Two God narrations
3:『Return』






時刻はすでに夕刻前。
見慣れた白の大きな城門前に、総勢10名が集まっていた。
3名はこの城に帰還してきた者、残り7名はここに成り行き上、しかも初めてきた者たち。
ここまで着いてきたとはいえ、この『世界』にきたばかりで、アイスに孤児院で色々と聞かされたマリンたちは今でも多少半信半疑だった。
それは今から9時間ほど前。







「以上がこの国・・・この『世界』の常識と、一通りの歴史みたいなものだ」
アイスの一通りの説明が終わり、半ばマリンたちは呆然としていた。
それは彼が口にしたのが、とてもアロランディアでは信じられないようなこれが含まれていたからだった。
「・・・『神に見捨てられた地』って・・・」
「・・・・・それよりも、神が・・この『世界』の神が殺されているというのはどういうことですか?!」
いくら違う『世界』とはいえ、神が殺された等という話を、まともに聞き流すことは『星詠み』の神官たるプルートにはできなかったようで食って掛かる。
それにアイスは、それが予想通りというように溜息をつく。
「言葉どおりだけど・・・?そんなにむきになるな」
「むきにもなりますよ!・・・それが真実なら、殺した人物はよっぽど酷い」
そのプルートの言葉が気に障ったのが、アイスはぎろりと目つきをことさら鋭くして睨み付ける。
それがあまりにも恐ろしくて、睨まれたプルートだけでなく他の数名もびくっと体を震わせる。
「お前たちの常識ではかるな。・・・殺した奴にも、ちゃんとした事情はあったんだ」
「け、けど・・・」
「さっきも話しただろう?この『世界』での神は・・・絶対じゃない。特にこの『奈落』ではな・・・」
『神に見捨てられた地』・・・
振ってくる天使に怯えて暮らす人々・・・
『神』を崇めるのは異端者・・・
それがこの国のかつての常識、摂理・・・
今でこそ『奈落』と『天上』はどちらかといえば友好的な関係にはあるが、互いに対する偏見が全て消え去ったわけではない。
「それに・・・その神本人が殺した奴を許してるんだからな」
「・・・なんでそんなこと解るんだよ?」
「・・・・・その神の魂を宿している魔人を知ってるからな」
「はっ・・・・・?」
アイスのその一言にただ絶句するしかない。
「・・・その人物はなんとなくそれが解るらしい。・・・・・俺も聞いたことがある」
「・・・・・信じられないことではありますが。なら、その人物に」
「会わせてやるよ。というよりも、どの道そうなるし」
溜息をついてそう言ったアイスの言葉の意味が良く解らなかった。
「『どの道そうなる』・・・とは?」
「・・・その人物は、この国の王・・・・・現奈落王だからな」
「俺らはお前らを連れて、これから城に帰るんやしな」
傍観者よろしくを決め込んでいたはずのブリックがおかしそうに笑いながらそう告げた。







そして現在に至るわけなのだが、マリンたちはアイスが城に到着してから何か考え込んでいるような気がした。
「アイスさん、どうかしましたか?」
「いや・・・・・・」
心配そうなマリンの言葉にもアイスは相槌のような返事を返すだけだった。
「しっかし、お前ら本当に城勤めの人間だったのか?」
「なんや?疑っとったんかい?」
「だって・・・とても騎士団長なんてお偉いさんに見えねーもん」
じっと半信半疑で自分を見るアークに対し、ルビイは気にもせず笑ってみせる。
「そういえば・・・アイスはいったいどういう立場なの?」
アクアの素朴な疑問に一同の視線がアイスに集中される。
ルビイは王家護衛騎士団長で、ブリックはその息子であるから城で生活し、出入りが自由なのも解る。
しかしアイスは名乗っただけで、自分がどういう立場の人間かとは言わなかった。
「行けば嫌でも解る」というどこか誤魔化した言葉でここまで来てしまったのだが。
そんな一同の心情に気がついているのか、いないのか、アイスは突然顔を上げたかと思うと迷わずルビイをブリックの方を見る。
「・・・ルビイ、ブリック。俺はやっぱり別ルートから城に入る」
「まあ、その方がええかもな」
「色々表から入ったら大変やろうし」
完全にマリンたちは蚊帳の外でそんなことを話している。
それに何か3人だけで解っているのを見ると、ここではやはり余所者なんだなとマリンたちは自覚して、はやく元の『世界』に戻りたいとも思うのだった。



