Open life
参(後)・本選終了






ついにやってきた、『出し物大会・本選』当日。
これでようやくあの苦労を重ねた日々も終わるのかと思うと、中等部男子テニス部レギュラーのほとんどが涙ながらに喜んでいた。
「ようやく終わるっスね・・・」
「そうだな・・・・・・」
これまでの日々を思い返すと本当にげっそりとしてしまう。



『根性でなんとかなります!』
この言葉を吐いた譲の有言実行よろしく、本当に根性で何とかしなければならないくらいのスパルタ舞台稽古をさせられてきたのだ。
しかも譲はかなり演技に厳しく、妥協を許そうとしなかった。
さらに合間にメイクリハということで、いくつものメイクを試し、その度にライトをあてて確認、ということまでして余計に時間がなかったため、よりいっそう凄まじいスパルタだったのだ。
もちろんテニスの練習も毎日してきた。
「第一、あのメイクリハは必要だったんですか?」
「な〜に言ってるんですか?本番でメイクが合ってなくて、舞台上で顔がライトにあたって明るくなりすぎたりしたらどうするんですか?」
「・・・・・・顔が白くなりすぎて、怖いぞ・・・・・・・・・」
譲の言葉に付け加えて言った昇の言葉に、一同はその光景を想像して昇の言葉どおり少し怖くなった。
そこでふと昇がここにいるという事実からあることが結論づいた。
「のぼ兄!終わったの?!」
「ああ・・・・・・一応、髪もウィッグして、地毛もヘアーアイロン使ってストレートにしといたから」
そう言いながらどこか遠い目をしている昇の後ろで、ひらひらとしたものが見え隠れしているのを発見し、譲はそちらに嬉々として近づいていった。
「越前くん♪」
楽しげな声で自分の名前を呼ばれ、その場からすぐさま逃げ出そうとしたが、その腕を譲に引っ張られ、あえなく逃走に失敗したどころか、全員の前に姿をさらすはめになってしまった。



リョーマが姿を現し、しばしの譲ははしゃいでいるが、他の面々は目を大きくし、ただ呆然と見ているだけだった。
昇オーダーメイドのひらひらスカートの白雪姫の衣装に、髪は肩までのストレートのウィッグで、あのクセのある地毛もストレートにしてあり、飾りには大きな赤いリボン。
化粧は濃すぎずナチュラルで、赤い口紅をつけている。
「・・・・・・変なら変だって言って下さいよ」
リョーマの嫌そうな表情にしかし、一同はゆっくりと首を横に振った。
「いや・・・・・・お前、本当に越前だよな?」
「マジ女の子かと思った・・・・・・」
「っていうか、似合いすぎ・・・・・・」
口々にそう自分を評価される言葉に、リョーマは逆に切れそうになった。
しかし、その前に瞳をきらきらさせた譲に抱きつかれ、怒るタイミングを逃してしまった。
「越前くん、可愛い〜〜vあたしの思ってた通り〜〜〜♪雪芽さん!」
「ラジャっ!」
譲が合図をするとどこから現れたのか、カメラを構えた雪芽が現れ、断りもなくリョーマの写真を撮り始めた。
「・・・・・なぜ、雪芽さんが・・・」
「というか、譲ちゃんって・・・本当に」
「何も言うな・・・・・・」
遠い目をした昇がかなり落ち込んだような声で言ったため、一同はそれ以上何も言えなくなってしまった。



「あっ、リョーマくん準備できたんだ」
不意に後ろからした声にリョーマはびくっと肩を震わせた。
そこには予想通り、笑顔の不二が立っていた。
しかも、こちらも昇オーダーメイドの衣装に身を包んでいる。
昇が自身を持って各自に渡した衣装は、さすが一流のファッションデザイナーと感嘆を漏らすほどに、それこそ
こんな学校行事程度で着るにはもったいないと思うような出来の服ばかりだった。
そんなことを言えば、この企画の主催者たちの怒りを買いそうなのであえて誰も口にはしなかったが。
とにかく、不二もその衣装が良く似合っていて、誰の目にもいつも以上に格好良く映った。
しかしそれと同時にその黒の衣装は、一同の中に『魔王』と言う単語をいつも以上に思い起こさせた。
「・・・・・どういう意味かな?」
衣装のせいか、それとも別の原因か、いつも以上にその笑顔と読心されて言われたその言葉は黒く思われた。
そして、その笑顔と言葉に固まってしまう一同。
「・・・・・・・・・・」
「どうかした?リョーマくん」
「なっ・・・なんでもないっス!」
不二に声をかけられ、他とは別の意味で固まっていたのであろうリョーマは、そのひらひらは衣装で動きにくそうにしながらも、脱兎のごとくその場から反射的に逃げ出した。
そして、その後姿を暫く見つめた後、にやりと笑って顔を見合わせる不二と譲と、遠い目をした昇の姿があったという。








