Two God narrations
2:『Arrival』
マリンに続いて目を覚ました一同は、マリン同様一体どうなったのかと考えていた。
結局あの場にいた全員は、この見知らぬ場所へと揃って着てしまっていたようだ。
夜明けの太陽が町を照らす中、考えても何も解らない一同は万事急須だった。
「・・・まさか、またこんな目にあうとは」
1度ならず2度までも、と葵は眩暈がしてしまった。
「そういや、お前突然知らない所に知らないうちに来てた経験者だろう?何かわかんねーのかよ」
「・・・解らんから未だ騎士院で世話になっているのだろうが」
そんな糸口が見つかるくらいならとっくの昔に葵は日本に帰っていることだろう。
そんな話を延々していたら、突然後ろのほうで何か物音がした。
慌てて後ろを振り返ると、そこにはいかにも悪人という言葉が服を着ている男が数人いた。
「へ〜〜・・・こりゃあ、驚いた。あそこのガキかと思ったら、随分と身なりの良い連中じゃねーか」
「しかも、全員かなりの上玉だ」
訳の解らないことを言いながら、男たちは醜悪が笑い声を漏らす。
「な、何者だ?!お前たち」
「・・・さっきの会話。どうやら、人買いかその類でしょうね」
「ええっ〜〜〜?!」
「へへっ・・・察しが良いな兄ちゃん」
シリウスの推察にマリンはそれを嘘だと思いたい一心で声を上げるが、1人の男が肯定の言葉を口にする。
「この町には孤児院があってな。そこのガキ共を捕まえて売っちまうって算段よ」
「どういう経緯であんた達みたいなのが入り込んだのか知らないが・・・覚悟してもらうぜ」
「こっちとら、十数年前にでた新法のせいで、公に仕事ができなくなったんだ」
「この町は今はまだ賑わってなくて人の目も届きにくい、丁度良い『狩場』なのよ」
「恨むなら、そんな場所に入ってきた自分たちを恨みな」
そう言うなり一斉に飛び掛ってくる男たちに対処しようと剣を持っていた葵とアーク、シリウスが剣を抜こうとしたが。
「なっ!剣がない・・・」
莢ごと3人の剣は無くなっていた。
一瞬アクアも呪文を唱えて応戦しようとしたが、呪文を唱え終わる前に捕まると踏んだアクアは、すぐさま男たちが向かってくる方向とは逆に走り出す。
「みんな早くっ」
「・・・確かに、今は逃げるが勝ちですね」
「ちっ・・・仕方ねー」
賛同するのは癪だが、向こうは剣を持っているし、今はそれしかないと思ったアークは、呆然として動けないでプルートに声を掛けて走り出した。
「何やってるんだよ!行くぞ」
「えっ・・・は、はい」
アークの声に驚いてようやく正気に戻ったプルートは慌てて走り出した。
その逃げる姿ににやりと嫌な笑みを男たちは浮かべる。
「へっ、そううまくいくかよ!おいっ、そっちに逃げたぞ!!」
1人の男がそう声を上げると、逃げようとするその方向に数人の新しい男たちが現れた。
様子からどう考えても、あの男たちの仲間としか思えない。
「・・・はさみうちにされたか」
「へっへっ・・・もう逃げられねーぜ。大人しく・・・」
「今だ!やれ〜〜〜〜〜!!」
こちらの伸びてくる男の手に捕らえられそう担った瞬間、上の方から突然した声に驚いて見上げて見ると、突然そこから人が何人も降ってきた。
しかし、それはただの人ではなく、全員が子供だった。
「いてっ・・・てめーらっ、孤児院のガキ共だなっ!」
「放しやがれっ!」
いくら大人と子供といえど、子供の数のほうが圧倒的に多く、その上男たちの上に子供が圧し掛かるような状態にあるため、やすやすと振りほどくことはできないようだった。
「るっせー!俺たちの仲間をさらっていったやつらの言うことなんかきくもんか!」
「さらっていった皆をかえせーー!」
子供たちは圧し掛かりつつ、必死になって男たちをあまり威力があるとは思えない拳で叩きながら、必死で男たちに罵声を浴びせている。
しかしその一連の行動が男たちの癪に障ったのか、逆上した男が子供たちを払いのけ、そのまま剣を向ける。
「うわっ!」
「このガキ共!生意気なことしやがって!!ただじゃおかねー」
「やめっ」
いっきに振り下ろされた剣に思わず叫んでみても止まるはずはなかった。
しかしその剣は確かに止まった。
言葉によってではなく、突然現れた別の誰かの剣によって。
「・・・誰?」
「ブリック兄ちゃん!」
突然現れた男の剣を受け止めている赤髪の人物の後ろ姿に呆然としている一同だったが、子供たちは嬉しそうにそう人物の名前を呼んだ。
「お前ら、ようがんばったな〜、さすがや。あとは俺に任せとき」
「うんっ!」
笑顔を子供たちに向けて振り返った少年はマリンと同じ年頃、15歳くらいだった。
それなのに軽々と自分の倍以上は取っているだろう男の剣を軽々と受け止めている。
