Position inversion
-1:Two persons' relation-




東の辺境にオスト王国という小さな国があった。
領土事態は確かに小さな国ではあるが、気候や風土に恵まれているおかげで飢饉などの問題がまるでない豊かな国である。
この国の現在の最高責任者は、金色の可愛らしい姫君でだった。







ぱたぱたと忙しない足音が大理石でできた廊下に響き渡る。
あたりを警戒しつつ、それでも金の髪を揺らして急いでいるらしい様子だった。
「・・・・・・よしっ、大丈夫そうだな」
そう言って安心して再び歩き始めようとした時、予想外にもいきなり声をかけられた。
「あれ、姫さん何してるんだ?」
その声にびくっと反応した後、恐る恐る牛とを振り返ってみると、そこには良く見知った短い金髪の人物がいつものように煙草をくわえながらたっていた。
「は、ハボック副隊長」
思わず自分の顔の筋肉が引きつるのが良くわかる。
その様子を特に気にもしていない様子で、ハボックは煙草を口から放し、溜息を軽くつくと口を開いた。
「また外に行こうとしてんすか?」
ハボックのその言葉に図星を指されて一瞬口ごもってしまう。
「お願い!ロイには黙っておいて!!」
愛らしい瞳をうるうるさせながらの可愛く懇願してみせる。
「りょ〜かい。そんな処世術使わなくても、いつものことだからな」
他の者ならともなくとして、いつも身近で世話をしている1番隊の副隊長であるハボックには、彼女の性格が熟知できているため、これがすではなく演技に近いものであることを良く解っている。
「本当?!サンキュー」
そう言ってけろりといつもの素の状態に戻ると、意気揚々とエドは外の世界へ飛び出していった。
その背中を見送りながらぼそっとハボックは一言呟いた。
「ホント、元気な姫さん」
「護衛する側としては少し苦労するけど」、などということを内心で思いながらも満足そうに微笑んでいた。








ばたん、ばたんと、何度も開けては閉められる扉の数々。
その光景を冷静な面持ちで見詰めつつ、いつもの事だと溜息をつきながら彼女は当の人物に声をかけた。
「マスタング元帥、なにしてらっしゃるんですか?」
何をしているのかは解ってはいるのだが、あくまでも形式というか、社交辞令として尋ねてみる。
するとロイは彼女の声に気が付き、かなり焦っているような足取りで距離を詰めた。
「ホークアイ隊長、姫を見なかったか?!」
予想通りの言葉にまたも溜息をつくと、ホークアイは首を横に振りながら淡々と答える。
「いいえ。お見かけしておりませんが」
「そうか・・・・・」
ホークアイから答えを聞くと口許に手をあて黙り込んで考え始める。
これはこの城の中において日常茶飯事といっていい。
姫君の姿が見えなくなると城のあちらこちらで響く扉の音。
その扉の音を発生させているのは、毎回この目の前にいる彼なのだ。
「まさか、また外に・・・・・」
ロイがそう言いかけた時、ホークアイに声をかけてきた人物がいた。
「あれっ?隊長、こんな所でなにしてるんっすか?」
「あら、ハボック副隊長」
声をかけてきた人物に気が付いてホークアイはそちらへと振り向いた。
ちなみにハボックがホークアイにだけ声をかけたのは、廊下の曲がり角の四角でロイが見えなかった。
なので彼はこの後、とんでもない失敗をおかすことになってしまった。
「姫様がどこに行かれたか知らないかしら?」
「姫さんっすか?それならさっき外に行くって・・・」
「なんだと!」
凄まじい剣幕と声と共にようやく姿を確認できた人物に、ハボックはぴしっと思わず固まってしまった。
それもそのはず、彼が答えはのはホークアイだけだと思っていたからである。
ロイがいると解っていれば、エドとの約束もあるが、自分に降りかかってくるであろうことを恐れ、答えることなどなかったのだ。
そしてそれは実際降りかかってきた。
「・・・ハボック・・・・・どうして私が知らないのに、君が知っているのかな?」
「い、いや・・・・・・それは、その・・・」
笑顔ではあるが目が笑っていないうえ、危機しまる気配を背負って詰め寄ってくる。
しかもご丁寧に愛用の発火符着用で、今すぐにでもハボックを燃やせるようにスタンバイしている。
嫉妬深いこの人物のことであるから、エドのことに関して自分が知らない事を、男の他人が知っているのは我慢できないのだ。
それは2人の関係を知るものの間では暗黙の了解だった。
彼の親友であるならばなんとかこの危機を脱せるような器用過ぎる真似もできるのだが、そんなことは他の人物には不可能だった。
よって、ハボックは深い絶望感に苛まれていた。
「答えられないのなら、今すぐ消し炭にしてあげよう」
「なっ、なんでそうなるんっすかーーーーー!」
理不尽なその言葉にハボックは悲鳴を上げた。
しかし例えどんな答えを返したとしても、結果は同じだった出あろうことは容易に解っていた。
そしてロイの指がついにならされ・・・・・ようとした瞬間、彼の指の音ではなく別の方向から銃声が響き、2人の間を通過した弾は見事に壁にめり込んでいた。
その弾を誰が撃ったのかは言うまでもなく、ゆっくりと2人はその人物の方を見た。
そこには彼女が2人に銃口をむけ、冷やかに立っていた。
「「・・・・・・・・・・・・・・」」
「少し落ち着いてください元帥。それからハボック副隊長もきちんと説明を」
ホークアイのその言葉が静かに響き、辺りの空気がしんっと静まり返るのを感じながら、2人は正体の知れない恐怖に思わず同時にこくりと頷いていた。