「ああっ!もう、本当に俺どうしたんだよ」
あの場から思わず逃げ出してしまったリョーマはここ最近のことを思い起こして考え込んでいた。
最近の自分はとにかくおかしいとリョーマ自身思っていた。
不二に話し掛けられると妙に緊張するし、近くにいるだけで動悸がおきたりする。
「本当・・・どうしたんだよ・・・・・・・・」







ようやく周ってきた本番直前の舞台裏。
全員が劇の最終チェックをしていた時、譲はにっこりと微笑んでこう言った。
「いいですね。狙うは優勝だけです」
「解ってるって!」
「ただ・・・・・・・・・・・」
「ただ?」
「敵は他のクラブじゃありません。敵は、審査員だと思ってください!」
そう言った譲の笑顔に、さすが翔の妹で、不二の幼馴染だと、誰もが心の中で一斉に思ったという。









「こんにちは、お妃」
「魔王じゃないか、久しぶり」
魔王=不二とお妃=乾がなにやら妙な雰囲気の中で挨拶をかわしていた。
「それで、なんのようでここにきたんだい?」
「君のところの白雪姫、僕にくれない?」
にっこりと微笑む魔王=不二の言葉の語尾には疑問符がついていたが、口調はあきらかに命令系だった。
「別に構わないよ。ちょうど、邪魔かなって思ってたところだし」
「そう?ありがとう♪じゃあ、遠慮なく貰っていくよ。明日には迎えに行くるから」
そう言い残し、嬉々として魔王=不二はその場を後にした。
それを見送ったお妃=乾がにやっと笑って一言呟いた。
「それじゃあ、少し小細工でもしておくか・・・・・・」



劇が進行する中の舞台裏で、はしゃいでいる譲の姿があった。
「皆すごいハマッテル〜〜〜♪」
「本番に強いタイプなんだな・・・」
「・・・・・・・・・・」
譲の言葉にこちらも感心した口調で劇を見ながらそう誉める昇の横で、リョーマが1人そわそわしていた。
「どうした?リョーマ」
「あっ・・・・・・・いや・・・なんでもないっス」
なんでもないと言いつつも、目線を一向にあわせようともせず、喋り方もどこか落ち着かない様子である。
そのリョーマの様子を見て、譲はぽんと手を打つと、嬉しそうな満面の笑顔でリョーマの顔を覗き見る。
「もうすぐしゅう兄とのラブシーンだもんね〜〜♪」
「ち、ちがっ・・・・・・・・・」
言葉では否定してみたが、顔は真っ赤に染まり、いかにも譲の言葉を肯定していた。
それを見た譲は良い傾向だと重い、反対に昇はまた遠い目をしていた。
そしてそうこうしている間に、リョーマの出番はやってきて、舞台上へを赴くことになった。