「それじゃあ・・・」
「あっ!ルビイ様、ブリック様、お帰りなさいませ」
一通り話が終わり、アイスがその場を去ろうと一同に背を向けた瞬間、かしこまった人の声が聞こえてきた。
それは城の門番の声であった。
アイスはその声に去ろうに去れなくなったようでその場で固まっている。
「よう!ただいま」
「お2方共、お疲れ様です」
「そちらの方たちは?」
「客や。せやから扱いはちゃんとしたってや」
「はっ、それはもちろんで・・・・・・・んっ?」
不意に門番は未だ背を向けた状態でその場から動けていないアイスを見つけ不審な眼差しで見た。
「おいっ、そこお前。こっちをむけ」
「・・・あ、あのな・・・あいつは・・・」
門番の多少早とちり的な考えかもしれないその言葉に、ルビイは多少呆れながらも冷汗を流す。
当の不審がられているアイスはというと、半ば諦めたとでもいうように溜息をつき、門番の方を振りその顔を見せた。
そしてその瞬間、2人の門番が一瞬のうちに例えるなら石化したような状態になった。
何事かと首を傾げるマリンたちに対し、正気に戻った門番たちが一斉に叫び声を上げる。
「あ、アイスリーズ殿下!?」
「な・・・どうして・・・何時の間に城のお外に?!」
「ばっ、ばかっ!そんな大声出すと!!」
「・・・・・出すとなんですか?」
門番たちが驚き、顔を蒼ざめさせながら大声を出すのを、アイスは口許に人差し指を当て慌てて静止しようとしたが、突如した聞きたくない声に顔を引きつらせた。
「て、テール・・・・・」
「また勝手に出掛けられて・・・・・・しかも、今回は外泊ですか」
「ちょっ、待て!」
「問答無用です!シエナ!!」
「は〜〜い☆」
テールの声で今までどこにいたのか、現れたシエナが楽しそうにアイスを羽交い絞めにすると、そのまま連れ去って行く。
「んじゃ、王子連れてくね〜〜☆」
「よろしくお願いします、シエナ」
「って、放せ、シエナ!こらっ、テール・・・・・買収したなお前〜〜〜〜〜」
騒ぎながら去っていく2人を無言、真顔の状態で見送ると、テールは他の面々の法を向く。
「ルビイさん、ブリック。ご苦労様でした」
「はっははは・・・・・」
「そりゃどうも・・・」
いつものこととはいえ、一連の流れに苦笑いをせずにはいられない2人。
「それから、あなた方は気にしないでよいですよ。アイス様が勝手に抜け出されていたのが悪いんですし・・・・・それに、アイス様も気にすることないと思ってらっしゃるでしょうし」
テールのその言葉に門番2人は多少救われたという気持ちになった。
「そして、ようこそ異世界からの皆様」
アイスが王子と発覚したあたりから、呆然としていたマリンたちは、テールのその言葉でようやく正気に戻ったのだった。







城内の廊下を複数の足音が響いている。
その内の一部は慣れたような足音であり、それ以外の足音は少し警戒しているような気配が感じられる。
「とりあえず、陛下も王妃様もお忙しいですし・・・アイス様はああいう状況なので、詳しい事情説明は明日になりますね」
苦笑いをしてそう言いながら、テールは先導して歩いている。
「しかし、あいつが王子さまね〜」
「本当に王子か疑わしい奴なら1人、こっちにもいるけどな・・・」
「ああ・・・それ言えてる」
「・・・何か言ったかな?アークにユニシス」
いつも通りの笑顔ではあるが、密かに目が笑っていないシリウスの言葉に、アークとユニシスは「別に」と言いつつ軽く舌打ちをしてみせる。
「・・・なんか、あの2人似とるな」
「普段は仲悪いけどね」
「更に格上の共通の敵を前にして、珍しく気があっておるようじゃの」
ブリックの言葉に淡々と説明するアクアと葵に対し、ほぼ傍観者となっているマリンとプルートの2人は苦笑いをするしかなかった。



