Open life
序(前)・「集会」
その日、珍しく寝坊せず起きることのできたリョーマは悠々と朝食を取っていた。
今日のメニューも母の好みに合わせて洋食だったため、好物の焼き魚に思いをはせつつも仕方なくトーストをかじる。
目の前のテレビでは朝のニュース番組が映し出され、キャスターが内容を読み上げていっている。
特に興味もなさそうにリョーマはテレビを見ているというよりは、そちらに目線をやっているといった感じだった。
しかし、交通事故のニュースのあとに出た内容にリョーマはまともに驚き、思考が一拍ほど停止した。
思考が戻ったあと、口の中に運ばれたトーストの欠片を喉に詰まらせ、慌てて嫌いなはずの牛乳を飲みほす。
何とか飲みこめて、落ち着いたあとのリョーマはただ自分の目を疑うようにテレビに食い入っていた。
『本日午前5時頃、青春学園中等部の校舎にトラックが追突し、校舎の一部が破損するという事件がありました』
いまだ信じられないという境地にたたされながらリョーマは天井を仰いでいた。
あのニュースのすぐあとに連絡網がまわってきた。
内容は『本日休校』というものだった。
校舎の一部が破損したのだから当然だろうが。
幸か不幸かトラックの運転手は重症の部類に入るものの、命に別状はないらしい。
どうやら居眠り運転をしていて、どこをどう間違ったか青学の敷地内に入りこみ、突っ込んでしまったらしい。
テニス雑誌をぱらぱらとめっくって暇つぶしをしていると、とんとんとドアをノックする音が聞こえた。
返事を返すとドアを開けて奈々子がひょっこり顔を出した。
「リョーマさん、さっき学校の先生からお電話があって、明日から校舎が直るまでは授業を高等部の空教室でするらしいですよ」
「高等部?」
「ええ。でも、明日は授業はなくて、今回の件についての集会を行うのですって」
「そっ・・・ありがと」
リョーマのその言葉を聞き終えた奈々子は「どういたしまして」とでも言うようににっこり微笑むとドアを閉めて、階下へと降りていったようだった。
高等部は中等部よりも明らかに校舎も敷地も広かった。
正門近くまで行くと、普段それでなくても多い人数が、中等部・高等部入り混じって余計に多く正門付近はそれぞれの制服の色で埋め尽くされていた。
「あっ!おチビ〜〜〜v」
この大人数の中、良く見つけられたと誰もが感心するが、それだけでなく上手くその人の大波をかいくぐり、菊丸がリョーマにいつものスキンシップと抱きついてきた。
「おはようございます・・・・・」
「おはっよー」
離れてくださいという意思を込め、しかもじと目でそういったにも関わらず菊丸には通じなかったようだ。
「英二・・・・・越前君嫌がってるじゃない」
背後からする不吉な気配にさすがの菊丸も条件反射のように急いでリョーマから離れた。
そして後ろを振り返るとそこには予想通り、不二が黒いオーラをまといながら笑顔で立っていた。
「にゃ〜〜!不二!!」
「さっきからずっと一緒にいたでしょ?」
まるで地の底から響くような笑い声が聞こえてきそうで菊丸はその場に恐ろしさのあまり凍りついてしまった。
そして不二の方はというと、牽制が上手くいったと見るやまるで何事もなかったかのようにリョーマに歩み寄る。
「おはようv越前君」
「お。おはようございます・・・」
リョーマも多少退きながら挨拶をした。
「そう、そう。今日の集会ね、高等部生徒会役員が進行役らしいよ」
「高等部生徒会?」
「あっ!そっかぁ・・・おチビは1年だしまだ聞いたことないのか」
リョーマが知らないと言うことで説明のしがいがあると、不二と菊丸はことさら楽しそうだった。
「高等部の生徒会っていうのは中等部と違って、前生徒会の引退した3年役員による完全指名制なんだよ」
「指名制?」
「そう。高等部生徒会は選出する時、2年生が5人、1年生が3人で、それぞれの学年で特に優秀な人物達なんだ」
「だから1年次で指名された人は必ず2年でも残留が決定。だから実質的に2年で選ばれるのは2人なのにゃ」
「で、その優秀な人物たちがまた次の代を選出するんだから当然次の代も優秀な人材だってわけ」
そして生徒会役員になれば、学費は完全免除、学園内での購買や食堂などのものはできる限り無料となる。
それゆえに生徒会役員になりたがるものは後を絶たないが、不正な行為で役員になったものは今まで1人もいない。
