Hello child
-中編-
その日、中央の一際大きな屋敷では今までにないくらいのパニックが巻き起こっていた。
「い、イシュとハルがいなくなったって?!」
ぜーぜーと息を切らしながらいきなり帰ってきた夫の姿に目を見開く。
「ロイ!お前、仕事はどうしたんだよ?」
「何を言っていっているんだ、エディ!イシュとハルの一大事の前に、仕事なんてやっていられるわけがない!!」
それは確かに父親としては正しい姿であった。
しかし国家のトップである大総統としてはかなり間違った姿である。
「イシュちゃ〜〜ん!ハルちゃ〜〜〜ん!どこ〜〜〜〜〜?!!」
「ど、ど、ど、どうしよう!イシュちゃんとハルちゃんにもしものことがあったら・・・」
「まさか誘拐?!」
次女ヘスティア、三女エスローラが父親といい勝負で混乱する中、長女ファウナの上げたその言葉に一家全員が一斉に注目する。
「あ、ありえないことじゃないよね?イシュちゃんとハルちゃん可愛いし・・・・・」
「あまりに可愛い2人に目がくらんで誘拐して・・・・・・」
「あんなことやこんなこと・・・・・・」
一体12歳のどこにそんな豊かな想像力があるのかと、我が娘ながらこの三つ子の思考が未だエドは謎だった。
誘拐される理由なら、大総統の子供だからと真っ先に考えるのが普通のはずである。
それにまだ誘拐されたと決まったわけでもない。
しかしそんな常識的な事に頭が回っているのはエドだけで、一家の長であるロイまでも三つ子と同じような思考になってきていた。
「・・・・・私の可愛いイシュとハルを誘拐したあげく、如何わしい事をしようとする輩は私の大総統としての全権限を使って、今すぐ消し炭にしてくれる!」
「さすが父様!」
「それでこそあたし達のお父様!」
「父様最高!」
はっきりいってまともな思考状態のエドには明らかにロイの発言はめちゃくちゃだが、同じような思考である三つ子からはこれでもかというくらいの賛辞を受ける。
「よし!それではすぐに軍に連絡を・・・」
「だから待てって!まだ誘拐って決まったわけじゃないだろう!!」
「そうよ〜。むしろ事故っていうか・・・事件はこの家の中で起こってるのよ〜〜〜」
冷静なエドの静止の言葉はいいとしよう。
しかし次に聞こえた能天気な声に誰もが思わず固まってしまった。
そしてその声の主はその反応に満足するようにっこりと微笑んでいる。
「やぁ、5日ぶりね。ロイちゃんにエドに三つ子娘達」
「猊下!」
「ルース!」
「「「お姉様!!」」」
突然現れた人物に各々の呼び方で驚きの反応を見せるマスタング家。
そしてその驚きの元になった張本人はただ楽しそうに笑っている。
「双子が行方不明になったって?」
「・・・なんで知ってるんですか?いえ、そもそもなんでここにいるんですか?!」
本能的な目の前にいる人物への恐怖で顔を引き攣らせるロイ。
しかし当のルースはけらけらと笑っている。
「イシュとハルがいなくなったって知って着てあげたんじゃない」
ルースのその言葉に、「むしろ着てほしくなかった」というのがロイとエドの一致の意見だった。
「お前5日前、シンの方に行くって言ってたじゃないか!」
「ああ、あれ嘘。本当はこの5日間、ずっと坊ちゃんの家に泊めてもらって、この家の盗聴なんぞしてました!」
あまりの爆弾発言にロイとエドはとてつもないショックを受けた。
しかしそんな両親の心情など知るわけもなく、何故か両親に似ずルースを「お姉様」と呼んで慕っている三つ子は彼女に物凄い勢いで尋ねた。
「お姉さま!イシュちゃんとハルちゃんがどこにいるか知っているんですか?」
「どこにいるんですか?!」
「2人は無事なんですか?!」
「慌てないのよ三つ子娘。エド、私がこの間預けた練成陣どこ?」
ルースにそう言われてエドははっと気づいた。
「ま、まさか・・・・・あれが原因なのか?」
「うん、そう」
さらりと肯定されたその言葉にエドは多少の眩暈を覚えた。
そしてその横ではロイが両手にしっかりと発火符と付けていた。
「猊下・・・・・すいませんが表に出ていただけますか?」
「やだ。エドを未亡人にしたくないし」
ロイの凶悪なほどの殺気を帯びた挑発にも、さらりと笑顔でルースは笑って受けがなした。
しかもルースのその言葉にはさりげなく、「私と遣り合ったら確実に負けたうえに死ぬわよ」という恐ろしいものが見え隠れしていた。
「ロイ・・・少し落ち着けって」
「しかしエディ・・・・・」
「今はルースをどうこう言っているよりも、イシュとハルの事が先決だろう?」
