華空の出会い




夏の昼下がりの奈落城。
昨日から泊りがけの視察を終えて帰ってきた赤髪の青年とその息子であるワインレッドの髪の少年は報告のために向かう王の部屋への廊下を歩いていると女官が数名円陣を組んで楽しそうにしているのが目に入った。
「なんや、どうしたん?」
「あっ、これはルビイ様にブリック様」
「お帰りなさいませ」
女官達がにこにこと笑って会釈した途端彼女達が囲んでいたそこが露わになった。
そしてその先のものを見てブリックが声を上げる。
「誰や?その子」
2人の目にとまったのは少し青みのかかった大きな赤の瞳と金が少し溶けこんだような銀の髪に紅い花を模した髪飾りを2つ挿した女の子。
子供の姿になった状態のスノウが5歳くらいであるがそれよりほんの少し年下に見える。
女官達が偶然城の中で見つけた子だと説明している間その少女はじーとルビイの顔を見ていた。
そして途端に笑顔になりルビイに抱きついた。
「な、なんや?!」
突然抱き疲れて慌てふためくルビイと呆然とするブリックと女官達。
そんな彼らを気にせずやはり女の子はにっこり微笑んで。
「るびいおにいちゃんいてよかった♪」
その言葉にその場にいたほぼ全員の思考が停止した。