その理由の1つは、信任投票である。
引退する役員に指名された新役員は継続の者も含め、全員がその一般生徒による信任投票に挑む。
そして、不信任が過半数を占めればまずそこで諦めざるをえない。
しかし、どちらかというともう1つのほうが理由が大きい。
それは今までの生徒会役員の全てがそういった不正行為を絶対に許さないようなものたちばかりだったからである。
ゆえに今まで不信任が出たことは1度もない。
それに、もし不正で役員になれたとしても他の正当な役員のレベルについていけないという理由もある。
「へ〜・・・凄いんすね」
リョーマのその反応に満足したように2人は微笑む。
「でも、不二先輩・・・」
「なに?」
「どうして、今日の集会が高等部生徒会が進行役って知ってるんですか?」
「あっ!そいえばそうにゃ!!」
この反応からして菊丸もどうやらリョーマ同様、今の今まで知らなかったようで、2人して不思議そうな瞳で不二と見る。
「それは」
「ちょっと、そこどいてくれ!!」
不二がにっこりと微笑んで言おうとした言葉は一種の叫び声に遮られ、中断させられざるを得なかった。
「うわっ!」
「にゃっ?!」
勢いよくぶつかりそうになったところをリョーマは不二が寸でのところで抱きかかえて一緒に身体をそらして回避させたが、菊丸は見事に正面衝突していた。
あえなく、菊丸が地面に倒れそうになったところをそのぶつかってきた張本人は倒れるどころか、体制を立て直して逆に菊丸の腕を持って倒れないように支えていた。
「わりっ!大丈夫か?」
「にゃ、にゃんとか〜〜」
なんだか脱力して菊丸は脱力してその場に座りこんでしまいたい気分に陥った。
よく見てみると、そのぶつかってきた謎の人物は高等部の制服を身につけていた。
髪の色は地毛なのか脱色しているのか解らないが薄めの茶で、瞳の色はそれより少し濃い茶。
「悪いな、急いでたか・・・ら・・・」
何かあったのか段々と声が小さくなっていき、顔色も青くなっていっているような気がする。
するとくるりとその人物は3人に背を向けてしまう。
「「「えっ?!」」」
「ほんと!悪かったな。それじゃあな!!」
言うが早いかその人物は信じられないスピードで走り出し、あっという間にその場から消え去っていた。
何がおきたのか解らずその場で呆然としながら彼が走り去った方向を見ているとしていると・・・
「す、すいま・・・せん」
「「わっ!!」」
いつの間にそこにいたのか疲れきったように息を切らしてその場に立っていたのは、またも高等部の制服を着用した人物だった。
何かその様子に圧倒するというか、鬼気迫るものがあって、リョーマと菊丸は思わず引いてしまう。
ただし不二1人は微笑んだままだった。
「す、すいません・・・こ、こに・・・薄い茶色の髪した人物が・・きません、でしたか?!!」
何かかなり切羽詰った様子で、圧倒されながらも反射的にリョーマと菊丸が先程の人物が走り去っていった方向を指差すと「ありがとうございました」と礼を告げるなり一目散にその方向に走り去っていった。
あとに残された不二を除くリョーマと菊丸はすでに人数の減ったその場に呆然として謎の2名が立ち去っていった方向を見続けていた。
そして結局その時は不二が何故生徒会役員が進行役をするのかという話は有耶無耶になったという。
体育館に無事到着したリョーマは学年別・クラスごとに別れて並ぶということで不二と菊丸とは別れて自分のクラスの列に並んでいた。
(余談ではあるが、別れ際にリョーマに抱きついた菊丸を黒い笑顔が浮かべた不二が何をしたのか気絶させ、リョーマに微笑んで手を振りながら引きずっていったらしい・・・)
集会は現在進行中で、高等部生徒会の議長担当という人物が司会役らしい。
この場にいる教師は全員中等部の先生ばかりで、高等部教師は高等部の一般生徒は授業中のためそちらに行っているようだった。
最もそれだけでなく、生徒会に任せて安心という絶対の信頼があるようだ。
「それでは最後に高等部生徒会会長からの挨拶です」
司会役の人物がそういうと壇上に1人の生徒が現れる。
そして、その人物が真正面をむき、にっこりと微笑んだ瞬間・・・・・
『ぎゃぁあーーーーーーー!!』
3年生のいる辺りと、中等部教師陣のいる辺りから悲鳴に近い叫び声が聞こえてきた。