「!シャルト、それに叔父さん」
「あっ・・・ブリック・・・・・伯父様」
行く先に現れたアクアマリンの髪の少女と青い髪の青年を見ると、ブリックは早足でそちらに近づいていった。
「いつ帰ってきたん?」
「えっと・・・つい、さっき・・・」
「貴方達の少し前ですよ、ブリックくん」
「よう俺らが帰ってきたんがさっきやって解ったな」
「・・・そりゃあ、解りますよ。アイス様の苦渋の声が城中に響いて、帰ってきたことを知らせてるようなものでした」
カロールのその言葉に、マリン達は目を点にしているが、奈落のブリック達はほとんどいつものことであるから別段気にもしていない。
それが当たり前の日常だからだ。
「・・・ということは、カロールさんもアイス様がブリック達と一緒にいたこと、知っていたんですね」
俯いて顔を見せていないが、その口調と肩の震えからテールが明らかに怒っていることが察せられて、カロールはぎくりと目を泳がせる。
「え、えっと・・・・あっ!僕ちょっとプラチナ様のところに報告に行ってきます」
「あっ!俺も一緒にいくわ」
言い逃げのような形で大人2人はその場から恐怖のあまり早足で退散した。
「・・・テール、親父らびびらすなんてようできるな」
「・・・テールくん・・・・・こわ、い」
ぐすっと涙を少し目に溜めているシャルトと、その頭を撫でて慰めるブリックを見て、テールは怒りを押し込めたうえ少し拗ねている。
「だって・・・怒りたくもなりますよ」
「せやからって、高官2人もびびらすようなオーラ出すな。さらにえば、シャルト泣かすな」
少し苦笑をブリックとしてはどちらかといえば後者のほうが大事なのだろうが。
「って、あの青髪の奴も高官なのか?」
「ん?そうやで。陛下直属の最高司書官のカロール=マルテル。ちなみに、うちの親父の弟で、シャルトの親父さんでもある・・・・・シャルト」
アークの問いに答えながら、そういえばとブリックは横で自分に隠れるようにしていたシャルトを促し、自己紹介するように目で合図する。
するとシャルトはおずおずと口を開いた。
「しゃ、シャルトルーズ=マルテル・・・・・・・です」
「あの・・大丈夫ですよ。何もしませんから・・・」
「あ〜ちゃうちゃう。シャルトは単にこういう性格なだけやから、気ぃせんといて」
マリンがにっこり微笑んで言った言葉に、ブリックが手をパタパタと振ってシャルトの代わりに答える。
「そうなんですか?」
「そうや。ちょい、気が小さいうえに遠慮がちでな」
「シャルトが完全に懐いてるのは、父であるカロールさんと、一応従兄にあたるブリックと、あとは王妃様くらいですね。ルビイさんにもまあまあですが・・」
テールが口にした「一応従兄」という部分が少しひかかったが、目の前でブリックに縋っている少女を見て、勘の良いものはなんとなく彼に懐いている理由が解った気がした。
「それじゃあ、お部屋にご案内します」
ここでの一区切りの話を終えたと認識すると、テールは止めていた足を再び動かして、部屋への案内を再開したのだった。







あとがき

後半完全にギャグですね・・・;
本当はもう少し続くはずだったのですが、収拾つかなくなりそうだったのでカットしました。
なんだか、ファンタ2側のキャラは何も知らないですが、アポクリ側のキャラはファンタ2世界の事情も察してますから。
なにしろアイス(覚醒後)がいますので、アイス通して皆知っちゃってるんです。
次回はアポクリお子様全員と親もできるだけ出します。
アロランディアに残った面々もちゃんと今後出ますので、その点はご安心を。






BACK        NEXT