「くっ・・・調子にのるなよ、小僧!!」
このまま押していても駄目だと理解した男は、ブリックと呼ばれた少年から剣を引いてあらためて斬りつけようとする。
しかしブリックはそれに対し、余裕の笑みを浮かべ、彼が剣を振り下ろす前に男の腹に蹴りを入れ気絶させてしまった。
「さ〜て、遠慮せずどんどんきいや」
不敵な笑みを浮かべるブリックに、男たちは気づかぬうちに気圧されていた。
「なんや、てごたいないな〜」
数分後、そこにはあっという間に軽々と男たちを粉砕して見せた余裕のブリックが立っていた。
男たちはというと、ただ1人を除いて全員いわゆる、地を嘗めるといった状態だった。
その活躍にはしゃぐ子供たちと、呆然とそれを見守っているマリンたちの目の前で、ブリックは最後の男に剣をを向ける。
「さ〜て、観念せーや」
「だ、誰が!」
慌てて逃げ出そうとした男だが、逃げようとした先で何かにぶつかった。
「薄情や奴やな〜。仲間置いて逃げるいうんか?」
男の行く手を塞いだのは、ブリックと同じ赤髪で口調まで同じ1人の男性。
「親父!」
「ルビイ!」
その出現に半ば驚くブリックと、ブリックが登場した時のように喜びに沸く子供たち。
そして突然現れた人物に、驚きつつも罵声を浴びせる男。
「て、てめぇ!邪魔すんな、そこどけ!」
「できへんな〜、お前・・・というよりも、お前らがやったこ、ようかんがえてみー」
「んなこと、てめーに関係ねーだろうが!?」
「あっ・・・こいつ馬鹿や」
「そうやな・・・それに、大いに関係あるんやで」
呆れ果てたブリックの言葉に同意し、さらに意味深な笑みを浮かべると男に向かってゆっくりと語りだす。
「1つ、この町は俺の弟が今は間接的にやけど管理任されとるんや」
「っ!!」
「2つ、その俺の弟は国中で有名な王の側近やっとる8人の高官の1人。で、俺も
その他ならぬその1人や」
そう言いながらルビイは懐を探って何かを取り出そうとしている。
「3つ、ここは奈落王が特別保護指定地域にしとって、ここでの罪は通常の数倍になる・・・ってことで、お前ら捕まてこいいう委任状がこれ」
ルビイは言葉を終えると、得意げにその王家の紋章が描かれ、王の判と思われるものが押された1枚の紙、委任状を男に見せつける。
その委任状と、先ほどの話を聞いたのと子供たちが呼んだ名前を思い出し、まさかルビイをよく見ていた男は、突然小さい悲鳴を漏らし、その場に尻餅をついて座り、口をぱくぱくさせながらルビイを指差した。
「ま、まさか・・・・・王家護衛騎士団長の・・・」
「ルビイ=ジャンクソンや」
気が付いた男に満足そうな笑みをうかべて、フルネームを名乗ったルビイに対し、男は半ば恐怖のあまりその場に気絶してしまった。
「親父・・・ええところ取りすぎ」
父親に最後を決められ、ブリックは多少不満な声を溜息と共に漏らした。
男たちを全員縄で縛り、ルビイは町の外に待機させていた部下たちに近くの役所まで連れて行くよう支持をした。
今は天敵とも言える男たちが捕まり、先ほど入った吉報でより子供たちははしゃいでいた。
「おじさんのほうも上手くいってよかったな〜」
「そやな〜。浚われた子供も全員見つけて、助けた言う話やし」
これで普段は一件落着といくのだが、今回ばかりは一件落着とは行かなかった。
すくなくとも、後を着いてきている者たちにとっては。
「あの・・・ここはどこなんですか?」
やはりいくら助けられたとはいえ、警戒している様子でマリンが尋ねる。
「俺らじゃうまく説明できへんから、今はついてきてくれへんか?」
「は、はあ・・・」
「大丈夫や、取って食うたりたりせえへんから」
そんなことを笑いながら言われてもまだ完全には信用できず、しかし今は大人しくついていくしかマリンたちに道はなかった。
「ついたで」
「教会・・・?」
そこは見るからに1件の教会だった。
そしてこの教会も建て直されたり、補修したのだということが解った。
「まあ、確かに教会やけど、ここが孤児院やな」
「はぁ、そうなんですか・・・」
マリンはなんだか自分が育った故郷の教会を思い出した。
あそこも教会兼孤児院でもあったのだ。
しかし、「も」というよりは、ここは教会としては機能しておらず、孤児院としてだけ機能しているように思えた。
「あっ!ブリック兄ちゃん、ルビイ、皆もお帰り」
ブリックたちが帰ってきたことを察し、次々と出てきた孤児院で留守番をしていた子供たち現れる。
「どうだった?」
「ばっちり、上手くいったぜ」
「それに、カロールがさらわれた仲間もたすけたって」
「本当?!」
ブリックたちと一緒に出かけていた子供たちから首尾を聞いた留守番役の子供たちは、その吉報のはしゃぎまわっていた。
「なあ、みんな」
