Hello child
-後編-
突然現れた2人の子供は未来から来たロイとエドの娘と息子。
そしてその2人がこちらにくる元凶となった人物をなんとかして見つけ出そうと、あれから数時間色々と根回しをし一同は必死になっているのだが。
「駄目です!猊下の『げ』の字も見つかりません!!」
上がったのはハボックの敗北を思わせる言葉だった。
「やはり大総統に尋ねてみるしかないですかね?」
「いくら大総統とはいえ、あの方の行動を把握できてはないでしょう」
ファルマンの言葉に冷静にリザが返答した。
「そうっすよね・・・・・だいいち、猊下の方が大総統より上手ですし・・・・・」
何しろ彼女は大総統さえ顎で扱き使う最強の人物である。
しかも現在このアメストリス国内にいるかどうかすら解らない。
彼女の居場所を突き止めることはある意味、『賢者の石』を見つけるのと同じくらい難しいのかもしれない。
「あの・・・皆さん気にしないで下さい」
手がかりゼロで落ち込んでいる一同にイシュがおずおずと告げる。
「色々と手を回して頂いた後に言うのもなんですが・・・多分、向こうの両親達が何か手をうってくれると思いますから」
そう言って9歳の子供ながら自分達に気遣いを見せてくれるイシュになんだか感動を覚えてしまう。
「ありがとうイシュちゃん」
「しかしイシュは本当にしっかりしてるな。・・・・・・とても大佐の子供には思えん」
「・・・・・聞こえているぞ、ハボック」
ハボックのその小声の言葉をしっかり聞き取ったロイは顔を思いっきり引き攣らせる。
そのロイの様子にハボックは危機感をもって苦笑する。
「お父さん」
しかしそのハボックの危機は、突然聞こえてきた愛らしい声によってすぐさま払拭された。
「どうした?ハル」
「あのね〜。これ作ったの〜〜。お父さんにあげる〜〜〜」
にっこりと笑って折り紙の鶴を差し出してくる未来の我が子に、ロイはハボックが先程言ったことなどすっかり忘れてハルの頭を嬉しそうに撫でている。
「そうか。ありがとう」
「うん!」
父親に頭を撫でられて嬉しいらしいハルが満面の笑顔で元気に返事をする。
「・・・・・大佐、それ」
「ああ、ハルがくれた」
エドの言葉にかなりの上機嫌でそういうロイに、エドはふるふると首を横に振りながら言った。
「大佐はそれ、ハルが折ったと思ってるんだろうけど・・・・・」
「・・・違うのかい?」
しかしさっきハルは確かに自分が作ったと言った。
「いや、折ったんじゃなくって・・・・・・ハルが練成せいたんだよ」
エドのその言葉に一同は一斉にハルに注目する。
当のハルは楽しそうに姉のイシュにじゃれ付いていた。
「・・・ハルは錬金術を使えるのか?」
その言葉を聞いてイシュは冷静に答える。
「はい。ハルだけじゃなく、私達姉弟は全員、5歳くらいには簡単な錬金術ならそれなりにできてました」
その言葉に一同驚きを隠せない。
「さすが大佐とエドの子供・・・・・」
「やっぱり親が2人とも国家錬金術師だと違うんでしょうか・・・・・」
「デタラメ人間の万国びっくりショー・・・」
あまりの驚きように、今この場にはいないヒューズの台詞をいってしまう人物もいた。
「ふふふっ、さすが私とエディの子だ。可愛いだけでなく才能まで十分過ぎるほどあるとはv」
「本当に凄いな」
ただ未来の親2人はすでに親ばかになってしまっているようだ。
それこそエドは自分がロイに愛称で呼ばれているのも気づかないくらい。
その2人の様子に一同はなんだか溜息が出てしまう。
親ばかになって悦に入ってしまった2人を一同が半ば呆れ顔で見守っていると、突然ばちばちっという音がし、次の瞬間にはハボックの上に急激な重みが現れた。
そしてハボックはそのままその重り達に押しつぶされてしまう。
「とーちゃ〜〜く!」
「これであたし達ちゃんと着いたんだよね?」
「よっし!それじゃあ、早速2人をさがし・・・・・」
盛り上がっている3人が目の前をよく見てみれば、そこには目的の人物2人がいて目が合った。
「「「イシュちゃん!ハルちゃん!」」」
「姉さん達!」
「お姉ちゃん達だ〜〜」
いきなり出会えた事に歓喜の声をあげるファウ、ティア、ローラと驚いた声をあげるイシュ、そして心底嬉しそうにしながら3人にかけるハル。