「なるほど、出掛けを見つけたというわけね」
「なぜ私にすぐ知らせなかった?」
「いや・・・姫さんに『元帥には黙っててくれ』って、言われたから・・・・・」
そう言いながらハボックは内心で、「知らせたら知らせたでさっきみたいな状態になるし」と密かに思っていた。
ハボックがそんなことを考えているとも露知らず、否考える暇もないというように突如早足で歩き出したロイにホークアイが声をかける。
「どこに行かれるおつもりですか?元帥」
「・・・姫を連れ戻しに行って来る」
「仕事は片付いていますか?」
ホークアイの指摘に図星を刺され、ぎくりとロイは肩を上下させて足を止めた。
「仕事も終わっていないのに行くおつもりですか?」
「姫にもしものことがあってからでは遅いだろう」
「あの姫さんがそうそう簡単にどうにかなるとは思えないけどな・・・」
ハボックが何気なく漏らしたその一言にロイは睨みを利かせる。
しまった、とハボックが口を抑えそうになった時にはすでに遅かった。
「ハボック・・・どうやら、本当に消し炭になりたいようだな」
「い、いや・・・・そんなことはっ」
「いい加減にして下さい元帥。言い方はともかく、ハボック副隊長の言うことも一理あります。錬金術の腕前も姫様は相当なものですし」
「だがっ!」
「姫様の事は貴方が1番よくご存知でしょう?なにしろ教育係でもあったのですから。でも、過保護すぎるのはどうかと思いますが」
過保護というよりもロイの場合は、常に自分の手元に置いておきたいという独占欲と執着心なのだが、それを解っていてあえてホークアイは直接指摘する言葉を避けている。
指摘しすぎれば時に開き直って無茶苦茶な行動をされる恐れもあるからだ。
「これくらいの勝手は許して差し上げてもどうかと思いますが?姫様にも息抜きは必要でしょうし」
「・・・・・君は本当に私のことを上司だと思っているのかね?」
ホークアイの次から次へと繰り出される容赦のない言葉の攻撃に、ロイは眉間に皺を寄せ、額を抑えながらもそう尋ねてみせた。
「ええ、思っていますし一応尊敬もしております。しかし私は姫様のことは主と思うと同時に、可愛い妹とも思っています。尊敬する上司と可愛い妹では、後者をとるのが当然です」
きっぱりとそう言い放ったホークアイにロイはふらりを眩暈を起こしかけ、傍観しているハボックはさすがと心の中で拍手まで送っていた。
「ですので、私は基本的には姫様に味方です」
「・・・・・君の気持ちは解った。しかしだね・・・・・」
「あれ?皆そんなところで何してるの?」
くるりと振り返るとそこには、話の議題にされている当の本人が不思議そうな表情で立っていた。
「あれ?姫さん」
「どうかなさいました?姫様」
少し驚いたような声をあげたハボックと、にこやかに笑顔で向けてきたホークアイに、エドは小首を傾げて尋ね返した。
「それはこっちの台詞だよ・・・3人とも集まってなにしてるのさ」
「姫様は気にしなくてよろしいんですよ」
「そうそう・・・・・世の中知らなくて良いこともあるしな・・・・・」
ぼそっと小声で呟いたハボックの言葉を聞き取れなかったエドはまた小首を傾げた。



