Two God narrations
1:『Cause』




日時は12月10日の夜。
魔法院の自分の部屋のベッドで眠りについていたアクアは、神殿のほうから聞こえてきた穏やかでない音で目を覚ました。
「・・・・・なに、今の・・」
「アクア!起きてるか?!」
どんどんとけたたましく扉を叩くその声の主が良く知った人物のものだとすぐ解った。
「ユニシス、起きてるけど」
そう一言だけ告げるた瞬間、扉を壊しかねないくらいの勢いでユニシスが部屋に勢いよく入ってきた。
「・・・な〜に?騒々しい」
「それどころじゃねーよ!神殿の方でなんか爆発があったみたいなんだ」
「らしいわね・・・さっき、変な音が聞こえてきたし」
「それなら話が早い!すぐに神殿に行くぞ!!」
しかめっ面をしていたアクアに、さらにユニシスは混乱させるようなことを言った。
「なぜ?」
「先生がまだ神殿から帰ってきてないんだよ!」
「先生が?」
「ああっ。だから、あの爆発に巻き込まれた可能性があるはずだ。だから、これから神殿に行く」
ユニシスの慌てた口調のその言葉に、アクアは少し首を傾げて見せた。
「でも、ユニシスは神殿の中に入れないわよ」
「この騒ぎで神殿とその周りは混乱してるし、今は夜だから忍び込みやすい。それにいざとなったら、お前が何とかしろ」
「・・・・・いやよ」
「問答無用!いいから行くぞ!!先生の一大事かもしれないんだからっ」
勢いに任せたユニシスに、「やれやれ」と溜息などつきつつ、自分も確かにヨハンや神殿にいる自分と同じ『星の娘候補』が心配だと、アクアはすぐに準備を整えてユニシスと共に神殿に向かった。







騎士院から召還され、現場にやってきたアークとリュート、それに着いて来た葵の3人は神殿の前でこれからどうするか話していた。
「それじゃあ、僕はここに残るよ。どの道、僕の階位じゃ中には入れないし」
「うむ。賊が逃げ出すやもしれん。ここは頼んだぞリュート」
「それじゃあ、俺たちはちょっと行ってくるぞ」
「2人共気をつけてね」
颯爽と神殿の中に入っていった2人に声を掛けながら心配そうに見送ったのだった。





神殿内の廊下を葵とアークの2人は用心深く進んでいた。
どこに賊が潜んでいるのか解らないので、気配を探りつつ、会話も小声である。
「それにしても・・・マリン殿は大丈夫だろうか」
「な〜に、心配いらねーって」
「・・・お主、なんの根拠があってそんなことを気安く」
「だって現在までの報告では、爆発の位置はあいつの部屋から結構遠いしな」
「それはそうだが・・・・・」
「それに、あいつの部屋はプルート様の次くらいに警備が厳重なはずだろう?」
仮にも『星の娘候補』、例えまだ『候補』であろうとも、その重要性を解らないものなどこの国には1人もいない。
「第一、 この状況じゃしんぱ、ってうおぉ?!」
「うわぁぁぁっ!」
廊下を折れたところで誰かと正面衝突してしまったアークは、あえなくその人物と絡まる形で廊下に倒れこんでしまう。
「な、何事じゃ?!」
「あら・・・葵に、アークじゃない」
突然のことに驚く葵に、透き通った静かな、そしてよく知った声が聞こえた。
「アクア殿?!」
「そうよ・・・ユニシスとアークも、いつまで絡まってるつもり?」
「好きで絡まってんじゃねーよ!」
「そりゃこっちの台詞だ!だいたい、なんでお前達が神殿にいるんだよ?!特にお前は神殿には入れすらできねーはずだろうがっ」
ようやく絡まっている状態から脱し、びしっと指を突き刺してアークはそれをユニシスに指摘した。
しかし売り言葉に買い言葉状態で、その程度ではユニシスは怯まず、逆に火に油を注いだ状態になった。
「煩いな!お前こそなんでいるんだよ?!」
「俺は仕事できたんだよ!し・ご・と」
「・・・普段さぼりまくってるくせに」
「普段から暇なお前と違って、俺には生き抜きも必要なんでな」
「なっ・・・別に暇じゃねー」
「いい加減にせんか!お前たち」
「ふもーなたたかい」
「そうですよ、仲良くしないとね」
呆れた女性2人の声はまだ良いが、その後に続いた楽しげな第3の声に2人はぴたりと口論を止めてそちらを見る。
「「・・・・シリウス・・・・・さま・・・」」
最後の「さま」はまるで思い出したかのように付け足された。
そこにはにこにこと笑顔を浮かべたダリス王国大使が立っていた。
「なんで、あんたがここにいるんだよ?!」
「なぜって?ここは僕が今寝食お世話になっている場所なんですから、いても不思議はないでしょう?」
「そういう意味じゃなくて!どうして今この場で俺たちと一緒にいて、いつからそこにいたのかってことを訊いてるんだ!」
「愚問ですね。君がユニシスと衝突した時点ですでにいましたよ」
それはつまり、アクアとユニシスと一緒にこの場に現れたということで。
そしてずっとこの滑稽な有様をよりにもよってシリウスに見られていたということで。
アークはそれが本当とは信じられなかったが、アクアと葵はシリウスの言葉を肯定して首を縦に振り、ユニシスの方を見てみれば罰が悪そうに明後日の方向を見ている。
「・・・てめー、なんでよりにもよってあいつといるんだよ」
確かにアークは魔法院の人間は基本的に嫌いだし、ユニシスともそりが合うほうではないが、少なくとも互いにシリウスが苦手というか、嫌いの部類に入るという時点では同類だとは思っていた。
それがよりにもよって、一緒にいたのはどういうことなのかと、白い目でユニシスを見る。
「仕方がないだろう。ここに侵入した時に見つかって、『一緒についていく、断ればここに入ったことをばらす』っていうんだぜ・・・」
「・・・最悪だな」
顔を引きつらせながらアークはシリウスの方を見た。
「そう思うだろう?おまけに『ヨハン殿の居場所を知っているから案内する』なんて言われたら、嫌でも同行許すしか」
そこではっとユニシスは気が付いて勢いよく立ち上がった。
「早く先生の所に行かないと!・・・案内しろよ!!」
すたすたと数歩歩き、くるりと振り返って八つ当たりのように自分を呼んだユニシスに、溜息をついてシリウスは返事をした。



