも毎年お決まりの手作りケーキ(特大)
アイスとアクラは予約した特注のペアグラスを当日取りに行くだけ。
つまり、現段階でプレゼントが用意されていないのはシエナ1人だけなのだ。
「俺は別に良いですよ。シエナには俺のほうで協力してもらいましたし」
あっさり了承したウォールが言っているのは『母の日』の事。
「うわーい☆ありがとウォール!で・・・他のみんなは?」
他の全員も別に断る理由もない。
特にアイスの思考は現在「考えてみればこれで勉強がサボれる」と不真面目なものに辿り着いていた。
「そうだな・・・別に良い・・・」
「だめですよ・・・・・アイス様」
アイスが了承しようとした矢先、背後から地を這うような声がして、ゆっくりと恐る恐る振り返ってみるとそこには予想通りの人物。
「・・・て、テール!」
声の主であるテールの纏う恐ろしいオーラに座っている椅子ごと一歩後退する。
「勉強が遅れているというのに・・・そんな事、陛下やお父さんが許しても僕は許しませんからね!」
そう言った瞬間アイスの服を掴み、ずるずると引きずるようにして悲鳴をあげるアイスを問答無用で連れ去っていった。
その結果、シエナのプレゼント調達に協力するのはアイスとテール、今回の行き先は体力がいる為、体力のないシャルトを除くメンバーとなった。
そして現在、シエナのプレゼント調達のために一同は行動しているのである。
この山の頂上にある1部の土は陶芸に非常に良い、『幻の土』らしい。
そんな情報をどこで仕入れてくるのかはこの際置いておくことにした。
今現在の問題はなぜこれほどの傾斜をシエナは元気そうに登り、ウォールは始終平然と登れるのかである。
「お、お、お前ら・・・どういう・・・体力してんねん・・・」
「鍛え方が足りないのでは?」
あっさりと言うウォールに「少なくともお前よりは鍛えとる」と言いたかったが何か言い返されそうなのでブリックはあえて何も言わない事にした。
「・・・でも、ホント・・・まだなの・・・頂上は?」
こちらもそろそろ限界が近いアクラ。
「手、貸しましょうか?」
アクラに手を差し伸べるウォールに、方やアクラは助かったとばかりに手を借り、方やブリックはあからさまな対応の違いに理不尽さを感じていた。
「あっ!頂上だ〜〜☆」
嬉しそうなシエナは1番のりで頂上に辿り着くと、どこから取り出したのか人数分のスコップを取り出す。
「はい☆」
そして、嬉々としてようやく辿り着いて息の上がっているアクラとブリック、そしてまったく息の上がっていないウォールの3人にスコップを配る。
「これで・・・どうしろと?」
「解らないのですか?」
予測はしつつもシエナに尋ねてみるブリックに冷たく応えたのはウォールだった。
「・・・・・解っとるわ!ただ・・・」
「掘るの?」
げっそりとした風に言うアクラにシエナは満面な笑みで頷いた。
「だって〜、『幻の土』って表層にはないもん☆」
その言葉と満面の笑みに登山で疲れきった2人は愕然とした。
「ふふふ〜♪お父様のためにがんばろ〜☆」
こうして嬉々として土堀をするシエナと黙々と土堀をするウォールの横で、やけに疲れきった様子で土堀をするアクラとブリックの姿があった。
そして、それは5時間もの間続けられた。
後日、『父の日』で・・・・・
嬉々として『幻の土』なる物を父に渡すシエナを見つつ、もう2度とシエナのプレゼント調達には付き合わないと固く心に決めたアクラの姿があったという。
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