「姫・・・・・・」
今までずっと静かに黙っていたロイの呼びかけにびくっとエドは肩を震わせた。
それだけでも彼にいえない何かをしていたのは明白であった。
「な、なに?ロイ・・・・・・」
「・・・ちょっとこっちに来て下さい」
にこやかに優しい声で手招きされるが、エドはロイの瞳が笑っていないことを察し、ぶんぶんと思いっきり首を横に振りたい気分になった。
「え〜・・・えっと・・・・・・嫌だって言うのは・・・・・駄目?」
「駄目です」
きっぱりと言われたその一言にエドは逆らえず、息を呑みながらしぶしぶと近づいていく。
するとすぐ傍まで来たエドの腕を掴むと、無理やり引っ張って歩きだした。
「ちょっ・・・ロイ!放せって!!」
「駄目です」
エドの必死の抵抗と抗議の声も虚しく、ロイは強引に歩を進める。
「元帥!残りの仕事の方はどうするおつもりですか?」
「・・・明日に廻してくれ」
後ろからしたホークアイの声にも振り返りもせずにロイはそう答えるとそのまま歩いていってしまった。



後に取り残されたホークアイとハボックは、2人が去っていた方向を見つめ続けていた。
「・・・・・姫さん、大丈夫すかね?」
「多分、大丈夫じではないと思うわ」
ハボックの問いかけに解りきったことだとホークアイは溜息をつきながら答える。
止めたくてもああなってしまったロイをとめる手立てはホークアイにもなかった。
エドに心の中で誤りつつ、ホークアイは明日に廻ってくる仕事をなるべく軽減させようと、今日何度目かの溜息をつきながらハボックと共にその場を後にした。








ばたんっ、と激しく扉の閉まる音が城に響いた。
エドを探している時の扉の開け閉めとは比較にならない音を自分の部屋の扉で響かせたたロイは、無理やり連れてきたエドを乱暴にベッドに放り投げた。
「いっった〜〜・・・なにする・・・んだ、よ・・・」
あまりの扱いにエドは抗議の声を上げようとしたが、デスクの傍に立ってこちらを振り向いたロイが眼鏡をかけていないことに気が付き、一瞬で体が硬直してしまう。
「なにをするとは、随分な口の利き方だな・・・・・エディ」
そう言いながらロイはエドに覆い被さるような形でぎしっとベッドに上がってきた。
当のエドはというと、半ば恐怖で身体が硬直していた。
「あれほど城の外には出るなと言っているのに・・・・・しかも俺には内緒でハボックには教えて出掛けるなどとはな」
ロイのその言葉に普段のエドならば、「今度覚えてろよ」くらいの悪態を心の中でハボックについただろうが、今のエドにそんな余裕などあるはずがなかった。
ただ明らかに怒っているだろう目の前の人物に怯えていた。
「どうして駄目だって言っているにいつも城の外にでるんだ?」
怯えてはいるもののそれだけは喋りたくないのかエドはただ首を横に振るだけだった。
それを見たロイはわざとらしく溜息をついた。
「どうしても言わないつもりか?」
ロイの言葉にただ首を縦に振ってエドは肯定を示した。
そのエドの答えを確認した瞬間ロイはいきなり彼女の唇を奪った。
ただの触れるだけのものでなく、構内を侵食するような深い、深いキスが暫く続いた。
やがてようやく解放されたエドが荒い呼吸を整えようとしていると、その暇も与えないとでもいうようにロイの手が彼女のドレスにかかった。
「ろ、ロイ・・・・・?」
「悪い子にはお仕置きが必要だろう?」
その時のロイの表情と低いが甘さを含んだ声は、まさに女性なら誰もが腰が砕けてしまうようなものだった。
「今日はいつもよりないて貰うよ・・・・・エディ」
そう告げてきたロイの言葉と雰囲気に、エドはついに覚悟を決めてぎゅっと瞳を閉じた。








あとがき

えっと、パラレルなんですけど、基本的に(あとがきでは)それでも原作の階級名で呼ばせて頂くということで;
ハガレン初のエド女性化パラレルでした。
なんだか最初ハボエドっぽかったかな〜・・・とロイエドファンにあるまじき事を考えてしまいましたが、別にハボエド意識して書いているわけではありません。
私の中でのハボック少尉はエド&アルの良き兄という感じなので、見守る人って感じです。
中尉もそうなんですけど、あの人は思いっきり(大佐には)口を挟んでくる。
このサイトでも中尉最強伝説(なんだそれ?)は作られていくと思います。
今回も微妙なロイエドで本当にすいません。
私的に大佐、中尉、少尉の3人での話シーンが思ったより長引きました;(ええ、いつもそうですよ)
でも書いてて楽しかったです。
大佐の性格変貌(?)っぷりですが、一人称が「俺」に変わったのは、アニメで中佐と酒場で飲んでた時、「俺」で通してたから、裏側(というよりもこっちが本性か・・・)性格の時は一人称「俺」でいくと勝手に決めたからです;;
え〜〜・・・まあ、なんですが、とりあえず2話目も表ですので。
もしも裏を期待している方は安心を(なにを?;)
1. 5話みたいなのにして裏書きますので(^^;







BACK    NEXT