Hello child
-前編-
ばちばちっと雷のような光がした次の瞬間、そこは今まで2人がいた場所とは違うところだった。
今まで2人がいたのは家の中。
しかし現在2人は家の外、それも人通りのあまりない路地裏と思われる所にいる。
「お姉ちゃん。ここお外?」
実年齢より若干精神的に幼い双子の弟に尋ねられ、姉の少女は弟の頭を撫でながら優しく返事を返す。
「そうみたいだね」
「なんで?僕たちお家の中にいたよね?ここどこ?」
「なんでだろうね。とりあえず、人通りの多い所に行こうか」
「うん!」
姉の言葉に弟は素直に元気よく頷くと、2人は手を繋いで暫く歩き、人通りのある表通りに出た。
「・・・ここ中央だね」
「うん!あのパン屋さんのクリームパンおいしいの〜」
表通りに出て辺りの景色をよく見回してそう言った姉の言葉に、弟はいつも母親や姉達といっているお気に入りのパン屋を発見して嬉しそうだった。
「ん〜・・・でも、なんか違う気がする。ほら、あそこ空き地じゃなかったよね?」
姉が指差したのはパン屋の斜め向かい側にある、売地と書かれた看板の立つ、何も建物など建っていない空き地だった。
「ほんとだ〜〜」
不思議そうな表情をしている弟の横で頭を捻らせている姉は、ある1つの可能性を考え、道行く人にあることを尋ねた。
親切な人が不思議そうな顔をしながらも答えてくれた言葉に丁寧にお礼を言い、そして自分の考えが正しかった事に溜息をつきながら弟を見た。
「お姉ちゃん、どうしたの?」
「なんでもないよ」
にっこり笑いながらそう言った姉に弟は小首を傾げる。
だが次に姉から出た言葉に弟はすぐさま満面の笑顔を浮かべたのだった。
もうすでに聞きなれた銃声が今日も響いていた。
「大佐。エドワードくんへのセクハラはいい加減にして、さっさとそこの書類の山を片付けてください」
そしてこちらもいつものように暫し硬直した後反論する発砲された張本人。
「ち、中尉・・・少しくらい良いじゃないか。せっかく久しぶりに鋼のに・・・・・」
しかしロイが皆まで言う前に、ホークアイは新たな弾をセットし、そして再び構えた。
「2度同じことは申しません」
「・・・・・・はい」
その警告でロイはさすがに観念し、重い空気を纏いながら仕事に戻った。
いつもながらどちらが上司で、どちらが部下かわからないその姿を見ながら、エドは心底ホークアイに対して尊敬の眼差しを向けていた。
「ううっ・・・鋼の〜」
「解ったからさっさと終わらせろよ」
あまりにも情けないロイの姿にエドは溜息が出てしまう。
そしてこんな情けない姿を見ても好きな事に変わりがない自分にも溜息が出てしまう。
「あの〜〜・・・大佐、ちょっといいっすか?」
非常に気まずそうな表情と声をしながらハボックは執務室に入ってきた。
その様子に室内にいる全員が怪訝な表情をする。
「何かあったのか?」
ロイに尋ねられ、少し言い辛そうにしていたが、まるで仕方がないと自分に言い聞かせるようにしてハボックは口を開いた。
「実は入り口の所にどうも姉弟らしい子供が着てるらしんっすよ」
「・・・それがどうかしたのか?」
何故そんな事を自分に報告されるのか当然ロイには解らなかった。
「いや、それが女の子の方が『ロイ=マスタングって言う人に会わせて下さいって』言ったらしんっすよ」
「・・・・・・はっ?」
「しかもその後男の子の方が・・・『お父さんに会わせて〜』って言ったらしくって・・・」
その言葉に一同声を失ってしまう。
そして誰もが必死にハボックの言葉を理解しようとしていた。
司令部入り口に2人の姉弟らしい子供が着ている。
1人はロイに会わせてほしいと言ってきた。
もう1人はお父さんに会わせてほしいと言ってきた。
推測するに2人が会いたいと言う人物は同一人物。
つまりロイがその2人の父親である。
その結論が出た瞬間エドはロイを睨み付け、ホークアイは銃を再び構えていた。
そしてその2人の反応にはっとしたロイは慌てて弁解する。
「ま、待て!私は身に覚えがない!!それに私はエディ一筋だ!!」
「ここでエディ言うなって言ってるだろ!いや、この際それは置いておくとして・・・・・」
エドは自分の怒りの矛先が危うくずれそうになったのに気づき、慌てて元に矛先に軌道修正した。
「大佐・・・どういうことか説明してくれるか?」
「だから身に覚えがないと・・・」
「ここにお父さんいるの〜〜〜?」
突然場違いな明るい声が部屋に響いた。