そのはしゃぎように水を差すのは悪いと思いつつ、ブリックが子供たちに声をかける。
「な〜に?」
「アイスの奴はどこにおる?」
「え〜とね・・・今はまだ寝てるよ」
「・・・寝とるんかい!」
いくら明け方早いとはいえ、自分や子供たちが忙しく動き回っていたのに、1人呑気に寝ているその事実にルビイは多少卓袱台を返したい心情になった。
「まあ・・・しゃーないやろな。アイスやし」
「・・・そうやな」
はあ、と溜息をつきつつ、ブリックは父親の意見に半ば諦めの境地で同意する。
「アイスって、誰だ?」
新しい名前に怪訝な表情を見せて尋ねるアークに対し、ブリックは笑みを浮かべる。
「これから会う奴。んでもって、そいつが色々と話してくれるはずや」
孤児院になっている教会のある一室のベッドの上で、アイスは健やかに寝息をたてていた。
「・・・完全に熟睡してるな」
ここまでの経緯は良く解らないが、その人物の呑気さに呆れ果てるユニシス。
「でも、綺麗な方ですね・・・」
「う〜ん・・・・・それ、本人が聞いたら多分怒るで」
マリンがありのまま思った事を漏らしたその一言に、ルビイは苦笑を浮かべながらそう忠告めいた言葉をやる。
その意味が良く解らず、マリンは首を傾げて見せた。
「ったく、それにしても相変わらず寝取る時まで顔が整っとるな・・・」
「ある意味嫌味やな。・・・・それと、兄妹で本当に正反対やな・・・」
「アイスー。アイスリーズ=パストゥール」
アイスの体をブリックが揺さぶりながら彼の名前を呼ぶと、すぐに彼は目を開けて起き上がった。
「・・・ブリック、ルビイ。終ったんだな」
「おかげさまで」
「・・・嫌味ならいいぞ」
ブリックの皮肉を込めた言葉をそれだとすかさず見抜いたアイスはそうきって返した。
「それにしても、寝てる時も美人でしたけど、起きてるとますます美人ですね。お嬢さん」
シリウスのその言葉に反応し、アイスは方をぴくりと震わせ、ひくひくと顔を引きつらせる。
そしてブリックとルビイが自体を察してアイスから数歩離れた瞬間、アイスは物凄い勢いでシリウスの胸倉を掴みあげていた。
「誰が美人だ?!誰がお嬢さんだ?!!俺は列記とした男だぁ〜〜〜!」
あまりの性格の変貌振りに驚くのが半分、男だったと言うことに驚くのが半分のマリンたちだったが、その反応にも気づかずアイスは暴走と呼称できる状態を続ける。
「どうせ俺は、母上似のせいで童顔のうえ、女顔だよ!!」
「あっ・・・アイス、そのへんにしとき・・・」
このままでは標的になっているシリウスが大変だと、ブリックが決死の覚悟でアイスを諌める。
ブリックに諌められ、ぴたりと動きを止めたアイスは、暫くシリウスを静かに睨んだ後、不機嫌な顔で顔をそらした。
「なんか、凄い奴だな・・・」
「だが、確かに性別を間違えられるというのは、腹が立つものだ」
アイスの行動に対し、驚きつつも葵はまるでそれが当然の行動とでもいうように首を縦に振る。
「あっ・・・あの、それで・・・」
「んっ?!」
「いえ・・・貴方が色々と教えてくださると、聞いたのですが」
まだ機嫌の直っていない様子のアイスに、それでも恐る恐るプルートが尋ねると、アイスはみるみる表情を変え、溜息をついた時にはすでに先ほどの荒っぽい雰囲気はうせていた。
むしろどこか気品と威厳のあるような雰囲気のように思えた。
「まず知りたいのは・・・ここがどこかってことだろう?」
「はっ、はい」
なぜそれが解ったのか疑問にも思ったが、とりあえず機嫌を損ねることだけは避けたかったのであえて今は尋ねなかった。
「ここは奈落だ」
「・・・奈落?」
「そう・・・ここは、お前たちが知るはずも、信じるはずも、考るわけもない・・・」
真剣な面持ちのアイスの言葉1つ、1つがどこか重く感じられた。
「ここは・・・奈落はかつて『神に見捨てられし地』という代名詞の元にあった国だからな・・・」
アイスの一言に、『神の国』と呼ばれるアロランディアに先程までいた全員は、ただ呆然とするだけだった。
あとがき
とっても書きたかったのは、ルビイの名乗りシーンです(^^)
一応奈落の住人は、高官の顔を見た事のない人は多いのですが、姿形の特徴などはこれまた多くの人が知っています。
王の側近=王のお気に入りと言う考えが民の間では根ずいています。(私的設定)
騎士団長がここに居て良いのか?という質問はしないでください;
彼はあっちこっちに結構派遣されたりしてます;(ロードやジル程ではありませんが)
そしてお気づきの方もいると思いますが、ここはゲーム中でいう所の『寂れた町』です。
それにしてもシリウスファンの皆様ごめんなさいm(_ _)m
アイスのあのシーンも書きたかったので、ああいうことを口走るのはやはりシリウス様だろうと・・・
本当にすいません・・・