Open life
序(後)・「再会」



あの喜劇とも言える集会が終了した後、男子テニス部レギュラー達は偶然(?)にも全員揃い、現在は人の少ない体育館裏で話し込んでいた。
「「「「「「「「幼馴染?!!」」」」」」」」
「うん♪」
一同の反応に不二は満足そうに微笑んだ。
そう、あの時の高等部生徒会会長・西条翔のように。



ことの発端はというと、1年生を除く中等部の全員が翔に驚いていたにもかかわらず、不二1人だけが平然としていたのを見た菊丸が不思議に思って尋ねたためである。
「翔さん、今はお爺さんの所で暮らしてるけど、昔は僕の家の近所で暮らしててね。まあ、家はそのまま建ってるけど・・・・翔さんも兄弟3人いて、僕たち兄弟と昔はよく遊んだんだ」
「なるほど・・・それで不二は前もって今日のことを聞いていたと」
こんな時(こと)ですらデータ収集に余念のない乾が尋ねた。
「うん、昨日の晩に電話で。久しぶりだったからびっくりしたよ」
「ほえ〜〜・・・でも、あの『青学の生きた伝説』と幼馴染なんて。なんだかすごいにゃ」
「『青学の生きた伝説』?」
妙な言葉にリョーマが不思議そうにしていると、他のレギュラー達はなぜか溜息をついて深く頷き合っている。
「そっか・・・越前は1年生だし、あの話は聞いたことないのか」
「あの話って・・・なんすか?」
大石の言葉にますます分けが解らなくなっているリョーマの肩をなぜか海堂がぽんと叩く。
「俺や海堂も先輩たちから聞いただけなんだが・・・よく聞けよ、越前」
いつにない真剣な様子で桃城は語り始めた。
この学園の教師が恐れる、西条翔伝説(?)を。



西条翔は中等部時代にも生徒会長を務めていた。
1年のころから成績は学年トップ、全国模試も常に1位をとり続け、なぜそのまま高等部に進学したのかが不思議なくらい全国の有名高校からの特待生入学の声がかかっていたほどだ。
学問に関しては並ぶものがおらず、それ以外でも何事もそつなくこなす人物で、人望もあり、生徒会長に推薦されて選ばれたのは自然の流れだった。
そして彼は生徒会長となってから数々の学校改革をし続けていた。
生徒が喜ぶ行事の拡張・生徒のための不正等な数々の校則の改正・部活動の更なる充実化、(テニス部もこの恩恵に預かっていたりする)。
だがこの程度では片腹痛いといういように、彼が『伝説』と祝えている最大の理由それは・・・
「追い出したんだよ・・・・・当時の学園長を」
「はっ?」
リョーマは自分でも間の抜けた声を発したと持ったが、しかし出たものは仕方なかった。
それくらいの信じ難いことであったからだ。
そして当時、1年生だった3年生たちはその時のことを思い出しているようでなんっとも複雑な表情をしていた。
「あの頃の学園長・・・つまり、今の前の先代になるんだが、相当不正が多く生徒はもちろん教師からも評判が悪くてな・・・」
「でも、学園長だし、逆らったら何があるか解らないから誰も何も言わなかったんだよ」
「それをあの人は、不正を全部1人で調べ上げて、証拠もきっちり掴んで全校集会で堂々と暴露しちゃったんだよ」
「しかも、あらかじめ教育委員会にも同じものを提出して不正を明るみにしていたあたり、用意周到というか・・・・・」
それによって当時の学園長は失脚し、現在の学園町に変わったという。
この出来事以来、生徒は彼を畏怖し、教師は恐怖し『青学の生きた伝説』とまで言わしめたという。
「・・・それであの反応だったんすか」
翔が登場した時のことを思い出して納得するリョーマ。
「西条元会長に逆らうと何があるか解らないか」
「僕がどうかしましたか?」