舞台上ではこの劇で譲が1番の見所と1人押していた、魔王=不二が白雪姫=リョーマを押し倒す形になるシーンに突入していた。
「えっ・・・あの・・・・・・」
「好きです・・・愛してます」
ふわりと微笑んでそう言われ、顔を真っ赤にさせる白雪姫=リョーマ。
しかしこの顔を真っ赤にさせているのが、演技でなく素であることに、気が付いているものは本人しかいなかった。
その表情を見た魔王=不二がくすりと笑い、白雪姫=リョーマの髪を一房手にとり口許に寄せた。
その台本にもない行動に、リョーマは大きく目を見開き、小声で焦った声を出していた。
「ふ、不二先輩・・・そんなの、台本と・・・ちがっ」
「いいから黙って・・・」
そう言ってにっこりと微笑む不二に、リョーマはさらに顔を赤くさせ、動悸も先程の舞台裏の時よりも激しくさせながら大人しく従った。
「一目見たときから、ずっと君が好きでした。だからお願いです、僕とずっと一緒にいてください。ずっと僕のものでいて下さい」
まったく予定外の台詞を言われ、リョーマの顔の色はますます赤くなり、動悸も徐々に激しさを増していく。
予定通りのシナリオだけでも心臓に悪いと思っていたのに、こんなアドリブまでされるとどうしていいのか解らなくなる。
衣装のせいもあり、本当に自分が本物の白雪姫になった気にさえなってしまう。
「僕と結婚してください」
「・・・・・はい」
にっこりと微笑まれて、ようやく言われた予定通りの台詞に、リョーマは無意識のうちに予定通りの台詞を返していた。









各クラブの出し物も一通り終了し、現在審議中につき周りはざわざわして騒がしかった。
未だ例の衣装を身につけたままのリョーマは、なんとなく不二の傍に居ずらいため、劇が終わったすぐ直後にここに来てぼうっとしていた。
「・・・俺、どうしたんだろう」
「何がどうしたの?」
答えが返ってくるはずのない独り言に返事が返ってきて、しかもそれは自分が現在1番顔を合わせたくない相手だったためにリョーマはびくっと体を震わせて驚いた。
「・・・・・不二先輩!」
「あははっ・・・驚かせちゃった?ごめんね」
「んなことより、どうしてここにいるんっスか?」
今すぐにでもこの場から逃げ出したかったが、それもできない雰囲気だったのでリョーマにとっては最悪の状況だった。
「どうしてって・・・君を探してたんだけどな」
「俺を・・・?」
「そう・・・・・あのね、あれ僕の本心だからね」
「・・・・・・・・・・・・はっ?あれ?」
「だから、アドリブで言った台詞」
その言葉から例の言葉を思い起こして、リョーマの表情はあの時を同じくらい赤く染まっていた。
「なっ・・・・・なに、言って・・・・・」
「あれは本当の僕の気持ちだって言ってるんだよ。解らないならもう1回言って上げる」
そう言ってあの時と同じように、髪と一房とってそれに口付ける。
「君が好きだよ。だから、僕と付き合って?」
「・・・・・・本気・・・っスか?」
「うん、本気だよ。それに・・・君も僕のこと、好きになってくれてるはずだよね?」
不二にはっきりそう問われて、リョーマは自分のここ最近のおかしな状態をようやく理解して、その顔を今までで1番真っ赤に染めた。
そのリョーマの様子を見た不二がとても満足そうに微笑んで見せた。
「僕の罠にはまってくれてありがとう。ね、もう1度訊くよ・・・・・僕と付き合って」
「・・・・・・・・・っス」
笑顔のままもはや結果が見えた問いかけに、リョーマが出す答えはたった1つしかなかったという。







『中等部・高等部合同出し物大会』は、中等部男子テニス部の優勝と、1つのカップルの誕生という結末で幕を閉じたのだった。









あとがき

こんな終わらせ方ですいませんでしたm(_ _)m
リョーマさん何時の間にか不二先輩のこと好きになっていたもよう・・・・・・
いや〜〜〜、ご都合主義名終わらせ方ですいません;
こんなものを書いていたり、裏を書いている現在の私ですが、その昔はラブシーンを書いていると呼吸困難(もどき)を起こすような奴だったと誰が信じるのか・・・;
ちなみに、譲の「敵は審査委員」という台詞は、実際に私が去年の演劇部の県大に、OGとして差し入れ持って行った時、後輩たちに言った言葉なんですよね・・・
いや、その前の年にも県大いったんですが・・・その時私は3年で受験真っ只中のくせに助っ人として行ったのですが、審査員の方に妙にウチの学校だけぼろくそに言われまして・・・・・・・・(怒)
その怒りを忘れていなかったものですからつい・・・・・・・
んな、ことはここではどうでもいいことですね・・・(^^;
あっ、「Open life」自体はまだ続きますので。






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