例え目の前の相手が2人が行方不明になった原因だとしても、今は唯一の手がかりであることにも変わりはない。
エドに諭されてなんとか冷静さを取り戻したロイは仕方ないとばかりにルースから話を聞くことにした。
「ようするにあれは時間移動の練成陣だったわけか?」
「そういうこと」
説明されて半ば信じられないような表情をしている一同に笑顔でさらりと肯定するルースは、性格はこんなのでもさすがは真理に等しい存在だけのことはある。
「行き先は15年前の中央よ」
「15年前っていうと・・・・・まだロイが大佐の時か」
「そうだね。あの頃も君は本当に素敵だったよv」
なにやら惚気ている旦那の言葉はいつものことだから適当に流し、エドはルースにこれからどうするのかということを尋ねる。
「とりあえず、私が新しい時間移動用の練成陣作るから、誰かがそれ持ってこの練成陣で15年前に2人を迎えに行く、ということで」
「解りました。それでは私が・・・」
「「「あたし達が行く!!」」」
ロイの言葉を遮って、勢いよく手を上げてそう言ったのは三つ子だった。
「お姉様!あたし達がイシュちゃんとハルちゃんを迎えに行きます!」
「これ以上あの2人と離れてるなんて絶えられない!」
「お願い!お姉様!!」
必死に頼み込んでくる三つ子を暫くじっと見て、そしてルースはすぐさまにっこりと笑った。
「OK」
ルースのその言葉に三つ子はぱああっと揃って明るい表情となり、きゃあきゃあと騒ぎ出した。
「ありがとう!お姉様!」
「それじゃあすぐに支度しなくちゃ!」
「手ぶらで行くのもなんだしね!」
そう言って三つ子は勢いのままに何かよく解らないが準備をしに部屋を飛び出していった。
自分達の娘達が飛び出していった方向を暫し呆然としてみていたロイとエドは、その後鼻歌交じりで新しい練成陣を書いているルースを引き攣った顔で見た。
「・・・・・猊下。どういうつもりですか?」
「ん〜〜?だってその方が面白そうだし」
ルースのその言葉にロイはまた発火符を身につけ、エドも今度ばかりは両手を合わせていた。
しかしその行動にも平然としてルースは一言いう。
「それにイシュはしっかりして頭の良い子だから、ハルと一緒に中央司令部にいる15年前のロイの所に行くと思うのよね。同一人物が鉢合わせはまずいでしょ?」
ルースのそのもっともな言葉にさすがにロイとエドは何も文句が言えなくなってしまう。
「しかもそこにエドが報告に着てる可能性もあるしね」
まさに15年前では実際に今ルースが言った通りになっている。
そしてルースが練成陣を完成させた頃、準備を完了させた三つ子が丁度現れた。
「準備できましたお姉様!」
「護身用道具ばっちりです!」
「イシュちゃんとハルちゃんの好きなお菓子もばっちりです!」
最後のはさすがにいらないような気がしたのはエドだけだった。
「3人共気をくれぐれも気をつけて・・・イシュとハルを頼んだぞ」
「「「はい父様!」」」
心配そうな父親の言葉など気にもならないくらいに三つ子は元気いっぱいだった。
むしろこれから大好きな妹と弟に会えるうえ、未知の時代に行く事にわくわくしているのだろう。
「それじゃあ、3人とも練成陣の上にきて、手をついてね」
「「「は〜〜〜い」」」
ルースの指示どおり3人は練成陣の上に立ち、そして一斉に手をついた。
するとすぐに雷のような練成反応が起こり、次の瞬間には3人の姿はそこにはなかった。
「ファウ、ティア、ローラ・・・どうかイシュとハルと一緒に無事で帰ってきてくれ」
祈るようなエドの姿にロイはその肩をぎゅっと抱く。
「さてと・・・私は坊ちゃんの家に帰るか」
ルースのその能天気な言葉に先程までしんみりとしていた夫婦がすぐさま反応する。
「「お前(貴女)は5人が無事に帰ってくるまでここにいる!!」」
「・・・あはっ、やっぱ?」
怒気を含んだロイとエドの言葉に、ルースはちょっと舌を出しておどけて見せた。
その姿はまったく元凶としての自覚は微塵にも感じられなかった。
あとがき
というわけで未来(?)編でした。
15年後のマスタング家はあんな感じです。
暴走する父と三つ子達とそれに突っ込むしかない母・・・
仕事を抜け出してまで子供の事を心配するのは確かに親の鑑ですが、明日には優秀な副官の愛銃が火を吹きそうです。
おもいっきりギャグですいません・・・・・;
次は元の時代に戻ります。
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