数秒の間の後、その場には阿鼻叫喚に似た悲鳴が響き渡っていた。
「さ、さい、西条元会長!!」
「な、ななな、何でここに?!!」
不二以外のレギュラー一同が驚きと多少の恐怖で引く中、翔は落ち着いたままただにっこりと微笑んでいる。
「翔でいいですよ。それに『元会長』とかつけると混乱するでしょう?」
あくまでも穏やかににっこりと微笑んだまま翔は不二の方にくるりと向き直る。
「お久しぶりですね、周助くん。お元気そうでなによりです」
「翔さんも、直接会うのは本当に久しぶりです」
「昇くんと譲さんがお父様たちと向こうに行ってからは、周助くんが中等部に入学した時と、僕が卒業した時の2度しか会っていませんからね」
2人だけで会話と続けるその様子を見た青春学園中等部男子テニス部レギュラーの面々は揃いも揃って心の中でこう思ったという。
『この2人絶対同類だ!!』
翔からほのかに不二と似た種類のものを感じたレギュラー一同は、翔が不二の幼馴染であることに納得した。
というよりも、不二の黒さはひょっとしたらこの人から似たものかもしれないとさえ思った。
そんな中、リョーマ1人だけが何か面白くなさそうな表情をしていることに他の面々は気が付いていなかった。
「あ、あの・・・翔さん」
「はい」
勇気を振り絞って(?)翔に最初に声をかけたのは河村だった。
その勇者的行動に全員は拍手を送りたい気持ちだった。
河村とて本心では、別にあの2人の会話を遮ってまで声を掛けたかったわけではない。
しかし、どうしても1つだけ確認をとっておきたいことがあった。
笑顔で返事をする翔が帰って怖い。
「あの・・・今日、司会してた人・・・ひょっとして」
「よう!タカ、元気にしてたか?!」
ぽんと少し強めに叩かれた肩を必要以上に河村はびくりと震わせた。
そして、まさかと思いつつ恐る恐る振り向いたそこには、予想はしていたができればその予想が外れてほしかった人物がいた。
「あ、紅河さんっ!」
河村とは正反対に、そこには楽しそうに笑いながらひらひらと手を振っている人物がいた。
「タカさん、知り合い?」
「・・・・・・・道場に通ってた時の先輩」
まるで絶望的とでもいうように涙を流しながら、がくっと項垂れる河村に対し、紅河はけらけら笑いながら河村の肩をばしばしと強く叩いている。
「なんだよ!久しぶりなんだから、もう少し嬉しそうにしろよ!!」
「紹介しますね。うちの生徒会議長担当の紅河優陽です。ちなみに2年生です」
「つっても、俺は会長や副会長の双葉と違って2年生から生徒会なんだけどなっ」
「あれ?この声って・・・」
気が付いたのは菊丸だった。
「ああっ、さっき司会してたのは俺だ」
「ああいう集会の司会は議長が担当しますからね。ほかの行事とかの場合は広報ですけど」
はたから見れば、和気藹々とした光景なのだろうが、不二を除当事者のレギュラー陣にしてみれば、何か得体の知れない恐ろしさを感じる空間だった。
できればこの空間から早く抜け出したいと誰もが思っていた(不二以外)。
「そうそう、手塚くん」
「は、はい・・・」
ぽんと手を打っていきなり自分を名指しで話題を振る翔にあの手塚が珍しく動揺している。
「テニスコートのことなんですが、困りませんか?」
「・・・・・・・・・・・」
確かにそれは考えていたことだった。
中等部の敷地は現在、校舎復旧のために全面的に立ち入りが禁止されている。
無論、テニスコートといえど例外ではない。
しかし、大切な大会を控えている今、コートで練習できないというのはかなり痛い。
「高等部のコートも大会の関係があるので、中等部の皆さんにコートを提供するわけにはいかないんですよ。・・・・・で」
ぱんと、両手を胸の前で叩くと更に満面の笑顔で翔はある提案を出す。
「中等部が復旧されるまでの間、僕の家のコートを提供しても良いのですが」
その言葉に不二とリョーマを除くレギャラーの面々が目を見張る。
「翔さんの家、コートあるんですか?」
「はい。お爺様の家ではなく。周助くんの家の近くにある、元々の僕の家のほうです。2面ほどありますよ」
「たしかに、あそこなら良いかもしれませんね」
不二も翔の言葉に同意する。
しかし、ほかの面々はさらに驚いていた。
最初は自分の家にもコートがあるのでリョーマは驚いていなかったが、2面あると聞いて、他の面々共々今は十分を驚いている。
「少なくともレギュラー格の皆さんは練習しなければいけないでしょう?あっ、泊り込みでもかまいませんよ。家はいくらでも部屋余ってますし」
というよりもいっそ泊り込みにしてしまいましょう、という声がして、さすがにこれには手塚が待ったをかけた。
「ちょ、ちょっと待ってください!何もそこまでして頂かなくても・・・」
「ああ〜〜むりむり」
ぱたぱたと手を左右に振り、紅河が駄目だしを行う。
「うちの会長は一度言い出したら聞かないぞ。言うだけ、断るだけ無駄」
「それに、人が善意で言っていることは変な遠慮などせず、素直に受け取るのが礼儀ですよ」
「いや・・・しかし」
それでも了承しようとしない手塚に、紅河が更なる駄目押しをする。
「それに考えても見ろよ。泊り込みなら、好きな時間までテニスできるし。もうすぐテストなんだから、会長に解らないところ徹底的に教えてもらえるぞ」
さすがにこの特典は一部の成績が伸び悩んでいる者には美味しいものだったらしく、結果・・・・・
「手塚!こうまで言ってくれてるんだし、ここは甘えとこうよ!!」
「そうっすよ!部長」
お前たちの成績は、そんなに心配するほどなのかと、菊丸と桃城に呆れるよりもむしろ涙を誘われた。
「手塚くん」
翔のこの一言が最後の決決め手だった。
にっこり微笑んで、優しげな口調だが、そのバックには不二さえも超えるのではと思わせるほどの相手に拒否を許さない黒いオーラが放たれていた。
「・・・・・ありがたく、お受けします」
手塚のその一言に翔は満足そうに微笑むとその背後からは黒いオーラは消えていた。