そして誰もが振り返ってそちらを見るとそこには、9歳くらいの黒髪、黒瞳の可愛らしい男の子と、茶金の髪に金の瞳の女の子がいた。
一瞬室内の誰もの動きが止まる中、男の子はぱああっと明るい顔をしていた。
「お父さん!」
ロイを見て真っ先に男の子はそう呼んだ。
嬉しそうな表情をしながら駆け寄る男の子にロイは混乱し、正気に戻ったエドはロイを怒鳴りつけようとした。
しかし次の瞬間、自分の手を握りながら嬉しそうに笑う男の子の言葉にそれは阻まれた。
「お母さん!」
男の子にそう呼ばれたエドだけでなく、周りの誰もが硬直していた。
あれから何とか正気を取り戻した一同は、2人の子供を囲んで話を聞いていた。
「イシュタル=マスタングです。イシュと呼んでください。こっちは双子の弟で、ハルワタート=マスタング。私達はハルって呼んでます」
礼儀正しく自己紹介する姉の横で弟は出されたお茶菓子を美味しそうに食べている。
そんな対照的な2人の姿を見て、ホークアイが思わず言葉を漏らした。
「その歳にしては随分としっかりしてるのね」
その言葉にイシュは的確に答えた。
「姉が3人いますが、揃って色々性格に問題があるんです。ハルは家族の中で特に甘やかされてるから、見ての通りの性格です。だから私が必然的にしっかりしてないと駄目なんです」
きっぱりと告げるその姿はとても9歳には思えなかった。
「それに私がしっかりしてるのは、半分はあなたのおかげです。私は自分がしっかりしないといけないと自覚した時にリザさんをお手本にさせてもらいましたから」
そう言ってイシュはホークアイに礼を言うように頭を下げた。
それに対してホークアイは少し照れているようだった。
そしてそれ以外の一同はこの室内にイシュが入ってきた時からリザに対して向ける目は尊敬の眼差しだったなと思った。
「で、お前ら本当に大佐とエドの子供なのか?」
未だ信じられないと言ったようなハボックの言葉にしっかりとイシュは頷いた。
「本当です。私達の両親は、ロイ=マスタングとエドワード=マスタングで間違いありません」
「お父さん、お母さん」
無邪気なハルに父と母と呼ばれることもそうだが、それ以上にエドには自分の姓をロイの姓で呼ばれた事に何よりも照れずにはいられなかった。
「多分原因はあの練成陣だと思うのですが・・・・・」
「練成陣・・・・・?」
「はい。両親の知り合いのとある人物が紙に書いて両親に預けていった練成陣です。両親は『触らぬものに祟りなし』とか言って、私達にも近づかないように言ってたのですが・・・・・今日うっかりハルと遊んでいるうちに近づいて手を置いてしまって・・・」
はぁと子供らしからぬ溜息をついてイシュは告げた。
「まさかあれが時間移動の練成陣で、15年前の時代に来てしまうなんて・・・」
確かにそんな大それたもので、こんなことになるとは誰も思うわけがない。
ましてや目の前にいるのはいくらしっかりしているとはいえ9歳の子供だ。
いったいそんな物を預けていった人物とはどんな人間なのか。
そもそも何故預けたりしたのだろうか。
「その練成陣を預けていった奴って、この時代にもいるの?」
「はい。それは間違いないです」
「それならその人を探し出して、何とかするしかないわね」
例えその人物が今その研究をしていようがいまいが、この現状ではそれに賭けるしか道はなかった。
おそらくそんな練成陣を構築できるということは、相当錬金術に対して熟練している人物である。
そうなるとエドのような例外がない限りは歳もそれなりにいっているだろうから、この時代でも子供ということはないだろう。
「で、そいつの名前は?」
「えっと、確か・・・メルリスト=ヘギススメスト、さん・・・です」
イシュの告げた名前にその場の誰もが絶句した。
あとがき
裏の戦国物パラレルをきっかけに生まれたロイエドのお子様の下の2人の登場です。
この話を書くにあたって年齢を4歳上げています。(本来の設定はこの2人5歳です)
イシュはしっかり者でハルは天然ぼけぼけっ子という両極端な双子です。(でも仲はとっても良いです)
そしてあの両親なので当然錬金術の才能もあります。
なんだか急にやりたくなってしまった未来の世界から子供がきちゃったというありきたりなネタです;
本当はロイとエド(もしくはそのどちらか)の研究中の錬金術を事故で2人が発動させてしまったというようにしようと思っていたのですが、それじゃあ本当にありきたりなので、例のあのお方にまたご登場願いました;
どうか怒らないでやってくださいませ。