ハルは駆け寄った勢いのまま3人の姉に飛びついた。
そして三つ子はハルを日思いっきり抱きしめる。
「ハルちゃん!」
「ああ、良かった!イシュちゃんも一緒に無事で!!」
「本当に!でもすぐに会えるなんて・・・やっぱりあたし達の日頃の行いが良いからね!!」
そう言って騒ぎまくる三つ子と嬉しそうな末っ子。
しかし四女イシュだけはとても冷静に今の状況を見ていた。
「あの・・・姉さん達・・・・・」
「な〜〜に?イシュちゃん」
「帰りの事なら心配いらないわよ。帰り用の練成陣持ってきたから」
「お菓子もたくさん持ってきたのよ」
「・・・そういうことではなく。下を・・・・・」
イシュにそう言われて三つ子はふと下を見る。
するとそこには自分たちが思いっきり踏んで下敷きにしているハボックがいた。
「「「ああ、ハボね」」」
まったくの悪気もなく、むしろまったく気にせずさらりと三つ子は声を揃えてそういった。
「気にしないのよイシュちゃん」
「そうよ。ハボ如き1人や2人どうかなったって大した事じゃないわ」
「むしろハボの存在意義なんてあたし達のためにあってこそじゃない」
はっきりいって無茶苦茶な事を口走っている三つ子。
というよりも完全にハボックはこの12歳の少女達になめきられている。
そしてふと三つ子はロイとエドの方を見てまた騒ぎ出した。
「きゃ〜〜!若い頃の父様と母様よ!!」
「本当だ!お父様この頃からかっこいい〜〜!!」
「母様は綺麗というよりも可愛らしいわ〜〜〜!!」
そう言って3人ともハボックを蹴飛ばし、颯爽と彼女達から見ての15年前の両親に抱きついていた。
「一応お初にお目にかかります。お2人の子供、長女のファウナ=マスタングです」
「同じく次女のヘスティア=マスタングです」
「同じく三女でエスローラ=マスタング」
「「「三つ子の12歳です」」」
その自己紹介は丁寧で、にっこりと笑った顔はとても可愛らしい。
可愛いのだが彼女達の先程のハボックに対する扱いから、彼女達がどれだけ黒い性格をしているか解るため、一同は三つ子のその可愛らしさを素直に受け入れることができなかった。
受け入れることができたのはすっかり親馬鹿になってしまった某2人だけ。
イシュが9歳ながらに自分がしっかりしなければいけないと思ったのも無理はないと誰もが思った。
そしてそのしっかり者の四女がこの状況を見かねたかのように1つ咳払いをする。
「姉さん達、お迎えに来られたのなら早く帰りましょう」
イシュのその言葉に振り返った三つ子はとっても不満そうだった。
「ええ〜〜、そんなイシュちゃん」
「あたし達まだこっちにきたばかりなのに・・・」
「もう少しここにいましょうよ」
「・・・駄目です」
縋ったような声をあげる姉達に間髪いれずイシュはきっぱりと答えた。
「本来私達はこの時代にはいない存在です。それに、何よりも私達が長くこちらにいた場合、あちらのお父さんが何をしでかすか解りませんから」
15年後のロイがどういう事になっているのか解らないが、まだ事実上はこの時代に生まれていない我が子に対して親ばかっぷりを発揮しているこの時代のロイの姿を見れば、一同にはイシュの言葉はとっても説得力のある言葉だった。
そしてそれは三つ子にとってもそうらしく、あれほどハボックに対して傍若無人な言い回しをしていた3人も妹の言葉にしぶしぶ従う様子を見せている。
その証拠に未来から持ってきた練成陣の書かれた紙を大人しく広げている。
そんな上の姉3人を見ながら末っ子ハルはくいくいっとイシュの服の裾を引っ張る。
「お姉ちゃん、帰るの?」
「うん。すぐにあっちのお父さん達に会えるからね」
イシュに言われた言葉にハルの表情がぱああっと明るくなる。
そしてそんな双子の姿に悦に入っている三つ子。
「やっぱりイシュちゃんとハルちゃん可愛いv」
「ハルちゃんの笑顔最高v」
「イシュちゃんも本当に素敵v」
三つ子のその反応は完全なシスコンでありブラコンだった。
「それでは私達は帰ります。お世話になりました」
広がった紙に書かれた練成陣が露になったのを確認してイシュはお辞儀をしてそういった。