「それでは僕はこの辺で。昇くんたちを成田まで迎えに行きますから」
そういうなり、嵐が1つ去って行くのを確認しきった後、一同は安堵の溜息を漏らす。
「た、助かった〜〜」
「あ、あんな人だったんすね・・・」
「先生たちが恐れるわけだよ・・・・・・」
「しかし興味深いデータがとれたな」
「いぬい〜〜〜」
こんな時まで本当に好きだなと、全員が脱力しながらも心の中で同じことを考えた。
「しかし、不二の幼馴染ってのは納得できたな」
「ほんと、ほんと。不二の黒さはあの人か」
「何か言った?英二」
その噂の黒さで持って自分に尋ねてくる不二に、菊丸は恐怖でぶんぶんと勢いよく頭を左右に振った。
「しかし手塚・・・・・・竜崎先生になんて説明する?」
「・・・・・・俺もそれを考えていたところだ」
勢い(というよりも翔の黒さで)校舎復旧までの練習場所と泊り込みを決めてしまい、どう言って説明すればいいのかと悩む手塚と大石。
「それなら大丈夫だろ。会長だし」
何の根拠もなく人事だと楽しそうにいって見せた紅河に大石は胃を抑えた。
「この学園で会長にできないことはほとんどねーしな」
その理由を考えただけで一同は先が思いやられるような気がした。
「それに竜崎先生って、確か会長が中等部3年の時の担任だぜ」
「そうなんですか?!」
「ああ、それと会長の兄貴も1年の時に担任してもらってたみたいだし」
「えっ!翔さん、お兄さんいるんですか?!」
「うん。いるよ」
答えたのは紅河ではなく不二であった。
「さっき翔さん言ってたでしょ?『昇くん達を迎えにいってくる』って」
「その昇が会長の兄貴だ」
「翔さんと違って、直球で怒りっぽいけどね」
不二のその一言に「あの人も結構怒りやすいと思う」と一同は思ったが誰も心の中に留めただけで、口に出し言おうなどという無謀なことを試みる者は1人もいなかった。
「それじゃあ、俺もこの辺で・・・・と、久々に話してみたいからタカはかりてくぞ」
「紅河さん!!」
紅河の発言になにかいやな予感がする河村を羽交い絞めにしてずるずると引きずっていく。
「この間の都大会での仁の奴の試合の話とかも聞かせろよ」
「な、なんで亜久津が大会出てたって知って」
「ついでに他の役員メンバーも紹介してやるからさ」
「ちょっとまっ・・・・・・皆たす」
河村の言うことなどまったく聞く様子もなく、紅河は河村をそのまま引きずってその場から
去っていってしまった。
あまりのことに他レギュラー陣はなすすべもなく、助けてやることのできなかったことに涙を呑んだ者もいた。
「・・・・・・俺たち、これから無事やっていけるんスかね」
「さあ・・・・・・」
リョーマがぽつりと漏らしたその一言に誰ともなく気のない返事を返し、しばしの間一同は河村が連れ去られた先を呆然と立ち尽くして眺めていた。



青春学園中等部レギュラー一同の受難は中等部校舎復旧まで当分続きそうである。(一部除く)


あとがき

またなんでしょうねこれ・・・・・
とりあえず、前回の2・3年生と教師陣の反応の理由を解っていただけたでしょうか?
そして翔は不二先輩の幼馴染だという設定・・・・・・
W腹黒で本当にやばいかもです、レギュラー陣・・・・・;(特に手塚・大石)
実はすでにこの時点で不二先輩のリョーマさんゲット作戦は開始されてるんですよ。
この計画の立案者は次回登場予定です。
・・・それにしても、なんでこの時点で優陽(紅河)出したんだろう・・・?


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