「やはりマリン殿が心配だったのか?」
「そうね・・・心配といえば、マリンも先生も心配ね」
まるで無関心のように言ってみせて、その実はとても心配しているはずの少女に対して葵は苦笑する。
「なに?」
「いや・・・なんでもない」
葵の意味あるような言葉が解らないのと、同時にそれが気になり小首を傾げてみせる。
アクアがそれについて尋ねようとした時、アークがタイミング悪く声を上げる。
「あれ、マリンじゃねーか?」
アークの言葉に反応して全員が見てみると、そこには確かに頭の白いリボンを揺らした少女の姿があった。
「・・・なにしてるんだ?あんなところで」
「気になるのならきいてみればいいわ・・・・・マリン」
「えっ?あっ・・・はい?」
妙に焦ったようにマリンは振り返る。
そしてよく見知った面々に多少安堵するが、すぐさま慌てた様子で体を強張らせる。
その様子は、後ろに何かありますと言わんばかりだった。
「・・・こんな所で何してるんだ?」
「いえ・・・その、爆発がしたから・・・・・どうしたのかなって思って」
「じゃあ、その後ろに何があるんだ?」
アークに尋ねられ、ぎくっとマリンはあからさまに態度に出してしまった。
「な、なにも・・あ、ありませんよ」
「・・・・・怪しい」
言うが早いか、アークはマリンを無理やりその場からどかしてしまった。
「あっああぁ〜〜!」
「うっせーな・・・・・他の奴らがきちま・・・う、ぞ」
マリンの叫び声に冷静に対処していたアークだったが、マリンが隠していたそれを見た瞬間思考が多少止まってしまった。
それはアークだけでなく、他の面々も同じことではあった。
そしてその隠されていたモノは、罰が悪そうに笑い出した。
「・・・プルート殿?!」
最初に声を発することのできたのは葵だった。
「おやおや・・・どうして星詠み殿がここに?」
「そうよね。こういう場合は、部屋で大人しくしてるのが正しいと思うわ」
「ま、待ってください!プルート様は爆発が気になって・・・それで」
どうしようかと頭の中をフル回転させ逆に混乱してしまっていたマリンが、はっと気が付き慌ててプルートの弁護をする。
「無意識のうちに飛び出してたらしいんです。だから・・・その・・・・・」
「・・・解ったよ。ソロイ様には黙っておくよ」
アークのその言葉にマリンはぱああっと表情を明るくさせる。
「本当ですか?」
「ああ、告げ口する気はない。それに、あの人にばれて説教食らうのはきついだろうしな」
「さすが普段からの経験者だな」
「うっせー」
「あ、ありがとうございます」
プルートが素直にお礼言うと、アークは目を円くして呆然としている。
「あの・・・どうかしましたか?」
「いやっ・・・まさか、星詠み様から礼言われるなんておもわ」
言いかけたところをすかさず葵に叩かれて中断される。
「いっ・・・何するんだよ!?」
「お前が無神経なことを言おうとするからだ!」
「はあ?今のどこが無神経なんだよ?」
お互い一歩も譲ろうとせず、騒ぐ2人を他の面々はそれぞれの面持ちで見つめる。
「ったく・・・うるせーな」
「とかいって、先までは君がアークとああいう状態だったんだよ」
「・・・お前にだけは言われたくない!」
シリウスの指摘に図星を指されたユニシスは、少し悔しそうに悪態をついてみせる。
一方のマリンとプルートは2人のけんかにおろおろしていた。
「ど、どうしましょう・・・?」
「あう〜〜、葵さんもアークさんも落ち着いてくださ〜い」
「・・・待って」
2人のけんかを止めようとしているマリンとプルートに対し、アクアは静止の声を静かにかけた。
「えっ?待てって・・・どういうことですか?」
「・・・・・面白いから、もうすこしみたいの」
「・・・・・・アクアさん」
くすりと目の前で繰り広げられる光景を小悪魔のような笑顔で見るアクアに、マリンとプルートは冷汗を流した。
一方でユニシスのほうは、すでにいらいらしてきたようで、そのままこの場を去ろうと歩き出す。
「こっちで良いんだろう?!先に行くぞ。先生が心配だ!!」
「えっ?先生がどうしたんですか?」
「まだ魔法院に帰ってきてなかったのよ。ひょっとしたら爆発にまきこまれたのかと思って、ね」
「そ、それは大変です!あ、あたしも行きます!・・・あっ、でも・・・」
そのままユニシスの後に続こうとしたマリンだったが、お互いに引くに引けなくなって未だけんか中の葵とアークの方を見る。
ヨハンも心配だが、この2人を止めるのも大事なことだと思う。