「かろーるおにいちゃん。ろーどおねえちゃん。ぷらむおにいちゃん。じるおにいちゃん」
集まった面々のうち子供達以外の全員の名をその女の子は当てていった。
当てられた面々は何故というように呆けてしまっている。
その中でウォールが実際全員お兄ちゃんなんて年齢じゃないと突っ込んだことはこのさい置いておく。
「ど、どうなっているんでしょう?」
シャルトがおずおずと女の子をこの場に連れてきたうちの1人であるブリックに尋ねるがブリックにしては珍しくシャルトにそっけない返事を返した。
それだけこの謎の女の子に驚いているのだろう。
「この子さ〜、何となく王子や王女に似てない?」
シエナにそう言われてそういえばと全員が女の子を見て感じた。
しかしあの2人に似ているということは同時に王と王妃にも似ているということになるのだが・・・・・
「あっ!皆ここにいたんだ」
ひょこっとその当の4人の内の1人である王妃アレクが現れた。
その瞬間女の子は今までにないほどの輝く笑顔で一目散にアレクめがけて駆けて行く。
「えっ?ちょっと!?」
「おかあしゃまぁ!」
周りにいる全員(1名除く)、特にアレクが一瞬のうちに凍りついた。
その間女の子はアレクに嬉しそうに抱きついて擦り寄っていた。
「お喜びのところ申し訳ありませんが説明していただけますか?」
ただ1人正気だったウォールが女の子に尋ねると大きな瞳をより大きくして不思議そうにウォールを見つめた。
「なにを?」
首を傾げて逆に質問してくる純粋な瞳を向ける少女に対しいつもと変わらぬ態度で詳しく話し直して尋ねようとした時声がした。
それも窓の外から。
2階であるここに窓のすぐ外から声がするはずもないと思いつつも一瞬だけそこを見ると1羽の鳥が部屋の中、窓のすぐ近くに停止していた。
「鳥?」
「らす〜〜〜♪」
女の子が嬉しそうな声を上げると黒紫の鳥は一瞬翼を広げて飛んだと思うといきなり光に包まれた。
ウォールとすでに正気を取り戻した全員が光に目を細め、光が収まった次の瞬間今まで鳥がいた先にいたのは1人の黒髪の少年だった。
「メリィ!」
少年は瞬時に女の子をそう呼び駆け寄って抱き上げる。
「大丈夫か?どこも怪我ないか??」
「うん!だいじょうぶだよ」
本当に心配していたのが解るような表情の少年とは対照的ににこにこと少女が応える。
その様子に少年はほっと胸をなでおろす思いだった。
「すいませんが話が前に進みませんので説明お願いでいますか?」
最初から1人冷静なウォールが新しく来た少年の方が状況説明が良くできそうだと判断して少年に詰め寄る。
「お前、誰だよ?」
「いや・・・だからそれはこっちのセリフなんだよ」
少年の言葉に呆れたようにロードが頭をかきながら言うと少年は意味ありげな表情でロードを見つめる。
ロードだけでなく周りにいる大人達全員にもである。
「こっちの奴らも代わり映えないな・・・」
少年の訳の解らない言葉を言って全員が怪訝そうな表所になる。
しかし少年は周りのことなど気にせずに軽く溜息をつくと説明し始める。
「俺らはこことは別の世界の住人で、偶然できた『時空間の歪み』によってきちまったんだ」
来てしまったということは望んできたわけではないようだが。
「別の世界?!」
「ああ・・・こことはかなり違う。メリィを捜す折に色々知ったが、俺らの世界は『奈落』とか『天上』はない。ただ人間や動植物が共存する世界があるだけ。それに・・・術を仕えるのもほんの一部の人間だけだ」
訊けば訊くほど解らなくなる。
『奈落』も『天上』もなく全ての生き物が共存する世界?
「天使や魔人もない。でも、獣種や有翼種という人間はいる。もっとも今となっては有翼種はセレス様おひと・・・」
「ちょっ・・・ちょっと待って下さい」
あまりの説明の早やさと何より『セレス』という名にカロールが待ったをかけた。
説明を中断されて少年が不機嫌そうな顔でカロールを見た。
「なんだよ?」
「セレスって・・・あのセレスですか?!」
「こっちのセレス様がどんな方かは知らないがな。そういう言い方はやめろ!あの方は俺の主なんだぞ」
セレスが彼の主であるということに驚くよりもカロールは主人を侮辱されて殺気を放つ彼に怯えるのに精一杯だった。
「・・・・・俺らは鳥の中でも特殊な種で・・・言ってみれば魔鳥だな。魔鳥は有翼種の血を受けることでその人の仕になり、人型に化けたり術が使えるようにもなる」
まだ不満げながらも殺気を放つことをやめた彼はぶっきらぼうにそう言った。
つまりは先程の鳥の姿こそが彼本来の姿らしい。
「で、俺らの世界にはお前らもいるわけだ。少し事情は違うが」
それこそがおそらくこの場にいる全員が心の底で聞きたかった話の本分である。
さすがに一瞬驚きはしたが。
これで女の子が何故自分達のことを知っていたのかも納得がつく。
しかし同時にある1つの推測が全員の中で生まれた。
「それでメリィはこっちのプラチナとアレクの1人娘だ」
予想はしていたがはっきりと事実を突きつけられるとどうして良いのか解らない。
ここまでの話を正直に信じるというのも凄いが。
しかし彼が嘘を言っているようにも思えないので(何よりあのウォールが突っ込まないから)信じるしかない。
「かめりあ・ぱすとぅーる4しゃいでしゅ。めりぃってよんでくだしゃい」
こちらも少年から事情説明を受けた少女が一瞬驚きはしたようだが少年に進められて素直に舌足らずな口調で自己紹介する。
「で、俺がセレス様の仕でメリィのお付役のグランジオラス・・・ラスで良い」
丁寧なメリィとは対照的に始終偉そうなラス。
少しだけどちらが主従か解らなくなる。
が、そうでもない事をさすがというかウォールは発見していた。
彼の弱点というか・・・特色を・・・・・・
「それで暫くの間ここにおいてくれないか?」
「どうして?」
「・・・察しろよ。こっちの世界でもどこか抜けてるなお前」
アレクに向かってラスが言った言葉に全員が凍りついた。
アレクを侮辱したとかではなくそれはアレクや王であるプラチナ、そしてその血に連なるものを侮辱されると怒りを爆発させる人物への恐怖からであった。
その1番の被害者は早々にその場を退場しようとしている。
「たかが鳥の分際で王妃様にそのような口の聞き方が良くできますね」
あまりにも腹の立つ物言いをするウォールにラスは反撃しようとしたが・・・・・
できるはずがない・・・・・
「ロリコンのくせして偉そうにしないで下さい」
反撃しようとした矢先のその単語にぐさりと胸をえぐられるような衝撃がした。
その後もウォール必殺の毒舌の嵐は止むことがなかったという。


あの後、あの場にいなかった数名に2人の説明と互いの自己紹介をした。
帰るためには必要な材料を集めて時空間転移のためのアイテムを作る必要があることが解り、異世界からの来訪者2人は完成まで城に滞在することになった。
アイスとアクラはまるでもう1人兄妹ができたようだと喜んでいた。
メリィも兄や姉ができたような気がして嬉しそうだった。
その一方で、メリィに構って貰えない、アイテム作成で自分から構うこともできず、しかもウォールという恐怖の対象ができて怯えるラスの姿があったという。



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