「ちょっと・・・残念だな」
「大丈夫です。後3年もすれば姉さん達に、私とハルには6年後には確実に会えます」
エドの残念そうな言葉にイシュがはっきりとそう返した。
それは案にエドがイシュ達を生むということで、なんだかそれを聞いてエドは今度は顔を赤くした。
「その時のために一層励まなければな、エディ」
一方、ロイはイシュの言葉にかなりの上機嫌だった。
「何のことだ?!」
しかしその言葉にさらに顔を赤くしたエドに思いっきり殴られる。
「父様と母様ってこの頃からこうだったんですね〜」
「ということは、15年後も・・・・・・」
「あんな感じ」
ファウの言葉に顔を引き攣らせながらホークアイが確認を取り、それに意気揚々とティアが答えた。
その言葉からロイの部下達は15年後も変わらず苦労させられそうだと思った。
「それでは姉さん達、ハルそろそろ帰りましょう」
「解ったわ、イシュちゃん」
「こっちのお父さん、お母さんばいばい」
笑顔で手を振るハル。
ハルの可愛らしいその姿に思わず誰もがぎゅっと抱きしめたくなってしまった。
しかしそれはイシュのとても9歳とは思えない咳払いでストップされた。
「15年後の両親によく伝えておきます」
「「「「「それではさようなら〜〜〜」」」」」
そう言った瞬間5人で一斉に練成陣に手をつき、その瞬間雷のような練成反応が起こり、そして5人の姿はその場から消えていた。
「・・・帰ったな」
「そうですね・・・・・・」
今まで騒がしかったが可愛らしい姿がなくなったことに一同は少し寂しく思った。
「しかし、これで将来が楽しみになったな」
真っ先に楽しそうにそう零したロイの言葉にエドは少し顔を赤くしたがどこか嬉しそうだった。
ただロイの部下達は将来への多少の不安を少なからず感じていた。
その中でもハボックは今からあの三つ子の脅威にどう対抗しようかと頭を抱えていたのだった。
目の前に起きた練成反応にすぐに反応した2人は期待に満ちた目でそこを見た。
そして練成反応が収まって現れた5人の人影に表情が見る見るうちに明るくなっていく。
「ファウ、ティア、ローラ、イシュ、ハル!」
「5人とも無事だな?!」
「あっ、お父さんとお母さん〜〜」
駆け寄ってきた両親に最初に嬉しそうに飛びついたのは末っ子のハルだった。
そんなハルを2人はぎゅっと抱きしめる。
「おかえりハル!」
「お父さん、お母さんただいま。ご心配おかけしました」
「イシュ!よく帰ってきてくれたな」
そう言って今度はイシュを抱きしめる。
そんな家族朗らかな光景に水をさすようにルースが声をかける。
「よく帰ってきたわね5人とも。あっちはどうだった?」
ルースのその言葉に5人が口々に喋りだす。
「素晴らしかったですわ!」
「特に15年前のお父様とお母様が今と変わらず素敵でv」
「司令部の皆も若かったですし」
「皆さん今と変わらない性格で、とても良くしていただきました」
「うんっとね。あっちのお父さんやお母さん達にいっぱい遊んでもらったの〜〜」
ロイとエドは5人の子供達のその言葉に特に危険なことがなかった事にほっとし、15年前の自分たちを褒め称えていた。
そしてそれを満面の笑みで頷きながら聞いた後、ルースはばっと新しい練成陣を取り出した。
「それじゃあ、次はこれ試して見る気は・・・・・」
「「却下〜〜〜〜〜!!」」
当然ルースの思惑は怒れる両親の手によって徹底的に阻止されたのであった。
あとがき
こんな終わらせ方ですいません。
そしてハボックファンの方にすいません;
三つ子のハボックに対する扱いはあんな感じです。
基本的に家族仲はとってもいいマスタング家。
しかし家族以外に対してはある程度以下には容赦のない三つ子達。
ようするに犬と同じなんですよ;
犬は家族の中で自分を基準にランクをつけ、自分より上の者には従い、下の者は僕扱い;
それがあの三つ子はロイの直属の部下とかにまで拡大しています・・・
だから(元)東方司令部の面々をあの三つ子的にランク付けすると、中尉1人が上で後は全員下なのです;
しかもハボック少尉はその下のランクの中でも1番良くあっているので、1番被害にあわせているという・・・
本当にすいません;