「うわぁぁぁっ!な、なんだよ、これっ」
「ユニシスどうし・・・・・っ」
突然のユニシスの慌てた叫び声に、最初は冷静に対処していたアクアだったが、それを見て驚き、呆然として言葉に詰まってしまった。
視線を向ける方向には黒い渦のようなものが出現していて、その渦にユニシスが飲み込まれようとしていたのだ。
「ゆ、ユニシスさん!」
「あれはっ!」
慌ててつマリンの声に重なり、ユニシスの叫びでアークとのけんかを中断しそちらを見た葵が驚愕の声を上げる。
その渦は葵がこの世界にくる原因になったものによく似ているからだった。
そしてその渦はいきなり巨大なものになり、ユニシス同様に混乱して考えが及ばないでいる他の面々も引きずり込んでしまった。
そしてその渦が消え去った後に、その場にはだれもいなくなっていた。









最初に目を覚ましたのはマリンだった。
しかし目を覚まし、はっきりした頭で辺りを見て驚いた。
先ほどまで神殿にいたはずなのに、違う場所どころか、見知らぬ場所にいた。
そしてその場所は少し寂しい場所のようにも感じられた。
周りはいくつか直しかけた建物があり、あきらかに直したものだと解る建物があって、ここが以前はどれだけ酷い場所だったのかが解りそうなものだ。
今は復興の途中のようで、少なくともここが自分が先ほどまでいたアロランディアの本島ですらないことが窺い知れる。
「・・・・・・一体ここは・・どこなんでしょうか?」
たたぽつりと漏らした言葉は、空しく冷たい風に吹き消されるだけだった。







彼女たちが知るはずも、信じるはずもない・・・
ここは『奈落』・・・・・
かつて『神に見捨てられし地』と呼ばれた国・・・・・










あとがき

ついに始まりました、始めてしまいました(^^;
Apocripha/0お子様+Fantastic Fortune2パラレル『Two God narrations』です。
ちなみにこのタイトルの訳は『2つの神語り』です。
アポクリ(少なくとも奈落)とファンタ2では神様のあり方が違う、むしろ真逆だと思うのでつけたのがこのタイトルです。
どちらの世界の神様も、もういないわけですけどね・・・
今回はアロランディアが舞台で、ファンタ2キャラのみでしたが、次回からはアポクリお子様も出て、舞台は奈落になりますので。
アポクリお子様・・といっても、ちゃんと親も出てきますので。
そして私の中のファンタ2のキャラたちはこんな感じです;(すいません)






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