2年生と1年生は全員何が起きたのか解らず、ある者は白目をむきその場に立ち尽くし、あるものは口を大きく開け壇上の人物を指差したまま微動だ似せず、そしてある者は床に手をついたり、力が抜けたようにしてその場にへたり込んでいる3年生と教師陣を不思議そうな表情で見つめていた。
無論リョーマもだ。
その様子になぜか満足げに壇上の人物は微笑む。
茶の混じった黒髪で瞳は純粋な黒で眼鏡をかけている。
雰囲気的に優しそうで、何も驚くような事などないように見える。
その人物は壇上のマイクを自分の喋りやすいよう微調整すると、改めてにっこり微笑んでようやく口を開いた。
「1・2年生の皆様には初めまして。3年生や教師の皆様には・・・先程の反応から皆様覚えていらっしゃるようなのでお久しぶりです。高等部生徒会現会長を1週間前から勤めさせていただいております。西条翔です」
その瞬間今度は2年生までもが先程の3年正と教師陣と同じようになってしまった。
それを見た西条翔会長はよりいっそう笑みを深くさせたのだった。
あれから何事もなかったように翔は柔らかな口調では挨拶を続けていった。
「それでは皆さん、中等部の校舎が修復されるまでの間、この高等部での学園生活を楽しんでいってください」
一礼して挨拶を終わらせて去っていく翔に拍手を送るのは1年生だけで、他の2年生、3年生。教師陣はあの状態から立ち直っていなかった。
そして司会役を務めている人物も、現在の殺伐とした状態に明らかに気が付いているはずなのに、平然と進行を進めていく。
「それではこれでおわ」
「っと、その前に!」
司会進行役の声を突然遮る大きな声がスピーカーから出て体育館に響き渡った。
その声に驚いたのか、2年生、3年生、教師陣はようやく正気に戻る。
そしてよく見てみると壇上には1人の人物が立っていた。
それは今朝、菊丸にぶつかってきたあの人物である。
「あの人・・・」
「越前知ってるのか?」
「・・・知ってるというか」
堀尾に尋ねられて、気のない返事を返事を返す。
堀尾に尋ねられたことに答えるよりも、なぜあの人があそこにマイクを持ってたっているのかがリョーマには気になっていた。
「中等部の諸君に緊急の知らせだ!」
先程とはまた違う雰囲気で、しかも今度は1年生までもが彼の勢いに呆然としてしまう。
ふと高等部生徒会役員の居るほうをリョーマがよく見てみると、生徒会役員のほぼ全員が必死に笑いをこらえていた。
「2週間後に高等部・中等部合同で部活対抗の出し物大会するからな!出し物の内容は各自自由。優勝した部には金一封と俺たち高等部生徒会役員厳選の豪華商品があるから気合入れていけよ!!」
金一封と豪華商品という言葉に反応したのか、今まで呆然としていた中等部の生徒はいきなり盛り上がり始めてしまった。
しかし、彼は今「俺たち高等部生徒会」といったような・・・
「ちなみに、この話はまだ高等部のほうにはしてな」
「何やってるんですか?!双葉副会長!!!」
颯爽と現れて壇上で意気揚々としている人物をはりせん(なぜ?)で殴ったのは、今朝彼を追って現れたもう1人の人物だった。
「げっ?!綾瀬」
「朝から集会の打ち合わせがあるといったのに遅刻はなさるし!どこかに雲隠れして逃げ回るし!!おまけに集会めちゃくちゃにして仰ったその内容は明日、雪芽先輩が校内放送で一斉に発表するって話だったでしょ!!?」
物凄い形相で捲くし立てるもう1人の人物に頭が上がらない。
今の話の内容からすると、この2人も栄えある高等部生徒会の一員らしい。
しかも、先程まで派手に喋っていてくれたほうは副会長。
こうして中等部の面々が中等部校舎復旧までの間過ごす高等部敷地での第1日目に行われた集会は、高等部生徒会の副会長が同じ生徒会役員に説教されるのを一同がスピーカーを通して聞くという、何とも情けない状況で締めくくられたという。
あとがき
なんでしょうねこれは・・・・・(苦笑)
とりあえず、この話は不二リョ有りですよもちろん!ただ、2人はまだ付き合っていません。
鍵を握るは実は高等部生徒会役員(+α)なんです。
なぜ、2・3年と教師陣がああなったのかは次で解ります。
どうしようもないギャグ&パラレルですいません;
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